理由としましては、かぐやのライバー生活一週目に、どれだけ琥太郎を絡ませるかで滅茶苦茶難航してました。かぐやが配信初期にやったこと&やりそうなことと、琥太郎のキャラの相性が悪すぎる……。もし今後思いつくことがあったら、番外編として載せようと思います。
長期間空けてしまった挙句繋ぎ回のようになってしまって本当に申し訳ない。
まあ正直ここが私にとっての、この作品一番の難所だったとすら言えるので、こんなことは以降そうそう無いはずです。しばらくの間時間もあるので、引き続き頑張っていこうと思います。よろしくお願いいたします。
この世には流行り廃りというものがある。配信業界はそれが当てはまる代表格で、誰かが新しいことを始めてそれがバズると、一時的に多くの配信者がそこに食いつき、視聴者側がコンテンツ自体に飽き始め再生数が落ちると、また新たな獲物を探して彷徨っていく。勿論何かしら大きな強みを持ち、活動の中でそれが視聴者側に刺さり人気コーナーとして確立出来た場合は別だが、そこらの凡庸な配信者はひたすらその繰り返し。人気や再生数を考えるなら、使い古されたコンテンツにはわざわざ手を出さない、それが
また、人は生きていく中で自らの価値観が定まっていき、それにそぐわないものを反射的に忌避するようになっていく。画一化された社会の一員として生きる上で、無くてはならない機能ではあるが、どうしても固定観念に囚われ新たなことに対して足踏みをするようにもなってしまう。これは、
この大きな二つのしがらみの中で、いかにして活動していくかがライバーとしての大きな課題と言える。さて、ではうちのかぐやはどうなのか。
「こっちの動画のダンスも良いな~。よっしゃ! コタロー、これやりたいから手伝って?」
「うひょ~、芦花の言う通りにメイクしたら自撮り爆盛出来ちゃった。はい、これもアップ! ついでに全然盛れなかったNGバージョンもアップ~♪」
「やった、真実おすすめのお店のお取り寄せが届いた! 緊急で動画回しちゃいまーす」
「あー、そういうのどうでもいい! キッチリ片をつけ! 忘れる! 忘れるって人生で一番大切な能力だからね! や、甘い事言って責任取らない奴にはなりたくないし! それがかぐやの優しさ!」
言わずもがな、あの宇宙から来たゼロ歳児がそんなものに囚われるわけがない。
ルールその四により、最低限の常識は教えはしたが、あくまで普段の生活で過剰にトラブルを起こさないためのものに限定している。そのラインを超え、あの破天荒さが鳴りを潜めてしまうと、酒寄を引っ張っていくことに支障を来たしてしまうと思ったからだ。
そのため、後追いだの二番煎じだの、そんな余計な認識はかぐやの中にはない。照れだの気負いだの、足枷にしかならないものも存在しない。思いついたら即実行、片っ端から何でもやるというのがモットー。無知故に好奇心の赴くまま、ただひたすらに全力で『楽しさ』を追い求め、全身で『楽しい』をありありと示しながら突っ走る。
そして、そういう奴には自然と注目が集まっていく。例え何処かで見たような内容で、企画の結末すら分かっていたとしても、演じている本人が純粋に楽しんでいれば、やがてその想いは視聴者にも伝染し惹かれていくものなのだから。
ダンスにメイクに食レポ、お悩み相談に映画同時視聴、メントスコーラにスライムといった黎明期の配信に良くあったもの、その他色々。それらを通して『楽しい』を伝え続けたことにより、かぐやは日々着実に人気を高めていった。
「~~♪」
鼻歌を歌いながらツクヨミの街中を歩くかぐやと、その横を手を繋いで共に歩く酒寄。昨日の夜酒寄によるオリジナル曲一つ目が完成し、昼間各配信の合間に歌詞やら振付やらの調整を進めていたのだが、「最後まで振付決まってないけど、我慢出来ないからもう歌いたい!」とお転婆娘が言い出したことにより、急遽ツクヨミ内の路上でゲリラ配信をすることになった。相変わらずの行動力である。
ちなみに、仮想空間と言えど流石に誰も彼もが好き勝手にやってしまうと無法地帯と化すため、出店や今回の路上歌唱等一箇所に陣取って活動する場合は、現実同様事前に運営に申請をする必要がある。まあ現実に比べれば手続きは圧倒的に楽だけど。また当然ではあるが、活動内容によって許可を取れる場所も大体決まっている。
今回はそこら辺の調整全部俺がやったけど、慣れてきたらかぐや本人にやらせるとしよう。出来る範囲で協力するのと、おんぶにだっこ状態を延々と続けるのはまた別の話だ。
「それじゃ、俺はこの辺で。いろP、あと任したぞ」
「うん、分かった」
「待って待って、どこ行くのコタロー!?」
