大矢ができずに溜まっていた仕事を、一件片付けてはまた一件、そしてまた一件と。
さらになんと、コウセイがこなす仕事はそれだけじゃあない!
これまで通りやってくる納品物もあれば、突発的にやってくるものだってある。
じゃあ、仕事を円滑に回していくためには、どうするかって?
それはもう・・・とにかく、やるべし!やるべし!24時間戦えますか?じゃあない!24時間戦うのだコウセイ!月月火水木金金、の精神で働けコウセイ!満月倉庫に平和をもたらすのだ!
え?それブラック企業?今じゃ使えないフレーズばっかり?だよねー!
・・・えーっと、まさか、私の出番今回これだけ・・・?え!?もう終わり!?そんなーー!3話もやっててプロローグとエピローグくらいでしかまだちゃんと喋ってないよーー!よよよーーー!!てかこれじゃあ私ただのナレーターーーーー!!ヤッチョメインヒロイン※なのにーーーーー!!
え?またあとで喋るって?最初のログインの時の音声は自動入力設定だからヤッチョ喋ってないよーー!!
※個人の意見です
『・・・次のニュースです。昨日、東京都〇〇区において、男女合わせて、7人の遺体が見つかりました。現場は閑静な住宅街ではありますが、死体の状況から見て、死後数日は経過しているものと思われます。警察は──』
「ふぅ・・・あっちぃ・・・そろそろ飯にするかー。腹減った~。」
ラジオから流れるニュースを聞き流しながら、コウセイは額の汗を拭った。
住む場所が見つかったのは一安心だが、とはいえここの仕事を代わりにやるとも言ってしまった。これまでの経験から多少慣れているとはいえど、細かな違いはある。その差を埋めながら、とにかく必死に、仕事をし続けた。その結果、この3日で、溜まっていた仕事は全て片付けた。経験がなかったら・・・と思うとゾッとしたが、ただ、倉庫仕事と並行して、怪特隊の仕事をしているということもあり、前よりも体力が上がっている。そして何よりも、これまでの経験を基に、効率よくこなせたからこそ、3日というハイペースで終わらせることができ、今日からようやく、通常業務が始まっていた。
そうして午後1時。作業がひと段落し、少し遅めの昼食を食べようと思い、休憩に入ろうとした矢先、ブーと、来客が来たことを知らせるアラームが鳴った。しかも、何度も何度も。緊急か、急ぎの案件か。そう思い慌てて受付まで走る。
「やっほーコウセイ!ソラト!遊び来たよー!」
「か、かぐやちゃん!?」
ドアの前にはなぜか、ここから少し離れたところにいる、かぐやが立っていた。
どうやって来たのかを聞いたら、この近くまでバスに乗って、そこから歩いてここまで来たのだと言う。これも一種の社会勉強!と言い、頑張ったぞー!と言わんばかりにピースをする姿が、やけにまぶしく見える。そういえばソラトが以前、電車に初めて乗って一人で栃木まで行った時も、心配していたことをふと思い出し、彩葉ちゃんが聞いたらどう思うのか、親でもないのだが、同じ境遇だからこそ、そんなことを思っていた。
「てかあっつー。ねえコウセイー、アイスとかない?」
「いやないよ・・・っていうか、俺これからようやく昼休みだから、昼ごはん買いにでも行こうと思ってたんだけど、どうする?」
「もっちろんついてく!一緒に行こー!」
そうして一緒に近くのスーパーマーケットまで歩いていくことになったのだが、はしゃいで前を歩くかぐやの姿を見て、たった4日足らずでこんなに仲良くなるなんてと思うと同時に、この世界で初めて会った人間・・・一人は宇宙人だが、それがかぐやちゃんと彩葉ちゃんでよかったなと、かぐやの後ろ姿を眺めながらそう思っていた。
その後にアイスを一つおごらされることになるのだが、これも年上だから仕方がない・・・と割り切ることにしたが、同時に、また節約か・・・とも思うことになったのは、別の話。
「ねえコウセイ。コウセイって今、どんなお仕事してるの?」
