「……こいつ、安藤さんの二人介助は無理やろ……!?」
思わず本音が漏れた。
目の前のスケルトンは、折れた腕を左手で拾い上げ、一生懸命元に戻そうとしている。
肩に付けようとして外れ。
肘に付けようとして外れ。
ようやく付いたと思ったら上下が逆だった。
「いや、不器用か。」
思わず笑ってしまう。
こんなので襲われても怖さより心配が勝つ。
スケルトンはようやく腕を付け直すと、またふらふらと近付いてきた。
「まだ来るのか。」
メイスを軽く構える。
タイミングを合わせて振り抜く。
パキッ。
今度は頭蓋骨に綺麗に当たった。
骨が音を立てて砕け、全身がばらばらと崩れ落ちる。
数秒後。
骨は青白い光へ変わり、静かに消えていった。
地面に残ったのは、小さな透明な石が一つだけ。
「これが……。」
しゃがみ込んで拾い上げる。
親指ほどの大きさ。
ほんのりと温かい。
中学の授業で見たことがある。
「魔石か。」
ダンジョンモンスターは倒されると肉体を残さない。
魔力へ還元され、その核だけが結晶化したものが魔石だ。
探索者にとって最も基本的な換金アイテム。
大きさや純度で値段は変わるが、プレーンスケルトンの魔石なら数百円程度らしい。
「夜勤終わりのバイト代としては……。」
魔石を眺める。
「時給、悪いな。」
苦笑しながらポケットへしまう。
さらに奥へ進む。
カタ。
また一体。
今度は少し落ち着いて迎え撃つ。
パキッ。
終了。
「弱い。」
さらに一体。
パキッ。
「弱い。」
さらに一体。
パキッ。
「……弱い。」
十分ほど歩いただけで五体ほど倒した。
息も切れていない。
メイスにも少し慣れてきた。
「介護の方が疲れるな。」
本気でそう思った。
これなら夜勤明けでも何とかなる。
六体目。
またプレーンスケルトンが現れる。
相変わらず、ふらふらと歩いてくるだけだ。
「……。」
メイスを構えようとして、ふと動きが止まる。
「そういえば。」
俺は七年前にもらったジョブを思い出した。
スケルトンマスター。
初期アーツは三つ。
スケルトンテイム。
スケルトンストレージ。
スケルトンプロモーション。
七年間、一度も使えなかったアーツ。
いや。
使う相手がいなかったアーツだ。
「試すだけ……。」
どうせ失敗するかもしれない。
でも、試さない理由もない。
そもそも、こっちは夜勤明けの重い体を引きずってまでここへ来ている。
最強になりたいわけじゃない。
レアアイテムが欲しいわけでもない。
ただ一人。
介助を手伝ってくれるやつが欲しい。
それだけだ。
「頼むぞ。」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
ゆっくりとスケルトンへ近付く。
メイスではなく、右手を伸ばす。
「スケルトンテイム。」
その言葉と同時に、掌が淡く光った。
スケルトンの全身が青白い光に包まれる。
カタ……。
動きが止まる。
洞窟の中から音が消えた。
数秒後。
頭の中へ機械的な声が響く。
【スケルトンをテイムしました】
「……え?」
思わず間の抜けた声が漏れた。
目の前のスケルトンは襲ってこない。
ただ静かに立ったまま、俺を見つめている。
「……歩ける?」
「カタ。」
スケルトンは小さく返事をすると、ぎこちない足取りでこちらへ歩いてきた。
一歩。
また一歩。
間違いない。
命令を聞いている。
「……。」
本当に。
本当に仲間になった。