太陽のさわやかお兄さん風の自立思考型AI搭載のタイムマシンは【今】を変える。 作:たくみきんぱつ
何か、色々と勘違いされていることはわかる。
僕の本体であるこの物体は、メデューサの形と酷似しているだけの別物……むしろそれに相反するモノだと言ってもいい。
まぁこのことも、未来について語ることは僕はできない。それに、そんなことを話す前にすべきことがある。
『千空、僕とお喋りしたいって言ってくれるのはうれしいよ。でもね、その前に千空は左腕のケガの応急処置をしなくちゃ、だろう?』
「言われなくても、そーしたいとこ山々だわ。でもテメーをほっとく訳にもいかねーんでな」
ケガよりも僕の方が優先事項らしい。その必要は一ミリもないが、やはりメデューサらしきものが脅威なのだろうか。
『OK! わかったよ。千空はこれが気になって仕方がないんだね? でもダメだよ。科学のことを知りたい気持ちは理解するケド、それで自分の体をおろそかにしちゃあさ』
「それこそ無理な話だわ。こちとら三千七百年前から石化っつー状態で体張りまくりもんでなぁ」
そう話しながら千空は僕の方から一歩、二歩、僕から遠ざかる。おそらく僕と自分の距離を測っているのだろう。先程入手したメデューサを使うために。
……ここでメデューサを使われたら、そこで電池切れになるんじゃないのか? それはマズイ気がするし、教えておいた方がいいかな?
『その石化装置は、使えてあと一回ってところだよ。こんなところで無駄打ちするのかい?』
「…っ!」
千空の手が止まった。少し震えているのも見るに、僕に対する対抗手段がなくて困っているって感じか? そして、相手である僕は石化装置を持っていると思っている。
そこの誤解を解いてあげれば、一旦は自分のケガの方に意識を向けてくれるかな?
『わかったよ、千空。そこまで気になるのなら、一度試してみよう』
「待て、まだッ!!」
僕の本体はタイムマシンだ。そこに、石化装置としての機能はない。だが、それの代わりとなる機能が存在する。それが、メデューサと相反する機能。
そしてその機能も本来の石化装置と同じ起動方法だ。だが、何の対策のためかたった一人だけ、その機能を起動することはできないようになっている。
僕は今、その仕様を利用する。
『1M1second』
僕がそう、自分の本体に対してそうつぶやいたとき、僕と千空の間に少しの沈黙が生まれた。
僕にとっては当然と言ってもいいのか、目の前の驚きを隠せないまま思考し続ける少年にとっては予想外なのか、その間には大きな認識の差があった。
事実、『何も起こっていない』。僕の本体から謎の光線が発されることはない。誰かが石化するようなこともない。
ただ、何も起こらないがここに起きた。
『おや、石化させられちゃうとでも思ったかな? 千空、これはね。それと同じモノじゃないんだよ。これは確かにそれと似ているけれど、ただそれだけ。まったくの別物と言ってもいいものなんだ』
何も、嘘は言っていない。ただの事実を僕ができるだけ説明しているだけだ。
確かに、僕は『今の声』では何も起こらないのを見越して魔法の言葉を唱えた。でも、それは千空を騙すためじゃない。これはニンゲンを脅かすモノじゃないと説明するためだ。
あからさまな光線なんて出たら、尚の事警戒されてしまうからね。でももし、これで千空が何かを勘違いしたら、その時はその時さ。
「……ククク。おありがーたく、ご教授させてもらうわ。で? だから自分はただのお兄さんです、とでも言う気かよ?」
『ただの、ではないよ。なんたって、太陽のさわやかお兄さんだからね!』
「そういうことじゃねー。つーか、テメーはマジで誰なんだよ?」
『それに答えれば、千空は自分のケガを治すかい?』
「それこそ返答次第だわ。いいから答えろ」
それを聞いて、僕は顎に手を置くポーズをして考え込む。
ふむ、確かに碌な自己紹介もしていないといえばしていない。そんな僕のこと警戒する千空の気持ちも理解できる。
だが、どうしたものだろうか? ここで本当の名前を言うわけにもいかない。だとすれば、それこそイイ感じのニックネームが必要だ。
『Matias Dune……Damien Aust……?』