プラスチック製のカップに、みかんやパイン、小豆などが入った、白いかき氷のアイスを食べながら、かぐやは質問をした。
彩葉も、学校へ行きつつ、バイトもしている。前にどんなことをしているのか聞いたら、カフェで店員のアルバイトをしていると言っていた。
そして今回は、遊びに来たと言いつつ、実際に今コウセイが働いている職場に来ているため、同時に、職場見学にもなっている。
そんなかぐやの視界に映るのは、大量の段ボールが棚に所狭しと積まれている光景。自分も色々なものをネット通販で買ってはいるため、段ボールは見慣れたものとなったが、とはいえこれだけの数は見たことがない。そのため、今コウセイがどんな仕事をしているのか、なんとなく気になったため、質問をしてみた。
もちろん、それは単純な興味本位もあったが、同時に、なぜかはわからないが、
─────仕事をとても身近に感じており、何か自分もしていたような気がする。記憶はないが、なぜかふと、そんなことを思っていた。
「俺の仕事?俺の仕事は今、こういった運ばれてきた荷物がちゃんとその量入ってきているか、不良品がないかっていう確認とか、どの棚にどの箱を置いておくかを分けたり、あと、運んでいってもらう商品をピッキング・・・取り出すことだね。そういったことをやってるよ。」
「なんか難しそうな仕事だね。ねえねえ、それって楽しいの?」
「うーん、楽しいか楽しくないかで言えば、楽しくはないけど、ここに住まわせてもらってるからには、やらなくちゃいけない、っていうのはあるかな。」
「そうなんだ。楽しい仕事じゃないのによく頑張るねー。」
「まぁ、働かないと今この世界で生活していけないし、オーナー・・・大矢さんの迷惑にもなっちゃうし。それに、自分が仕事をしないと困る人だっている。特に倉庫はさ、商品っていう大事なものを置かなくちゃいけないところだし、この箱の中には一つ一つ商品があって、届け先もあって、その先には、それを待ってる人がいる。そういった、商品の先にいる人が困んないようにもしなくちゃいけないから、こういった仕事も大事なんだよ。まぁ、その代わりに体力はめっちゃ使うんだけどな~・・・」
倉庫仕事をしているため、その先にいる実際の商品を受け取る人の顔を直接見るわけではない。ただ、元の世界の仕事場であり、現在住んでいるところである太陽倉庫の上の階には、通販サイトを運営している会社があり、その会社の社長であるアカジ ナリアキとのご近所付き合いで色々な話を聞いており、検品ミスや欠品、商品の不揃いで困った話を何度か聞いていたこともある。
だからこそ、倉庫仕事で手を抜いたら困る人が身近にいるからこそ、手を抜いてはいけないと思うようになった。特にここ最近は、怪特隊のベース基地も太陽倉庫は兼ねており、より多くの人が出入りするようになったからこそ、人の目に触れる機会も多くなったため、より一層手を抜くわけにはいかないという思いから、前以上に真剣にやるようになっていた。
そんな経験談をコウセイが話したところ、かぐやは少し驚いたように、コウセイの顔をじっと見つめている。
「・・・なんか、コウセイ、すごいね。」
「え?そ、そう?」
「うん。仕事の内容はあんまりよくわかんないけど、コウセイがすごい頑張ってるってことはわかるよ。」
『だろ、かぐや?コウセイはすごいんだぜ。それに、コウセイはいっつも真っ先に他の人のことを思うやつだから、コウセイは、やさしい、なんだよ。』
「・・・そっかー!コウセイはやさしいんだ!確かに私にアイスも買ってくれた!コウセイはやさしいって確かにそうだ!だから仕事も頑張ってるんだー!」
「や、やめろって2人とも!俺は別にそんな大したことしてねーし・・・」
かぐやだけでなく、オメガメテオの中にいるソラトまで褒めだしてきたため、そんな風に2人して一気に褒められることに慣れていないが、とはいえまんざらでもないような表情を浮かべた後、ごまかすかのように、今日の昼ごはんである見切り品のパンを一口かじり、お茶を流し込んだ。
