Fate/Scapegoat   作:KMST

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6話目です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。


第六章 理想の王

冬木市。

 

午前九時。

 

昨夜の戦闘が嘘だったかのように、街は日常を取り戻していた。

 

学生が学校へ向かう。

 

会社員が駅へ急ぐ。

 

母親が子供の手を引いて歩く。

 

青年マスターは、その光景を眺めて呟いた。

 

「みんな、何も知らないんだな。」

 

「知らない方がいい。」

 

隣でアベンジャーが答える。

 

「聖杯戦争は、知らない人間を巻き込まないためにある。」

 

「……でも、昨日は。」

 

「昨日は失敗だった。」

 

静かな声だった。

 

自分の責任だと言わんばかりに。

 

青年は苦笑した。

 

「何でも自分のせいにするんだな。」

 

アベンジャーは少しだけ困ったように笑った。

 

「癖なんだ。」

 

 

 

 

その頃。

 

古びた洋館。

 

窓辺に、一人の少女が立っていた。

 

金色の髪。

 

凛とした碧眼。

 

青と白を基調とした鎧。

 

静かに街を見下ろしている。

 

「アベンジャー。」

 

その名を口にする。

 

「マスター。」

 

背後にいた少女が顔を上げる。

 

まだ高校生ほどの年齢。

 

「昨夜の戦い、見ていたんですか?」

 

「ええ。」

 

セイバーは静かに頷いた。

 

「不思議な英霊です。」

 

「彼からは、人を滅ぼす意思を感じません。」

 

少女は首を傾げた。

 

「でもアベンジャーですよね?」

 

「だからこそ。」

 

セイバーは窓を閉める。

 

「会わねばなりません。」

 

 

 

午後。

 

冬木中央公園。

 

青年とアベンジャーはベンチに座っていた。

 

コンビニのおにぎり。

 

ペットボトルのお茶。

 

「サーヴァントって飯食うのか?」

 

青年が聞く。

 

アベンジャーは笑う。

 

「必要はない。」

 

「でも好きなんだ。」

 

そう言って、おにぎりを一口。

 

「……美味い。」

 

青年も笑う。

 

「そんな顔するんだな。」

 

「?」

 

「戦ってる時と全然違う。」

 

「そうか?」

 

「全然違う。」

 

その時だった。

 

風が止まる。

 

公園全体が静まり返る。

 

アベンジャーが立ち上がった。

 

「来たか。」

 

木陰から現れる、一人の騎士。

 

陽光を受けて輝く鎧。

 

その姿は、まさしく王だった。

 

「初めまして。」

 

凛とした声。

 

「私はセイバー。」

 

青年も立ち上がる。

 

緊張が走る。

 

しかしセイバーは剣を抜かなかった。

 

「今日は戦いに来たのではありません。」

 

「話をしに来ました。」

 

公園の噴水。

 

二騎のサーヴァントが向かい合う。

 

「あなたは。」

 

セイバーが口を開く。

 

「必要悪を名乗るそうですね。」

 

「そうだ。」

 

「何故です?」

 

アベンジャーは少し考えた。

 

「誰かが止めなければ。」

 

「悲劇は繰り返される。」

 

「だから。」

 

「私が憎まれ役になる。」

 

セイバーは静かに首を振った。

 

「違います。」

 

「?」

 

「悪は悪です。」

 

「たとえ目的が善であろうと。」

 

「悪を選んではならない。」

 

青年は二人を見る。

 

空気が変わった。

 

これは戦闘ではない。

 

思想の決闘だ。

 

「例えば。」

 

セイバーは続ける。

 

「百人を救うため、一人を犠牲にしますか?」

 

「……。」

 

「私はしない。」

 

「それが王です。」

 

アベンジャーは静かに答えた。

 

「私もしたくはない。」

 

「しかし。」

 

「百人が死ぬなら。」

 

「私は。」

 

「その一人になる。」

 

沈黙。

 

セイバーの瞳が揺れた。

 

「……自分が?」

 

「そうだ。」

 

「他人は犠牲にしない。」

 

「私ならいい。」

 

