ここまで読んでくださりありがとうございます。
途中どっかで設定説明も入れようかなと思います。
冬木市・深夜。
雨。
アスファルトを濡らす雨音だけが街を包んでいた。
誰もいない交差点。
街灯の下に、一人の男が立っている。
白い仮面。
黒い神父服。
観測者。
彼は静かに雨空を見上げた。
「……また失敗した。」
その声に感情はない。
ただ事実を述べるだけ。
「また、一人救われてしまった。」
彼の足元に映る水たまり。
そこへ、もう一つの影が近づく。
長身の男。
黒い外套。
その腰には一振りの刀。
「アサシン。」
観測者が名を呼ぶ。
男は何も答えない。
「君はどう思う。」
「黎明のアベンジャーを。」
長い沈黙の後、アサシンが口を開く。
「……弱い。」
「ほう。」
「迷いがある。」
「自分を犠牲にする。」
「甘い。」
観測者は小さく笑った。
「そうだ。」
「だから私は好きなんだ。」
アサシンが初めて観測者を見る。
「好きだと?」
「彼ほど人間らしい英霊はいない。」
「だから。」
「壊れるところを見てみたい。」
雨脚が強くなる。
「彼は必ず絶望する。」
「そうなった時。」
「彼は本当のアベンジャーになる。」
「今はまだ。」
「その本質はシールダーだから。」
その頃。
冬木教会。
青年マスターは眠れず、礼拝堂の長椅子に座っていた。
「眠れないのか。」
振り返る。
そこにはセイバーがいた。
鎧ではなく、白いブラウスに紺のスカートという私服姿。
どこか年相応の少女らしさがある。
「セイバーも?」
「ええ。」
彼女は隣に腰掛けた。
しばらく無言。
やがて青年が呟く。
「アイツさ。」
「はい。」
「自分を大事にしないんだ。」
セイバーは静かに頷く。
「分かっています。」
「英雄って、みんなあんななのか?」
「いいえ。」
セイバーは首を振る。
「彼は少し違います。」
「?」
「英雄は。」
「誰かを守るために、自らを捨てます。」
「ですが彼は。」
「自分には価値がないと思っている。」
青年の心臓が跳ねた。
「……。」
「だから、自分だけなら傷付いてもいい、と。」
「それは英雄ではありません。」
「傷付いた一人の人間です。」
青年は何も言えなかった。
その通りだったから。
翌朝。
冬木市立中央病院。
アベンジャーは一人で病院を訪れていた。
青年には内緒で。
受付の女性が驚く。
「お見舞いですか?」
「はい。」
「どなたへ?」
アベンジャーは少し考えて答えた。
「誰でも。」
「……え?」
「身寄りのない方がいるなら。」
「話し相手になりたい。」
受付の女性は困惑しながらも、小児病棟を案内した。
病室。
窓際。
一人の少女が本を読んでいた。
髪は短い。
点滴。
痩せた身体。
少女はアベンジャーを見る。
「誰?」
「通りすがりだ。」
「嘘。」
「うん。」
アベンジャーは笑った。
少女も少し笑う。
「ねぇ。」
「なんだ?」
「私、死ぬの?」
突然だった。
アベンジャーは黙る。
嘘はつけない。
「怖い。」
少女が呟く。
「皆、大丈夫って言う。」
「でも。」
「本当は分からないんでしょ?」
静かな病室。
アベンジャーは椅子に座った。
「私も。」
「え?」
「怖かった。」
「毎日。」
少女は目を丸くする。
「君も?」
「うん。」
「死ぬの?」
「違う。」
「心が。」
少女は黙って聞いている。
「だから。」
「怖いって言っていい。」
「泣いていい。」
「逃げたいって言っていい。」
少女の瞳から涙が零れた。
「……うん。」
その頭を、優しく撫でる。
病院を出た時。
入口に一人の男が立っていた。
アサシン。
「……。」
「……。」
言葉はない。
互いに構える。
青年もセイバーもいない。
一対一。
アサシンが刀を抜いた。
「何故。」
初めて口を開く。
「何故戦わぬ。」
アベンジャーは首を傾げる。
「?」
「何故。」
「人を救う。」
静かな問いだった。
そこに殺意はない。
純粋な疑問。
アベンジャーは少し考えた。
「君は。」
「人を斬る理由を考えるか?」
アサシンは答える。
「考えぬな。」
「それと同じだ。」
「私は。」
「助けたいから助ける。」
アサシンは刀を下ろした。
「理解できぬ。」
「そうだろうな。」
「だが。」
アベンジャーは笑った。
「いつか分かる日が来るかもしれない。」
アサシンは何も言わず、その場を去る。
その夜。
観測者は一人、教会の地下へ降りる。
暗い地下祭壇。
中央には、黒く脈打つ巨大な球体。
それは聖杯だった。
だが、黄金ではない。
漆黒。
まるで人の負の感情を凝縮したような色。
観測者はそっと手を触れる。
「もう少しだ。」
「あと少しで。」
「君は生まれる。」
球体の中で、何かが鼓動を返す。
ドクン――。
その音は、まるで巨大な心臓だった。
観測者は仮面の奥で静かに笑う。
「黎明のアベンジャー。」
「君が希望を集めるほど。」
「こちらには絶望が集まる。」
「人は光を見れば。」
「その分だけ闇を知る。」
「だから私は待つ。」
「君が最後に。」
「誰も救えなかった。」
そう絶望する、その瞬間を。
地下祭壇の闇が、ゆっくりと蠢いた。
アサシンが出てきましたね。
そして観測者は何を生み出そうとしてるのでしょうか?
次回もお楽しみに。
【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】