Fate/Scapegoat   作:KMST

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8話目です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。

途中どっかで設定説明も入れようかなと思います。




第八章 アサシンとの対面

冬木市・深夜。

 

雨。

 

アスファルトを濡らす雨音だけが街を包んでいた。

 

誰もいない交差点。

 

街灯の下に、一人の男が立っている。

 

白い仮面。

 

黒い神父服。

 

観測者。

 

彼は静かに雨空を見上げた。

 

「……また失敗した。」

 

その声に感情はない。

 

ただ事実を述べるだけ。

 

「また、一人救われてしまった。」

 

彼の足元に映る水たまり。

 

そこへ、もう一つの影が近づく。

 

長身の男。

 

黒い外套。

 

その腰には一振りの刀。

 

「アサシン。」

 

観測者が名を呼ぶ。

 

男は何も答えない。

 

「君はどう思う。」

 

「黎明のアベンジャーを。」

 

長い沈黙の後、アサシンが口を開く。

 

「……弱い。」

 

「ほう。」

 

「迷いがある。」

 

「自分を犠牲にする。」

 

「甘い。」

 

観測者は小さく笑った。

 

「そうだ。」

 

「だから私は好きなんだ。」

 

アサシンが初めて観測者を見る。

 

「好きだと?」

 

「彼ほど人間らしい英霊はいない。」

 

「だから。」

 

「壊れるところを見てみたい。」

 

雨脚が強くなる。

 

「彼は必ず絶望する。」

 

「そうなった時。」

 

「彼は本当のアベンジャーになる。」

 

「今はまだ。」

 

「その本質はシールダーだから。」

 

 

 

その頃。

 

冬木教会。

 

青年マスターは眠れず、礼拝堂の長椅子に座っていた。

 

「眠れないのか。」

 

振り返る。

 

そこにはセイバーがいた。

 

鎧ではなく、白いブラウスに紺のスカートという私服姿。

 

どこか年相応の少女らしさがある。

 

「セイバーも?」

 

「ええ。」

 

彼女は隣に腰掛けた。

 

しばらく無言。

 

やがて青年が呟く。

 

「アイツさ。」

 

「はい。」

 

「自分を大事にしないんだ。」

 

セイバーは静かに頷く。

 

「分かっています。」

 

「英雄って、みんなあんななのか?」

 

「いいえ。」

 

セイバーは首を振る。

 

「彼は少し違います。」

 

「?」

 

「英雄は。」

 

「誰かを守るために、自らを捨てます。」

 

「ですが彼は。」

 

「自分には価値がないと思っている。」

 

青年の心臓が跳ねた。

 

「……。」

 

「だから、自分だけなら傷付いてもいい、と。」

 

「それは英雄ではありません。」

 

「傷付いた一人の人間です。」

 

青年は何も言えなかった。

 

その通りだったから。

 

 

 

翌朝。

 

冬木市立中央病院。

 

アベンジャーは一人で病院を訪れていた。

 

青年には内緒で。

 

受付の女性が驚く。

 

「お見舞いですか?」

 

「はい。」

 

「どなたへ?」

 

アベンジャーは少し考えて答えた。

 

「誰でも。」

 

「……え?」

 

「身寄りのない方がいるなら。」

 

「話し相手になりたい。」

 

受付の女性は困惑しながらも、小児病棟を案内した。

 

病室。

 

窓際。

 

一人の少女が本を読んでいた。

 

髪は短い。

 

点滴。

 

痩せた身体。

 

少女はアベンジャーを見る。

 

「誰?」

 

「通りすがりだ。」

 

「嘘。」

 

「うん。」

 

アベンジャーは笑った。

 

少女も少し笑う。

 

「ねぇ。」

 

「なんだ?」

 

「私、死ぬの?」

 

突然だった。

 

アベンジャーは黙る。

 

嘘はつけない。

 

「怖い。」

 

少女が呟く。

 

「皆、大丈夫って言う。」

 

「でも。」

 

「本当は分からないんでしょ?」

 

静かな病室。

 

アベンジャーは椅子に座った。

 

「私も。」

 

「え?」

 

「怖かった。」

 

「毎日。」

 

少女は目を丸くする。

 

「君も?」

 

「うん。」

 

「死ぬの?」

 

「違う。」

 

「心が。」

 

少女は黙って聞いている。

 

「だから。」

 

「怖いって言っていい。」

 

「泣いていい。」

 

「逃げたいって言っていい。」

 

少女の瞳から涙が零れた。

 

「……うん。」

 

その頭を、優しく撫でる。

 

病院を出た時。

 

入口に一人の男が立っていた。

 

アサシン。

 

「……。」

 

「……。」

 

言葉はない。

 

互いに構える。

 

青年もセイバーもいない。

 

一対一。

 

アサシンが刀を抜いた。

 

「何故。」

 

初めて口を開く。

 

「何故戦わぬ。」

 

アベンジャーは首を傾げる。

 

「?」

 

「何故。」

 

「人を救う。」

 

静かな問いだった。

 

そこに殺意はない。

 

純粋な疑問。

 

アベンジャーは少し考えた。

 

「君は。」

 

「人を斬る理由を考えるか?」

 

アサシンは答える。

 

「考えぬな。」

 

「それと同じだ。」

 

「私は。」

 

「助けたいから助ける。」

 

アサシンは刀を下ろした。

 

「理解できぬ。」

 

「そうだろうな。」

 

「だが。」

 

アベンジャーは笑った。

 

「いつか分かる日が来るかもしれない。」

 

アサシンは何も言わず、その場を去る。

 

その夜。

 

観測者は一人、教会の地下へ降りる。

 

暗い地下祭壇。

 

中央には、黒く脈打つ巨大な球体。

 

それは聖杯だった。

 

だが、黄金ではない。

 

漆黒。

 

まるで人の負の感情を凝縮したような色。

 

観測者はそっと手を触れる。

 

「もう少しだ。」

 

「あと少しで。」

 

「君は生まれる。」

 

球体の中で、何かが鼓動を返す。

 

ドクン――。

 

その音は、まるで巨大な心臓だった。

 

観測者は仮面の奥で静かに笑う。

 

「黎明のアベンジャー。」

 

「君が希望を集めるほど。」

 

「こちらには絶望が集まる。」

 

「人は光を見れば。」

 

「その分だけ闇を知る。」

 

「だから私は待つ。」

 

「君が最後に。」

 

「誰も救えなかった。」

 

そう絶望する、その瞬間を。

 

地下祭壇の闇が、ゆっくりと蠢いた。

 




アサシンが出てきましたね。
そして観測者は何を生み出そうとしてるのでしょうか?
次回もお楽しみに。

【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】
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