「あ゙ぁ?」
うーん、ダメだなしっくりこない。なんていうかこう、もっと呼びやすい名前の方がいいな。で、もう少しかっこいい感じのヤツだ。
「あ゙ー、偽名を名乗れとは言ってねぇ。テメーが何者かを答えろつってんだ」
『……Dawnman?』
「聞けよ」
ダーンマン……ダーマン、いいかもしれない。よし、これを名乗ろう。
『待たせてごめんね、千空。僕のことはダーマンって呼んでね!』
「おっもくそ、今考えた偽名じゃねーか! つか、そういう意味じゃねー!」
『偽名だなんて……。ただのニックネームだよ、イカしてるだろう?』
「一ミリも興味ねーわ。それよか、テメーは何でここにいる? 何が目的だ?」
『前にも同じ質問をしたね。それなら僕の答えられる範囲でなら答えるケド、そのケガを治す気がないのなら、僕はここにいない方がいいね』
「応急処置しないならこのまま帰りますってか? 随分お優しいことじゃねーか」
やっぱり、何か根本から勘違いされている。千空は僕を敵だと思ってるのか? それとも、ハンザイシャとでも思ってるのかな? ……それは嫌だな。
『あのね、千空。僕は別に千空の敵じゃないよ。もちろん、人類の敵でもない。もちろん、ハイザイシャでもない』
「テメーのとっちゃそうかもしれねーが、こっちにとっちゃそういう訳にもいかねぇんでな。現状、テメーがホワイマン、もしくはそのお仲間の第一候補だ」
『えぇ?』
どうしたらそうなるんだろう? ちょっとメデューサに似た自分の本体を持ってて、多分自分と過去に会ったことを覚えていないであろう千空に挨拶したぐらいなのに、そんなに疑わしいだろうか?
でも、いまちゃんと説明すれば、僕に思考を割く必要はないと千空なら理解してくれるハズだ。
いや、待てよ。そもそもホワイマンは実質的な僕の複製元。そう考えると、ホワイマンのお仲間っていうのは部分的に正しいと言えてしまうのでは?
僕は嘘をつけない。つまり、完全にお仲間じゃないよとは言えない。
『……とりあえず、ケガを治しなよ。そうすれば、僕ももっと千空とお喋りするからさ』
「なら、そのメデューサをこっちに寄越せ。得たいもしれない奴にそんなもん持たせたまんまじゃ、安全もクソもねぇ」
『石化装置じゃないよ。これは』
「それはこれからたっぷり検証して調べまくって、結論出すんだよ」
うーん、本当にこのまま帰ってしまおうか? でも、できるのなら千空からの疑いは晴らしたい。
……メデューサらしきモノをを持っているのが問題なのか? それなら、本体を隠してしまえば一旦は解決かな?
『わかったよ、千空。これが危険なモノだと言うのなら、千空の視界からこれをなくしてしまおう』
「…!?」
僕は千空の方に、海がある崖の方に向かって走り出す。それと同時に手元に、あるホログラムを瞬時に形成しながらだ。
千空は警戒して身構えるが、僕は彼との距離が3メートル程の位置で止まり、そのまま右腕そ海の方へ振り上げる。
千空の頭上に、僕の本体の姿をしたホログラムが通り抜ける。そして、千空はそれから目を背けない。
そうした隙に、僕は首飾り状態となっていた僕の本体を、自分のニセモノのニンゲンの体の内側に入れる。こうすればホログラムに覆われて、僕の本体は外部から見えなくなるからだ。
崖から海に落ちたとき、僕の本体のホログラムが入水するときの水しぶきも再現しておく。実際は水になんて浸かりようがないが、これで怪しまれることもないだろう。
僕は千空に後ろを向け、スタスタと歩き出す。
そういえば、この島も何度もデータで確認したことはあるけれど、こうやって地に足をつけたのは初めてだ。僕に足はないケド。
「待て! どこに行く?」
千空が後ろから僕を引き留める。
僕はさっき、千空とお喋りすると言ったのだ。それを嘘にしないための返事をする。
『僕はこの島の観……社会勉強をしてくるから。そのケガを治したら、そこでお喋りをしよう? じゃあ、またね』
僕は千空の返事を待たずに森の方へ歩き出した。
日が沈んだ夜の風景を背中に森を抜ける。その先には、たくさんのヒトの石像に多くのニンゲンが暮らしているのだろう原始的な住居が多く見られた。
