ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

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癒骨初出勤

施設長との面談から数日。

 

 思っていた以上に忙しい日々が始まった。

 

 まず行ったのは、ご家族への説明だった。

 

 施設長と主任看護師。

 

 二人が利用者さんのご家族へ、一人ひとり時間を取って説明していく。

 

「ダンジョンで得た支援アーツを、介護の補助として活用したいと考えています。」

 

「もちろん強制ではありません。」

 

「これまでの経過や効果、考えられるリスクも含めて説明させていただきます。」

 

 施設長が説明し、主任看護師が医学的な補足をする。

 

 そして実際にどのような場面で使用したのかを説明した。

 

 小さな内出血。

 

 歩行の補助。

 

 立ち上がりの補助。

 

 どれも日常生活を少しだけ支えるための使い方だった。

 

 反応は様々だった。

 

「母が少しでも楽になるならお願いします。」

 

 そう言って頭を下げるご家族。

 

 一方で、

 

「正直……骨は少し怖いですね。」

 

 苦笑いを浮かべる人もいた。

 

「納得していただけた方だけで大丈夫です。」

 

「ご検討よろしくお願いいたします。」

 

 施設長たちは、そんな説明を何度も繰り返してくれた。

 

 俺はその間も普段通り介護をしていたが、後から話を聞いて頭が下がる思いだった。

 

 結果として、数名の利用者さんから同意をいただくことができた。

 

 

 さらに数日後。

 

 朝礼。

 

 職員が集まる中、施設長が前へ出る。

 

「今日は皆さんへ紹介したい者がいます。」

 

 紹介したい”者”。

 

 その言い方に職員たちは首を傾げる。

 

 施設長は俺へ目配せした。

 

「黒田君。」

 

「はい。」

 

 俺は小さく頷く。

 

「癒骨。」

 

 足元の影が揺れる。

 

 ゆっくりと姿を現したスケルトン僧侶。

 

「カタ。」

 

 …………。

 

 誰も喋らない。

 

「……。」

 

「……。」

 

「……骨?」

 

 誰かが小さく呟く。

 

「きゃあっ! ス、スケルトン!?」

 

 看護師さんが思わず声を上げた。

 

 ……まあ、そうなるよな。

 

 癒骨は慌てることもなく、小さく会釈する。

 

「カタ。」

 

 さらに静まり返った。

 

 

 最初の数日は距離があった。

 

 利用者さんの中には、

 

「あれは何?」

 

と職員へ尋ねる人もいた。

 

 おばあちゃんが何人か、

 

「お迎えが来た……。」

 

と手を合わせて泣き出した時は、さすがに少し焦った。

 

 事情を説明すると、

 

「ああ、ダンジョンの子なの。」

 

と納得してくれる人も多かった。

 

 ダンジョンが身近ではない世代だからこそ、

 

「そんなものがあるんだねぇ。」

 

くらいの受け止め方だったのかもしれない。

 

 一方で職員も必要以上には近寄らない。

 

 癒骨も無理に関わろうとはせず、静かに俺の後ろを歩いていた。

 

 

 そんなある日の朝だった。

 

「黒田君!」

 

 看護師さんの声が廊下へ響く。

 

「離床介助お願い!」

 

「こっちもトイレ!」

 

「ナースコール鳴ってる!」

 

 朝は戦場だ。

 

 あちこちから呼ばれる。

 

 正直、一人じゃ足りない。

 

「癒骨!」

 

「カタ!」

 

 癒骨がすぐ動く。

 

 利用者さんを支え、車椅子を運び、必要な物品を手渡す。

 

 俺が別の利用者さんの介助へ向かっても、黙々と指示をこなしていく。

 

「……助かる。」

 

 思わず看護師さんが呟いた。

 

 その一言が最初だった。

 

 

 忙しい日は、見た目を気にしている余裕なんてない。

 

「癒骨!」

 

「ガーゼお願い!」

 

「カタ!」

 

「車椅子!」

 

「カタ!」

 

 気付けば、

 

「スケルトン。」

 

ではなく、

 

「癒骨。」

 

と呼ぶ職員ばかりになっていた。

 

 

 利用者さんも少しずつ変わっていく。

 

「最初は怖かったけど……。」

 

「よく見たら愛嬌あるねぇ。」

 

 そう笑いながら頭を撫でようとして――。

 

「骨しかなかった。」

 

 その場にいた全員が吹き出した。

 

 癒骨は、

 

「カタ?」

 

 首を傾げる。

 

 その日からだった。

 

 施設の空気が少しだけ変わったのは。

 

 癒骨はもう、“スケルトン”ではなく、この施設で一緒に働く仲間になり始めていた。

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