竜と歯車 〜帝都魔導院転変譚〜【学園ファンタジー】 作:瀬戸内弁慶
グレア・アンティキラを、十人ばかりの少年少女が囲んだ。
タイの色から全員が一年生だと分かる。
顔つきはまばら、だが面構えは、感情の糊で一様に塗り固められている。
すなわち、貴種ないしその恩恵に預かるが故の、自尊心。そして、敵意と侮蔑。
本人たちではないにせよ、うんざりするほど、見慣れた
(いや――)
実際、覚えのある顔も散見される。ミチルの取り巻きだった。
「何か」
目的は分かり切っているが、口上もとい口実ぐらいは聴いてやろうと、あえてグレアは尋ねた。
「いやなに、君には過ぎた試験を課せられたと耳にしてね」
「しかもチームメイトはミチル様とランドバーク殿。お二人の間に割って入ることになり、所詮まぐれ勝ちの己の非力を恥じて、萎縮しているのではないかと危惧しているのだ」
「そこで我々で稽古をつけてやろうと思ったのだ」
「……申し出は有難いが、その稽古とやらで不慮の怪我など負わせたらどうするつもりだ?」
「その時は、申し訳ないが辞退していただこうかな……元々、分不相応な立場だということを忘れてもらっては困る」
低く笑いながら、そんなことを謳う。三流の文句を。
「聴くだけ無駄だったな」
ため息と共に、グレアは言った。
確かに己は到底釣り合わない。シンシャ、ミチル両名に、家柄でも素の魔力量でも遠く及ばない。
「それでも、お前らよりかはマシだ」
そこだけは、はっきりと断ずることができる。
あ? と訝る彼らに呆れつつ、手招きする。
「あれこれ言い訳取り繕ってねぇ、さっさとやりたいことやれってんだよ。くだらねぇ口上に時間かけすぎて、退路を塞ぐ包囲体制も、その裏に潜ませた伏兵も台無しじゃねぇか。そこいらは素直に評価できたのに」
最前列の一人の眉間に、青筋が立った。
如何にも血気を持て余したかのような少年は、力強く踏み込んだ。
【速駆】。脚部強化魔導で一足で間を詰めてくる。
一角の鋭さを宿して、スコルピオス型クラドスの、槍穂を突き出す。
確かに接近も攻めも速い。だが、挑発の延長線上にあるその攻撃は、あまりに直線に過ぎた。
容易く横に逸れてやり過ごし、下から刃でその得物を跳ね上げる。予期せぬ方向から加わった負荷によって持ち主の指先からすり抜けた槍が、浮き上がる。
それを唖然と仰ぐ見た顔に、跳び上がったグレアの膝が叩き込まれる。
一合一撃で昏倒したその流れを、残りが唖然と見つめていた。
「次」
グレアがそう促すのに我に返った何人かが、慌てて動き出す。
前後から迫るそれに対して動かず、魔力の歯車を回す。
【転】。
タイミングを合わせて同時に攻め来た男子二人の剣筋、槍先を、自身の掌とクラドス自体を使って流す。回しに回して、お互いに向けて。
お互いの魔力が衝突し、発動させていた強化術式諸共に破裂した。仰け反った彼らの顎を柄頭で打ち、また返す刃の背で首筋を叩く。
傾いた二人のうちの片割れの腹に膝を入れそのまま【速駆】を発動。強化した脚力で、草むらの、隠れて時機を見失っていた女子に向けて蹴り飛ばす。
それにて死角を作りつつ、本命は【地走】。同胞の介助に気を取られた彼女の脚を払った。
「囲め、囲め! どうしてみんな遠距離攻撃を使わない!? 最低級のエニグマ一つ相手に、何をそんなに手こずる!?」
ヒステリックな叫び声を張る。
ようやく、一方ないし前後からではなく、多面的な攻撃に切り替えてきた。
ようやく、こちらの射程外からの狙撃に切り替えたようだった。背に翼を生やして飛翔したのが二人、猿のごとく、木をするすると登り枝を足場としたのが高所を確保している。その連中が手にしているのは杖型クラドス。
気づくのが、遅い。少なくとも数が半減するまでに仕掛けるべきだった。そして作戦は事前に定めて迂闊に漏らさない。
こんな有象無象が幾らいても、脅威にはなり得ない。ましてリジェクのように慮って加減する必要もない。
【刻】を、発現させる。
鈍麻する世界。
ただしこの時停めは、むやみな反撃には用いない。能力は気取らせない。ただ観察と優先順位づけと、方針の策定とに費やす。
時が、再動す。
と同時に、刃を踊らしめて飛んできた魔力の投石を打ち返し、矢を絡め取って、背後から迫ってきていた者への攻撃に転用する。
我が身を旋回ざま、女子生徒の繰り出した、犬の爪牙を宿した二股槍の薙ぎ払いに対しては四度の刺突、上下の緩急をつけてきた連撃を受けて立つ。道中織り交ぜられた【双牙】の不意打ちは、タイミングが露骨だった。「これでも喰らえと言わんばかり」の表情を見ればどこで仕掛けてくるかは明白だった。半身分の動作だけで躱せた。
その押収を完全に己の主導で制して、二度けたたましい金属音を響かせてガードをこじ開ける。
横っ面に、剣を撃ち込まんとする。とっさに、あるいは本能としてそれを庇う姿勢をとった彼女の、鳩尾に拳を入れた。
人体における魔力生成器官『霊泉』への直接的な打撃である。
たちまちに魔力の出力不全に陥った彼女は、顔面から血の気を抜いて、嗚咽を漏らし、つんのめって膝を折った。
「お、おのれ……っ」
一番奥にあって同胞を叱咤していた色白の男子生徒が、顔をひくつかせていた。
「いったい、何をしているの!」
彼女、ミチル・ジョゼ・サウヴァージュが鋭く声をあげて早足で近づいてきたのは、その時のことだった。