竜と歯車 〜帝都魔導院転変譚〜【学園ファンタジー】   作:瀬戸内弁慶

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6.研鑽と結末の狭間

 野外演習場の壁と観戦席は、すでに跡形もなく片付いていた。

 生い茂る緑を踏み締めて、その外へ。

 一月ほど前に、能力(パーク)を看破されたばかりかあえなく敗れたあの場所へ。

 

『ケイト・シース・ポイアーのエニグマは、基本となるスキルを持たない』

 転じてそれは、その傾向を読みづらいということになる。

 パークの種類については、およそ三種に大別される。

 シンシャのように、基本のスキルから発展、補助する役割を持つ『分岐型』。

 グレアやミチルのように、血統や家系、さらにその適正から、専用の系統樹にあらかじめセットされたスキルが覚醒する『継承型』。

 上記いずれにも属さない『突然変異型』。

 おそらくケイトは、その内の『突然変異型』の典型。

 

 ゆえに、他の二つと比して、それが何に起因する能力なのか。エニグマのスペックや系譜から読み解くことは至難だろう。

 

(それでも、探ることはできるはずだ。それは試験日までに出来る限り関連資料を取り寄せ、おいおい調べていくとして……今は、逆にこっちが基本を押さえとくしかない)

 

 人が集まる演習場からわざわざ担いできた藁人形を立てて、十数歩離れたうえで、対峙する。

 

 鞘にタスクギアのエニグマを装填し、刃を奔らせて抜く。構える。

 水を掬うように、跳ね上げた剣筋から発せられた彼の魔力が歯車の姿形をとって、地にその下半分を埋めながら、回り駆けた。

 

 【地走(じばしり)】――タスクギア唯一と言って良い、能動的攻撃術式。

 それによって掘り起こされた土塊に弾き飛ばされる形で、藁人形が中空へと投げ出された。

 

 【速駆】。その浮上の間際に、距離を詰めて胴を払う。

 二分、四分、と刃を踊らせ、重さと魔力を乗せて断ち割っていく。

 【転】。寸断されたそれらを地に引く自然の力を反転させ、なお高く浮かせる。

 

 素早く、鞘のエニグマをボルトシューターへと換える。

 【釣瓶】。【雷華】。

 細分化されたそれを、掌から放たれた螺子の矢や電流が射抜き砕く。焼く。

 

 再びタスクギアへと戻すと同時に、剣を放り出す。縦に回る刃に向けて、腕を差し出すように、伸ばす。

 ――歯車に、指を懸けるが如く。

 【刻】。

 鈍麻する時間。静止する数瞬間。

 その間に腕を引き戻し、柄を掴み直す。

 

 運びは完璧。仕上がりは上々。

 だがそれは、あくまで嵌まった型の中でのことだ。演舞と何ら、変わることがない。

 

 まだ遅い。

 まだ遠い。

 まだ足りない。

 

 あの日この場所で、雲の間に垣間見た、あの赤雷の耀(かがや)きに。

 ――シンシャに。

 

(くだらねぇ)

 そんな己の妄想に、グレアは反吐が出る思いだった。

 いったい誰と戦う想定を、今までしていた。相手はケイトとジャーダだ。

 

 シンシャとは、すでに優劣は決したというのに。

 どう願ったところで、届かない存在だというのに。

 気安く語り合えるだけでも、まず奇跡だというのに。

 

 それでも、あの光を追い縋って辿ることが出来たのなら、天空を舞う竜の片鱗のそのまた一端なりとも、触れることがかなうのなら――

 

『グレアは本当に戦いが好きなんだなぁ』

(んなわけ、あるか)

 

 魔導院を修了し、そこで得た知識や技術、あるいは縁故を頼みに、学生たちはやがてそれぞれの進路を選ぶ。

 ある者は軍属に。ある者はエニグマやクラドスの技術開発者に。ある者はそのまま在籍して研究職や教員に。ある者は政の道に。

 

 いずれを選ぶにせよ。

 選択肢は多い方が良い。

 迂闊な披露さえしないのであれば、力は大きいに越したことはない。

 

 そのための研鑽に、意義を見出しているに過ぎない。

 そのために、魔導院で知見を得ている。

 決して戦いそのものに喜びを見出したわけでも、(いたずら)な好奇心に衝き動かされているわけでもない。

 

 全ては、家のため。クロノ・ナイツのため。

 身も心も捧げ――そのまま死んでいく。

 その結論(こたえ)は、最初から決まっている。

 

 今の状態からそこへと至るまでの道筋を繋ぐことこそが、自分の命題だ。

 シンシャにそう宣言したことで、それ以外の道は断ったはずだ。

 何を、焦がれる?

 そもそも、何故それをシールではなく、シンシャに宣った?

 

 その彼を、葉擦れの音が重なると共に、複数人の気配が取り巻いたのは、彼が魔導院に向けて踵を返した直後だった。

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