アパートへ帰る頃には、時計の針は十四時を回っていた。
「眠い……。」
夜勤明け。
ダンジョンへ潜って。
初めてスケルトンをテイムして。
ジョブまで与えた。
本当ならシャワーを浴びて、そのまま布団へ倒れ込みたい。
でも。
「これだけは試してから寝よう。」
テーブルへ今日買ったアーツキューブを並べる。
マイナーパワー。
一定時間だけ筋力をわずかに上昇させるランク1支援アーツ。
マイナーバリア。
一定時間だけ防御力をわずかに高めるランク1支援アーツ。
マイナーアジリティ。
一定時間だけ脚力と敏捷性をわずかに強化するランク1支援アーツ。
マイナーデクスタリティ。
一定時間だけ器用さをわずかに高めるランク1支援アーツ。
どれも探索者からすれば人気のないランク1支援アーツだ。
だけど。
俺にはどれも介護で役立ちそうにしか見えない。
「出てこい。」
右手を前へ向ける。
「スケルトンストレージ。」
足元の影が揺れる。
影の中から、スケルトンがゆっくり姿を現した。
「カタ。」
「おかえり。」
骨だけなのに、少し安心した。
「さて。」
アーツキューブを一つ手に取る。
「まずはマイナーパワーから。」
スケルトンの胸へ押し当てる。
淡い光がアーツキューブを包み、砂のように崩れてスケルトンへ吸い込まれていく。
【マイナーパワーを習得しました】
続けて表示が変わる。
【ジョブ特性:僧侶】
【支援系アーツPP補正】
【マイナーパワー】
PP 100 → 300
「……おぉ。」
昨日レッサーヒールで見た表示と同じだ。
ジョブには特性がある。
得意な系統のアーツだけはPPが大幅に増える。
ランク1アーツなら100が300。
これなら長時間使い続けられる。
「覚えたら終わり……じゃないよな。」
アーツ一覧を見る。
【マイナーパワー】
PP 300/300
新しいアーツが追加されていた。
「使ってみ。」
「カタ。」
スケルトンが小さく頷く。
「マイナーパワー。」
淡い光がスケルトンを包む。
【マイナーパワー】
PP 300/300 → 299/300
【熟練度+5】
「五?」
思わず声が漏れた。
そうだ。
ジョブにはPP補正だけじゃない。
熟練度補正もある。
戦士が戦闘アーツを使えば熟練度は+5。
僧侶が支援アーツを使えば+5。
複合ジョブなら+3。
適性のないジョブなら+1。
同じ一回使うだけでも、育つ速度はまるで違う。
だから探索者は、自分のジョブに合ったアーツを育てる。
それが、この世界の常識だった。
「なるほど。」
覚えただけじゃ強くならない。
使って。
使い続けて。
ようやくアーツは育っていく。
「じゃあ全部覚えようか。」
マイナーバリア。
マイナーアジリティ。
マイナーデクスタリティ。
一つずつ習得させる。
【マイナーバリアを習得しました】
【ジョブ特性:僧侶】
PP 100 → 300
【マイナーアジリティを習得しました】
【ジョブ特性:僧侶】
PP 100 → 300
【マイナーデクスタリティを習得しました】
【ジョブ特性:僧侶】
PP 100 → 300
「全部三百か。」
僧侶は支援アーツとの相性が抜群らしい。
一つずつ発動させる。
「マイナーバリア。」
「カタ。」
【マイナーバリア】
PP 300/300 → 299/300
【熟練度+5】
「マイナーアジリティ。」
「カタ。」
【マイナーアジリティ】
PP 300/300 → 299/300
【熟練度+5】
「マイナーデクスタリティ。」
「カタ。」
【マイナーデクスタリティ】
PP 300/300 → 299/300
【熟練度+5】
どのアーツもPPはほとんど減らない。
しかも、一回使うだけで熟練度が五も入る。
「これ、育つの早そうだな。」
もう一度スケルトンを見る。
「俺を抱えてみ。」
「カタ。」
今度は俺も協力する。
夜勤で吉田さんを移乗するときみたいに、しっかり足へ体重を乗せる。
完全介助じゃない。
利用者さん自身が立つ力を少しでも使ってくれるだけで、介助の負担はずいぶん違う。
「おっ。」
昨日より身体が少しだけ浮く。
腕は外れない。
まだ力は足りない。
でも、昨日より確実に安定している。
劇的な変化じゃない。
それでも。
確かに成長していた。
「……よし。」
このまま熟練度を上げていけば。
もっと強くなる。
もっと丈夫になる。
マイナーインテリジェンスとマイナータフネスが届けば、さらに変わるかもしれない。
いつか本当に。
利用者さんの介助を任せられる日が来るかもしれない。
そんな期待を胸に、俺はベッドへ倒れ込んだ。
今日は寝よう。
明日は、また夜勤だ。