ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

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骨ダンジョン

 

 名東区第2ダンジョン。

 住宅街の端にぽっかりと口を開けた洞窟型ダンジョンだ。

 数年前に発見された当初は初心者向けとして賑わっていたらしい。

 ――らしい、というのは、俺がダンジョンの世界をすっかり諦めていて興味がなかったからだ。

 出現するのはスライムやゴブリン。

 ドロップ品も安く、探索者たちからは「経験を積むだけのダンジョン」と言われていた。

 それが一週間前。

 突然、骨系ダンジョンへ変質した。

 ニュースでは少し話題になったらしい。

 珍しいダンジョンだからと探索者も集まった。

 でも結果は散々だった。

 骨しか出ない。

 骨素材も高く売れない。

 ジョブストーンやアーツキューブの出現率も普通。むしろゴブリンダンジョンより稼げないという話まで出ている。

 強敵もいない。

 結局、探索者たちはすぐ別のダンジョンへ戻っていった。

 今では一日に一人か二人来るかどうか。

 そんな過疎ダンジョンになっている。

「静かだなぁ……。」

 受付棟の前まで来る。

 停まっている車は一台だけ。

 管理用だろう。

 探索者らしい姿は見当たらない。

 受付へ入ると、カウンターの女性が顔を上げた。

「おはようございます。」

「おはようございます。」

「探索ですか?」

「はい。」

 受付のお姉さんは端末を操作しながら笑った。

「今日はまだ黒田さんだけですよ。」

「そんなに人気ないんですか。」

「骨しか出ませんから。」

 二人で苦笑する。

 まあ、そうなるよな。

「探索者カードをお願いします。」

 財布からカードを取り出して渡す。

 高校生の頃、周りがみんな作るからという理由で作ったカードだ。

 結局一度も使うことなく、財布の奥で眠っていた。

「ありがとうございます。」

 カードを返却される。

「武器はお持ちですか?」

「持ってないです。」

「でしたらレンタルがありますよ。」

 棚には初心者向けの装備が並んでいた。

 短剣。

 ナイフ。

 メイス。

 木盾。

 革鎧。

 どれも使い込まれた跡がある。

「メイスを借ります。」

「返却は帰る時で大丈夫です。」

「ありがとうございます。」

 メイスを受け取り、軽く振ってみる。

 思ったより軽い。

 ……利用者さんを抱える方がよっぽど重いな。

「お気を付けて。」

「行ってきます。」

 黒い膜のようなゲートをくぐる。

 ひんやりとした空気が肌を撫でた。

 湿った土の匂い。

 どこかで水滴が落ちる音。

 テレビで何度も見た景色なのに、実際に立つと空気がまるで違う。

「これがダンジョンか。」

 一本道をゆっくり歩く。

 探索者の姿はない。

 戦闘音も聞こえない。

 本当に静かだ。

 しばらく歩くと、前方から乾いた音が聞こえた。

 カタ。

 カタ……。

 音の方へ目を向ける。

 白い骨だけの身体。

 武器も持っていない。

 防具も着けていない。

 本当に、人の骨がそのまま立ち上がっただけのような姿だった。

「……いた。」

 スケルトン。

 七年前。

 ジョブを授かった日から、一度も会えなかった存在。

 俺のジョブが初めて意味を持つ相手だ。

 スケルトンもこちらへ気付いたらしい。

 両腕をだらりと下げたまま、ゆっくりと近付いてくる。

 その歩き方を見て、思わず苦笑する。

「……安藤さんより遅いな。」

 膝が伸び切らず、足を引きずるような歩き方。

 介護職をしていると毎日見かける歩行だ。

 もちろん安藤さんの方がずっとしっかり歩いている。

 目の前のスケルトンは、それよりさらに頼りない。

「これなら。」

 メイスを構える。

 スケルトンはようやく腕を持ち上げた。

 殴るつもりらしい。

 その動きもひどくぎこちない。

 振り下ろされる前に一歩踏み込み、腕へ向かってメイスを振る。

 パキッ。

「……え?」

 乾いた音とともに、右腕の骨が真ん中から折れた。

 さらに肘から先が、ぽとりと地面へ落ちる。

 スケルトンは一瞬動きを止めた。

 それから落ちた腕を見つめ、しゃがみ込む。

 残った左手で骨を拾い上げると、何事もなかったように元の位置へ当て始めた。

「いやいやいや。」

「自分で直すんかい。」

 思わず一人で突っ込む。

 しかも、うまくはまらないらしく、肘と肩を何度も間違えている。

「……。」

 少しだけ眺める。

 戦うというより、パズルをしているようだった。

 これ、本当にモンスターか?

 想像していたスケルトンより、さらに弱い。

 弱いというか……。

 脆い。

 そして不器用だ。

 介護職として真っ先に浮かんだ感想は一つだった。

「……こいつ、安藤さんの二人介助は無理やろ……!?」

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