「……言ってなかったか? 俺は近くの建物から見てる。お前が歌う場所の正面辺りだ」
「何でぇ!? せっかく踊りだって見てくれたんだから、間近で見てよー!」
「悪いが無理だ。俺みたく良くも悪くも名が売れてるような奴は、行動に色々制限が出んだよ。いつもの配信と違うこの姿でも顔は同じだから、間近で見続けられるとバレるし」
ツクヨミのアバターは、構成要素ごとにいじれる範囲に差がある。服装や飾りは勿論自由自在、体型もそれなり、だが顔に関してはそこまで融通が利かない。勿論現実まんまだと身バレ以外の何物でもないし、それを誤魔化せる程度には変更出来るが、あまりかけ離れたものには出来ない。まあ別人に成りすますとかそういうトラブルが発生しかねないしな。
「むー……」
「そんな顔すんな。これから歌うんだろ」
「だって……」
むくれつつしゅんとした姿を見せるかぐや。こいつの活動に支障を来たさないためにも仕方の無いことなんだが、これは少しマズいな。天真爛漫さが売りなのに、それに影が差してしまっては台無しになる。
「……しゃあねえな。おいかぐや」
「何――って、わわ!?」
現実、そしてツクヨミの双方でくしゃっと頭を撫でる。思えば赤ん坊状態はともかく、今の姿のこいつに対してこういうことをするのは初めてだ。そしてどうやら正解だったらしく、かぐやの顔に少しずつ明るさが戻っていく。
「仕様上そっちから姿は見えないだろうが、それでもずっと見てる。だから、お前はいつものお前らしくやってこい。わざわざ時間取って監修してやったのに、グダグダなの見せやがったら承知しねえからな」
「……うん、分かった! 行ってくる!」
そうしてかぐや達と別れ少し歩くと、目的の茶屋に到着した。ここの上層階の部屋からはこれからかぐやが歌うエリアが良く見え、おまけに窓は内側からは見えて外側からは見えない特殊仕様、まさにこの状況にうってつけの場所である。きっと俺のような事情を持つユーザー達が過去に沢山いて、その要望を受けて調整された場所なのだろう。
(……この部屋か)
階段を上がり、予約した番号の部屋の前に着く。認証システムにチケットをかざしロックを解除し、引き戸を開け足を踏み入れた。
「よっ」
「……ここ貸し切りなんだけど。何でいんの?」
「別に良いじゃないか。君とヤッチョの仲だろう?」
無人の部屋だと思っていたそこには電子の歌姫がいた。窓際の椅子に座っていたヤチヨ(チビver)は、俺に気付くと手を上げ、隣の椅子をポンポンと叩き『ここに座れ』と示してくる。
「まあ良いや。それで? こうして待ってたってことは、何か特別な用事でもあるのか?」
「特別っていうかまあ、単に君と一緒にあの子の様子を見に来たってだけ。こっそり見るには、君の取ったこの部屋が一番良いからね~」
「いや、お前管理者権限でどこでも覗けるじゃん。来る必要無いだろ」
「分かってないな~。こういうのは直接見てこそっていうものなのですよ♪」
「……そういうものか」
まあ確かに、この間のヤチヨのミニライブで味わった感覚は、画面越しではなくその場にいないと分からないものだった。管理者権限で覗ける光景がどのようなものかは分からないし、あのライブとただのいち路上配信じゃ話は全然違うようにも思えるが、まあ長年ライブに関わって来たヤチヨがそう言うならそういうものなんだろう。
「朝起きて今日は何しよう――好奇心抑えらんない――」
こっちは準備完了、という旨のメッセージを酒寄に送ったのち、しばらくしてから曲が始まった。眼下に広がる橋の中腹で、音楽と共に元気な歌声が辺りに響いていく。酒寄作曲かぐや作詞のオリジナルソング『私は私のことが好き。』、ポップな曲調に破天荒かつ無邪気さ溢れる歌詞が組み合わさった、まさにかぐやらしい曲と言える。
笑顔を振りまき、未完成ながらもどこまでも楽しそうに踊りを披露するかぐや。その様子に、周囲で芸をしていた者達や、その観客達も段々と注目し始めるが、かぐやの動きには少しの強張りも感じられなかった。これまでの配信とは違い画面越しではなく、こうして多数の視線に晒されても尚いつもと変わらぬパフォーマンスを発揮出来るというのは、それだけでも配信者やアイドル向きの天性の才と言えるかもな。
(……にしても)
「~~♪」
隣で楽しそうにしているヤチヨの横顔を盗み見る。ヤチヨとしても、あの大観衆の中で啖呵を切ったかぐやのことは気になっているのだろう。そして、俺が出した路上活動の申請と、ここの部屋を予約した履歴から展開を予想しこうしてここに来た、そこまでは理解出来る。
