ジョブストーンをスケルトンの胸へ押し当てる。
「スケルトンプロモーション。」
淡い光がジョブストーンを包む。
次の瞬間。
パキッ。
ジョブストーンが音を立てて砕けた。
「え?」
砕けた石は粒子となり、スケルトンの身体へ吸い込まれていく。
骨の全身が淡く輝き始めた。
頭の中へ機械的な声が響く。
【スケルトンプロモーションを発動しました】
【ジョブストーンを消費しました】
【従魔へジョブを付与します】
「成功……した?」
さらに文字が浮かぶ。
【従魔がジョブを取得しました】
一拍遅れて、次の表示が現れる。
【僧侶】
「……。」
「え?」
思考が止まる。
「僧侶?」
そこは戦士じゃないのか。
なんで僧侶なんだ。
頭の中に、中学のダンジョン学の授業が蘇る。
ジョブストーンから得られるジョブは完全なランダムではない。
前衛職がおよそ四割。
魔法職が三割五分。
支援職と生産職が合わせて二割。
そして特殊職は五%ほど。
俺のスケルトンマスターも、その特殊職に分類される。
支援職は珍しい。
だからといって優秀というわけでもない。
探索者は戦う職業だ。
回復や支援だけでは稼ぎにくい。
だから僧侶はレアなのに人気がない。
「よりによって、その僧侶かぁ……。」
肩を落とした、その時だった。
【レッサーヒールを習得しました】
【ランク1アーツ】
さらに表示が続く。
【ジョブ特性:僧侶】
【回復系・支援系アーツPP補正】
【レッサーヒール】
PP 100 → 300
「……三百?」
思わず二度見する。
そうだった。
ジョブには、それぞれ特性がある。
戦士系ジョブなら戦闘アーツ。
魔法系ジョブなら属性魔法アーツ。
生産系ジョブなら生産アーツ。
そして僧侶のような支援系ジョブは、回復アーツと支援アーツ。
得意分野のアーツだけはPPが大幅に増え、熟練度も上がりやすくなる。
逆に適性のないアーツには補正がない。
だから探索者は自分のジョブに合ったアーツを育てる。
それが常識だった。
アーツも一度覚えれば終わりじゃない。
ランク1アーツを使い込み、熟練度を積み重ねることで、新たなアーツを習得していく。
地道な積み重ねが強さになる。
探索者なら誰でも知っている仕組みだ。
「……でもなぁ。」
レッサーヒール。
僧侶の基本となるランク1アーツ。
治せるのは親指ほどの切り傷や擦り傷、軽い内出血程度。
探索では魔物の攻撃はもっと重い。
だからポーションを持ち歩く方が早いと言われる。
ぶっちゃけ、絆創膏と消毒液の方が便利じゃないかと言われるくらいだ。
「探索者にはハズレなんだよな。」
「カタ?」
スケルトンが首を傾げる。
「いや、お前は悪くない。」
俺の引きが悪かっただけだ。
たぶん。
そう思いながら、もう一度スケルトンを見る。
「そういえば。」
「俺を抱えてみ。」
「カタ。」
スケルトンは脇へ手を伸ばし、俺を持ち上げようと力を込める。
「お?」
ほんの少しだけ。
さっきより身体が浮いた。
だが。
パキッ。
「あ。」
また肩が外れた。
腕が地面へ落ちる。
「カタ……。」
慌てて腕を拾い始めるスケルトン。
「……やっぱりか。」
劇的な変化じゃない。
それでも、さっきより力は出ていた。
足取りもしっかりしてきた。
さっきまでのお年寄りみたいなふらつきは、ほとんど消えている。
ジョブの効果は確かにある。
ただ、僧侶は力仕事向きじゃない。
そこで、ふと夜勤中の光景が頭をよぎる。
ベッド柵で腕をぶつける安藤さん。
車椅子で擦り傷を作る木田さん。
皮膚が弱く、少しぶつけただけで内出血してしまう利用者さん。
「……あれ?」
探索者にはハズレ。
でも。
介護なら?
毎日のように誰かが作る小さな傷。
毎日のようにできる軽い内出血。
もしレッサーヒールが本当に効くなら。
それだけで利用者さんの痛みは少し減る。
転倒後の応急処置だって変わるかもしれない。
「……試してみるか。」
「カタ。」
スケルトンは何も分からないまま、小さく返事をした。
俺は骨ダンジョンの出口へ向かって歩き出す。
夜には、また仕事がある。
探索者にはハズレでも。
介護職には、大当たりかもしれない。
そんな期待を胸に抱きながら。