それは「ギアス」と呼ばれる力でして、なんでも、王の力なんて呼ばれているとか、いないとか。
ですが一口に王と言っても、名君だけとは限りません。
暗君、愚王、そう呼ばれる王もございます。
これは、そんなお噺です。
時は皇暦2010年。
世界にその版図を広げ続ける神聖ブリタニア帝国の爪牙が、とある極東の島国を捉える前のこと。
その影響下にはないはずの場所ーー中華連邦中央に位置する砂漠地帯ーーそこに人を人とも思わぬ非道を重ね、側から見れば眉唾物の超自然的な力を研究する外道の巣窟があった。
その名をギアス響団。
世界の理を啓かんとし、その成果を時のブリタニア皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアに捧げんとする者達であった。
◆◆◆◆
僕はV.V.。
世界にブイブイ言わせてるあの神聖ブリタニア帝国皇帝シャルルの兄にして、今はこのギアス響団のトップ、響主をやっている。
といっても、響主になったのはつい最近のことだ。
なんせ、急に前の響主だったC.C.が雲隠れしちゃったんだから。
せっかく長年目の上のたんこぶだったあのフラッシュババアを排した直後で気分がよかったのに。
まぁ、彼女は僕達の誓いに賛同している。
たまの気まぐれを起こしたにすぎない。そのうち戻ってくるだろう。
……だけど、彼女は長い時を生きた不死者だ。
そんな彼女のタイムスケールを考えると、そのうちっていつまでになるのだろうか?
一年や二年戻ってこないだけで済むか?
場合によっては十年、二十年戻ってこないこともあり得る。
そうなったら、今の響団をまとめておくトップが必要になる。
そこで抜擢されたのが、彼女と同じくコードを持つ者。
そう僕だ。
まったく、動きにくくなるから嫌だったんだけど。ま、いいや。
裏から動かしていた指の一つが表からも動かせるようになった、それだけだ。
やるからにはしっかり運営してみせよう。
ただ、一つ問題があった。
いや、一つどころではない。
ないが、全ての問題はこの一点に集約されていた。
あいつ、引き継ぎをしていかなかった。
なにせ唐突に出奔したのだ。
当然と言えば当然の話だった。幸いにも運営などに深く関わっていた訳ではなかったから、響団の運営に支障をきたすことはなかった。
しかし、ここはギアス響団。
何をする団体かと言えば、ギアスを研究する団体だ。
だからギアスユーザーの情報管理は基本なんだけど、彼らのギアスの詳細は与えたC.C.とギアスユーザー本人にしかわからない。
同じコードを持っているからと言って、他人のギアスの詳細がわかるわけではないんだ。
もちろん、ギアスを与えられて日の長いギアスユーザーの情報はある。
けれども間の悪いことに、出奔前日、多人数に対して一度にどれだけギアスを渡せるかという実験を行っていた。
その結果、本人の自己申告を参考にしつつも検証が必要なギアスユーザーが複数人発生していたんだ。
まったく、引き継ぎをしないから新しい手間が生まれてしまった。
いけすかないとは思っていたけど、飛び出すなら後を濁さないって意識もないんだな。
……というわけで、今からそうして産まれたギアスユーザーに発現したギアスの報告会議がある。
さて、せっかくだ。
見込みのあるギアスユーザーがいたなら、使い道でも考えてあげようか。
うっそりとした笑みを浮かべながら、早足になる。
ふいに、自分はここのトップになったんだったな、と思いとどまって歩調を落とした。
◆◆◆◆
会議室に入れば、既に多くの研究員が座っていた。
時折向けられる訝しむような視線に対し、響主としてこれだけ多くの人の前に立つのは初めてだなと一人ごち、指定された席に腰を下ろす。
「えー、では全員揃いましたので、只今から新規ギアスユーザーに関しての報告会を行います」
その姿を見た研究部門のトップの男が、司会として会議の始まりを告げた。
この男はそうだ、コードの研究のために何度か検査を受ける時に関わったのを覚えている。
知らぬ間に責任者にまで上り詰めていたのか。いや、立場が上だったから僕の担当だったのか。
そんな事を考えていれば前置きは終わり、司会の男はこちらに水を向けてくる。
「では、改めまして。初めての方もいらっしゃるでしょう。響主様、お言葉を頂戴します」
「うん。僕はV.V.。出奔したC.C.に代わって、このギアス響団の新しい響主に就任した。これからよろしくね」
短く自己紹介を行えば、密やかなざわめきが良く聞こえた。
しかし彼らも響団員、すぐに静寂に場を譲る。
程よく場が張り詰めたところに、司会の男が会議の進行を始めていった。
そこからは発表だ。
変わる代わる研究員達がその場で起立し、自分が担当するギアスユーザーに発現したギアスの効果を発表していく。
基本的には発表を聞いていくだけなのだが、
「……と、この様に検体BM-066のギアスには人の体感時間を止める効果が確認され……媒介は不明ですが効果中は心臓が停止するというデメリットが……」
「うーん、それじゃあギアスの実験には使いづらいね。でも効果は強力だし、潜入工作にはもってこいだ。響団への忠誠心を育てる様教育して、暗部として使おうか」
「では、配属先は……」
といったように、時折口を挟むこともある。
やっぱり、使える物は使わないといけないからね。
話を聞いているだけでも、研究員だけに任せていては宝の持ち腐れになってしまうということがわかってきた。
そうして、発表は続いていく。
次の発表者が起立し、手元を動かせばモニターに情報が表示された。
映し出された検体の顔を見ながら、彼は発表を始めた。
「えー、彼に発現したのは人の体内時計を整えるギアスです」
ほほう、体内時計を……うん?