だが、さっきの言葉――『直接見てこそ』と言っていたが、本当にそうか?さっきはそれで納得したが、今のヤチヨの様子からすると、どうにもそれだけではないように見える。まるで、何かを懐かしんでいるような、そんな目をしている気がする。
ライバーとして活動し始めた初期の自分とかぐやを重ねてるんだろうかとも思ったが、かぐやとヤチヨはあまりにもタイプが違うし、正直その線は考えづらい。まあ活動初期のこいつがどんな奴だったかなんて知らんし、色々経験を経て今の性格になったという可能性も無くは無いが。
……いや、別に良いか。聞いたところではぐらかされる気がするし、そもそもそこまで突っ込みたいわけでもないしな。
(終わったか……お)
曲が鳴り止むと同時に、周囲の数人からちらほら拍手の音が上がる。そして、彼らにお辞儀をしたのち、こちらへ向けても手を振って来た。振り返したところで向こうからは見えないため、代わりに感想をメッセージで簡潔に送る。具体的な事柄に関しては後で現実で伝えるとしよう。
「そんじゃ、俺はもう行くわ。またな」
「ああ、ちょっと待って」
「何だ?」
「あの子、今ライバー生活頑張ってるでしょ? でも動画だと、彩葉とか他の女の子しか気配が無くて、影狼が姿形も無いな~って。影狼として今すぐにコラボしないのは分かるけど、現実では出ないの?」
おいかぐや、何度注意しても動画内で『いろP』じゃなくて『彩葉』って度々呼んでるせいで、とうとう酒寄が推しに本名バレしてんじゃねえか。いやまあ、ライバーになる前の初ログインの時に呼びまくってたから、目付けた後にそのログでも辿って知った可能性もあるけど。
「自発的にやる気は無いな。出来る限り男の気配は無い方が色々やりやすいだろ」
「最初はね。でも、後々コラボすることは決めてるんでしょ? 君の名前ほど起爆剤になるものは無いわけだし。だったら、少しずつ出てリスナー達を慣れさせておかないと、いざコラボした時大変だよ?」
「……まあ、それは確かに」
「ヤッチョは明後日辺りから出ても良いんじゃないかな~って思うよ。注目度的に、活動開始から一週間もすれば見た目で惹かれた人達は結構集まってるだろうし、君が出たとしてもあの子自身の魅力でキャッチしとけば良いわけだし。ま、あとは君自身の立ち回り次第でもあるけどね~」
「分かった。検討はしとく」
だとしたら、まず俺の存在が生きそうな企画を一から考えないといけないのか。
今までの動画もそうだが、今のところ予定しているものもその殆どが、俺が表立って参加したところで浮いてしまうものばかり。料理配信ならギリってとこだが、あれはかぐや一人で成立するし、そこに俺をねじ込むだけでは『別にこいつそこまでいらなくね?』という評価を受けるのがオチだ。そんなことでは、動画内容よりも『この男はかぐやの家族か友人か恋人か』なんていうクソどうでもいいはずの話題にリスナー共の思考が行ってしまう。
だからこそ、俺の出演に関して何かしら明確な価値を示せる動画を一本でも出して、思考誘導を行う必要がある。まあ出来れば誘導とかいうレベルじゃなくて、下らん邪推なんて根本から吹っ飛ばせる位のインパクトがあるやつが良いが、そもそも思いついたところでかぐやの興味を惹くものでなければ何の意味も無いか。考えるのは後にしよう。
「……なあ、ヤチヨ」
「何だい何だい?」
「一応聞くが、こういうアドバイスって他の奴にもしてるのか?」
「いんや? 全然」
「それ大丈夫なのか? お前企画の運営側だろ。個人に肩入れするのってマズいんじゃねえの?」
「大丈夫大丈夫。君が他の人に言わなきゃ良いだけでしょ?」
「……まあ、お前がそれで良いなら良いんだけど。とりあえずかぐやと色々話し合ってみるわ。そんじゃ」
「はーい。じゃあね~」
ヤチヨに再度別れを告げ、今度こそツクヨミからログアウトする。アドバイスしてくれた手前、微妙な空気になりそうだったから聞かなかったが……何か企んでそうなんだよなあいつ。言葉の端々から『君達が優勝してくれないと困るんだ』みたいな雰囲気が滲み出てる気がする。
まあ、俺達が不利益を被るようなものでは無さそうだし別に良いんだが。俺だって出来ればかぐやには優勝してほしいし、それを手助けしてくれるっていうんならありがたく思っておこう。
「…………」
「……どうした?」
現実へと意識を戻すと、すぐ傍に酒寄がいて、何故か俺のことをじっと見つめていた。ゲリラ配信が終わったらログアウトしてすぐ勉強すると言っていたはずだが、俺に何か用でもあったのか――と思っていたら、急にニッコリと笑顔を浮かべた。しかしその反面、目だけは全然笑っていない。
……ん?いやちょっと待て。もしかしてこれやったか?
