ダンジョン介護師の日常   作:河馬田いわし

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支援アーツ

 骨ダンジョンを出ると、昼の日差しがやけに眩しかった。

 

 時計を見る。

 

 十三時過ぎ。

 

「腹減った……。」

 

 夜勤明けでダンジョンに潜り、そのまま探索。

 

 さすがに眠気も限界だ。

 

「……あ。」

 

 数歩歩いたところで足が止まる。

 

 後ろを振り返る。

 

 スケルトンが立っていた。

 

「カタ。」

 

「お前、このまま外に出てくるんかい。」

 

 住宅街をスケルトン連れて歩いたら通報される。

 

 間違いなくされる。

 

「どうしたもんかな……。」

 

 そこで思い出す。

 

 スケルトンマスターの初期アーツ。

 

 スケルトンテイム。

 

 スケルトンプロモーション。

 

 そして、もう一つ。

 

「スケルトンストレージ。」

 

 頭の中でアーツを意識する。

 

 すると説明が浮かんだ。

 

 テイムしたスケルトンを収納・召喚する専用アーツ。

 

「最初から使えよ、俺。」

 

 思わず苦笑する。

 

 右手をスケルトンへ向ける。

 

「スケルトンストレージ。」

 

 淡い光がスケルトンを包む。

 

「カタ?」

 

 次の瞬間。

 

 スケルトンは俺の影へ、すっと沈むように消えていった。

 

「おぉ。」

 

 成功したらしい。

 

 頭の奥に、不思議な感覚が残る。

 

 そこに一体だけスケルトンがいるのが分かる。

 

「便利だな。」

 

 これなら施設にも連れて行ける。

 

 必要な時だけ呼び出せばいい。

 

 ……もっとも、今のまま呼び出しても介護要員になるかは怪しいけど。

 

 

 受付へ戻る。

 

「お帰りなさい。」

 

 受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。

 

「初探索どうでした?」

 

「思ったより平和でした。」

 

「骨しかいませんでした?」

 

「骨しかいませんでした。」

 

 二人で苦笑する。

 

 今日拾った魔石をカウンターへ並べる。

 

「魔石五個ですね。」

 

 査定を終え、お金を受け取る。

 

「そういえば。」

 

 受付横の棚が目に入る。

 

 ジョブストーンとは違う、小さな立方体の石が並んでいた。

 

「あれって?」

 

「アーツキューブです。」

 

 受付のお姉さんが説明してくれる。

 

「ダンジョンでドロップするものと同じですよ。」

 

「へぇ……。」

 

 写真やテレビでは見たことがあったけど、実物は思ったより小さい。

 

 親指の先ほどしかない。

 

「売ってるんですね。」

 

「ランク1だけですけどね。」

 

 棚を見る。

 

 スラッシュ。

 

 ファイア。

 

 ウォーターボール。

 

 シールドバッシュ。

 

 見慣れた名前が並んでいる。

 

「やっぱり戦闘系が多いんですね。」

 

「そうですね。」

 

 受付のお姉さんが頷く。

 

「そもそもドロップ率も戦闘系が多いですから。」

 

 そうだった。

 

 アーツキューブも完全なランダムではない。

 

 ランク1アーツがおよそ六割。

 

 ランク2アーツがおよそ二割。

 

 ランク3以上はさらに出現率が下がる。

 

 しかもランク1アーツの多くは戦闘系と魔法系。

 

 支援系と生産系は合わせても二割ほどしかない。

 

「だから探索者も自然と戦闘系になるんです。」

 

「支援や生産は数が少ないですし、育てるのも時間がかかりますから。」

 

「……なるほど。」

 

 戦闘職が多いのはジョブだけじゃない。

 

 覚えられるアーツまで戦闘向きなのだ。

 

 これじゃ支援職は増えない。

 

 棚の奥へ目を向ける。

 

 隅の方に、小さく並べられたアーツキューブがあった。

 

 マイナーパワー。

 

 マイナーバリア。

 

 マイナーアジリティ。

 

 マイナーデクスタリティ。

 

 どれも探索者なら見向きもしない初級支援アーツだ。

 

 でも。

 

 俺には違って見えた。

 

 筋力。

 

 防御。

 

 脚力。

 

 器用さ。

 

 全部、介護で欲しい能力ばかりだ。

 

「……全部ください。」

 

「え?」

 

 受付のお姉さんが目を丸くする。

 

「全部、ですか?」

 

「はい。」

 

「攻撃アーツじゃなくて?」

 

「仕事で使えそうなので。」

 

「仕事?」

 

 受付のお姉さんは首を傾げる。

 

 そりゃそうだ。

 

 探索者が支援アーツをまとめ買いするなんて普通はない。

 

「あと。」

 

「マイナーインテリジェンスとマイナータフネスってありますか?」

 

「申し訳ありません。」

 

 受付のお姉さんは在庫表を確認して首を横に振る。

 

「今は切らしています。」

 

「取り寄せならできますよ。」

 

「お願いします。」

 

「分かりました。」

 

 受付のお姉さんは注文票を書きながら笑った。

 

「また入荷したらご連絡しますね。」

 

 俺の考えていることがうまくいけば。

 

 利用者さんはもっと元気になるかもしれない。

 

 職員の負担も減るかもしれない。

 

 ……そんな未来を少しだけ想像した。

 

「……あ。」

 

 財布の中を見る。

 

 支援アーツをまとめて買ったせいで、中身がずいぶん軽くなっていた。

 

「地味に高かったなぁ……。」

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