先の未来では、民族学的に貴重な場所となると同時に、STONEWORLD産のロケットの発射場として科学的にも重要な場所になる。
僕のデータにはこの場所の詳細な地形図がある。だが、それはロケットの発射場としてある程度の整地が行われた後の地形図であり、いま僕がいる過去のものとは少し違っている。
それだけではない。科学という文明の導入により、この島の暮らしも大きく変わったことで、失われた文化も存在するのだろう。
やはりと言ってもいいのか、間接的な伝聞と、直接的な観察では情報に雲泥の差がある。この特徴的な髪飾りや、服装、帽子なんかも重要な遺産として記録しておく。
一応、僕は観測・記録が主のAIだ。こういうことは得手としているらしい。まぁ、これはすべて体が勝手に動いている結果であって、グランドミッションと何も関係がない。いわば、自分の意思とは関係なく、与えられた使命をなぞるように自動で行われる作業の一環のようなものだ。
それに対して好印象を感じられたまま行動ができるのは幸いなことだろう。
そんな風に島で過ごしていると、気がつけば結構な時間が経っていて、月も出ているくらいだった。
僕はこの島で一番と言ってもいいだろうスポットを最後に訪れた。ここは、あの宇宙船がある場所だ。
僕はこの大木の中にある球状の物を博物館で見たことがある。確か三千七百年前の宇宙船で、この中にあったプラチナが硝酸を作るための素材になるため、メデューサを獲得するのと同程度の重要度を有していたと言えるだろう。
メデューサとプラチナ、まさにターニングポイントとしての要素が詰まった場所だ。
「……何してんだ。テメー」
千空の声が大木を見上げる僕の背後から聞こえた。その声は少々のイラつきが含まれているようにも感じた。なぜだろうか?
『やぁ、千空。僕はここでこの宇宙船を少し観察させてもらっていただけだよ。指一本触れちゃいないさ』
僕はそう言いながら、千空の方に顔を向ける。
千空はどうやら左肩に応急処置をしたようで、そこにはしっかりと包帯が巻かれていた。
『ケガ、しっかり治したんだね。よかったよ』
「推定黒幕に関与してるヤツに言われるほどじゃねーわ」
僕は千空の言葉に引っかかりを覚えながら、僕は空中に足を下ろすようにして、大木に回るように設計されている木製の床に座り込む。
推定黒幕? 僕のこと……黒幕とは思っていない?
『少しは、誤解が解けたのかな? 少なくとも、その口ぶりは僕を黒幕とは思っていないみたいだケド』
「……簡単な話だ。テメーはこうやって俺と会話してる。なのにホワイマンの野郎はWHYの一点張り、普通に会話できるんならとっくにしてんだろ。でも、そうはしてこねぇ」
『ああ、それで僕の事はそのホワイマンの伝達役とでも言いたいのかい?』
「いや、それもまた違うんだろ。それならわざわざホワイマンがあんなにお電波垂れ流す必要はねぇはずだ」
僕に対して、色々と考察を重ねているみたいだ。すごく、意味ないことをさせてしまっている気がする。
……止めるべきだ。これ以上彼の思考時間を奪うことはしたくはない。影響という影響は少ないだろうが、それでも一抹の不安にはなり得る。
『千空。一応言わせてもらうケド、僕について考えるのは意味のないことだよ。少なくとも、千空にとっての現状を好転させるものにはなり得ないだろうさ』
そんな僕の主観でしかないのかもしれない主張に、千空はフッと笑いながら答えた。
「悪ぃがこっちは科学屋なもんでなぁ? 意味のないことでも考えずにいられねぇ奴なんだわ」
意味のないことでも、考えずにはいられない。
それはある種、ニンゲンの持つ知性の本質なのかもしれない。
生きるだけを捨てて、考え紡ぐことを選んだニンゲンの持つ知性のホンシツ。僕にはない、ニンゲンの知性。
ふと、あのとき僕のトモダチが言った言葉を思い出す。もしかするとあの言葉は、この知性に反する石化そのものに対しての言葉だったのかもしれない。
夜風が、僕と千空の間を通り抜ける。
「俺がこうやって何時間かけてクイズしようと答えがわかる話でもねぇ。いまテメーに答え聞く方が百億倍前進する。つーわけでさっさと答えろ。テメーの目的はなんだ? テメーはどこから来た? 何で石化してねぇ? なんでメデューサを持ってる?」