そんな折、かぐやはふと、尋ねてみた。
「ところでコウセイはさ、ツクヨミで遊ばないの?」
「ツクヨミ・・・ってあの、ニュースでやってた、なんだっけ、仮想空間・・・だっけ?」
「そう!あれめっっっっちゃ楽しいんだよ!コウセイはやんないの?」
「いや、やるにしたってどうやってやったらいいかわかんないし、それに俺のスマホだってこの世界じゃ使えるかもわかんないしさ・・・」
えー、と残念そうな表情をかぐやは浮かべるが、とはいえそれも仕方がないところではある。
そもそもコウセイはこの世界の人間ではない。ギリギリの今ある手持ちで現時点では生活をしていかなければならないため、他のことにかまけている余裕はない。だからこそ、そんなことはできない。そう思っていることに加え、そもそもスマホもこの世界のものではないため、使うことができない。
ということもそうだが、それ以前にこの数日は、溜まっていた仕事を片付けるので手一杯で、それどころではなかったというのが正直なところであり、今その話を振られ、そんなのあったなぁ、という程度に思い出しただけであった。
「というか、あんなのまだこっちの世界じゃ全然実用化なんてされてないし、この前ニュースで見て、そんなのが当たり前に普及してて、そこで稼いだお金で生活してるっていう人がいるくらい、日常に入りこんでるのが驚きだよ。」
「へーそうなんだ。コウセイとソラトの世界は怪獣や宇宙人は出るのに、ツクヨミみたいなのってないんだー。まぁ、ていうか私も、初めて入った時凄すぎて圧倒されたんだけど・・・あ、ねえコウセイ、コウセイのスマホ借りてもいい?ちょっと別の世界のスマホってどんなのか見てみたいんだけど!もちろん変なことしないから!」
そうかぐやから言われたため、向こうもおそらく変なことはしないとは思いつつも、念のため、変なことしないでよと釘を刺したうえでスマホを手渡すと、かぐやはスマホのロックを解除し、色々と操作をし始める。
「へーこれが違う世界のスマホなんだぁ・・・そんなに大きくは変わってないけどやっぱキャリアも見たことも聞いたこともないなぁ・・・あーやっぱりアプリも落とせないんだぁ・・・」
たかがスマホ。されどスマホ。形は同じものとはいえ、その中身は大きく異なっている。写真や電話といったアプリにそこまでの違いはないが、見たことがないアプリの方が多く、かつ、OSもこの世界のものとは違うシステムであった。
そのスマホのスペックを見ながら、あーだこーだと悩んだ後、コウセイにスマホを返してすぐ、
「えーっとモデムとルーターはどんな感じだー・・・?」
そう独り言のように呟き、年代物のパソコンが置いてあるあたりのネットワーク環境を見て、うわ・・・とドン引くような表情を浮かべた後、よし!とかぐやは一言言った。
「ねえコウセイ!さっきアイス買ってくれたから、そのお礼したげる!また明日来るねー!」
「お、おう・・・?」
何を決めたのか。そしてお礼とはなんなのか。そしてまた明日も来るということ。色々わからないことだらけだが、かぐやは帰ることにし、入口の方へとスタスタ向かっていった。
そのかぐやの後ろ姿を眺めつつ、そろそろ仕事再開するか・・・そう思って立ち上がったと同時に、ドアの前まで行ったかぐやが動きを止め、コウセイの方を振り向いた。
「あごめん、暑いからやっぱ家まで送ってって♡」
「おい!!てか俺今免許使えないの!!」
結局、コウセイの付き添いで、かぐやはバスで帰りましたとさ。めでたしめでた──
「いやこれで終わらない終わらない!はい翌日行って翌日!」
『コウセイ誰に向かって言ってんだ?』
・・・というわけで、時間を翌日に移す。
翌日
時刻は夕方過ぎ。夕方五時のサイレンが鳴るか鳴らないかという頃、かぐやからメールが来た。しかも、会社のPCのメールアドレス宛に。いつの間に、と思っていると、この後ちょっと家まで迎えに来て!という連絡があり、何かはわからないが、とりあえず30分後に迎えに行くことにした。
