「……本当に仲間になった。」
目の前のスケルトンは、おとなしく立っている。
襲ってくる様子はない。
「よし。」
まずは確認だ。
「こっち来て。」
「カタ。」
ぎこちない足取りで近付いてくる。
「止まれ。」
ぴたりと止まる。
「右。」
右を向く。
「左。」
左を向く。
「……すご。」
ちゃんと命令を聞いている。
知能は高くなさそうだが、少なくとも俺の言うことは理解しているらしい。
「じゃあ次。」
俺はメイスを地面へ置いた。
「俺を抱えてみ。」
介護職なら、まず試すことは一つしかない。
二人介助ができるかどうかだ。前方から抱えてくれたら俺が後ろからズボンの上げ下ろしとパット当てすればいい。
スケルトンは首を傾げながら近付いてくる。
「そうそう。」
「脇に手を入れて。」
ぎこちなく両腕を伸ばす。
骨の手が俺の脇へ触れる。
「そのまま持ち上げ――」
パキッ。
「……。」
右腕が肩から外れた。
ポトリ。
腕だけが地面へ落ちる。
「カタ……。」
スケルトンは慌てて腕を拾い始めた。
「……だよなぁ。」
俺はそっと向きを揃えて渡してから
「ですよねー」
しゃがみ込む。
俺一人すら持ち上げられない。
これじゃ安藤さんの介助なんて夢のまた夢だ。
えっ?何?後ろからのズボンの上げ下ろしとリハパンのパットの当て直しなら出来るだろって?バカいいなさんな。
こいつら外れた腕を逆さに付けちまうようなトンチキだぞ。
パット上手く当たってないから失禁するに決まってる。
「介護要員どころか、動きがら介護される側じゃん。」
思わずため息が漏れる。
スケルトンは一生懸命、自分の腕を付け直している。
不器用だけど、少し申し訳なさそうにも見えた。
「いや、お前が悪いわけじゃないか。」
俺はポケットへ手を入れる。
今日拾った魔石が五つ。
それと。
「……あ。」
白い石が一つ。
さっき五体目を倒した時に一緒に落ちたものだ。
丸く、乳白色の石。
「ジョブストーン。」
探索者なら誰でも知っている。
ダンジョンで稀に手に入る貴重なドロップ品だ。
十六歳の時に国から支給されるもので俺もお世話になった代物だ
胸へ当てるだけで、新たなジョブを授かる。
売れば一万円。
買えば二万円。
駆け出し探索者にとっては、ちょっとした臨時収入になるレアアイテムだ。
「……まあ。」
普通なら売る。
俺でもそうする。
でも。
視線の先ではスケルトンが、まだ腕と格闘している。
「お前なぁ……。」
そこで、ふと思い出した。
「そういえば。」
スケルトンマスターの初期アーツ。
スケルトンテイム。
スケルトンストレージ。
そして。
「スケルトンプロモーション。」
今まで一度も使えなかったアーツ。
いや、使う相手がいなかったアーツだ。
頭の中でアーツの説明を思い返す。
従魔にジョブを付与する。
「……。」
ジョブを付与する。
つまり。
「力仕事向きのジョブなら……。」
「もう少し丈夫になるか?」
スケルトンを見る。
ジョブストーンを見る。
スケルトンを見る。
「どうせ売っても一万円。」
「試す価値は……あるか。」
失敗したら一万円が消える。
介護職には決して安い金額じゃない。
焼肉なら何回か行ける。
コンビニなら三十回はご褒美が買える。
「……いや、高いな。」
一瞬だけ迷う。
でも。
夜勤中の安藤さんの介助が頭に浮かんだ。
あの重さ。
あの腰への負担。
「一万円で人手が増えるなら。」
「安いか。」
俺は苦笑しながら立ち上がった。
ジョブストーンを握る。
「ちょっと試すぞ。」
「カタ?」
何も分かっていないスケルトンが首を傾げる。
俺はスケルトンの胸へ、静かにジョブストーンを押し当てた。