ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

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それぞれの役割

翌日。

 

 朝の申し送りが終わると、俺は四体のスケルトンを前へ並ばせた。

 

 癒骨はもう施設のみんなに知られている。

 

 でも、新しく仲間になった三体はまだ名前がなかった。

 

「今日からよろしくな。」

 

 俺は一体ずつ見つめる。

 

「お前は転骨。」

 

 空間術師のスケルトンが小さく頭を下げる。

 

「カタ。」

 

「お前は鑑骨。」

 

 鑑定士のスケルトンも静かに頷く。

 

「カタ。」

 

「最後に、お前は戦骨。」

 

 戦士のスケルトンが一歩前へ出た。

 

「カタ。」

 

「これで全員だな。」

 

 癒骨。

 

 転骨。

 

 鑑骨。

 

 戦骨。

 

 四体が横一列に並ぶ姿を見て、なんだか少しだけ家族が増えたような気がした。

 

◇

 

「黒田君、ごめん!」

 

 昼食前。

 

 安藤さんを車椅子で食堂へ案内していた職員さんが、困ったように俺を呼んだ。

 

「リクライニング車椅子が通れなくて……。」

 

 食堂には食事前の利用者さんが集まり始めていた。

 

 車椅子が並び、一時的に通路が塞がっている。

 

 リクライニング車椅子は普通の車椅子より一回り大きい。

 

 方向転換するだけでも一苦労だった。

 

「転骨。」

 

「カタ。」

 

「ショートワープ。」

 

 転骨が職員さんとリクライニング車椅子へそっと触れる。

 

 次の瞬間、二人の姿がふっと揺らぎ、一メートルほど先へ移動した。

 

 それだけで通路が空く。

 

「あ、助かった!」

 

「ありがとう、転骨!」

 

 職員さんが笑顔を見せる。

 

 たった一メートル。

 

 それでも、この一メートルが現場では大きい。

 

 介助の流れを止めずに済む。

 

 ランク1アーツでも、使い方次第なんだ。

 

 それ以来、食事前になると転骨は食堂で見守りを兼ねた介助補助を任されるようになった。

 

◇

 

「山田さん、血圧測りますね。腕を動かさないでください。」

 

 看護師さんが電子血圧計を巻く。

 

「んー!」

 

 締め付けられる感覚が苦手なのか、山田さんは腕を動かしてしまう。

 

「またエラーだ……。」

 

 血圧測定は動かれると最初からやり直しになる。

 

「鑑骨。」

 

「カタ。」

 

「インスタントアナライズ。」

 

 淡い光が山田さんを包む。

 

 鑑骨は手に持った小さなホワイトボードへ素早く文字を書いた。

 

『体温 36.2℃』

 

『血圧 121/68』

 

『SpO₂ 98%』

 

「すごい、もう終わったの?」

 

 看護師さんが驚いた声を上げる。

 

「まだ簡易的みたいですけど。」

 

「それでも十分助かるよ。」

 

 続いて体重測定。

 

 車椅子へ乗った利用者さんへインスタントアナライズを使う。

 

『体重 53.6kg』

 

「車椅子の重さを引かなくていいの?」

 

「みたいですね。」

 

 これまでは車椅子ごとの体重を量り、記録してある車椅子の重量を引いて計算していた。

 

 その手間がなくなるだけでも仕事はかなり楽になる。

 

「鑑骨、本当に助かる。」

 

「カタ。」

 

 嬉しそうに頷く鑑骨を見て、職員さんが笑った。

 

 後日、鑑骨はバイタル測定や体重測定の日になると真っ先に呼ばれる存在となり、職員さんが用意してくれた小さなホワイトボードを使って意思疎通をするようになった。

 

◇

 

 一方。

 

「戦骨。」

 

「カタ。」

 

 戦骨は俺の横で静かに待機していた。

 

 癒骨は支援と回復。

 

 転骨は移動や運搬。

 

 鑑骨は測定や情報収集。

 

 戦骨だけ役割がないわけじゃない。

 

 急な二人介助。

 

 重い利用者さんの移乗。

 

 力仕事では頼りになる。

 

 でも、それなら癒骨や転骨でもある程度は対応できてしまう。

 

 施設では戦闘系アーツを使う場面なんてほとんどない。

 

「……少し、もったいないな。」

 

 戦士のジョブは探索者なら当たりジョブだ。

 

 なのに、この施設では一番活躍の場が少ない。

 

 仕事を終えながら、ふと思い出す。

 

 そういえば今度、源とダンジョンへ行く約束をしていた。

 

 骨ダンジョン以外にも初心者向けのダンジョンはあったはずだ。

 

「少し、行き先を変えてみるか。」

 

 戦骨が活躍できる場所も見つかるかもしれない。

 

 そう考えながら、俺は戦骨の頭を軽く叩いた。

 

「カタ。」

 

 どこか嬉しそうな返事が返ってきた。

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