とはいえ、コウセイも今は免許はあるが、この世界の免許はない状態である。どこかへ車で移動するということができないが、向こうとの約束を破るわけにはいかないため、仕方がない・・・と思いつつも、かぐやと彩葉のアパートまで歩くことにした。
そうしてコウセイが出て行った後、入れ替わりのように、
「・・・」
誰かが満月倉庫商会の郵便受けに、一つの封筒を突っ込んでいった後、その場から立ち去って行った。
そうしてかぐやをアパートまで迎えに行った後、玄関に置いてあったいくつものレジ袋を両手いっぱいに持たされることとなり、倉庫に戻ることになった。ちなみにこれだけの大荷物となったため、帰りはバスで帰ることにした。
「彩葉はバイトだからご飯は作り置きしといたの。あ、だからこの中、今日の夕ご飯も入ってるから!」
「えっマジ!?いやそんなの悪いって!」
「いいっていいって!昨日アイス買ってくれたお礼!それに、どうせ私も食べるし~。」
バスの中の会話では、見た目で言えば彩葉よりも年下であるかぐやが、まるで母親のようにご飯の作り置きをしておいた話から、まさかのこの後一緒に食べるご飯も作ってくれたという話に驚きつつ、レジ袋の中身は何かと尋ねたが、ヒミツー♪とはぐらかされるなど、終始話が尽きることはなかった。
そうしてまた満月倉庫商会に戻ってきた後、郵便受けに一つの封筒が入っていたのだが、手が塞がっているため、かぐやに取ってもらった後、現在の住まいである倉庫の事務所にまで戻ってくると、早速かぐやは、レジ袋から2つの中くらいのサイズのポリスチレン製容器のどんぶりを取り出し、上にかけていたラップを剝がした。
「今日のご飯は、頑張ってるコウセイのために~、スタミナがつく冷しゃぶうどん!うどんは乾麺でのどごしを重視しながらもー、豚肉で疲労回復効果のビタミンB1で疲れた体を回復しつつ~、梅干しも入れたからクエン酸でより疲労回復効果アップ!で、あと大葉は食欲増進効果もあるから、夏バテで食べられないよーって時でもバリバリ食べられるようになってるから!あ、つゆは持ってきたこのめんつゆかけて食べてね!ちなみにめんつゆはー、昨日水で戻した昆布で取っただしに鰹節を入れてWだしにしてから──」
まくし立てるように言われた、今日のご飯の説明。一つ一つの食材と、その栄養素を事細かに語るかぐやに圧倒され、お、おう・・・とコウセイも返すしかなかったが、言われた通り、めんつゆをかけ、そしてうどんを一啜り、口に入れる。
「うっっっま!」
「へっへーん、どやー♪」
『あー!コウセイずっりー!俺もかぐやのご飯食べてーなー!』
どや顔で料理自慢をしつつも、内心褒められてうれしい。そんなことを思いながら、かぐやもコウセイと一緒に食べ始めていく。
そんなかぐやの手料理を食べさせてもらい、これでかぐやもお礼をしたので帰る・・・というわけではなかった。
さらに別のレジ袋から、一つの大きい箱を取り出した。
「じゃーん!Wi-Fiルーター買ったったー!それとあと、これ大家さんから借りたスマホ!とりあえずこれで連絡はOK!」
「えぇっ!?いつの間に!?てかどうやって!?」
「えっとねー、彩葉のアパートの不動産会社調べて~、そっから大家さんの連絡先聞いて連絡してー、コウセイの電話壊れてるから貸してくーださい!って言ったら、OK出してくれて、お昼ごろに持ってきてくれた!あ、あと、ネットワークこんなんじゃダメですよー!なんかあった時情報取られちゃいますよー!って言って、さっきWi-Fiルーター大家さんと一緒に電気屋行って買ってきた!」
「行動力すごいね・・・」
たった1日足らずでそこまでの段取りをつけてくれたことに驚くも、ただ、まだかぐやは何か言いたげなように、ふっふっふー、と両手に腰を当て、鼻を高くすると、また別のレジ袋に手を入れ、がさごそという音を鳴らした後、見せつけた。
