ここまで読んでくださりありがとうございます。
冬木市の空は割れていた。
黒と白。
絶望と希望。
その境界で、
守護神は立つ。
巨大な盾が、
世界を覆う。
BeastⅧ――
『構造』の理、構造悪。
その全身から、
数え切れない腕が伸びる。
教師。
上司。
親。
政治家。
医師。
研究者。
先輩。
全員が笑っていた。
「君のためだ。」
「社会では普通だ。」
「みんな耐えている。」
「それくらい我慢しろ。」
「逃げるな。」
「努力不足だ。」
声が重なる。
一つ一つは、
決して間違った言葉ではない。
だからこそ、
恐ろしい。
マスターが耳を塞ぐ。
「やめろ……。」
「やめてくれ……。」
観測者が静かに言う。
「聞くんだ。」
「目を逸らしてはいけない。」
「これが人類悪だ。」
「善意だけで人は壊れる。」
シールダーは静かに歩き出す。
黒い奔流を、
真正面から。
一歩。
また一歩。
盾が軋む。
腕が折れる。
血が流れる。
それでも止まらない。
Beastが笑う。
「何故そこまで耐える。」
シールダーは答える。
「耐えるんじゃない。」
「歩いている。」
Beastが止まった。
「何故だ。」
「止まれば。」
「また誰かが。」
「泣く。」
巨大な腕が振り下ろされる。
都市が吹き飛ぶほどの一撃。
シールダーは、
避けない。
盾で受ける。
轟音。
地面が沈む。
両腕が裂ける。
それでも、
一歩も退かなかった。
守護値。
50,000。
100,000。
150,000。
250,000。
400,000。
500,000。
盾が、
夜明けのように光り始める。
観測者が呟く。
「守護値が……。」
「ここまで……。」
Beastは叫ぶ。
「何故立てる!」
「人間は壊れる!」
「限界がある!」
シールダーは、
初めて笑った。
「ある。」
「人には限界がある。」
「だから。」
「支え合うんだ。」
その瞬間。
冬木市中で、
光が灯り始める。
教会。
学校。
病院。
公園。
駅。
マンション。
無数の人々が、
誰かを支えた記憶。
励ました記憶。
寄り添った記憶。
それら全てが、
盾へ集まる。
Beastが初めて、
後退した。
「そんな記録は……。」
「存在しない!」
観測者が首を振る。
「いや。」
「君は観測できなかった。」
「人は絶望だけではない。」
マスターも前へ出る。
「俺も!」
シールダーが振り向く。
「来るな!」
「死ぬぞ!」
マスターは笑う。
「知るか。」
「一人じゃないって。」
「言ったのはアンタだろ。」
シールダーは、
目を見開く。
「そうだったな。」
小さく笑う。
「ありがとう。」
その瞬間。
令呪はもう無い。
魔力も尽きている。
それでも。
マスターは、
彼の隣に立った。
それだけで。
盾はさらに光る。
Beastが絶叫する。
「あり得ない!」
「人間は!」
「助け合わない!」
観測者は静かに答えた。
「違う。」
「助け合える。」
「だから。」
「人類は滅ばなかった。」
世界が止まる。
そして、
観測者が、
初めて本気で立ち上がる。
ローブを脱ぐ。
そこにいたのは、
老人でも、
若者でもない。
男とも女ともつかない、
透明な存在。
星空そのものの身体。
マスターは息を呑む。
「あなたは……。」
観測者は静かに微笑む。
「今なら話そう。」
その瞬間、
冬木全域に、
無数の星座が浮かび上がる。
それは人類史の記録。
英雄たちの誕生。
文明の興亡。
幾千万もの選択。
そのすべてを見届けてきた存在。
「私は英雄ではない。」
「神でもない。」
「私はただ、人類史を観測し続けてきた概念。」
「人がどのような選択をするか、それを見届ける役目を持つ。」
「故に、私は介入できない。」
「だが……」
彼はシールダーを見る。
「今回は違った。」
「君という存在は、私の観測したどの可能性にも存在しなかった。」
マスターが呟く。
「存在しなかった……?」
「そうだ。」
「君は『人類史の外側』から現れた可能性だ。」
「だから私は見届けたかった。」
「復讐は守護へ至れるのかを。」
「人は傷を負ったまま、なお他者を守れるのかを。」
「そして今、その答えを得た。」
観測者は静かに一礼する。
「ありがとう。」
「黎明のシールダー。」
「君は、人類史に新たな可能性を刻んだ。」
その瞬間、シールダーの盾が、かつてない輝きを放つ。
しかし同時に、BeastⅧもまた最後の力を解放しようとしていた。
世界を覆うほどの巨大な黒い翼が広がる。
「ならば見せよう。」
「人類が積み重ねた絶望、そのすべてを。」
黒と白。
絶望と希望。
その二つが、ついに真正面から激突する。
次回、最終回です。
お楽しみに。
【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】