竜と歯車 〜帝都魔導院転変譚〜【学園ファンタジー】 作:瀬戸内弁慶
野外演習場の壁と観戦席は、すでに跡形もなく片付いていた。
生い茂る緑を踏み締めて、その外へ。
一月ほど前に、
『ケイト・シース・ポイアーのエニグマは、基本となるスキルを持たない』
転じてそれは、その傾向を読みづらいということになる。
パークの種類については、およそ三種に大別される。
シンシャのように、基本のスキルから発展、補助する役割を持つ『分岐型』。
グレアやミチルのように、血統や家系、さらにその適正から、専用の系統樹にあらかじめセットされたスキルが覚醒する『継承型』。
上記いずれにも属さない『突然変異型』。
おそらくケイトは、その内の『突然変異型』の典型。
ゆえに、他の二つと比して、それが何に起因する能力なのか。エニグマのスペックや系譜から読み解くことは至難だろう。
(それでも、探ることはできるはずだ。それは試験日までに出来る限り関連資料を取り寄せ、おいおい調べていくとして……今は、逆にこっちが基本を押さえとくしかない)
人が集まる演習場からわざわざ担いできた藁人形を立てて、十数歩離れたうえで、対峙する。
鞘にタスクギアのエニグマを装填し、刃を奔らせて抜く。構える。
水を掬うように、跳ね上げた剣筋から発せられた彼の魔力が歯車の姿形をとって、地にその下半分を埋めながら、回り駆けた。
【
それによって掘り起こされた土塊に弾き飛ばされる形で、藁人形が中空へと投げ出された。
【速駆】。その浮上の間際に、距離を詰めて胴を払う。
二分、四分、と刃を踊らせ、重さと魔力を乗せて断ち割っていく。
【転】。寸断されたそれらを地に引く自然の力を反転させ、なお高く浮かせる。
素早く、鞘のエニグマをボルトシューターへと換える。
【釣瓶】。【雷華】。
細分化されたそれを、掌から放たれた螺子の矢や電流が射抜き砕く。焼く。
再びタスクギアへと戻すと同時に、剣を放り出す。縦に回る刃に向けて、腕を差し出すように、伸ばす。
――歯車に、指を懸けるが如く。
【刻】。
鈍麻する時間。静止する数瞬間。
その間に腕を引き戻し、柄を掴み直す。
運びは完璧。仕上がりは上々。
だがそれは、あくまで嵌まった型の中でのことだ。演舞と何ら、変わることがない。
まだ遅い。
まだ遠い。
まだ足りない。
あの日この場所で、雲の間に垣間見た、あの赤雷の
――シンシャに。
(くだらねぇ)
そんな己の妄想に、グレアは反吐が出る思いだった。
いったい誰と戦う想定を、今までしていた。相手はケイトとジャーダだ。
シンシャとは、すでに優劣は決したというのに。
どう願ったところで、届かない存在だというのに。
気安く語り合えるだけでも、まず奇跡だというのに。
それでも、あの光を追い縋って辿ることが出来たのなら、天空を舞う竜の片鱗のそのまた一端なりとも、触れることがかなうのなら――
『グレアは本当に戦いが好きなんだなぁ』
(んなわけ、あるか)
魔導院を修了し、そこで得た知識や技術、あるいは縁故を頼みに、学生たちはやがてそれぞれの進路を選ぶ。
ある者は軍属に。ある者はエニグマやクラドスの技術開発者に。ある者はそのまま在籍して研究職や教員に。ある者は政の道に。
いずれを選ぶにせよ。
選択肢は多い方が良い。
迂闊な披露さえしないのであれば、力は大きいに越したことはない。
そのための研鑽に、意義を見出しているに過ぎない。
そのために、魔導院で知見を得ている。
決して戦いそのものに喜びを見出したわけでも、
全ては、家のため。クロノ・ナイツのため。
身も心も捧げ――そのまま死んでいく。
その
今の状態からそこへと至るまでの道筋を繋ぐことこそが、自分の命題だ。
シンシャにそう宣言したことで、それ以外の道は断ったはずだ。
何を、焦がれる?
そもそも、何故それをシールではなく、シンシャに宣った?
その彼を、葉擦れの音が重なると共に、複数人の気配が取り巻いたのは、彼が魔導院に向けて踵を返した直後だった。