「じゃっじゃーん!別の世界からやって来たコウセイと、マブダチのソラトに~、2030年の超技術をプレゼントー!!」
そうしてコウセイに見せつけてからすぐ手渡したものは、少し小さい箱。
片手で掴める程度の大きさの箱であり、その箱には、Smart Contact、という表記がされている。
「・・・なにこれ?」
「Smart Contact. 略してスマコン!簡単に言うと、コンタクト型のVRデバイス!これで、コウセイもツクヨミ行けるよ!」
妙にいい声でこの商品の名前を言い、簡単にこの商品の説明と、どんなことができるのかを伝え、ピースを向けるかぐやと対照的に、コウセイはポカンとした顔を浮かべる。
そして少し間を置き、手渡されたスマートコンタクト、略してスマコンを思わず二度見、いや3度見した。
「えっマジ!?これが!?これでそのツクヨミってやつ行けんの!?」
「そう!すごいだろー!」
『おいマジかよコウセイー!さっきからいいなー!ずっりー!』
「てか、こんなのもらえないって!?高かったでしょ!?」
「いいっていいってー!私、稼いでるし?それに、せっかくこんな面白い宇宙人・・・あごめんコウセイは地球人だったね。いやでも、別の世界の友達ができたのに、なんにも遊べず仕事だけして悪者倒したら帰っちゃうだけなんてつまんないしー!それよりも、一緒にツクヨミで、協力してほしいことがあるから、むしろこっちがお願い!って感じ!だからお願い!」
そうかぐやは言うものの、こんなものを年下の子・・・本来の年齢はわからないが、それでも見た目からすると完全に10は下であろう子から貰うなんて、正直どうかとコウセイは一瞬ためらったものの、ただ、目の前にいるかぐやの好意を断るのもそれはそれで申し訳なく、かつ、今かぐやがコウセイに語ったその理由も、協力してほしいことがあるというのは気になったものの、楽しいことを一緒にしたいという想いが溢れ出ており、これを無下に断ることは、コウセイにはできなかった。
とは言いつつも、正直なところを言えば・・・ツクヨミがどんなものなのかは、ニュースを見たことと、かぐやの話を聞いて、気にはなっていた。だからこそ、口には出さないが、願ったり叶ったりであるが、まさかこのためにWi-Fiまで・・・?と思ったが、実際のところはどうかはわからないことや、これ以上深く聞くのも野暮というものだろう。
それに、場合によっては、このツクヨミから、あの例のゲネス人に繋がる手がかりも見つかるかもしれない。そう思えば、やらないという手はもうなかった。
そのため、今回ばかりは、ありがたくその厚意を受け取ることにし、早速、かぐやに使い方を説明してもらうことにした。
ソラトには申し訳ないと思うが、こればかりはしょうがないところであり、ソラトもしぶしぶではあるが、納得をした。
「で、これがスマコンって言って、コンタクトみたいに目につけるんだけど・・・コウセイ、コンタクトってしたことある?」
「俺、目は昔っからいいからコンタクトなんてしたことないんだよな・・・」
あちゃー、という顔をするかぐやだったが、よくよく考えたら、こっちもスマコンを彩葉につけてもらう時までしたことなんてなかったため、人のこと言えなかったー!と思い出し、丁寧につけ方を説明していく。
コウセイに自分でつけてもらっている間に、長時間使用すると眼球にも影響を及ぼすため、長時間の使用は危ないということや、目を開けながらの使用はARモード・目を瞑ってツクヨミにログインするのはVRモードなどと説明していきつつ、同時にかぐやは、Wi-Fiルーターの設置と設定を進めていく。ただ、そう説明していくも、コウセイも色々な説明にこんがらがっていたようだったが、慣れていけば自然とわかるだろうと思い、「使ってくうちに慣れるよー!」とかぐやは簡単にまとめることした。そもそも自分も、説明書なんて今の今まで読んでないことを思い出した。自分がそうだったから、コウセイもすぐに慣れるはずだ。
