ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

20 / 23
修行✖️実験

 

 

 休日。

 

 俺は源と待ち合わせをして、再び岩崎台第二ダンジョンへ来ていた。

 

「今日は何するの?」

 

 受付でレンタル装備を受け取りながら、源が尋ねる。

 

「実験。」

 

「……えぇ。」

 

「なんか嫌な予感しかしないんだけど。」

 

 俺は苦笑しながら戦骨へ片手剣を手渡した。

 

「昨日、協会で話を聞いてきた。」

 

「支援系も生産系も、ほとんど研究されてないらしい。」

 

「これからもこの力にお世話になるなら、少しは勉強するべきだと思ってさ。」

 

「……なるほど。」

 

 源は少し考えてから頷いた。

 

「その実験台が……まさか僕?」

 

「もちろん。」

 

「やっぱりかぁ……。」

 

 源は肩を落とした。

 

◇

 

 ダンジョンへ入り、しばらくはいつも通りゴブリンを相手に戦う。

 

「源!」

 

「タウント!」

 

 ゴブリンの視線が源へ向く。

 

「ひっ……!」

 

 肩を震わせながらも、源は逃げなかった。

 

「戦骨。」

 

「カタ。」

 

「闘気。」

 

 淡い光が戦骨を包む。

 

「カット。」

 

 剣へ斬撃力が付与される。

 

 一歩踏み込み、ゴブリンを斬り伏せる。

 

 その後も同じように何体か倒していき、落ちた魔石を回収する。

 

 目的は討伐じゃない。

 

 アーツを使うことだ。

 

◇

 

 しばらくすると、鑑骨がホワイトボードを掲げた。

 

『源 タウント 残りわずか』

 

 俺は頷く。

 

「よし。」

 

「ここからが本番だ。」

 

「え?」

 

「源。」

 

「戦骨と戦ってもらう。」

 

「…………はい?」

 

 源の顔がみるみる青くなる。

 

「えぇ!? ぼ、僕が?」

 

「む、無理だよ!」

 

「ゴブリンより戦骨の方が強いじゃん!」

 

「戦骨。」

 

「カタ。」

 

「手加減してくれ。」

 

 戦骨は静かに頷いた。

 

「ほ、本当に手加減してね……。」

 

◇

 

「始め!」

 

 最初に動いたのは戦骨だった。

 

「闘気。」

 

 身体能力を強化する。

 

「ステップ。」

 

 今回のために購入したランク1アーツだ。

 

 一瞬で間合いを詰める。

 

「うわっ!」

 

 源は慌てて盾を構える。

 

「闘気!」

 

 自分を奮い立たせるように叫ぶ。

 

「マイナーバリア!」

 

 盾の防御力が上がる。

 

 ガキィン!

 

 戦骨の剣を何とか受け止める。

 

「ぐっ……!」

 

 押し込まれながらも踏ん張る。

 

「ま、まだ!」

 

「シールドアタック!」

 

 これは今回付き合ってもらうため、俺が源へ買ったランク1アーツだ。

 

 源が盾を押し出す。

 

 戦骨は一歩下がり、そのまま体勢を立て直した。

 

「カタ。」

 

「カット。」

 

 再び剣へ斬撃力を付与する。

 

 だが、刃は当たる瞬間に振り抜かず止めていた。

 

 本当に手加減してくれている。

 

 それでも。

 

「ひぃっ!」

 

 源は何度も悲鳴を上げながら盾を構え続けた。

 

◇

 

「癒骨。」

 

「カタ。」

 

「まずはマイナータフネス。」

 

 二人へ支援を掛ける。

 

「続けてタフネスアップ。」

 

 ここ最近、マイナーシリーズも熟練度が一定へ達し、ランク2アーツを習得していた。

 

 ヒールと同じく、扱えるPP総量は百五十程度になる。

 

「さらにマイナーアジリティ。」

 

「アジリティアップ。」

 

「マイナーバリア。」

 

「バリアアップ。」

 

「マイナーパワー。」

 

「パワーアップ。」

 

「マイナーデクスタリティ。」

 

「デクスタリティアップ。」

 

「マイナーインテリジェンス。」

 

「インテリジェンスアップ。」

 

「えっ、まだ掛けるの?」

 

 源が目を丸くする。

 

「全部?」

 

「全部。」

 

「研究だからな。」

 

「意味があるかもしれないし、ないかもしれない。」

 

「でも試さないと分からない。」

 

「……司らしいね。」

 

 源は苦笑しながら盾を握り直した。

 

 鑑骨が《インスタントアナライズ》を使い、二人の状態を確認していく。

 

 そしてホワイトボードへ次々と書き込んだ。

 

『防御上昇確認』

 

『敏捷上昇確認』

 

『筋力上昇確認』

 

『器用上昇確認』

 

『知力上昇確認』

 

『重複確認中』

 

『効果継続時間計測中』

 

 俺も手帳へ書き込んでいく。

 

 どれが重なるのか。

 

 どれが上書きされるのか。

 

 効果時間は何分なのか。

 

 まだ何一つ分からない。

 

 だから全部試す。

 

 それが一番早い。

 

◇

 

 支援アーツの効果が切れるたび、癒骨が掛け直す。

 

 打ち合いでできた擦り傷は、その都度《ヒール》で回復した。

 

 おかげで二人とも遠慮なく打ち込める。

 

 二時間ほど打ち合いを続けた頃。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

 源はその場へ座り込んだ。

 

「も、もう動けない……。」

 

 戦骨も剣を下ろしている。

 

「カタ……。」

 

 どうやら一番使用回数の多かった《闘気》のPPも尽きたようだ。

 

「今日はここまで。」

 

 俺が声を掛けると、四体のスケルトンが静かに頷いた。

 

 鑑骨は最後にホワイトボードを掲げる。

 

『データ収集完了』

 

 思わず笑ってしまう。

 

「ありがとう、鑑骨。」

 

「カタ。」

 

◇

 

 ダンジョンを出る帰り道。

 

「いやぁ……。」

 

 源が肩を回す。

 

「ゴブリン相手より疲れたよ。」

 

「でも。」

 

 一度立ち止まる。

 

「最初は戦骨が怖くて仕方なかった。」

 

「でも、何回も向き合ってたら……少しだけ怖くなくなった気がする。」

 

 俺は小さく頷いた。

 

「それだけでも今日来た意味はあったな。」

 

 そして手帳を開く。

 

 今日集めたデータは、まだほんの一部。

 

 支援アーツも。

 

 熟練度も。

 

 重ね掛けの相性も。

 

 誰も研究していないなら。

 

 俺たちが積み重ねていけばいい。

 

 そう思いながら、俺は手帳の新しいページへ今日の実験結果を書き始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。