ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

20 / 23
修行✖️実験

 

 

 休日。

 

 俺は源と待ち合わせをして、再び岩崎台第二ダンジョンへ来ていた。

 

「今日は何するの?」

 

 受付でレンタル装備を受け取りながら、源が尋ねる。

 

「実験。」

 

「……えぇ。」

 

「なんか嫌な予感しかしないんだけど。」

 

 俺は苦笑しながら戦骨へ片手剣を手渡した。

 

「昨日、協会で話を聞いてきた。」

 

「支援系も生産系も、ほとんど研究されてないらしい。」

 

「これからもこの力にお世話になるなら、少しは勉強するべきだと思ってさ。」

 

「……なるほど。」

 

 源は少し考えてから頷いた。

 

「その実験台が……まさか僕?」

 

「もちろん。」

 

「やっぱりかぁ……。」

 

 源は肩を落とした。

 

 

 ダンジョンへ入り、しばらくはいつも通りゴブリンを相手に戦う。

 

「源!」

 

「タウント!」

 

 ゴブリンの視線が源へ向く。

 

「ひっ……!」

 

 肩を震わせながらも、源は逃げなかった。

 

「戦骨。」

 

「カタ。」

 

「闘気。」

 

 淡い光が戦骨を包む。

 

「カット。」

 

 剣へ斬撃力が付与される。

 

 一歩踏み込み、ゴブリンを斬り伏せる。

 

 その後も同じように何体か倒していき、落ちた魔石を回収する。

 

 目的は討伐じゃない。

 

 アーツを使うことだ。

 

 

 しばらくすると、鑑骨がホワイトボードを掲げた。

 

『源 タウント 残りわずか』

 

 俺は頷く。

 

「よし。」

 

「ここからが本番だ。」

 

「え?」

 

「源。」

 

「戦骨と戦ってもらう。」

 

「…………はい?」

 

 源の顔がみるみる青くなる。

 

「えぇ!? ぼ、僕が?」

 

「む、無理だよ!」

 

「ゴブリンより戦骨の方が強いじゃん!」

 

「戦骨。」

 

「カタ。」

 

「手加減してくれ。」

 

 戦骨は静かに頷いた。

 

「ほ、本当に手加減してね……。」

 

 

「始め!」

 

 最初に動いたのは戦骨だった。

 

「闘気。」

 

 身体能力を強化する。

 

「ステップ。」

 

 今回のために購入したランク1アーツだ。

 

 一瞬で間合いを詰める。

 

「うわっ!」

 

 源は慌てて盾を構える。

 

「闘気!」

 

 自分を奮い立たせるように叫ぶ。

 

「マイナーバリア!」

 

 盾の防御力が上がる。

 

 ガキィン!

 

 戦骨の剣を何とか受け止める。

 

「ぐっ……!」

 

 押し込まれながらも踏ん張る。

 

「ま、まだ!」

 

「シールドアタック!」

 

 これは今回付き合ってもらうため、俺が源へ買ったランク1アーツだ。

 

 源が盾を押し出す。

 

 戦骨は一歩下がり、そのまま体勢を立て直した。

 

「カタ。」

 

「カット。」

 

 再び剣へ斬撃力を付与する。

 

 だが、刃は当たる瞬間に振り抜かず止めていた。

 

 本当に手加減してくれている。

 

 それでも。

 

「ひぃっ!」

 

 源は何度も悲鳴を上げながら盾を構え続けた。

 

 

「癒骨。」

 

「カタ。」

 

「まずはマイナータフネス。」

 

 二人へ支援を掛ける。

 

「続けてタフネスアップ。」

 

 ここ最近、マイナーシリーズも熟練度が一定へ達し、ランク2アーツを習得していた。

 

 ヒールと同じく、扱えるPP総量は百五十程度になる。

 

「さらにマイナーアジリティ。」

 

「アジリティアップ。」

 

「マイナーバリア。」

 

「バリアアップ。」

 

「マイナーパワー。」

 

「パワーアップ。」

 

「マイナーデクスタリティ。」

 

「デクスタリティアップ。」

 

「マイナーインテリジェンス。」

 

「インテリジェンスアップ。」

 

「えっ、まだ掛けるの?」

 

 源が目を丸くする。

 

「全部?」

 

「全部。」

 

「研究だからな。」

 

「意味があるかもしれないし、ないかもしれない。」

 

「でも試さないと分からない。」

 

「……司らしいね。」

 

 源は苦笑しながら盾を握り直した。

 

 鑑骨が《インスタントアナライズ》を使い、二人の状態を確認していく。

 

 そしてホワイトボードへ次々と書き込んだ。

 

『防御上昇確認』

 

『敏捷上昇確認』

 

『筋力上昇確認』

 

『器用上昇確認』

 

『知力上昇確認』

 

『重複確認中』

 

『効果継続時間計測中』

 

 俺も手帳へ書き込んでいく。

 

 どれが重なるのか。

 

 どれが上書きされるのか。

 

 効果時間は何分なのか。

 

 まだ何一つ分からない。

 

 だから全部試す。

 

 それが一番早い。

 

 

 支援アーツの効果が切れるたび、癒骨が掛け直す。

 

 打ち合いでできた擦り傷は、その都度《ヒール》で回復した。

 

 おかげで二人とも遠慮なく打ち込める。

 

 二時間ほど打ち合いを続けた頃。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

 源はその場へ座り込んだ。

 

「も、もう動けない……。」

 

 戦骨も剣を下ろしている。

 

「カタ……。」

 

 どうやら一番使用回数の多かった《闘気》のPPも尽きたようだ。

 

「今日はここまで。」

 

 俺が声を掛けると、四体のスケルトンが静かに頷いた。

 

 鑑骨は最後にホワイトボードを掲げる。

 

『データ収集完了』

 

 思わず笑ってしまう。

 

「ありがとう、鑑骨。」

 

「カタ。」

 

 

 ダンジョンを出る帰り道。

 

「いやぁ……。」

 

 源が肩を回す。

 

「ゴブリン相手より疲れたよ。」

 

「でも。」

 

 一度立ち止まる。

 

「最初は戦骨が怖くて仕方なかった。」

 

「でも、何回も向き合ってたら……少しだけ怖くなくなった気がする。」

 

 俺は小さく頷いた。

 

「それだけでも今日来た意味はあったな。」

 

 そして手帳を開く。

 

 今日集めたデータは、まだほんの一部。

 

 支援アーツも。

 

 熟練度も。

 

 重ね掛けの相性も。

 

 誰も研究していないなら。

 

 俺たちが積み重ねていけばいい。

 

 そう思いながら、俺は手帳の新しいページへ今日の実験結果を書き始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。