銀色の償い   作:垂江 シン

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幕間の閑話です。
どこに入れるか迷いましたが、クライマックス前のこの場所に入れることにしました。焦らすようで申し訳ありません。
長らくお待たせした場面は、明日、公開する予定です。


幕間

(やはり、こんなことは間違っている!)

 

 血の臭いと炎の熱に包まれたバーハラの野の惨状を見ながら、クロードは心に深い悲しみと憤りを抱いていた。

 

 彼らの仲間たちは皆、愛する者を守ろうと武器を振るい、死に物狂いで戦っている。

 不意打ちで降り注いだメティオの魔法の隕石をまともにくらい、砕けた石榴のような赤黒い顔となって即死した配偶者の亡骸を前に、それでも気丈に戦っている者もいる。

 

 しかし、所詮は多勢に無勢だ。

 

 戦いに臨む前の心構えも、彼らと敵軍では大きな差があった。

 初めから相手を皆殺しにするつもりでこの地にやって来た者たちと、友軍に歓迎されるつもりで油断して来た者たちと──

 

 国のために、人々のためにと戦ってきた者たちが、いま手酷い裏切りと不意打ちに遭い、一人、また一人と残虐に処刑されている。

 

(神よ……これが、あなたの望む世界なのですか!?)

 

 クロードは、あのブラギの塔で得たお告げを思い出す。いま、この大陸で起きていることと、これから起きること──

 

 その中には、シグルドの妻と、彼女を攫った者についての内容も含まれていた。

 あのときは、それが誰なのかは分からなかった。暗黒の霧が、ブラギの力をも妨害をして、クロードにそれを知らせないようにしていた。

 

 だが、いまならば分かる。

 

 彼の視線の先にいる、燃えるような赤髪の男。

 あの男が、シグルドの妻を攫ったのだ。自らの野望を成就させるために。

 男は、自分を彼女の夫だと言った。

 だが、それは重婚のはずである。暴力を伴う略奪婚でもある。

 

(神よ! あなたは、そのような婚姻もお認めになるのですか!? 祝福されるのですか!)

 

 そしてその男は、今まさにこの国の王にならんとしている。

 

 純粋に正義と愛のために戦った者たちは無残に殺され、愛する者と幸せな将来を思い描くことすら、もうかなわない。

 それなのに──罪のない者を陥れ、汚名をかぶせて罪人として処刑するような男が。卑劣な手段で他人の妻を奪い、そのことを殊更に見せつけた上で──妻の愛が、もはや自分にはないことを痛感させた上で、見せしめのようにその夫を焼き殺すような男が。

 そのような男だけが、これから先、地位と名誉を得て、愛する者と幸福な家庭を築くというのか。

 

 それが、神の意志なのか。

 それが、神の推奨する生き方なのか。

 

 例えあの男がこの先、どこかで報いを受けるのだとしても、それでもいまクロードの目前で死にゆく仲間たちよりもはるかに長く生き、多くの幸福を享受することは間違いない。

 

 そんなことが、本当に許されるのか。

 それが、神の認める運命だというのなら、

 

(神よ……あなたはあまりにも非情で、残酷だ……)

 

 クロードの目から、涙が流れ落ちる。

 

 しかし神を罵倒するようなことを思いながらも、それでも彼は神を見限ったわけではい。

 神はこのようなことはけして認めないと、神にとっても、これは意に背く過ちなのだと、信じているからだ。

 

 隕石と矢の雨が降り注ぐ戦場で、クロードはいまや足を止めて祈り続けていた。

 

(お願いです、神よ……。どうか過ちを認め、この間違いを、正してください……。

 幸福になるのは、彼らなのだと……。卑劣で残酷なあの男ではなく、清く、正しく生きてきた者たちなのだと、人々のために戦ってきた者たちなのだと、どうか我々に示してください。

 どうか、どうか……)

 

 その願いが天に届いたのか、クロードが手に持つバルキリーの杖が、一瞬キラリと光を放った。

 自分を使えと、言っているかのようだった。

 

「!」

 

 その杖に秘められた力を思い出し、クロードの目が見開かれる。すぐにその目が、細められる。

 

「神よ……ありがとうございます」

 

 声に出して言いながら、クロードはバルキリーの杖を高く掲げて、祈りを捧げ始めた。

 

 彼の行為に気づいた暗黒神(ロプトウス)の神官の一人が、その行為を止めようとクロードに向けて石化の術を放つ。

 両足から徐々に体が石化していくのも構わず、クロードは一心に祈り続ける。

 

 やがて、バルキリーの杖が眩い光を放ちだした。

 それは、クロードの目にしか見えない光だ。

 彼の願いが、聞き遂げられた証の輝きである。

 

(感謝します。神よ……)

 

 それを最後に、クロードの意識は途絶えた。

 

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