施設長との面談から数日。
思っていた以上に忙しい日々が始まった。
まず行ったのは、ご家族への説明だった。
施設長と主任看護師。
二人が利用者さんのご家族へ、一人ひとり時間を取って説明していく。
「ダンジョンで得た支援アーツを、介護の補助として活用したいと考えています。」
「もちろん強制ではありません。」
「これまでの経過や効果、考えられるリスクも含めて説明させていただきます。」
施設長が説明し、主任看護師が医学的な補足をする。
そして実際にどのような場面で使用したのかを説明した。
小さな内出血。
歩行の補助。
立ち上がりの補助。
どれも日常生活を少しだけ支えるための使い方だった。
反応は様々だった。
「母が少しでも楽になるならお願いします。」
そう言って頭を下げるご家族。
一方で、
「正直……骨は少し怖いですね。」
苦笑いを浮かべる人もいた。
「納得していただけた方だけで大丈夫です。」
「ご検討よろしくお願いいたします。」
施設長たちは、そんな説明を何度も繰り返してくれた。
俺はその間も普段通り介護をしていたが、後から話を聞いて頭が下がる思いだった。
結果として、数名の利用者さんから同意をいただくことができた。
◇
さらに数日後。
朝礼。
職員が集まる中、施設長が前へ出る。
「今日は皆さんへ紹介したい者がいます。」
紹介したい”者”。
その言い方に職員たちは首を傾げる。
施設長は俺へ目配せした。
「黒田君。」
「はい。」
俺は小さく頷く。
「癒骨。」
足元の影が揺れる。
ゆっくりと姿を現したスケルトン僧侶。
「カタ。」
…………。
誰も喋らない。
「……。」
「……。」
「……骨?」
誰かが小さく呟く。
「きゃあっ! ス、スケルトン!?」
看護師さんが思わず声を上げた。
……まあ、そうなるよな。
癒骨は慌てることもなく、小さく会釈する。
「カタ。」
さらに静まり返った。
◇
最初の数日は距離があった。
利用者さんの中には、
「あれは何?」
と職員へ尋ねる人もいた。
おばあちゃんが何人か、
「お迎えが来た……。」
と手を合わせて泣き出した時は、さすがに少し焦った。
事情を説明すると、
「ああ、ダンジョンの子なの。」
と納得してくれる人も多かった。
ダンジョンが身近ではない世代だからこそ、
「そんなものがあるんだねぇ。」
くらいの受け止め方だったのかもしれない。
一方で職員も必要以上には近寄らない。
癒骨も無理に関わろうとはせず、静かに俺の後ろを歩いていた。
◇
そんなある日の朝だった。
「黒田君!」
看護師さんの声が廊下へ響く。
「離床介助お願い!」
「こっちもトイレ!」
「ナースコール鳴ってる!」
朝は戦場だ。
あちこちから呼ばれる。
正直、一人じゃ足りない。
「癒骨!」
「カタ!」
癒骨がすぐ動く。
利用者さんを支え、車椅子を運び、必要な物品を手渡す。
俺が別の利用者さんの介助へ向かっても、黙々と指示をこなしていく。
「……助かる。」
思わず看護師さんが呟いた。
その一言が最初だった。
◇
忙しい日は、見た目を気にしている余裕なんてない。
「癒骨!」
「ガーゼお願い!」
「カタ!」
「車椅子!」
「カタ!」
気付けば、
「スケルトン。」
ではなく、
「癒骨。」
と呼ぶ職員ばかりになっていた。
◇
利用者さんも少しずつ変わっていく。
「最初は怖かったけど……。」
「よく見たら愛嬌あるねぇ。」
そう笑いながら頭を撫でようとして――。
「骨しかなかった。」
その場にいた全員が吹き出した。
癒骨は、
「カタ?」
首を傾げる。
その日からだった。
施設の空気が少しだけ変わったのは。
癒骨はもう、“スケルトン”ではなく、この施設で一緒に働く仲間になり始めていた。