──────緑がかった虹色の光の粒が蛍のように飛び回るアクシズ上空。
静かに腕を下ろし浮いている
しばし睨み合うだけの両機の沈黙は突然破られる。
天征はその5枚のうち4枚の花びらを射出した。
黎明はライフルを構える。
しかしライラの力量を誰よりも理解しているはずのアクィラがわざわざサイコミュ兵器を向けてくるはずがない。
何よりその巨体。この黎明のいい
警戒を緩めず挙動を見送ると花びらは全てアクシズの大地に突き刺さる。
その表面に浮かぶ血管のような赤い光がアクシズの光を養分のように吸い出しているのか徐々に緑の輝きに染まってゆく。
花びらは膨れ上がり、そして破裂した。
およそ機械とは思えない生物的な現象。
しかしライラは動じない。否。動じる暇などないほどのプレッシャーが生まれたのだ。ライラが今まで感じたことがないほどの自身を圧倒するもの。
炸裂した花びらの破片は緑の光球となり、それが再び集合すると巨大な人型を成す。
形状を定めた光は収まり、変わりに姿を見せるのは4機のモビルスーツ。それぞれ異形とも言える独自の形態。そして威圧感。
白い体、大きな羽のような流線型の形状をした肩、太い前腕、太くつま先の尖った足、背面には
赤い巨体、巨大な棍棒のようなバインダー、同じく巨大で無骨なスカート部からはおよそ歩行には適さないであろう太い足が覗く。
緑に光る単眼はボルジャーノンのようにスライドし黎明を捉える。
この禍々しさを漂わせる2機と違い残る2機は誰がどう見てもホワイトドールだ。
体表の過半数を占める白い四肢、青い胴、そしてシールドなのだろうか、前腕から生える薄っぺらい板。
角張った無骨な体躯から生えるホワイトドールの顔、その額部分には大きな砲門が見える。
そしてこの異形達の中で最も強い威圧を放つホワイトドール。
白を基調としながら青が目立つ体。その背からは
戦闘のために極限まで洗練されたかのような体躯。
少し奥に伸びた頭部は騎士の鎧兜のよう。
鋭く尖り黄色い光を放つ双眼が黎明を見ると一層強く光る。
強い覇気を纏った4機が黎明を囲うように宙に浮かぶ。
ライラは微笑みを浮かべながら実に久方ぶりに黎明の
「フンッ!花の趣味には正直ガッカリしたがこれはいいな!褒めてやる!いいセンスだ!」
旧友から称賛の言葉を贈られた男は満足そうに頷いた。
「お気に召したようで何よりだ・・・さあ・・伝説の英雄と称された君の本領を見せてもらおうか!」
ライラの微笑みは僅かに狂気を孕んだ怪しい笑みに変わる。
「この私に本気を出させられるか⁉︎
4機の異形から放たれた光弾をバーニアをフル点火させて避ける黎明、その双眼を強く光らせその手に握るライフルを異形達に向け虹色の光子が吹き荒れる宙を舞う──────
──────宇宙各地のコロニーに点在する地球連邦支部。
その全ての場所では、兵士たちが揃って上官フロアに押しかけるほどの混乱が起きていた。
支部の職員達の眼前に突然現れた発信源不明の音声限定ホログラム液晶。
そこから流れてきた音声がこの混乱の原因である。
反逆者と言われていたはずの群雲隊員の言葉、大統領と防衛事務次官の世界に対する本心、その真偽。
それら全てがないまぜになった、たった数分の音声だがこの混乱を作り出すのには充分な材料だった。
ある者は連邦政府の裏切りと捉え、ある者は反逆者の讒言と捉える。
しかしその真偽は後でいい。まずはこの状況を作り出すことに成功したのだから。
突然ホログラム液晶が消える。何者かの情報工作と捉えるのが妥当だろうとそれぞれができる限り逆探知の策を探ろうとするその時、それぞれの支部の職員が一番多く集まる場所、そして市街地の各所に現れた巨大な人影。
女性である。背景が透け、その人像は時折ノイズが走ったかのように揺れ動いている。巨大な女性のホログラム、それを見た者達は驚愕する。
何故ならこの
この世界に生きるほとんどの人々が身につけている腕輪デバイス等の電子機器から放たれるホログラム液晶は微粒子を循環噴射し、それに対して鋭角に映像を映すことで視認、そして粒子触覚探知による操作を可能にしている。
その人像はモビルスーツほどの大きさはあろうか、その規模の立体映像を装置も無い場所に出現させるなどあり得ない。
しかし民衆の驚愕をよそにイリスは厳粛な面持ちで語り始めた。
「全世界の今を生きる者達よ!
皆ポカン顔である。
妙な民族衣装に身を包みやけに古風な口調で聞きなれない単語を放つ巨大な幻影。
夢か?新手のイベントか?またテロか?