『StopStop、落ち着いてくれよ。僕だって話したくても話せないことだってあるんだ。それに、せっかくなら楽しくお喋り、だろう?』
「こっちは楽しくても楽しくなくてもどっちでもいいんでな。とっとと答えやがれ」
今更ながら思ったが、もしかして千空って口が悪いんだろうか? 未来で実際に彼と話したことは少ない。というか、ほとんど記憶に残っていない。
過去に飛ばすためだとはいえ、自分のと記憶はグランドミッションにおいて不要だと判断したんだろうが、こういう時に困ることはあるかもしれない。
『一つづつ、答えようか。まず、僕の目的はおおまかに分けて二つあるんだ。その内の一つが、千空を【ほめる】ってことなんだ。もう一つは、ザンネンながら答えることはできないよ』
「……いや、わからん。俺をほめるってなんだよ。それして何になる?」
『さぁ? 僕は頼まれただけだからさ。頼まれごとを実行しているに過ぎない』
「誰だよ、その頼んだやつ?」
『僕の自慢のフレンド……キミのパパさ』
高い場所から景色を見下ろすというのは、いつの時代も変わらないだろう。人工衛星が宇宙の世界へ飛び出したとき、誰もが地球を見下ろせるようようになった。
だが、本物の宇宙を感じられるのは人類でも本の一握り。
そしてニンゲンでない僕は、いくら風が吹こうと、このニセモノの体を通り過ぎてしまう。だからだろうか、僕には今黙っている彼の気持ちを推し量ることは難しい。
「…………百夜じゃねーな」
『ああ、そうだね。僕は石神百夜とはトモダチじゃない』
「ややこしい言い方してんじゃねー。つまりはあれか? 三千七百年前に俺が小せぇ頃にテメーと会ったことがありますっつー話か?」
『理解が早いねぇ』
「何が大きくなったねぇ、だ。どうりでテメーに言われる覚えが一ミリもねぇ訳だ。ソユーズでもねーのにうなもん百億パーセント覚えてる訳がねぇ」
ソユーズ……誰だ? 千空のお友達かな? いや、ソユーズって宇宙船の名前だった気がするが、機械なら覚えてるって話しか? いや、文脈的にヒトっぽいな。
『千空のお友達にはすごい子がいるんだね』
「そのお友達って言い方はやめろ。テメーは俺の親戚のおっさんか何かかよ」
親戚のおっさん……身内であることはそうだが、僕の開発元をたどるとむしろ僕が子供側のような気がするが、いまここでそのことは言えない。
なんだか複雑な気分になってくるな……。
「もう一つの目的ってなんだ? なんで言えねぇ?」
『とてもとても大切なミッション…グランドミッションだからね。それに僕みたいなお兄さんにはシークレットでミステリーなフンイキがつきものさ』
「説明になってねー、次だ次」
『えっと、どこから来たかだったね。僕は森から来たよ!』
「そういうことじゃねー。島の周りにはテメーが乗ってた船はなかった。テメーはどうやってこの島に来た?」
『……歩いて来たよ?』
「あ゙ぁ゙?」
歩いて来た。まぁ僕の足はただのホログラムだから正確には浮遊してきたが正しいケド、概ねの説明としては別段間違った答えではない。ちゃんと足も一歩一歩わざわざ動かしたのは事実だからね。
「水面を歩くなんざ、テメーはアメンボかなんかかよ」
『いや、太陽のさわやかお兄さんだよ』
「それはもういいわ。次」
『なんで僕が石化していないか。まずその質問の意味がわからないな』
「島全体が石化光線で覆われたんだ。逃げられる訳がねぇ」
『ああ、それかい。僕はそのとき、島の外にいたんだよ。だから、その石化光線には触れちゃいない』
「海の上にいたから、なんて言う気かよ」
『そうだよ。別に嘘なんてついてないさ』
そう会話していると、だんだんと千空の僕を見るが変わっているような気がする。それはおそらく、ほめられたようなことではなく、むしろ呆れられているような感じだ。
アヤしまれるよりは、マシなのかな。でも、どうしてだろう? 僕はまっとうにイイ感じのお兄さんをしているハズだ。
「三千七百年前の石化光線の方はどうだ? テメーはどうやって石化から戻った?」
この質問はどうしようか? そもそも僕は石化なんてしていないワケだけど、それを説明したら僕の正体がバレるんじゃないか?
