V.V.がクソみたいなギアスの使い道を考える話 作:紫乃華まこ
報告会の翌日。
件の報告をした研究員が未だに危機感を奪うギアスの影響下にあることから、あのギアスの効力はまだ響団内に残っているようだ。
どうやら元凶を排除したところで、奪われた危機感は戻らないらしい。
しばらくの経過観察が必要かな。
人員の入れ替えも考えたいところだけど、ここはあまりに秘匿性が高すぎる。
影響下にあった響団員の数自体も不明な今、新しい人員と入れ替えるにはあまりにリスキーだ。
なので、しばらくはギアスの影響下になかった僕ことV.V.が響団を切り盛りする必要がある。
まったく、C.C.もとんでもない置き土産を残してくれたものだ。
戻ってきたら小言の一つでは済まされないよ。
もっとも、いつ戻ってくるかもわからないのだが。
頭の中でC.C.に対する小言を積み上げながら歩いていれば、いつの間にか目的地に着いていた。
それは会議室。
実は、うやむやのまま終わってしまった報告会の続きが今から始まるのだ。
なにせ響主がサブマシンガン片手に飛び出していってしまったのだから、会議も中断しようというものだ。
まぁ、あれは仕方なかったと自嘲の笑みを浮かべる。
それに、件のギアスのこともある。
研究員たちがまた危険な方法で検証を行なっていた場合や、また危険なギアスが確認された場合ストッパーになれる者が必要になるだろう。
なので、この会議に関しては後で報告書という形で読む気にはならない。
どれだけ多忙であっても出席しなければ、下手をすれば響団が壊滅する……!
響団を引き継いだ直後に壊滅させるなんて真似はしないしさせない。
僕たちの神を殺す計画もここからだ。
なんとしても、この報告会は平穏無事に着陸させてみせる……!
そう内心で誓いながら、会議室の電子ロックにIDカードをかざした。
◆◆◆◆
「それではグリニッジ班、発表させていただきます。あっピンクの象さん、おはようございます。最近よく会いますね、どこ住みですか?」
ダメだったよ。
報告会再開後のトップバッターはあらぬ方向を向いて虚空と会話していた。
また自分で実証した系の研究者か。
でも幻覚系のギアスなら強力なものだ。
戦場で相手の視界を潰せば大きなアドバンテージを得られる。
本人の気質次第では、子飼いの特殊部隊への編入も考えられるだろう。
「へぇ、奥さんをオオアリクイに……それは辛かったでしょう、今度ゆっくり血祭りにあげましょうね。おっとすみません、話し込んでしまいました。それでは発表を続けさせていただきます。こちらのスライドをご覧ください……」
頭の中で算盤を弾いていると、会話を終えた発表者が話し始める。
さて、どんなギアスだろうか。詳細を聞くのが楽しみだ。
「彼女に発現したギアスは、自分の名前を書いたプリンが他人に取られなくなるギアスです」
うんう……うん?
「幻覚は????」
「幻覚?いいえ響主様、自分の名前を書いたプリンが他人に取られなくなるギアスです。メカニズムとしては自分の名前を書くことでプリンに対しギアスを発動、それが他人に認識されなくなるというものであり……」
後の説明が全然頭に入ってこない。
じゃあピンクの象は一体何なんだ。
セルフで幻覚を見てるのかこいつは?
リフレインでもやった?
いや、まさか。
「一応聞くけど君、何日寝てないの?」
「三日から先は数えておりませんが……」
「医務室!!」
野郎、眠らないことに対する危機感が消し飛んでやがった!
一声上げれば会議室の扉をタンカが突き破り、発表者を縛り付けて乗せていく。
ふぅ。
しかし、この会議だけでどれだけ医務室送りを出す気なんだろう。
もうそんなことは起こらないでほしい。
次の研究員が挙手し、発表を始める。
「えー、こちらでは検体FO-110のナンパされる確率が上がるギアスの研究をしておりました」
なるほど。なるほど??
いや、C.C.が持っていたギアスが似たような効果を持っていたはずだ。
愛されるギアスの派生かな。
強化できれば強制力も上がるかもしれない。
「しかし、これは正確ではありませんでした」
おや?
