ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

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文に違和感があったから直しました


ファミレスの夜

 

 

 午後八時。

 

 約束していたファミレスへ入ると、奥の席で源が小さく手を挙げた。

 

「こっち。」

 

「待った?」

 

「いや、今来た。」

 

 向かいへ腰を下ろし、注文だけ済ませる。

 

 ドリンクバーのコップを両手で持った源は、しばらく黙っていた。

 

「……。」

 

「どうした?」

 

「いや。」

 

 源は苦笑する。

 

「まだ頭が追いついてない。」

 

 思わず笑ってしまった。

 

「そんなに?」

 

「うん。」

 

 一度頷いてから、少し考えるように口を開く。

 

「聞いてもいい?」

 

「いいよ。」

 

「今日いたスケルトン。」

 

「癒骨。」

 

「あの子。」

 

「本当に介護してるの?」

 

「ああ。」

 

「利用者さんを支えたり、看護師さんの処置を手伝ったり。」

 

「レッサーヒールも使えるからな。」

 

 源は静かに頷く。

 

「……利用者さん、怖がらない?」

 

「最初は驚く人もいたよ。」

 

「でも今は慣れた。」

 

「癒骨が何もしないって分かったから。」

 

「そっか……。」

 

 源はストローをくるくる回した。

 

「俺だったら、まだちょっと怖い。」

 

「知ってる。」

 

「つかちゃん!」

 

 思わず二人で笑ってしまう。

 

 

 俺は名東第二ダンジョン――通称、骨ダンジョンを見つけたこと。

 

 そこで癒骨と出会ったこと。

 

 施設長へ相談し、ご家族の了承を得た上で介護へ支援アーツと回復アーツを取り入れたこと。

 

 一つずつ話していく。

 

 源は途中で口を挟まず、最後まで聞いていた。

 

「……なるほど。」

 

「だから、あの施設だったんだ。」

 

「ああ。」

 

「癒骨って名前も。」

 

「そのまんまだろ。」

 

 源は笑う。

 

「うん。」

 

「つかちゃんらしい。」

 

「褒めてる?」

 

「……たぶん。」

 

 

「でもさ。」

 

 源が少し真面目な顔になる。

 

「介護って、本当にそんなに人手が足りないの?」

 

「足りない。」

 

 考えるより先に言葉が出た。

 

「癒骨が来てから、本当に助かってる。」

 

「利用者さんを支えたり。」

 

「荷物を運んだり。」

 

「支援アーツを掛けたり。」

 

「一人増えるだけで、できることが全然違う。」

 

 源は静かに聞いている。

 

「ニュースでは見るけど。」

 

「そこまでとは思ってなかった。」

 

「俺も働くまでは分からなかった。」

 

 

「そういや。」

 

 俺はふと思い出した。

 

「亮太と桜ちゃん、高校生になったろ。」

 

「ジョブストーン使った?」

 

 源の表情が少し明るくなる。

 

「使った使った。」

 

「二人とも前の日は全然寝られなかったみたい。」

 

「分かる。」

 

「俺もあの日は寝られなかった。」

 

「で、どんなジョブだった?」

 

「亮太は戦士。」

 

「本人、大喜び。」

 

「桜は薬師だった。」

 

「薬師か。」

 

「最初は落ち込んでたよ。」

 

「戦士じゃなかったって。」

 

「……そうなるよな。」

 

 今の世間なら、そう思う人は少なくない。

 

「つかちゃんは?」

 

「薬師ってどう思う?」

 

「良いジョブだと思う。」

 

「本人がそう思えるかは別だけど。」

 

 源は苦笑した。

 

「今度そう言ってやって。」

 

「あの子、つかちゃんの話なら聞くから。」

 

 

「そういえば源は?」

 

「今の仕事?」

 

「ああ。」

 

 源は照れくさそうに笑う。

 

「配送。」

 

「見れば分かる。」

 

「給料は悪くないよ。」

 

「でも、高校の頃は探索者もちょっと憧れてた。」

 

「盾士だったもんな。」

 

「うん。」

 

「第二階位だから周りには羨ましがられた。」

 

「でも。」

 

 源は少し笑って肩をすくめる。

 

「盾って前に立つじゃん。」

 

「俺。」

 

「怖いんだよ。」

 

「それに装備も高いし。」

 

「兄弟も多いからさ。」

 

「働いた方が早かった。」

 

 俺は静かに頷いた。

 

 ジョブがあっても。

 

 才能があっても。

 

 誰もが探索者になれるわけじゃない。

 

「でも後悔はしてない。」

 

「今の仕事も嫌いじゃないし。」

 

「そっか。」

 

 

「つかちゃんは?」

 

「ん?」

 

「後悔してない?」

 

 少し考えて答える。

 

「ない。」

 

「介護の仕事、好きだから。」

 

 源は嬉しそうに笑った。

 

「やっぱり。」

 

「つかちゃんらしい。」

 

 

 料理が運ばれてきて、話題は高校時代の思い出へ移る。

 

 誰が結婚したとか。

 

 誰が地元を離れたとか。

 

 そんな他愛もない話が続いた。

 

 食事も終わり、食後のコーヒーを飲んでいた時だった。

 

「でもさ。」

 

 源がぽつりと言う。

 

「今日話を聞いて思った。」

 

「支援とか回復って、思ってたよりずっと大事なんだね。」

 

「介護じゃかなり助かってる。」

 

「ダンジョンだと違うの?」

 

「違う。」

 

「戦闘系は結果が見えやすい。」

 

「モンスターを倒せば強いって分かる。」

 

「でも支援や回復は違う。」

 

「効果が分かりにくいし。」

 

「本気で育てる人も少ない。」

 

「だから研究も少ない。」

 

 源は静かに頷く。

 

「……もったいないね。」

 

「俺もそう思う。」

 

 

 店を出る。

 

 夜風が少しだけ涼しかった。

 

「今日はありがとう。」

 

「こっちこそ。」

 

 源は少し言いづらそうに頭を掻く。

 

「あのさ。」

 

「うん。」

 

「今度。」

 

「ダンジョン、一緒に行ってもいい?」

 

 少し嬉しくなって笑う。

 

「いいよ。」

 

 源は一瞬だけ固まる。

 

「……。」

 

「やっぱやめようかな。」

 

「なんで。」

 

「スケルトンいるじゃん!」

 

「怖いんだって!」

 

 思わず吹き出した。

 

「癒骨は優しいぞ。」

 

「そこなんだよ!」

 

「骨が優しいのが一番怖い!」

 

 夜道に源の情けない声が響く。

 

 高校の頃と何も変わっていない。

 

 そう思うと、少しだけ嬉しくなった。

 

「じゃあまた。」

 

「うん。」

 

「またね、つかちゃん。」

 

 源は手を振り、夜道を歩いていく。

 

 その背中を見送りながら、俺は小さく笑う。

 

 ……まあ。

 

 まずはスケルトンに慣れるところからだな。

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