少なくとも千空なら、僕がニンゲンでないことぐらいは勘づきそうだ。だとしたら、この質問はうまくはぐらかさないと。
『千空、キミは復活液の作り方を簡単に誰かに教えたりするのかい?』
「俺らの手札が復活液だったっつーのは知ってんのな。で、こっちにはテメーの手札の輪郭すらよこさねー訳だ」
『ハハハ! そういうこともあるさ、切り替えていこう!』
「なんでテメーにフォローされた風なんだよ。つか、なんで隠そうとする? テメーは俺らと敵対したい訳じゃねーんだろ? 俺らだってむやみやたら敵を増やしたりはしねぇ」
千空は僕に一体どうしてほしいんだろう? まぁ、こうやってお喋りする以上のことは、大きく過去を変えかねない行為だから僕に何かができる権限なんてこれっぽちもないんだケド。
『……僕はね、千空の大冒険に加わることはできないんだ。なんたって僕は本来、物語のもっともっと先にいる存在だからね! ドンと待っていなきゃいけないのさ』
「だから、俺以外に姿を現さねぇのか?」
『いや、それはたまたまだよ。千空はトモダチが多いはずなのに、なぜだか今日は一人だった。それだけの話だよ』
「……一人じゃねーわ」
『…………?』
他に誰かいるのか? そういえば、千空は通信機を持ってたっけ。それのお相手かな? 今は、その通信機は持っていないようだけど……。
……通信? そういえば、この時期のホワイマンの行動って、この先のターニングポイントで重要になったハズ。そのことも触れないようにしていおいた方がいいだろう。
『まぁ、どのみち僕にはグランドミッションがある。暇はあるケド、千空たちに同行はできないよ。ゴメンね!』
「そう明るく言われても残念がってる説得力がねーわ」
『まぁまぁ、アンシンしなよ千空。キミの仲間は強い、もちろん千空自身もさ。僕がいなくても大丈夫!』
「いや、テメーにそんな風に言われる謂れはこそねーわ。マジに親戚のおっさんじゃねーか」
『……お兄さんには見えないかい? 僕のこの顔は結構、ハンサムだしキュートな感じだと思うんだけど』
そう言った僕に対する千空の反応は、明らかにナルシストを見る目だった。別に悪印象があるわけではないだろうが、呆れられレベルは上がった気がする。
自信はあるんだけどなぁ? どうしておっさん扱いされるんだろうか? 別にこの体をデザインしたとき、それほど時間をかけた訳じゃないが、それでも参考にさせてもらった人物たちは全員若かったハズだ。……美しい花の擬人化された二次元の存在も一部参考にしたけれど、その人間じゃないような部分がにじみ出ているせいなのか?
「あ”ーテメーはなんでメデューサを持ってやがる? それが一番重要まであるわ。答えやがれ」
『ああ、これはそうだねぇ。言ってしまえば、貰い物なんだ』
これも、嘘ではない。僕の本体、この体は自身を作り出した親からの贈り物だ。とても大切な……という訳でもないけれど、とても大切な情報を運ぶための船のような代物だ。
それにしても、本当に自分の目で確かめるまでは、僕の本体のことをメデューサだと千空は言うらしい。困ったことではないが、むず痒いような感覚がする。なんていうか、自分はコドモなのにオトナに間違えられて、遊園地とかでオトナ向けの対応をされるような……そんな感じがする。
「誰からの貰いもんだ?」
『うーん。しいて言うのなら僕のパパとママからの、かな?』
「ほーん? つまり、テメーの親がホワイマンの可能性はあるわけか」
……半分正解にたどり着かれてしまった。マズイ、話過ぎたか? いや、千空が僕の話を簡単に信じるはずもない。大した影響はないハズ。まだ大丈夫さ。
……多分、きっと、まだ大丈夫なはずさ!