「ねえ景浦」
「……どうかしたか」
「どこ見てるの? 人と話す時は相手の目を見るものよ」
「適度に視線を外すのも大事って言うだろ」
「外し過ぎでしょ。首ごと背けてるじゃん。良いからこっち向きなさい」
「俺これからかぐやと話すことあるから、今はそっちを――」
「うん、知ってるよ。
確かにどこにもかぐやの姿が無い。……っておい、肩掴んで強引に振り向かせるんじゃない。限界女子高生のはずなのにやけに力強くないか?火事場の馬鹿力ってやつか?そんなものこんなしょうもないことで使わないでくれない?
「『なあ、ヤチヨ』ってどういうこと? ヤチヨと一緒にいたの? かぐやの歌ってるとこヤチヨと見てたの? 私は一人でかぐやの傍にいたのに?」
「近い近い近い近い。目が怖ぇんだよ。あと肩も痛ぇ。とっとと離せ」
「そう言って、離したら逃げる気でしょ? 全部話すまで絶対離さないから」
「いつも思うが、お前ヤチヨに関することだけ人格変わり過ぎだろ」
完全にやらかした。良く考えたら前回ヤチヨと話したのはミニライブの時で、俺だけじゃなく酒寄だってヤチヨと話してるし、その前はまだかぐやもいなくて酒寄の部屋でツクヨミにログインすることなど無かった。と言うか、そもそもかぐやが来る前はたまに『KASSEN』やる程度で、ツクヨミ内で酒寄と行動すること自体全然無かった。
つまり、酒寄と行動しつつ俺単独でヤチヨと話すなんてシチュエーションは初めてなのだが、ここ最近が色々濃過ぎてそこら辺全然頭が回ってなかった。もう少し気をつけるべきだったわ。
「あーっと……どこから聞いてた?」
「『なあ、ヤチヨ。一応聞くが』って感じの」
「ああ、最後の最後か」
「てことはやっぱり一緒に見てたんじゃん」
しまった、失言だった。一応まだ誤魔化しようあったのに。
「……いや、こっちだって予想外だったんだよ。貸し切りのはずなのに、部屋入ったらヤチヨがいるなんて思わないだろ」
「私の知らない間にそんな状況に遭遇してたってだけで血涙ものなんだけど?」
「どこまでヤチヨに狂ってんだお前は。とにかく、何か向こうが先に部屋にいて、かぐやの歌って踊ってるとこ一緒に見て、チャンネルのこれからの活動方針についてちょっと助言貰った、ただそれだけ。お前が聞いたのはその最後の部分だ。ハナからお前に隠れて計画してたとかじゃないから」
「そう……分かった。信じる」
「滅茶苦茶不満そうにしながら言うセリフじゃないだろそれ」
『それはそれとして全然納得してないです』とありありと示しながらも、ようやっと肩から手を離してくれた。あの細腕から良くあんな力が出るもんだ。そのパワーはもっと他のことに使ってもらいたい。
「どうしたの、二人とも? 何か彩葉のすっごい声が聞こえたんだけど」
「気にするなかぐや、その件はもう解決した」
「……彩葉『してません』って顔してるんだけど」
「あれはもうどうしようもないもんだから。ほら、勉強するんだろ? 机に向かった向かった」
「……はーい」