Fate/Scapegoat   作:KMST

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2話目です。
読んでくださりありがとうございます。
楽しんでください。


第二章 最初の夜

橋を揺るがす轟音。

 

冬木大橋の中央で、巨大な斧剣がアスファルトを砕いた。

 

砕け散ったコンクリート片が雨のように降り注ぐ。

 

逃げ遅れた少女が、その場で尻もちをついた。

 

「いや……」

 

泣き声。

 

動けない。

 

足が震えている。

 

バーサーカーがゆっくりと斧剣を持ち上げた。

 

狙いは少女。

 

「しまっ──」

 

青年マスターが叫ぶより早く、一つの黒い影が飛び出した。

 

鈍い音。

 

斧剣は少女ではなく、一人の男の肩へ叩き込まれていた。

 

骨が軋む。

 

肉が裂ける。

 

鮮血が夜風に舞った。

 

「アベンジャー!」

 

青年は悲鳴を上げる。

 

普通なら即死。

 

サーヴァントであっても致命傷だった。

 

だが。

 

男は膝をつかない。

 

「大丈夫か。」

 

そう問いかけた相手は少女だった。

 

「え……?」

 

少女は涙を浮かべたまま頷く。

 

「う、うん……」

 

「そうか。」

 

男は微笑む。

 

「なら良かった。」

 

その笑顔を見て少女はさらに泣いた。

 

自分を助けた人の方が、明らかに苦しそうだったからだ。

 

 

バーサーカーが唸る。

 

獣のような咆哮。

 

知性など存在しない。

 

ただ壊す。

 

殺す。

 

それだけ。

 

再び振り下ろされる斧。

 

アベンジャーは受け止める。

 

腕の筋肉が裂ける。

 

「まだ……耐えられる。」

 

低く呟く。

 

青年はようやく気付いた。

 

令呪を通じて流れ込んでくる感覚。

 

彼の霊基が、傷を受けるたびに強くなっている。

 

「これが……」

 

宝具の条件。

 

累積ダメージ。

 

自分が受けた苦痛。

 

守った命。

 

それらすべてが、一本の刃へ変わる。

 

「まるで人生そのものじゃないか……」

 

青年は思わず呟いた。

 

アベンジャーの人生。

 

理不尽。

 

傷。

 

絶望。

 

その全部が力になる。

 

だから彼は逃げない。

 

「マスター。」

 

「!」

 

「市民を避難させてくれ。」

 

「でも!」

 

「私は大丈夫だ。」

 

いつもの言葉。

 

何度でも立ち上がる。

 

そう言っていた。

 

だが。

 

青年はもう分かっていた。

 

この男は。

 

本当に自分のことを考えていない。

 

自分だけなら何度傷付いてもいいと思っている。

 

それが危うかった。

 

「……嫌だ。」

 

「?」

 

「一人で抱え込むな!」

 

初めて青年が怒鳴った。

 

アベンジャーが驚いたように目を見開く。

 

「君は!」

 

「君は俺のサーヴァントだ!」

 

「俺が命令する!」

 

「死ぬな!」

 

その言葉に。

 

アベンジャーは固まった。

 

「……」

 

死ぬな。

 

それは。

 

誰かに言われたことがあっただろうか。

 

「護れ。」

 

「頑張れ。」

 

「耐えろ。」

 

「我慢しろ。」

 

そんな言葉ばかりだった。

 

だが。

 

「死ぬな。」

 

それだけを願われたことは。

 

ほとんど無かった。

 

「……ふっ。」

 

小さく笑う。

 

「ありがとう。」

 

「マスター。」

 

その笑顔は。

 

今までで一番自然だった。

 

 

バーサーカーが突進する。

 

橋が軋む。

 

アベンジャーは静かに構えた。

 

「まだ反撃はしない。」

 

青年は驚く。

 

「まだ?」

 

「足りない。」

 

「あと一撃。」

 

「もう一撃だけ受ける。」

 

「何言ってるんだ!」

 

「計算だ。」

 

静かな声。

 

「あと一撃で累積ダメージは約五万。」

 

「宝具倍率は六倍。」

 

「十分だ。」

 

青年は絶句した。

 

自分が傷付くことを。

 

まるで戦術の一部として数えている。

 

恐ろしい。

 

だが。

 

誰よりも合理的だった。

 

バーサーカーの最後の一撃。

 

轟音。

 

橋桁が砕ける。

 

アベンジャーは真正面から受け止めた。

 

全身から血が噴き出す。

 

ついに膝をつく。

 

バーサーカーが勝利を確信した、その瞬間。

 

「反撃の時だ。」

 

静かな声。

 

その瞳には怒りはない。

 

あるのは決意だけだった。

 

「私は知っている。」

 

「理不尽が人を壊すことを。」

 

橋全体に魔力が広がる。

 

月光が赤く染まる。

 

「絶望が未来を奪うことを。」

 

バーサーカーが初めて後ずさる。

 

本能が理解した。

 

危険だと。

 

「だから。」

 

男はゆっくり立ち上がる。

 

折れた腕を引きずりながら。

 

「その絶望は。」

 

「ここで終わらせる。」

 

世界が静まり返った。

 

「貴方のおかげで私は人を護る覚悟を決めた。」

 

その声は穏やかだった。

 

怒鳴りもしない。

 

叫びもしない。

 

静かに、祈るように紡がれる。

 

「理不尽な叱責も。」

 

「張り詰めた緊張も。」

 

「私はすべて耐え抜いた。」

 

空気が震える。

 

橋の上空に巨大な魔術式が展開される。

 

それは剣でも槍でもない。

 

無数の傷跡。

 

涙。

 

血。

 

苦しみ。

 

その全てが一本の光へ収束していく。

 

「私が流した涙の数を──」

 

アベンジャーは右手を前へ突き出した。

 

「今度は貴方が絶望の槍として受けるがいい。」

 

「『我が屍を以て月は輝く、これぞ必要悪の理

(ロード・オブ・スケープゴート)』!!」

 

光が放たれた。

 

それは破壊ではなかった。

 

苦痛そのものだった。

 

彼が受けてきた理不尽。

 

押し殺した悲鳴。

 

眠れぬ夜。

 

折れそうになった心。

 

それらすべてが奔流となってバーサーカーへと襲いかかる。

 

狂戦士は咆哮を上げる。

 

斧剣を振るう。

 

だが止められない。

 

止まらない。

 

光は一直線にその巨体を貫き、橋の向こうの夜空まで駆け抜けた。

 

爆音とともに魔力の奔流が収まり、静寂が戻る。

 

そこに立っていたのは、なおも息を切らしながら前を向くアベンジャーだった。

 

そして、その視線の先――煙の向こうから、低く笑う声が響く。

 

「……なるほど。面白いサーヴァントだ。」

 

バーサーカーのマスター。

 

その姿が、ゆっくりと夜の闇から現れる。

 

「君の"復讐"、ぜひ見届けさせてもらおう。」

 

アベンジャーは目を細める。

 

「来るか。」

 

「ならば今度は、君と話をしよう。」

 

戦いは終わっていない。

 

むしろ――ここからが、本当の聖杯戦争の始まりだった。

 

 




前回と似た展開になってしまったのは反省点ですが、物語は進んでます。
是非次回もお楽しみに。
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