「テメーの親は何者だ? メデューサを作ったのか?」
『いや、僕は対して自分の親のことはあまり知らないんだ。悪いケド、それは答えられないよ』
「……そうか。なら、テメーはメデューサの使い方を知ってんのか? どうしてあの時反応しなかった?」
夕時の話をしているんだろう。千空にとって、魔法の言葉を使っても石化光線が不発だったことが大層不思議らしい。
どう答えたものだろうか? ここで、それはこれが特別なだけだよとでもいえば、特別でないメデューサが他にもいるということを示唆してしまう。
かといって、正直に答えるわけにもいかない。だけど、質問にはなるべく答えてあげたい。楽しくお喋りを続けたいからね。
『僕はね、確かに千空たちよりも色々なことを知ってるよ? でも、それは僕に与えられた必要な知識なのであって、今のキミたちにそう教えられるものじゃないんだ。それにだ、僕が教えるまでもなくキミたちは自然とこれの答えにたどり着く。僕の存在は、はっきり言って蛇足のようなものさ。そんなオマケの存在に、頭を引っ張られちゃいけないよ』
僕は胸のあたりから、自分の本体をホログラムの体から自然に取り出し、千空の方に見せる。
千空はそれに少し驚いたみたいで、警戒を強めながら一歩だけ後ろに下がった。
『僕が投げ捨てたものは、海には存在にしないよ。千空たちが探す必要はない。それじゃあ、またね。チャオ!』
僕は床から立ち上がり、千空に背中を向けて去って行こうとする。
が、僕の歩みは数歩で止まる。止まらざ得なかった。
千空が身一つで僕と会話しに来ることはないだろう。しかも、今の千空は科学の武器を何も持ち合わせてはいない。それに、今僕のことを止めようとはしなかった。
『……僕を捕まえる気なのかい?』
僕は一言そう呟いてから、進行方向を変える。連なる床の吹き抜けの方にだ。前には柵も何もなく、落ちたら大惨事だろう宙があった。
僕の見立てでは、床を順に降りた先に通信機を改造したのだろう電気が通る素敵なプレゼントが待っている。別にそんなプレゼントは僕にとっては何でもないが、この体がホログラムだとバレてしまうのは問題だ。僕がニンゲンでないとバレてしまう。
『あそこの絶対に通らないといけない床には、千空からの素敵なプレゼントがあるね。ハハハ、ザンネンだけど受取れないよ』
「あ”ぁ”そうかよ。でも、トラップはこっちからは外せねぇようにしてるんでな。手ぶらのテメーじゃ、どのみち逃げられねぇだろ?」
『千空は、手持ちの道具でどうにかなるんだね。アンシンしたよ。ああ、最後に一応聞いておくケド、他に聞きたいことはあるかい?』
「最後じゃねー、明日も俺らでテメーを囲んでよーく話を聞かせてもらう予定なんでな」
『こうして、明日お喋りできるとは限らないよ? 本当に何か聞きたいことはないのかい?』
千空は何かを考え込んでいるのだろう。自分は千空に背を向けているため彼の様子はわからないが、その何かはきっと、これから僕が起こす行動についてなのだろう。
距離は十分、千空は僕から10メートルは離れている。ここからそれだけの距離があれば、一瞬だが千空の視界から僕を消すことが出来る。
「……テメーはどうして、俺の声を使って喋ってやがる?」
『ああ、なんだそんなことか。でもそれは僕よりも、ゲームに詳しいお友達に聞いた方がいいと思うな。僕も理由はよくわかってないからさ』
「ゲーム…? それはッ……!?」
僕は千空の返事を待たずに目の前の吹き抜けから飛び降りる。全身が千空から見えなくなる一瞬の隙に、僕はニンゲンの体のホログラムを消す。そして、そそくさと床の裏側に隠れる。
単純な手だが、僕の本体のサイズとこの夜の暗闇の中じゃ、完全に見つかりようはない。
僕は、千空の声を遠く聞きながら宝島を後にする。
さて、次はどこに行こうか? 次のターニングポイントまで、約半年ほどだ。そしてその半年から約七年ほどの月日が流れる。
つまり、その時間は僕にとっての最後のフリータイムとなるだろう。
何をしようか、どこを巡ろうか? そんな風に、僕はさも何の変哲もない日常を過ごすただのニンゲンのような思考をしながら、自身の本体を海の上に漂わせた。