「彼のギアスを受けると毎朝8時にしっかり目が覚め、夜0時にはしっかり眠れる様になります。効果の永続性は検証できていません」
うわ、なんだそれ。しょっぱくない?
……いや、精神衛生を保つには良い力かもしれない。
なんなら僕も受けたいな。コードがあるから無効か……。
別の研究員が挙手して質問を行う。
「体内時計を整える、という話ですが……検体BM-066のギアスと組み合わせた場合はどういう作用を引き起こすと考えられますか?アレも体の時間に作用するものでしたが」
おっ、いいぞ。そういうの気になる。
「実は既に検証済みでして。普通に止まったままです。やはり体感時間と体内時計は別ですね」
あちゃー。どんまい。
しかし、これはこれで有用なギアスだ。
「発動に制限がないなら十分に実験に使えそうだし、将来的には医療班のスタッフとして働いてもらう道もある。よくやったね」
ありがとうございます、と研究員は腰を下ろす。
続けて隣の研究員が起立し、スライドを切り替えて発表を行う。
「彼に発現したギアスは、人の体感気温を上げるギアスです。このギアスを受けると体感気温が上昇し、著しい発汗を一定期間にわたって促します」
「なるほど。それで今君は全裸なんだね」
そう。彼は一才の布を纏うことなく成果を発表していた。
汗は絶えず流れ出ており、周りにその臭いを拡散させている。
「はい」と食い気味に答えた彼は、一口水をふくむと話を続けた。
「ちなみにさっき体温を測ったところ32度でした。あくまで上げるのは体感気温であって体温は据え置きです。頭もクラクラして足も痺れてひていまひ」
「医務室!!」
柄にもなく大声が出てしまう。
すぐさま会議室にタンカが突入し、全裸の研究員は運び出されていった。
後に残る汗臭い匂いを空調が薄れさせていく中、何事もなかったかの様に発表が再開された。
次の研究者が立ち上がる。
「検体MO-204に発現したギアスは、人の経験人数が見えるギアスです」
「なんて????」
思わず聞き返してしまった。
おかしいな、僕は不老のはずなのに耳が遠くなったか?
「正しくは、他人が性行為に及んだ回数が見えるギアスで……」
聞き間違いではなかったみたいだ。
なんだそれ。どんなギアスだよ。
人の心が読めるとかだったらよかったのに。
「……ただし、対象に性行為の自覚がない場合はカウントされず……」
……いや、情報部に入れれば誰にも掴めない情報を持って来れる人員として使えるんじゃないか?
ハニートラップを検討する際の評価の一つとしても良さそうだ。
「……効果範囲は視界内限定、距離は本人の視力に依存します。肉眼で確認する必要があり……」
いや発表長いなこいつ。
人の経験人数を見るギアスにどれだけねっとり時間かけて検証してるんだよ。
もっと調べることがあるだろ。
「……なお検証の結果、コーネリア皇女殿下の経験人数は」
「発表時間終了!」
話が長すぎて聞き流してしまっていたので、強制的に発表を打ち切った。
最後に何か言おうとしていたようだが、後で報告書で読むからいいだろう。
周りの研究者達は何故かちょっと残念そうな顔をしていた。なんで?
はいはい次、と次の発表を促す。
片眼鏡をかけた研究員が立ち上がり、スライドに次の検体の顔を表示した。
そこには顔を白塗りにし、目の周りを赤と黒で縁取った男の顔が映し出されていた。
なんでビジュアル系?