確かに調べていけばギアスユーザー自身の認識とは異なる作用だった、というのはよくある話だ。
これは応用が効く話になるか……?
「こちらで作用を研究していった結果ですね、正しくはえっちなおじさんを引き寄せるギアスだということがわかりました」
「えっちなおじさんを引き寄せるギアス」
「ナンパされやすくなるというのはあくまで副次的効果によるものでした。周囲のえっちなおじさん密度が上がることで相対的にナンパされやすくなるというもので」
「えっちなおじさん密度」
普段聞きなれないワードの連呼に思わず思考を手放しそうになる。
しかし拳をしかと握りしめ、検証結果を聞きもらさないようにする。
一部の人間にしか効かないとはいえ、不可視の力によって人の誘導ができるというのは大きな力になるかもしれない。
耳を傾けていれば、詳細な検証結果が語られる。
微に入り細を穿つかのようなそのデータは、でもこれえっちなおじさんを呼び寄せるギアスの話なんだよなと正気に戻さない程の熱量が込められていた。
そして情熱の開陳が終われば、最後に研究者はこう言った。
「これらのデータは響団内ラボのど真ん中で行いました。特に毎回誘引されたソールズさん、ノリッジさん、グラスベリーさん、ありがとうございました」
「やめてやれ!!」
見れば、名前を呼ばれた三名は机に突っ伏していた。
近くにいる者は「そうですわたしがえっちなおじさんです……」「えっちなおじさんですいません……」といったうわごとを聞いたことだろう。
最後の最後におじさん達に多大なダメージを与えた発表者を減給する事を決め、次の発表に備える。
すると、眼鏡をかけた研究員が立ち上がって発表を始めた。
彼女が手元の機械を操作すると、モニターに被験者の写真が表示される。
中肉中背の中年男性のようだ。
今までの被験者は年若い者がほとんどだったので新鮮だ。
響団への帰属意識が少々不安だが、洗脳ならいくらでもやり方はある。
「私達の班では、被検体BB-088の言語能力を奪うギアスを検証していました」
おっ。いいじゃないか。
そうだよ、こういうのを求めていたんだ。
内心盛り上がりながらそれをおくびにも出さず、傾聴の構えをとった。
「発動媒介は喉。発動条件は声を対象に聞かせること。効果としては、このギアスを受けた対象は喃語しか発話できなくなります。また言語レベルに合わせてか、若干程度の思考の鈍化もみられます。しかしデメリットがあり、使用時に該当ギアスユーザーに幼児退行が見られます」
彼女は朗々と検証結果を話しながら、手元の機械を操作する。
するとモニターが切り替わり、動画が埋め込まれたスライドが表示された。
「そして、こちらが検証中の映像です」
そう言って彼女が再生ボタンを押すと、動画が再生された。
そこに映し出されたのは被験体の男性と痩せぎすの男性。
二人が向かい合い、画面外からの合図で被験体の男性がギアスを発動させる。
ギアスがかかった。
その瞬間、被験体の男性は大声を上げる。
「おんぎゃあああ!」
「おおよちよち、おちちがほしいでちゅねー」
「ほぎゃあ、ほぎゃあ、きゃっきゃっ」
「そんなにはみはみされるといたたですよー」
そこに映し出されていたのは、成人男性の剥き出しの乳首を成人男性が吸う地獄絵図。
僕はこの光景を知っている。
幼いこの身であれば一瞬できるんじゃないかと、シャルルに言いそうになって口をつぐんだこと。
即ち。
「赤ちゃんプレイ強要ギアスです」
瞬間的にモニターの電源を落とす。
そのあまりに苦しい絵面に耐えきれなかった。
会場に集った人の多くが目を伏せ、笑いを堪え、ごく一部の者が残念そうにブラックアウトしたモニターを眺めている。
「私どもは、このギアスを響団の利益に役立てるべく更なる検証をーー」
「却下!処分!」
クソギアス学会は続く。
響団内にクソギアスがある限り。