休日。
俺は源と待ち合わせをして、再び岩崎台第二ダンジョンへ来ていた。
「今日は何するの?」
受付でレンタル装備を受け取りながら、源が尋ねる。
「実験。」
「……えぇ。」
「なんか嫌な予感しかしないんだけど。」
俺は苦笑しながら戦骨へ片手剣を手渡した。
「昨日、協会で話を聞いてきた。」
「支援系も生産系も、ほとんど研究されてないらしい。」
「これからもこの力にお世話になるなら、少しは勉強するべきだと思ってさ。」
「……なるほど。」
源は少し考えてから頷いた。
「その実験台が……まさか僕?」
「もちろん。」
「やっぱりかぁ……。」
源は肩を落とした。
◇
ダンジョンへ入り、しばらくはいつも通りゴブリンを相手に戦う。
「源!」
「タウント!」
ゴブリンの視線が源へ向く。
「ひっ……!」
肩を震わせながらも、源は逃げなかった。
「戦骨。」
「カタ。」
「闘気。」
淡い光が戦骨を包む。
「カット。」
剣へ斬撃力が付与される。
一歩踏み込み、ゴブリンを斬り伏せる。
その後も同じように何体か倒していき、落ちた魔石を回収する。
目的は討伐じゃない。
アーツを使うことだ。
◇
しばらくすると、鑑骨がホワイトボードを掲げた。
『源 タウント 残りわずか』
俺は頷く。
「よし。」
「ここからが本番だ。」
「え?」
「源。」
「戦骨と戦ってもらう。」
「…………はい?」
源の顔がみるみる青くなる。
「えぇ!? ぼ、僕が?」
「む、無理だよ!」
「ゴブリンより戦骨の方が強いじゃん!」
「戦骨。」
「カタ。」
「手加減してくれ。」
戦骨は静かに頷いた。
「ほ、本当に手加減してね……。」
◇
「始め!」
最初に動いたのは戦骨だった。
「闘気。」
身体能力を強化する。
「ステップ。」
今回のために購入したランク1アーツだ。
一瞬で間合いを詰める。
「うわっ!」
源は慌てて盾を構える。
「闘気!」
自分を奮い立たせるように叫ぶ。
「マイナーバリア!」
盾の防御力が上がる。
ガキィン!
戦骨の剣を何とか受け止める。
「ぐっ……!」
押し込まれながらも踏ん張る。
「ま、まだ!」
「シールドアタック!」
これは今回付き合ってもらうため、俺が源へ買ったランク1アーツだ。
源が盾を押し出す。
戦骨は一歩下がり、そのまま体勢を立て直した。
「カタ。」
「カット。」
再び剣へ斬撃力を付与する。
だが、刃は当たる瞬間に振り抜かず止めていた。
本当に手加減してくれている。
それでも。
「ひぃっ!」
源は何度も悲鳴を上げながら盾を構え続けた。
◇
「癒骨。」
「カタ。」
「まずはマイナータフネス。」
二人へ支援を掛ける。
「続けてタフネスアップ。」
ここ最近、マイナーシリーズも熟練度が一定へ達し、ランク2アーツを習得していた。
ヒールと同じく、扱えるPP総量は百五十程度になる。
「さらにマイナーアジリティ。」
「アジリティアップ。」
「マイナーバリア。」
「バリアアップ。」
「マイナーパワー。」
「パワーアップ。」
「マイナーデクスタリティ。」
「デクスタリティアップ。」
「マイナーインテリジェンス。」
「インテリジェンスアップ。」
「えっ、まだ掛けるの?」
源が目を丸くする。
「全部?」
「全部。」
「研究だからな。」
「意味があるかもしれないし、ないかもしれない。」
「でも試さないと分からない。」
「……司らしいね。」
源は苦笑しながら盾を握り直した。
鑑骨が《インスタントアナライズ》を使い、二人の状態を確認していく。
そしてホワイトボードへ次々と書き込んだ。
『防御上昇確認』
『敏捷上昇確認』
『筋力上昇確認』
『器用上昇確認』
『知力上昇確認』
『重複確認中』
『効果継続時間計測中』
俺も手帳へ書き込んでいく。
どれが重なるのか。
どれが上書きされるのか。
効果時間は何分なのか。
まだ何一つ分からない。
だから全部試す。
それが一番早い。
◇
支援アーツの効果が切れるたび、癒骨が掛け直す。
打ち合いでできた擦り傷は、その都度《ヒール》で回復した。
おかげで二人とも遠慮なく打ち込める。
二時間ほど打ち合いを続けた頃。
「はぁ……はぁ……。」
源はその場へ座り込んだ。
「も、もう動けない……。」
戦骨も剣を下ろしている。
「カタ……。」
どうやら一番使用回数の多かった《闘気》のPPも尽きたようだ。
「今日はここまで。」
俺が声を掛けると、四体のスケルトンが静かに頷いた。
鑑骨は最後にホワイトボードを掲げる。
『データ収集完了』
思わず笑ってしまう。
「ありがとう、鑑骨。」
「カタ。」
◇
ダンジョンを出る帰り道。
「いやぁ……。」
源が肩を回す。
「ゴブリン相手より疲れたよ。」
「でも。」
一度立ち止まる。
「最初は戦骨が怖くて仕方なかった。」
「でも、何回も向き合ってたら……少しだけ怖くなくなった気がする。」
俺は小さく頷いた。
「それだけでも今日来た意味はあったな。」
そして手帳を開く。
今日集めたデータは、まだほんの一部。
支援アーツも。
熟練度も。
重ね掛けの相性も。
誰も研究していないなら。
俺たちが積み重ねていけばいい。
そう思いながら、俺は手帳の新しいページへ今日の実験結果を書き始めた。