V.V.がクソみたいなギアスの使い道を考える話 作:紫乃華まこ
次の発表を待ちながら、ぺらり、ぺらりとレジュメを捲る。
残りページは少ない。
予定されている検証結果の発表会が終わりに近づいている。
ことここに至って、僕の精神は不思議な落ち着きに満ちていた。
都合二日間に及んだクソギアス学会(命名:V.V.)がようやく終わろうとしている。
本当に長かった。
思わぬ収穫はあった、そう思わないとやってられない。
玉石混交どころか、うんこをザルで濾して砂金を取るようなものだった。
えんがちょだよ。
とはいえ、これからも研究材料としてのギアスユーザーを増やしていくにあたって、定期的にこういった会合は開催するべきだ。
これからは僕が被験体にギアスを与えることになる。
与えたギアスの内容を大まかに把握しているからといって、それが危険度を低減する事にはつながらない。
……自分の与えたギアスがクソギアスだったら、正直寝込むかもしれない。
素質についての研究はより発展させた方がいいだろう……。
さて、発表の続きを聞いていこうか。
次なる発表者が挙手し、マイクを手に取った。
「被験体OF-103に発現していたギアスは人の知能指数を下げるギアスでした」
つまり、人をアホにするギアスか。
使い所が難しいが強力な能力のように見えるけれど……ん?
何か引っ掛かるところがあったような。
「しかし、自分自身の知能指数も下がるデメリットがありました。検証のため複数回使用したところ、自分のギアス能力を忘れてしまい使用不可になりました」
「アホか!?」
記憶を失えば……自分がギアス能力を持っている事を忘れてしまえば、ギアス能力が失われることは以前シャルルを交えた実験で実証済みだ。
だからといって……ええ……?
レジュメの付記を見れば、検証の詳細が記録されていた。
三回目までは落ち着いた状態だったため、代償の発覚が遅れたらしい。
三の倍数と三のつく回数使用するとアホになるギアス?
「なお、末期には前後不覚になりギアスを乱発してスタッフ数名がその影響を受けました。現在被験体には鎮静剤を注入して拘束し、万が一の暴走を起こさないよう処置しておりますが……」
「処分して。扱いが難しいし、嚮団員に被害が出てるなら尚更だよ」
「かしこまりました」
コードを持ち人の無意識にアクセス可能な僕なら人の記憶を呼び覚ますくらいは訳ないが、詳細を見る限り記憶を戻してもその記憶を認識できないかもしれない。
そうして制御不能なギアスユーザーを作るくらいならやらない方がマシだよ。
単騎で突っ込ませる訳にもいかないしね。
爆弾のように使おうにも、それなら本当に爆弾を使った方がいい。
当たり前のように使っているから忘れそうになるが、ギアスというのはその存在自体が秘匿事項なのだから。
冷徹に沙汰を下し、次の発表を促す。
隣に座っていた研究員が起立し、概要をスライドに映した。
「私たちの班で検証していたギアスは、使用者の右半身が認識されなくなるギアスです」
ふむ、使用者の右半身が認識されなく……右半身?
「発現箇所は右瞳です。発動中、半径十メートル円内の対象に当該ギアスユーザーの右半身が認識されなくなります。服や装備が右半身にあれば、それらも認識されなくなります」
惜しい。全てが惜しい。
もうちょっと頑張って、全身が認識されないとかであって欲しかった。
なんだ右半身だけって。
理科室の人体模型になるギアス?
しかし、右半身についている装備が認識できないという事はだ。
「暗殺任務に使えるかもしれない。上手くいけば武器を持ったまま堂々とボディチェックだってすり抜けられるかも」
「恐れながら嚮主様、右半身が見えてない人はそもそも入口で止められてしまうのでは?」
ぐうの音も出ない正論だった。
「ぐう」
いや、出た。
どうやら、精神的に消耗していたせいでこんな単純なことに気づかなかったようだ。
これも全部しょうもない王の力(笑)のせいだよ……!と責任転嫁する。
しかし、今回の会議はあともう少しだ。
それが終わったらゆっくりリラックスでもしようと心の中でプランを組み立てれば、次の発表者に目を向ける。
目を向けられた男はこちらを見返すと、起立して発表を開始した。
「こちらで検証しておりましたギアスは、声を聞いた相手にほんのりフローラルな匂いを感じさせるギアスです」
それただの口臭がフローラルな人だろ。
しかし、匂いというものが感じさせる力というものは案外強力なものだ。
特に鉄火場においては、そうした一瞬の刺激が命取りになることもある。
ガスマスク越しに甘い香りがすれば毒ガスを疑わせることも可能だろう。
詳細によっては案外いけるのか……?