青年は思わず顔をしかめる。

 

「またそれだ。」

 

アベンジャーは少しだけ苦笑する。

 

「すまない。」

 

「謝るところじゃない!」

 

青年が珍しく声を荒げた。

 

「お前さ。」

 

「自分を大事にしろよ。」

 

「君まで傷付いたら。」

 

「誰が皆を守るんだ。」

 

その言葉に。

 

アベンジャーは言葉を失った。

 

「……。」

 

セイバーも青年を見る。

 

「良いマスターですね。」

 

青年は照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「放っとくと、この人、自分から死にに行きそうだから。」

 

「否定できないな。」

 

アベンジャーは苦笑した。

 

セイバーも思わず笑う。

 

その一瞬。

 

張り詰めていた空気が和らいだ。

 

 

 

しかし。

 

次の瞬間だった。

 

ズキン。

 

アベンジャーが胸を押さえる。

 

「……!」

 

青年が支える。

 

「どうした!」

 

吐き気。

 

眩暈。

 

呼吸が浅い。

 

周囲を見る。

 

公園。

 

子供。

 

家族。

 

老人。

 

何も変わらない。

 

なのに。

 

一人だけ。

 

ベンチに座る男子高校生。

 

俯いたまま動かない。

 

誰も気付いていない。

 

アベンジャーだけが歩き出す。

 

「待て!」

 

青年が止めようとする。

 

しかし彼は迷わなかった。

 

高校生の前にしゃがむ。

 

「君。」

 

反応はない。

 

「辛いか。」

 

その一言だった。

 

少年の肩が震える。

 

「……え?」

 

「誰にも言えなかったか。」

 

少年は顔を上げる。

 

目の下には濃い隈。

 

手首には浅い傷跡。

 

「なんで……。」

 

涙が溢れた。

 

「なんで分かったんですか。」

 

アベンジャーは優しく笑う。

 

「私も。」

 

「同じ顔をしていたから。」

 

青年もセイバーも言葉を失う。

 

少年は堰を切ったように泣き始めた。

 

「もう学校行きたくない……。」

 

「頑張れって言われても……。」

 

「もう頑張れない……。」

 

アベンジャーは何も言わない。

 

ただ。

 

隣に座った。

 

それだけだった。

 

励まさない。

 

否定しない。

 

説教もしない。

 

ただ隣にいる。

 

長い沈黙。

 

やがて少年は少しだけ呼吸を整え、小さく呟いた。

 

「……ありがとう。」

 

その言葉だけで十分だった。

 

少し離れた場所で、その光景を見つめるセイバー。

 

「……なるほど。」

 

彼女は静かに呟く。

 

「私は王として民を救ってきました。」

 

「ですが。」

 

「彼は。」

 

「一人の人間として。」

 

「目の前の一人を救おうとしている。」

 

それは王にはできない救いだった。

 

国家を背負う者は、多数を見なければならない。

 

しかし彼は違う。

 

彼は、一人ひとりの涙を見ようとする。

 

だからこそ、英雄ではない。

 

だからこそ、現代にしか生まれ得なかった英霊なのだ。

 

 

 

 

その時。

 

空が曇る。

 

教会の方角から、黒い魔力が再び立ち昇る。

 

アベンジャーの表情が引き締まる。

 

「始まる。」

 

セイバーも剣の柄に手を置いた。

 

「ええ。」

 

「今度は共闘しましょう。」

 

アベンジャーは少し驚く。

 

「私を信用するのか?」

 

セイバーは静かに微笑んだ。

 

「あなたの思想すべてに賛同はできません。」

 

「ですが。」

 

「あなたが人を救おうとしていることだけは、本物です。」

 

「それだけで、今は十分です。」

 

アベンジャーも微笑み返す。

 

「ありがとう。」

 

二人は並んで歩き出す。

 

朝日を背に。

 

迫り来る黒い魔力へ向かって。

 

その姿はまるで、復讐者と騎士ではなく――

 

「人を護る者」同士のようだった。

 




今度はセイバーが出てきましたね。
次回どうなるのでしょうか?
お楽しみに。

【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】
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