僕がV.V.だからV系で寄せてきたの?
内心混乱していると、片眼鏡の研究員は発表を開始した。
「彼のギアスは、注文する時に使うと料金が5%OFFになるギアスです」
クーポンかよ。しかも5%って。
仮にもギアスは王の力なんて呼ばれているんだから、タダとかにならないのか。
だが損はしない能力だ。
調達部に配属すれば経費の削減にも役立つだろう。
「ただし美容院限定です」
ホットペ○パービューティじゃないか。
繰り返し使える、じゃないんだよ。調達部に置いても役に立たないや。
というか、ならあのメイクは美容院でやってもらったのか。
なんで検体の写真撮る時にキメッキメにしてるんだよ。
一番必要ないだろ、人体実験の写真にビジュアルは。
流石に実験に回すしかないな、と口を挟まないことにした。
こいつで実験しろって上司の口から言われても困るだろうな……という気遣いもちょっとはある。
最後にミニライブを挟んで発表が終わると、次の研究者が手を上げた。
彼はゆるゆると起立し、眠たげな目を擦りながらモニターに画像を映して発表を始める。
映し出されたモニターには体つきのがっしりした少年が映し出されていた。
「彼に発現したギアスは、自分の乳首の位置を他人に教えるギアスです」
思わず頭を抱える。
いや、まだ発表は始まったばかりだ。
ここで諦めてはいけない。
腐っても王の力。
きっと何か、有効な使い道があるはずだ……!
「発現箇所は瞳、発動方法は目を合わせること。このギアスを受けた対象は24時間の間、当該ギアスユーザーの乳首の場所がうっすら光って見えます。目を瞑っても見えます。なんなら今も当該ギアスユーザーの方角に乳首が見えてます」
ダメかもしれない。
効果時間がやけに長い。実験に使うにも効果が最悪すぎる。
目を閉じても光が見えるなら、立派な睡眠妨害になってしまう。
バッファローゲームで絶対に負けるためのギアスか?
しかし、こうなったら意地だ。
きっと有用な使い道を示してみせる……!
「なるほどね。相方に事前にかけておけば、どんな状況でも味方に位置を伝え続けられる訳だ。潜入作戦に使えるかもしれない。暗部でどうにかできないかな?」
ごめん、暗部。全部押し付けた。
それはいい案ですね、とどこからか聞こえた声に鷹揚に頷き、死んだ目でマイクのスイッチを落とした。
デカいため息をひとつつく。
マイクのスイッチを入れ、そのまま次の発表を促す。
すると一人の研究者が手を挙げた。
彼は立ち上がりもしないで、そのまま何も見ずに発表を開始しようとする。
少し訝しんだ視線を向けるも、彼がそれに気づくことはなかった。
だらしなく緩んだ口元から、よだれとともに研究結果がこぼれ落ちた。
「僕が担当した検体BT-200のギアスは、人を安心させるギアスです。以上」
発表が終わってしまった。
なんだそれは。あまりにだらしのない発表に思わず口を挟む。
「待った。これでは何も聞いてないのと一緒だよ。発動方法は?範囲は?持続性は?」と一息に尋ねる。
勤めて冷静に尋ねたつもりだったが、怒気が漏れてしまったかもしれない。
しかし、彼はどこ吹く風のまま「大丈夫っすよ」と宣った。
「別に発動方法とか効果範囲とか、調べなくても大丈夫ですよ。調べなかったからといって、何か起こるわけじゃないでしょ?」
思わず絶句する。
周りを見渡せば、周りの研究者達もうんうんと頷いている。
「まぁ大丈夫だよな」
「別に彼に関してはね」
「問題ないだろう」
「安心だよ」
背筋が冷える。
それと同時に直感した。
……これは、危機感を奪うギアスだ。
いつからだったのか、効果範囲はどこまでなのか。
わからないが間違いなく、今このギアス響団のほとんどがこのギアスの影響下に入っている。
人は危機感を失えば、容易く危険な行動に踏み出す。
今までの発表だって、自らギアスを受けた研究者がどれだけいただろうか?
ギアスは超常の力。
そんな危険なものを自らの体で実験しようという者はそうそういないはずだ。
コードによってギアスを受けないこのV.V.だけが、その影響から逃れ得たのだ。
「処分!!!!」
放置しておけば、こうして危機感を覚えることもできず響団は壊滅するだろう。
僕は会議室を飛び出すと、愛用のサブマシンガンを手にして収容区画に走った。
つづかない
続けても多分5話くらいでネタが切れます