ただでさえ謎の音声による混乱の渦中にいる人々の頭の中はパンク寸前である。
「先程の音声は地球連邦政府をまとめる者達。そう・・この世界を消し去ろうとする者の真意である!」
それを聞いてやっと口を開いた者が出てきた。
「何をバカなっ!大統領が世界を滅ぼすなど!貴様もテロリストの一味か!」
なんとも頓珍漢で単調な台詞だろうか。しかし各地で同様の野次が後を絶たない。しかしイリスはその全てを聞いていたかのように笑う。
「フフッ。まあそう言うであろうな!そなた達の様な
なんとも侮蔑の極みの様な台詞を吐き捨てるイリス。
当然怒号が飛び交いホログラムには様々な物が投げつけられ通り抜けてゆく。
イリスは突然冷徹な顔になり強い口調にかわった。
「信じずともよい!だがこれは事実である!そしてこれは此度の事だけではない!そなた達の生きる地球!そして地球圏の全てはこの様な
演説を聞いていた者達の顔からは怒気が鳴りを潜め不安の色が浮かび始める。
ふざけた者の話す事ではあるが確信めいた何かを感じさせるからだ。イリスの表情と声色から道化や
「遥か
「何が遥か古の時代だ!人類が宇宙に出て500年だぞ!バカにするにも程がある!やはりペテン師だ!」
「そうだそうだ!この魔女め!」
世界の真実。それは途方もなく大きく重い物。突然それを告げられ民衆は咀嚼できるはずもなくただヤジを飛ばすことしかできずにいた。
しかし内心では世界への疑心が芽生えつつある。
イリスは少し微笑み、ここぞとばかりに手をかざす。
「そうか!なら妾ではなくこの者達の意見も聞こうではないか!」
そう宣言した途端またもや宙に現れた人物像達。
大統領とヴェルヘルムの率いる部隊に銃を突きつけられたディスケ率いる群雲小隊。
連邦に身を置く者たちに新たなざわめきが起こる。
大統領は未だに笑顔を崩してはいない。
「ハハッ!そういうことか!皆様!ご覧ください!世界に仇なす俗物供はこの通り包囲している!後はこの魔女を粛正すれば世界に真の平和が訪れましょう!」
大統領は地下洞内に現れた複数の巨大なホログラム液晶を交互に見渡しながら悠々と語りかける。
マルコ達は険しい表情のまま大統領達を睨み続けていた。
しかしイリスの笑みは崩れない。
「真の平和・・先程まで何度もそう
「・・黒歴史・・・・?」
イリスの言葉に眉をひそめるヴェルヘルム。
その様子をマルコは怪訝そうな顔で見ていた。
大統領はなおも笑う。
「ハハハッ!あんなおとぎ話誰が信じるものか!それに私の
「フフ・・そうか・・・・
その瞬間街中の宙に巨大なホログラム液晶が乱舞する。
連邦支部ビル内やマルコ達のいる地下洞までありとあらゆる所に様々な映像が流れ出す。
それを見た者達は次々と呟く。
「これは・・・ホワイトドールとボルジャーノンだ・・・」
「ああっ!逃げろ!コロニーが!」
「なんだあのホワイトドール!こっちを狙ってるぞ!」
街中で一騎打ちを始める機械人形達。
他所ではモビルスーツが巨大な映像越しに民衆に向かって砲撃を始め、空高く浮かぶ映像ではコロニーがこちらに向かって落下してきている。
再び混乱の渦中に叩き込まれた民衆に向かって更にイリスは畳みかける。なかなかに楽しそうな笑顔を浮かべて。
「遥か古の時代!人類が真に宇宙に出た『宇宙世紀』と呼ばれた時代!その時代から既に地球と宇宙の争いは絶えなかった!」
映像を見る大統領はやっと薄ら笑いをやめて忌々しそうに宙を泳ぐ映像を見つめている。
マルコ達も初めて見る実物の『黒歴史』の映像に驚愕の表情。
そしてあの男もまた同じくうろたえていた。
「なんだこれは・・・!大統領!これは一体⁉︎」
「黙れビエラ!このままでは奴らの思う壺だぞ!こんなまやかしに騙されるな!」
先程の余裕の笑みとは真逆の険しい表情。
ヴェルヘルムはやっとたどり着いたようだ。
歴史の
イリスは「盛り上がってきた!」と言わんばかりの笑顔を浮かべたと思った次の拍子には険しい表情に変わり更に追い討ちをかける。
全ての映像が揃って同じものを映し出した。
虹色の蝶の翼を生やし大地を駆けるホワイトドールの姿を。
「宇宙世紀の終わり・・・それは世界の終焉であった。全てを消し去った絶望・・・
映像は稲妻が走る嵐を映した後荒廃した大地に変わる。
そして再び緑の栄えた牧歌的な街並みに。
