ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

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研究されてないアーツ体系

 

 

 休日明け。

 

 施設での仕事を終えた俺は、その足でダンジョン協会へ向かった。

 

 目的は一つ。

 

 癒骨が習得した新しいアーツ、《ヒール》について聞くためだ。

 

 

「すみません。」

 

 受付へ声を掛ける。

 

「少し相談したいことがあるんですが。」

 

「はい、どういったご用件でしょうか?」

 

「回復アーツのランク2を習得しました。」

 

 一瞬、受付の女性の動きが止まった。

 

「……ランク2ですか?」

 

「はい。」

 

「少々お待ちください。」

 

 女性は奥へ消えていった。

 

 しばらくすると、三十代くらいの男性職員が姿を見せる。

 

「こちらへどうぞ。」

 

 

 応接室へ案内され、向かい合って座る。

 

「私は探索者支援課の長谷川です。」

 

「黒田司です。」

 

 簡単な挨拶を済ませると、長谷川さんは手帳を開いた。

 

「詳しくお聞かせいただけますか?」

 

 俺は骨ダンジョンでスケルトンをテイムして自分のアーツでジョブを付与出来たこと。

 

 癒骨が僧侶になったこと。

 

 施設で毎日レッサーヒールを使い続けていたこと。

 

 そして先日の探索中、ヒールを習得したことを順番に説明した。

 

 話を聞き終えた長谷川さんは、小さく息を吐く。

 

「やはり……。」

 

「何か分かるんですか?」

 

「正直に申し上げます。」

 

 長谷川さんは苦笑した。

 

「僧侶やクラフターなどの支援・生産系ジョブは、ほとんど研究が進んでいません。」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。」

 

 棚から一冊の分厚い資料を取り出す。

 

「例えば戦士系なら、第一階位から第四階位まで数え切れないほどの実例があります。」

 

「ですが僧侶は探索者自体が少ない。」

 

「さらにそうしたジョブの方はジョブと関係ない仕事をされる方も多く情報が集まらないんです。」

 

ジョブの絶対数も少ないですからねと長谷川さんはつけ加える。

 

 なるほど。

 

 だから情報が少ないのか。

 

生産系、支援系とその他諸々全部合わせて2割は伊達じゃないな…。

 

 

「ヒールについても同じです。」

 

「過去に習得例はあります。」

 

「ですが数は非常に少ない。その全てがヒールのアーツキューブでの習得のようです」

 

 資料をめくりながら続ける。

 

「しかも全員が探索者として熟練度を上げています。」

 

 そこで長谷川さんは俺を見た。

 

「介護現場でランク1アーツ熟練度を積み、ランク2アーツを習得した記録は確認できませんでした。」

 

「……そうですか。」

 

 少しだけ驚いた。

 

 特別なことをしたつもりはない。

 

 毎日、利用者さんへレッサーヒールを使い続けただけだ。

 

 その積み重ねが、結果として前例の少ないケースになっていたらしい。

 

 

「一つ確認なんですが。」

 

「はい。」

 

「ランク2からはダンジョンの外では使えないんですよね?」

 

 長谷川さんはすぐに首を縦に振った。

 

「そうですね。ランク2以上のアーツは基本ダンジョン内でないと発動できません」

 

「だからこそ異能介護加算で認められているのはランク1アーツまででしょう。」

 

「ランク2以上は探索活動での使用が前提になります。」

 

「やっぱりそうですよね。」

 

 少し残念だった。

 

 せっかく覚えたアーツだ。

 

 施設でも役立てられればと思ったが、それは難しいらしい。

 

 

「ですが。」

 

 長谷川さんが資料を閉じる。

 

「もし今後も新しい発見がありましたら、ぜひ協会へ教えていただけませんか。」

 

「私たちも支援系ジョブの資料を集めています。」

 

「もちろんです。」

 

 俺は頷いた。

 

 研究が進んでいないなら、積み重ねるしかない。

 

 介護も同じだった。

 

 一人ひとりに合ったやり方を見つけるため、毎日試行錯誤を繰り返してきた。それをみんなで共有したら少しその人との関わりが楽になった。

 

 支援アーツも、きっと同じなんだろう。

 

 

 協会を出る頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。

 

「研究、か……。」

 

 誰かがやるのを待つより、自分で確かめた方が早い。

 

 戦骨。

 

 癒骨。

 

 転骨。

 

 鑑骨。

 

 せっかく頼れる仲間がいる。

 

「今度の休みは、実験だな。」

 

 俺はそう呟きながら、源へメッセージを送った。

 

『次の休み空いてるか? 少し付き合ってほしい。』

 

 数秒後、すぐに返信が返ってくる。

 

『ダンジョンに行くの?』

 

 思わず笑う。

 

『正解。』

 

 既読が付き、しばらくしてから返ってきたのは、一言だけだった。

 

『……わかった。よろしくね』

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