Fate/Scapegoat   作:KMST

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16話目です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。



第十六章 黎明

冬木市の空は割れていた。

 

黒と白。

 

絶望と希望。

 

その境界で、

 

守護神は立つ。

 

巨大な盾が、

 

世界を覆う。

 

 

 

BeastⅧ――

 

『構造』の理、構造悪。

 

その全身から、

 

数え切れない腕が伸びる。

 

教師。

 

上司。

 

親。

 

政治家。

 

医師。

 

研究者。

 

先輩。

 

全員が笑っていた。

 

「君のためだ。」

 

「社会では普通だ。」

 

「みんな耐えている。」

 

「それくらい我慢しろ。」

 

「逃げるな。」

 

「努力不足だ。」

 

声が重なる。

 

一つ一つは、

 

決して間違った言葉ではない。

 

だからこそ、

 

恐ろしい。

 

マスターが耳を塞ぐ。

 

「やめろ……。」

 

「やめてくれ……。」

 

観測者が静かに言う。

 

「聞くんだ。」

 

「目を逸らしてはいけない。」

 

「これが人類悪だ。」

 

「善意だけで人は壊れる。」

 

シールダーは静かに歩き出す。

 

黒い奔流を、

 

真正面から。

 

一歩。

 

また一歩。

 

盾が軋む。

 

腕が折れる。

 

血が流れる。

 

それでも止まらない。

 

Beastが笑う。

 

「何故そこまで耐える。」

 

シールダーは答える。

 

「耐えるんじゃない。」

 

「歩いている。」

 

Beastが止まった。

 

「何故だ。」

 

「止まれば。」

 

「また誰かが。」

 

「泣く。」

 

 

 

巨大な腕が振り下ろされる。

 

都市が吹き飛ぶほどの一撃。

 

シールダーは、

 

避けない。

 

盾で受ける。

 

轟音。

 

地面が沈む。

 

両腕が裂ける。

 

それでも、

 

一歩も退かなかった。

 

守護値。

 

50,000。

 

100,000。

 

150,000。

 

250,000。

 

400,000。

 

500,000。

 

盾が、

 

夜明けのように光り始める。

 

観測者が呟く。

 

「守護値が……。」

 

「ここまで……。」

 

Beastは叫ぶ。

 

「何故立てる!」

 

「人間は壊れる!」

 

「限界がある!」

 

シールダーは、

 

初めて笑った。

 

「ある。」

 

「人には限界がある。」

 

「だから。」

 

「支え合うんだ。」

 

その瞬間。

 

冬木市中で、

 

光が灯り始める。

 

教会。

 

学校。

 

病院。

 

公園。

 

駅。

 

マンション。

 

無数の人々が、

 

誰かを支えた記憶。

 

励ました記憶。

 

寄り添った記憶。

 

それら全てが、

 

盾へ集まる。

 

Beastが初めて、

 

後退した。

 

「そんな記録は……。」

 

「存在しない!」

 

観測者が首を振る。

 

「いや。」

 

「君は観測できなかった。」

 

「人は絶望だけではない。」

 

マスターも前へ出る。

 

「俺も!」

 

シールダーが振り向く。

 

「来るな!」

 

「死ぬぞ!」

 

マスターは笑う。

 

「知るか。」

 

「一人じゃないって。」

 

「言ったのはアンタだろ。」

 

シールダーは、

 

目を見開く。

 

「そうだったな。」

 

小さく笑う。

 

「ありがとう。」

 

その瞬間。

 

令呪はもう無い。

 

魔力も尽きている。

 

それでも。

 

マスターは、

 

彼の隣に立った。

 

それだけで。

 

盾はさらに光る。

 

Beastが絶叫する。

 

「あり得ない!」

 

「人間は!」

 

「助け合わない!」

 

観測者は静かに答えた。

 

「違う。」

 

「助け合える。」

 

「だから。」

 

「人類は滅ばなかった。」

 

世界が止まる。

 

そして、

 

観測者が、

 

初めて本気で立ち上がる。

 

ローブを脱ぐ。

 

そこにいたのは、

 

老人でも、

 

若者でもない。

 

男とも女ともつかない、

 

透明な存在。

 

星空そのものの身体。

 

マスターは息を呑む。

 

「あなたは……。」

 

観測者は静かに微笑む。

 

「今なら話そう。」

 

その瞬間、

 

冬木全域に、

 

無数の星座が浮かび上がる。

 

それは人類史の記録。

 

英雄たちの誕生。

 

文明の興亡。

 

幾千万もの選択。

 

そのすべてを見届けてきた存在。

 

「私は英雄ではない。」

 

「神でもない。」

 

「私はただ、人類史を観測し続けてきた概念。」

 

「人がどのような選択をするか、それを見届ける役目を持つ。」

 

「故に、私は介入できない。」

 

「だが……」

 

彼はシールダーを見る。

 

「今回は違った。」

 

「君という存在は、私の観測したどの可能性にも存在しなかった。」

 

マスターが呟く。

 

「存在しなかった……?」

 

「そうだ。」

 

「君は『人類史の外側』から現れた可能性だ。」

 

「だから私は見届けたかった。」

 

「復讐は守護へ至れるのかを。」

 

「人は傷を負ったまま、なお他者を守れるのかを。」

 

「そして今、その答えを得た。」

 

観測者は静かに一礼する。

 

「ありがとう。」

 

「黎明のシールダー。」

 

「君は、人類史に新たな可能性を刻んだ。」

 

その瞬間、シールダーの盾が、かつてない輝きを放つ。

 

しかし同時に、BeastⅧもまた最後の力を解放しようとしていた。

 

世界を覆うほどの巨大な黒い翼が広がる。

 

「ならば見せよう。」

 

「人類が積み重ねた絶望、そのすべてを。」

 

黒と白。

 

絶望と希望。

 

その二つが、ついに真正面から激突する。

 




次回、最終回です。
お楽しみに。

【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】
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