「絶望は去り『
映像はボルジャーノンや大型の球体から足が生えた珍奇な機体達が光弾を放ち合う場面に変わる。
民衆は反射で逃げようとしたり身構えたりしているがあくまでも映像である。
そして映し出されたのは2機のモビルスーツ。
先程世界を滅ぼしたホワイトドール。そしてもう一方は一回り大きな体躯だがどこかホワイトドールと似た形をしている白緑色の機体。
2機は組み合いながらその背から虹色の蝶の翼を生やし空を駆ける。再び嵐に包まれる世界。
「月と地球との戦争・・・故郷である地球に帰りたいと望む月の民。歴史の遺物を掘り起こし過去の栄華を取り戻そうとした地球人。何も変わらない地球を再び無に帰そうとする月の蛮族。それらの間で起きた戦争・・・」
戦いの末に大破した2機は組み合いながら繭となり再び牧歌的な街並みが映し出される。しかしなおも続く機械人形の映像。
これまた信じられないほど高度に発展した街並みの中でモビルスーツ達は争い続ける。
民衆は呟く。
「また戦ってる・・・まだ終わらないのか・・・?」
それを聞き取っていたのかイリスは微笑んだ。
「そうだ!一つの争いが終わり、それでも地球は過去の栄華を求めて争い続ける・・・そして遂に手に入れてしまった・・・」
イリスの像を超えた巨大な光が現れた。
揺らめきながら形状を定めたそれは地下洞の繭である。
市街地の中心に現れた巨大な虹色の塊。
人々はあまりの光景にパニックにすらなれないでいる。
「今から4000年前に掘り起こされたこれは千年という節目で羽化をする。そこの暗愚のように星をまとめる輩供は民をその養分として捧げ・・・そして生まれるのだ・・・」
再び巨大な画面が生まれる。
それはこの星の首都、ニューアークの街並み。
大地はひび割れ虹色の糸の束が各地を覆い尽くす悲惨な光景。
それを見た者は絶句する。
ついこの間までは大規模な反戦イベントで盛大な活気を見せていた豪華な街並みは消え失せ、まるで先程見たこの世の終わりのような光景。
なおも続く映像。
そこには純白のモビルスーツが繭からゆっくりと生まれ出る。
表面は大理石の模様にも黒い血管にも見える筋が流動しながら純白の輝きを放つ巨人。
まるで先程の2体が掛け合わされたかのような体躯。
それでも残るビンとしたヒゲのような牙。
その双眼は鋭く光り、虹色の蝶の翼を生やしながら宙を舞う。
虹色の輝きは地球を覆いつくし、そして宇宙を駆け抜けながらコロニー群をも虹色に染めあげ、塵となってゆく。
遂に痺れを切らしたヴェルヘルムが大統領に詰め寄る。
「どういうことですか⁉︎ガンダムは宇宙に巣食う反乱分を根絶やしにするためでは⁉︎民は⁉︎全宇宙の民まで消し去るというのですか⁉︎」
父の狼狽える様子を見てマルコは静かに歩み寄った。
「父上・・・そう仰るのでしたらあなたはまだ引き返せます!奴らに加担し同胞を巻き込んだ責は間逃れませんが今なら最悪の事態は防げる!目を覚ましてください!」
大統領の表情は苦々しさの極みである。
反乱分子に仕立て上げたはずの者達に逆にしてやられたこの窮地。悲願の達成まで後1歩のところであったのだから。
「フンッ!ビエラよ!今更後戻りなど出来ると思うのか⁉︎蛮族供の讒言に耳を傾けるとは愚か者め!ガンダムが世界を浄化しなければこの世界はどうなると思う⁉︎」
「浄化⁉︎この世界に生きる全ての善人も巻き込んで消し去る浄化とは⁉︎私はこのような事に賛同した覚えはない!真に人々が平和に生きるためだと・・・!」
なおも食い下がらないうちに大統領率いる兵士達の銃口が全てヴェルヘルムに向いた。
駆けるマルコ。
銃の引き金にかけられた指に力が込められたその時であった。
兵士達の銃に虹色の光りが降り注ぎ泡となり消えてゆく。
「なんだ⁉︎何をしている!奴らを殺せ!」
大統領の叫びと共に洞窟内に黒いパイロットスーツを着た男達と白装束の男達、そして群雲に残してきた連邦兵が舞い込んで来た。
マルコは目を見開き身構える。
「その服・・・エリュシオン兵か!」
それは先程の銀色のモビルスーツのパイロット達、そして瑞雲の捕虜となっていたサムを筆頭とするエリュシオン兵。
皆が口を揃えて声を上げる。
「「「包囲完了です!
地下洞内が人でギチギチになりかけている中、男達が開けた道の中央から女性が近づく──────