「発現箇所は舌、発動媒体は肉声です。機械を介すれば効果がなくなり、遮蔽物があっても効果は半減します。要するに、口部を露出していなければ使えません」
じゃあただ口臭がフローラルなだけの人だよそれは。
その後の説明も、その被験体が部隊に配属されたとしても使えるようなものではないことを示していた。
匂いを再現して調香されたサンプルが回されたが、普通に癒し効果のありそうなラベンダー系のノートだった。
「あ、アロマセラピー要員として新設を考えているカウンセリング部門への配属にしようか……」
ギアス能力の使い道は戦闘や諜報だけではない。
これからの事を考えれば、メンタルケアも必要になるだろう。危機感もないし。
そう締めくくり、次の発表を促す。
すると、先程の発表者が再びマイクを取った。
スライドが切り替わり、次の被験体の画像が表示される。
「えー、続けて発表させていただきます。次の被験体ですが、先程発表した被験体と能力の概要が相似を示していたため、こちらで巻き取りました」
なるほど。
つまり、次も匂いに関するギアス能力か。
カウンセリング要員はまとまった数が欲しいところだと思っていたので、ありがたいかもしれない。
「彼に発現したギアスは、彼の排泄物を嗅いだ相手にフローラルな匂いを感じさせるギアスです」
「じゃあそれはうんこの匂いがフローラルなだけの人だよ」
思わず口に出た。
しかし発表者は最後まで聞いて欲しい、というような表情を浮かべて発表を続ける。
「発現箇所は
「
ケツでギアス使うとか初めて聞いたよ。
何?どういう願いを抱けばそんなところに王の力が宿るわけ?
「発動媒体は排泄物です。効果を実感するためには、実際に排泄物を嗅ぐ必要があります」
男が解説すると、先程のようにサンプル……というより普通にうんこが回された。
研究者たちが思い思いの嗅ぎ方をしてその匂いを確かめている。
いつからここはうんこテイスティング嚮団になったんだ。
僕の番が来たので、サンプルの匂いを確かめてみれば……普通にうんこの匂いだコレ。
そういや僕にギアスは効かないんだった。
ただ回ってきたうんこの匂いを嗅いだだけの僕は、しょんぼりしながらうんこを次の人に回す。
次の人は芳しいものを嗅ぐようにうんこに鼻を近づけている。
世も末だ。
気づけば周りからほんのりうんこの臭いがしている。
不老不死でもちゃんと気分は悪くなるんだぞ。
「とまぁこの様に、大便……大変良い匂いを発生させることができます。化学的な臭気判定の結果は通常の排泄物と変わりないため、長く嗅ぎ続けると体に良くないのが難点ですが。いかがでしょう嚮主様、これも新設するカウンセリング部門に」
「却下!!!」
そんなうんこ臭いカウンセリング部門は嫌すぎる。
しかしギアスの力を込めた品という意味では希少なので、研究しがいがあるのかもしれないと考えれば無碍にすることもできない。
一応研究部門に回すように、と通達しておいた。
これが本当のクソギアス、ってね。
落ちがついたところで、これが最後の発表となった。
最後に嚮主としてねぎらいの言葉をかけると、それを合図に嚮団員たちがまばらに会場から退出していく。
そんな彼らの姿を横目に、これ以上第二第三のクソギアス学会が行われませんようにと心の中で祈った。
しかし、その想いはきっと裏切られるのだろう。
ギアスとコードの秘奥に踏み込んでいく以上、失敗作と呼ばれるものから逃れることはきっとできない。
人生は裏切り裏切られの連続だ。
これからも沢山の期待を裏切られるだろう。
沢山の予想を裏切られる事だってあるはずだ。
それでも世界から裏切りを無くすべく、僕たちは進み続けていく。
ねぇ、シャルル。
一つだけ、僕は君に嘘をついた。
でもそれが、君に対する裏切りでないことはわかっていてね。
クソギアス学会は終わりますが、このお話はもう少し続きます。
首を長くして火を吹いて宙に浮きながら待っていてくださいね。