ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

17 / 17
それぞれの役割

翌日。

 

 朝の申し送りが終わると、俺は四体のスケルトンを前へ並ばせた。

 

 癒骨はもう施設のみんなに知られている。

 

 でも、新しく仲間になった三体はまだ名前がなかった。

 

「今日からよろしくな。」

 

 俺は一体ずつ見つめる。

 

「お前は転骨。」

 

 空間術師のスケルトンが小さく頭を下げる。

 

「カタ。」

 

「お前は鑑骨。」

 

 鑑定士のスケルトンも静かに頷く。

 

「カタ。」

 

「最後に、お前は戦骨。」

 

 戦士のスケルトンが一歩前へ出た。

 

「カタ。」

 

「これで全員だな。」

 

 癒骨。

 

 転骨。

 

 鑑骨。

 

 戦骨。

 

 四体が横一列に並ぶ姿を見て、なんだか少しだけ家族が増えたような気がした。

 

 

「黒田君、ごめん!」

 

 昼食前。

 

 安藤さんを車椅子で食堂へ案内していた職員さんが、困ったように俺を呼んだ。

 

「リクライニング車椅子が通れなくて……。」

 

 食堂には食事前の利用者さんが集まり始めていた。

 

 車椅子が並び、一時的に通路が塞がっている。

 

 リクライニング車椅子は普通の車椅子より一回り大きい。

 

 方向転換するだけでも一苦労だった。

 

「転骨。」

 

「カタ。」

 

「ショートワープ。」

 

 転骨が職員さんとリクライニング車椅子へそっと触れる。

 

 次の瞬間、二人の姿がふっと揺らぎ、一メートルほど先へ移動した。

 

 それだけで通路が空く。

 

「あ、助かった!」

 

「ありがとう、転骨!」

 

 職員さんが笑顔を見せる。

 

 たった一メートル。

 

 それでも、この一メートルが現場では大きい。

 

 介助の流れを止めずに済む。

 

 ランク1アーツでも、使い方次第なんだ。

 

 それ以来、食事前になると転骨は食堂で見守りを兼ねた介助補助を任されるようになった。

 

 

「山田さん、血圧測りますね。腕を動かさないでください。」

 

 看護師さんが電子血圧計を巻く。

 

「んー!」

 

 締め付けられる感覚が苦手なのか、山田さんは腕を動かしてしまう。

 

「またエラーだ……。」

 

 血圧測定は動かれると最初からやり直しになる。

 

「鑑骨。」

 

「カタ。」

 

「インスタントアナライズ。」

 

 淡い光が山田さんを包む。

 

 鑑骨は手に持った小さなホワイトボードへ素早く文字を書いた。

 

『体温 36.2℃』

 

『血圧 121/68』

 

『SpO₂ 98%』

 

「すごい、もう終わったの?」

 

 看護師さんが驚いた声を上げる。

 

「まだ簡易的みたいですけど。」

 

「それでも十分助かるよ。」

 

 続いて体重測定。

 

 車椅子へ乗った利用者さんへインスタントアナライズを使う。

 

『体重 53.6kg』

 

「車椅子の重さを引かなくていいの?」

 

「みたいですね。」

 

 これまでは車椅子ごとの体重を量り、記録してある車椅子の重量を引いて計算していた。

 

 その手間がなくなるだけでも仕事はかなり楽になる。

 

「鑑骨、本当に助かる。」

 

「カタ。」

 

 嬉しそうに頷く鑑骨を見て、職員さんが笑った。

 

 後日、鑑骨はバイタル測定や体重測定の日になると真っ先に呼ばれる存在となり、職員さんが用意してくれた小さなホワイトボードを使って意思疎通をするようになった。

 

 

 一方。

 

「戦骨。」

 

「カタ。」

 

 戦骨は俺の横で静かに待機していた。

 

 癒骨は支援と回復。

 

 転骨は移動や運搬。

 

 鑑骨は測定や情報収集。

 

 戦骨だけ役割がないわけじゃない。

 

 急な二人介助。

 

 重い利用者さんの移乗。

 

 力仕事では頼りになる。

 

 でも、それなら癒骨や転骨でもある程度は対応できてしまう。

 

 施設では戦闘系アーツを使う場面なんてほとんどない。

 

「……少し、もったいないな。」

 

 戦士のジョブは探索者なら当たりジョブだ。

 

 なのに、この施設では一番活躍の場が少ない。

 

 仕事を終えながら、ふと思い出す。

 

 そういえば今度、源とダンジョンへ行く約束をしていた。

 

 骨ダンジョン以外にも初心者向けのダンジョンはあったはずだ。

 

「少し、行き先を変えてみるか。」

 

 戦骨が活躍できる場所も見つかるかもしれない。

 

 そう考えながら、俺は戦骨の頭を軽く叩いた。

 

「カタ。」

 

 どこか嬉しそうな返事が返ってきた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:20文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?(作者:南亭骨帯)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼ この世の中の超常現象の九割以上が『誰かしらの個性だろ』で片付けられてしまう今日この頃。▼ ヒーローを目指す少年、森岸詠士(もりがんえいじ)が発現した個性の名は【魔法】──現代社会に喧嘩を売るような代物だった。▼「炎を操ったり風を吹かせたりもできねぇのに魔法使いなんざ名乗ってたまるかァ!?」▼ ……尚、攻撃魔法は一つもない模様。▼ ※注意!▼ 本作は他作品…


総合評価:14662/評価:8.29/連載:111話/更新日時:2026年07月11日(土) 13:07 小説情報

【街の解体屋】魔物解体配信、はじめます【初見歓迎】(作者:解体新書が泣いている)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ダンジョンと魔物が当たり前に存在するこの世界で、解体師は慢性的な人手不足に悩んでいた。▼解体師の田中悠一、二十六歳。この現状をどうにかしたいと考えた彼は、実際に解体の様子を配信して仕事の魅力を発信しようと思いつく。▼「実際にやって見せれば伝わるはず」という至極真っ当な動機のもと、今日も淡々と魔物を配信で解体していく。▼ただ一つ誤算があったとすれば、独学で磨き…


総合評価:18871/評価:8.28/連載:31話/更新日時:2026年05月16日(土) 21:00 小説情報

百式観音を背負いて。(作者:ルール)(原作:NARUTO)

▼ 憧れた姿を追い求め、▼ ただひたすら繰り返し、▼ オッサンはついにソレに辿り着く。▼ そんな狂気のオッサンが混じった忍者活劇。


総合評価:32803/評価:8.17/連載:94話/更新日時:2026年06月15日(月) 06:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>