Fate/Scapegoat   作:KMST

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5話目です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。

観測者(ウォッチャー)はStrangeFakeで出てきましたが、今回はサーヴァントでも英霊でも神霊でもなく、「観測しているだけだから誰も悪くない」という思想・概念そのものとしてお考え下さい。


第五章 月を見る者

冬木教会。

 

夜明け。

 

ステンドグラスから差し込む光が、

黒く染まった礼拝堂を少しずつ照らしていく。

 

しかし黒い泥は消えない。

 

呪創。

 

アベンジャーが刻んだ病巣は、

逆に礼拝堂全体を蝕み続けていた。

 

青年マスターは息を整えながら尋ねる。

 

「……倒せたのか?」

 

「いや。」

 

アベンジャーは首を振る。

 

「まだ居る。」

 

「姿を消しただけだ。」

 

その瞬間だった。

 

教会全体から、

乾いた拍手が響く。

 

パチ……パチ……パチ……

 

「素晴らしい。」

 

声だけが響く。

 

姿はない。

 

「黎明のアベンジャー。」

 

「君はやはり異物だ。」

 

「本来、この聖杯戦争には召喚されないはずだった。」

 

青年が目を見開く。

 

「どういうことだ?」

 

「そのままの意味だ。」

 

声は笑う。

 

「英雄。」

 

「王。」

 

「神話。」

 

「伝説。」

 

「聖杯はそういうものを呼ぶ。」

 

「だが君は違う。」

 

「英雄ではない。」

 

「なのに座へ届いた。」

 

「何故だと思う?」

 

青年はアベンジャーを見る。

 

しかし彼も静かに首を振る。

 

「分からない。」

 

「私は英雄ではない。」

 

「世界を救ってもいない。」

 

「ただ生き残っただけだ。」

 

その言葉に。

 

声は笑った。

 

「そう。」

 

「だからこそ。」

 

「君は恐ろしい…」

 

 

 

黒い霧の中。

 

一つの映像が浮かぶ。

 

大学。

 

研究室。

 

夜。

 

時計は二十三時。

 

一人。

 

また一人。

 

机に向かっている学生。

 

怒鳴る教授。

 

沈黙する周囲。

 

泣いている女子学生。

 

俯く男子学生。

 

画面が変わる。

 

会社。

 

上司が怒鳴る。

 

誰も止めない。

 

笑っている者までいる。

 

画面が変わる。

 

学校。

 

いじめ。

 

教師は気付かない。

 

いや。

 

気付いている。

 

しかし。

 

「様子を見よう。」

 

それだけだった。

 

映像は止まらない。

 

家庭。

 

病院。

 

SNS。

 

職場。

 

ありとあらゆる場所で、

 

誰かが壊れていく。

 

青年は思わず目を逸らした。

 

「もういい……。」

 

「見たくない。」

 

しかし。

 

アベンジャーだけは。

 

一瞬たりとも目を逸らさなかった。

 

全部見た。

 

全部受け止めた。

 

その瞳には怒りではなく、

 

深い悲しみだけが宿っていた。

 

 

 

「これが。」

 

「現代だ。」

 

声が響く。

 

「誰も悪人ではない。」

 

「ほんの少し忙しかった。」

 

「ほんの少し余裕がなかった。」

 

「ほんの少し正義感が強かった。」

 

「ほんの少し空気を読んだ。」

 

「それだけ。」

 

「それだけで。」

 

「人は壊れる。」

 

青年は震える。

 

「……。」

 

反論できない。

 

全部。

 

あり得る話だからだ。

 

観測者が問う。

 

「黎明のアベンジャー。」

 

「君はこれを全部救うと言うのか?」

 

長い沈黙。

 

そして。

 

「違う。」

 

「?」

 

「私は全部は救えない。」

 

「なら。」

 

「でも。」

 

アベンジャーは映像へ歩き出す。

 

「救える人はいる。」

 

画面の中。

 

泣いている女子学生。

 

彼はその映像へ手を伸ばした。

 

「君が悪いんじゃない。」

 

その一言。

 

映像が揺れる。

 

女子学生が顔を上げる。

 

