バレンタインの翌日。
15個のチョコを貰ったエース・牛島若利が、極寒の宮城の体育館に「クーラーボックス」を持って現れたお話です。
瀬見視点で、白鳥沢のメンバーがただただカオスに巻き込まれます。

※pixivにも「ゆずみかん #川西太一」で投稿しています(マルチポスト)。
BL要素はありません。

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第1話

〈瀬見英太視点〉

 


2月15日。


部活ではまだ「昨日のバレンタインでもらったチョコの数」の話で盛り上がっていた。


結果は...


五色:5個


白布:3個


獅音:1個


川西・天童・山形・俺:0個。

 


(川西は姉から、山形は2人の妹から貰ったことをやたら強調してきたが...ナシだ!
だって俺は妹からすら貰えなかったから...!)


 

そして...牛島若利:15個。 


やっぱバレー部のエースは違うよなって思っていたが...そう、今日「違う」の本当の意味を理解することになった。 

 

「あれぇ?若利くん!なんでクーラーボックス持ってんの〜?」 

 

天童の疑問はごもっともだ。


2月という宮城では極寒の時期に、若利はクーラーボックスを持って体育館に現れた。


他の奴らの目もたちまちそのクーラーボックスに向けられる。 

 

「あぁ。コンディション管理には、温度管理が必要だからな。」 

 

若利はいつも通り、少しのペースも乱さない『真面目の権化』みたいな表情で答えた。

 


コンディション管理ね...。

もしかして真面目な若利のことだから中身は保冷剤じゃなくて発熱剤かもしれない。


身体を冷やさないように、ペットボトルの中身でも温めているのだろうか。


なるほど、クーラーボックスの断熱性を逆転の発想で利用するとは。
中々やるな。 

 

...だが休憩中。
俺の乏しい想像力は一瞬で裏切られた。 

 

「若利。何食ってんだ?」 

 

山形が神妙な面持ちで、何やら粉?みたいなもんをがぶ飲みし出した若利に尋ねる。 


俺も、天童も、獅音も、若利に近づいた。 


すると、川西や白布、五色が何やらクーラーボックスの中を見て絶望していた。 

 

「牛島さん...この可愛らしい袋...これと同じもの、昨日2年3組の佐藤さんがドキドキしながら持ち歩いているの、見ました...。」 

 

白布がクーラーボックスから可愛らしいデザインの、空になった包装袋を取り出して言った。 


よくみると今若利が手に持っている袋も、若利が待つには可愛らしすぎるものだ。 

 

あれ……なんか、クーラーボックスの中に入っているのって……。


茶色い粉……いや、物によってはベージュの粉だったり、カラフルな謎の粒々だったり、妙に細かい固形物だったりもする。


それらが、恐ろしいほど几帳面に、それぞれ違った可愛らしい袋で小分けに分類されていた。

 

茶色、ベージュ、カラフルな粒……。


脳裏をよぎる、昨日のイベント。


いや、まさか。

いくら若利でも、そんな。

 

俺の背筋を走った嫌な予感は、この後、本人の口から最悪な形で証明されることになる。

 


「あぁ、そうだ。昨日女子たちが俺に『バレー頑張ってください』と言って渡してきてくれたお菓子たちを、俺がバレーを頑張るためにどう活用できるのかを一生懸命考えた。そしてふと、昔家庭科の授業で習ったのを思い出したんだ。チョコレートなどの砂糖はエネルギー源、つまりバレーをやるに当たって非常に重要。特にスポーツ選手は、バランスよくエネルギーやタンパク質を摂る必要がある。そこで俺は思いついた。女子たちの、俺にバレーを頑張ってほしい気持ちをしっかりと受け取るために、しっかりと栄養成分として活用させていただくことにした。チョコやアーモンド、クッキー生地などに全て綺麗に分類し、このように小分けにしておく。あとは俺が栄養バランスを見ながらその中から選んで食べるのみだ。さらに粉状にしておけば吸収が早くすぐにエネルギー源になれる。しかし手作りは日持ちしないと聞いた。だからこうやってクーラーボックスで冷やして持ち歩くのが合理的だ。俺のバレーを応援するために栄養源をプレゼントしてくれた女子たちには心から感謝している。」 

 

...若利は最初から最後まで『バレンタインチョコ活用論』についてご丁寧に表情を崩さずに教えてくれた。 

 

途端空気はカオスになった。 

 

「何が効率的な栄養摂取だ、手作りのもの分解する時点でもう効率悪いだろ」

 

呆れ顔で即座に刀を抜く白布。

 

若利が「ゴフッ」とチョコの粉を少し吹いたのを見て、「粉じゃなければそうならなかったのに」と冷静に致命傷を負わせる川西。

 

そして「栄養摂取もミリ単位で管理するエースの鏡!」と、キラキラした目で間違ったリスペクトを捧げている五色。

 

そしてー。

 

「ゲハハハハハ!若利くん最高〜〜!!成分分解って何それ、理科の実験ンンンン!?」

 

天童が床を叩いてのたうち回り、その横では獅音が「ブフッ……!すまん若利、堪えろと思ったんだが……っ、ハハハ!」と大きな体を震わせて豪快に笑っている。

 

「ひぃーははは!あーおっかしい……、頼むからもう喋るな若利、腹壊れる……」

 

俺も俺で、お腹を押さえながら涙目で必死にツッコミを返した。

 

「なぜ笑う。極めて合理的なはずだ。」

「いやお前wバレンタインに効率を求めんなw今すぐチョコくれた子たちに謝れw」 

 

俺がすかさず突っ込むと若利は「何故だ。嫌だ。俺が彼女たちの想いを1番良い形で体現したまでだ。」と、これまた一点の曇りもない表情で返してきた。 

 

...白鳥沢のエースは誇らしい。 


でも、同時にたまにすごく恐ろしい。

 

若利の放った重いスパイクがクーラーボックスに当たった。


ドーンっというでかい音。


昨日の夜はその手で放たれたボールの威力が、そのまま女子たちの努力と想いの賜物であるバレンタインチョコに物理的に向けられたと思うと、何故か俺が泣きたくなった。(完)


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