骨ダンジョンを出ると、昼の日差しがやけに眩しかった。
時計を見る。
十三時過ぎ。
「腹減った……。」
夜勤明けでダンジョンに潜り、そのまま探索。
さすがに眠気も限界だ。
「……あ。」
数歩歩いたところで足が止まる。
後ろを振り返る。
スケルトンが立っていた。
「カタ。」
「お前、このまま外に出てくるんかい。」
住宅街をスケルトン連れて歩いたら通報される。
間違いなくされる。
「どうしたもんかな……。」
そこで思い出す。
スケルトンマスターの初期アーツ。
スケルトンテイム。
スケルトンプロモーション。
そして、もう一つ。
「スケルトンストレージ。」
頭の中でアーツを意識する。
すると説明が浮かんだ。
テイムしたスケルトンを収納・召喚する専用アーツ。
「最初から使えよ、俺。」
思わず苦笑する。
右手をスケルトンへ向ける。
「スケルトンストレージ。」
淡い光がスケルトンを包む。
「カタ?」
次の瞬間。
スケルトンは俺の影へ、すっと沈むように消えていった。
「おぉ。」
成功したらしい。
頭の奥に、不思議な感覚が残る。
そこに一体だけスケルトンがいるのが分かる。
「便利だな。」
これなら施設にも連れて行ける。
必要な時だけ呼び出せばいい。
……もっとも、今のまま呼び出しても介護要員になるかは怪しいけど。
◇
受付へ戻る。
「お帰りなさい。」
受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。
「初探索どうでした?」
「思ったより平和でした。」
「骨しかいませんでした?」
「骨しかいませんでした。」
二人で苦笑する。
今日拾った魔石をカウンターへ並べる。
「魔石五個ですね。」
査定を終え、お金を受け取る。
「そういえば。」
受付横の棚が目に入る。
ジョブストーンとは違う、小さな立方体の石が並んでいた。
「あれって?」
「アーツキューブです。」
受付のお姉さんが説明してくれる。
「ダンジョンでドロップするものと同じですよ。」
「へぇ……。」
写真やテレビでは見たことがあったけど、実物は思ったより小さい。
親指の先ほどしかない。
「売ってるんですね。」
「ランク1だけですけどね。」
棚を見る。
スラッシュ。
ファイア。
ウォーターボール。
シールドバッシュ。
見慣れた名前が並んでいる。
「やっぱり戦闘系が多いんですね。」
「そうですね。」
受付のお姉さんが頷く。
「そもそもドロップ率も戦闘系が多いですから。」
そうだった。
アーツキューブも完全なランダムではない。
ランク1アーツがおよそ六割。
ランク2アーツがおよそ二割。
ランク3以上はさらに出現率が下がる。
しかもランク1アーツの多くは戦闘系と魔法系。
支援系と生産系は合わせても二割ほどしかない。
「だから探索者も自然と戦闘系になるんです。」
「支援や生産は数が少ないですし、育てるのも時間がかかりますから。」
「……なるほど。」
戦闘職が多いのはジョブだけじゃない。
覚えられるアーツまで戦闘向きなのだ。
これじゃ支援職は増えない。
棚の奥へ目を向ける。
隅の方に、小さく並べられたアーツキューブがあった。
マイナーパワー。
マイナーバリア。
マイナーアジリティ。
マイナーデクスタリティ。
どれも探索者なら見向きもしない初級支援アーツだ。
でも。
俺には違って見えた。
筋力。
防御。
脚力。
器用さ。
全部、介護で欲しい能力ばかりだ。
「……全部ください。」
「え?」
受付のお姉さんが目を丸くする。
「全部、ですか?」
「はい。」
「攻撃アーツじゃなくて?」
「仕事で使えそうなので。」
「仕事?」
受付のお姉さんは首を傾げる。
そりゃそうだ。
探索者が支援アーツをまとめ買いするなんて普通はない。
「あと。」
「マイナーインテリジェンスとマイナータフネスってありますか?」
「申し訳ありません。」
受付のお姉さんは在庫表を確認して首を横に振る。
「今は切らしています。」
「取り寄せならできますよ。」
「お願いします。」
「分かりました。」
受付のお姉さんは注文票を書きながら笑った。
「また入荷したらご連絡しますね。」
俺の考えていることがうまくいけば。
利用者さんはもっと元気になるかもしれない。
職員の負担も減るかもしれない。
……そんな未来を少しだけ想像した。
「……あ。」
財布の中を見る。
支援アーツをまとめて買ったせいで、中身がずいぶん軽くなっていた。
「地味に高かったなぁ……。」