「え……?」

 

「辛かったな。」

 

「よく頑張った。」

 

その瞬間。

 

映像が砕け散った。

 

青年が驚愕する。

 

「映像が……!」

 

「違う。」

 

アベンジャーは静かに言う。

 

「呪いが解けた。」

 

観測者は

 

「……あり得ない。」

 

と、初めて動揺した。

 

「何故だ。」

 

「私は。」

 

「切除するからだ。」

 

「人ではない。」

 

「病巣を。」

 

青年は気付く。

 

そうか。

 

この人は。

 

加害者を殺したいんじゃない。

 

壊れた人を救いたいんだ。

 

そのために。

 

病巣だけを切除する。

 

 

 

その時。

 

教会の屋根が吹き飛んだ。

 

轟音。

 

青い閃光。

 

一筋の槍が空から降ってくる。

 

「!!」

 

アベンジャーが青年を抱えて飛び退く。

 

槍が突き刺さる。

 

床が爆発した。

 

煙の中から現れたのは、

 

青いマント。

 

長槍。

 

鋭い眼光。

 

「よう。」

 

男が笑う。

 

「派手にやってるじゃねぇか。」

 

ランサー。

 

青年は息を呑む。

 

「新しいサーヴァント!」

 

「違う。」

 

ランサーは槍を肩へ担ぐ。

 

「敵か味方か決めに来た。」

 

「お前。」

 

アベンジャーを見る。

 

「随分妙な匂いがする。」

 

「復讐者なのに。」

 

「英雄みてぇな目をしてる。」

 

アベンジャーは少し笑った。

 

「英雄ではない。」

 

「知ってる。」

 

ランサーも笑う。

 

「だから面白ぇ。」

 

「一つ聞く。」

 

「何だ。」

 

「お前。」

 

「命懸けで他人を助ける理由は?」

 

静寂。

 

青年も答えを待つ。

 

アベンジャーは少しだけ考え、

 

夜明けの空を見上げた。

 

そこにはまだ、

 

白く残る月があった。

 

「私は。」

 

静かな声。

 

「月を研究していた。」

 

ランサーが首を傾げる。

 

「月?」

 

「夢だった。」

 

「月の成り立ちを解き明かすことが。」

 

「でも。」

 

「心が壊れた。」

 

青年は初めて聞く話だった。

 

「研究は止まった。」

 

「夢も止まった。」

 

「だから私は。」

 

月を見る。

 

「夢を失う苦しさを知っている。」

 

「だから。」

 

「他人の夢だけは。」

 

「護りたい。」

 

風が吹いた。

 

ランサーはしばらく黙っていた。

 

やがて、

 

豪快に笑う。

 

「はっ!」

 

「なるほど!」

 

「お前、馬鹿だな!」

 

青年が驚く。

 

「なっ!」

 

「普通は世界を恨む!」

 

「夢を奪われりゃ復讐する!」

 

「なのにお前。」

 

「他人の夢を守るってか!」

 

アベンジャーも笑った。

 

「そうかもしれない。」

 

「でも。」

 

「私はその方が好きだ。」

 

ランサーは槍を肩へ担ぐ。

 

「気に入った。」

 

「今日ァ戦わねぇ。」

 

「だが。」

 

その目が鋭くなる。

 

「最後に残ったら。」

 

「全力で殺し合おう。」

 

アベンジャーは頷く。

 

「ああ。」

 

「その時は。」

 

「互いに悔いなく。」

 

ランサーは一瞬だけ満足そうに笑い、そのまま教会の屋根から軽やかに飛び去った。

 

静寂が戻る。

 

青年は大きく息を吐く。

 

「……今の人、敵だったんだよな?」

 

「敵だ。」

 

アベンジャーは答える。

 

「だが――」

 

彼は夜明けの空を見上げた。

 

「敵だからこそ、理解し合えることもある。」

 

その言葉とともに、東の空から朝日が顔を出す。

 

夜は終わった。

 




新たにランサーが出てきましたね。
でも何故アベンジャーが召喚出来たのか。
英雄でもなんでもない彼が。

【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】
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