そしていよいよ、その時が来た。
「それじゃあ、いくよコウセイ。目つぶって~。」
「お、おう・・・」
彩葉に教えてもらってからこんなすぐ、他の人に教えることになるなんて。なんかへんなの。
ちょっとだけ、こそばゆい気持ちにかぐやはなっており、少しだけ、大人になったような気がしていた。
「・・・ん?ここが、ツクヨミ、か?」
まるで、水に潜るような感覚。例えるならば、それだろう。水の中に潜るのと似た感覚を覚えた後、目を開けると、見渡す一面に広がる水面と、その上に数多浮かぶ灯篭。夕焼けの空に映える、目の前に聳え立つ巨大な鳥居。アニメの中に来たような、幻想的な世界とも言える光景が目の前に広がっている。
VR、仮想現実とはいえ、この浮世離れした世界には驚きだ。
「太陽が沈んで、夜がやってきます。」
周りを見ている中でふと声が聞こえ、視線を前に移すと、一人の女性が立っていた。
それは、この前見たニュースでやっていた、このツクヨミを作った、と言われている設定の、AIキャラクター。
そして、それを言うと同時に、一瞬で空が夕暮れから、夜空に変わる。
「おおっ、すっげぇ・・・」
「仮想空間ツクヨミへようこそ!管理人の月見ヤチヨで~す☆このモフモフは、FUSHI!」
「ヤチヨがツクヨミとボクを作ったんだ!」
ヤチヨの肩に乗っている、白い・・・なんだ?ぬいぐるみ?よくわからないが、何かの生き物らしき、FUSHI、というマスコットキャラクターのようなキャラクターも喋っている。なんか昔よくアニメで見てた、黄色い動物の相棒、みたいなもんか・・・いやよく考えたら、レキネスとトライガロンとヴァルジェネスの3体と俺も、似たようなことやってんな・・・
「さぁ、出かける前に、その格好じゃあつまらない!準備して!」
なるほど、ここまではさっきかぐやちゃんの言っていた説明通りだ。これがいわゆる、チュートリアル、ってやつか・・・学生時代は陸上にずっと打ち込んでたし、卒業後も色々なバイトしててゲームなんて全然やってこなかったから、全てが新鮮だ。いやでもこれはぶっ飛びすぎてるよな・・・
ただ、ここで一つ、困ったことがある。
今目の前の画面?ディスプレイ?に映っているのは、今の自分の格好と、色々な服装や髪形のアイコンが並んでいる。先ほどかぐやちゃんから聞いた限り、まず最初に、このツクヨミでの格好、つまり服装をどうするか決めてから、ツクヨミに入るらしい。後々服装なども変えられるとのことなので、最初は何でもいいのかもしれないが、とはいえ最初からすでに色々な服装や髪形があって、結構悩む。それに、自分に合う格好というのも、いまいち見当がつかない。というより、前にバロッサ星人に着せ替え人形みたいにさせられたのが、未だに若干トラウマじみてるからこそ、あまりにも突飛な服装は避けようとしていた。
だからこそ、ツクヨミに入る前のこんなところで、時間を食うことになった。
「どんな格好にすりゃいいんだ・・・」
「コウセイだから、いつも通りツナギでいいんじゃねぇか?」
「まぁそうかもな・・・ん?」
なぜか、隣から声が聞こえた。そもそも今聞こえた声は男の声だ。目の前にいる月見ヤチヨからではない。
それに、いつも聞いてる声だからこそ、聞き間違えるわけがないからこそ、変だった。なぜ、隣から、その声が聞こえてきたのか。
恐る恐る、顔を横に向けてみる。
「よっ、コウセイ。俺も来れたぜ。」
「ソ、ソラト!?」
いつの間にか、自分の隣には、今一心同体となっている、大切な友達、オオキダ ソラトが、そこにはいた。
「お、お前なんでここに!?」
「うーん、俺もよくわかんねぇけどさ、ただ、このツクヨミってやつは、自分の意識がこの世界に入る、ってことだろ?だから、コウセイと俺は今一心同体だから、たぶん、2人分の意識がまとめて入れたんじゃないか?まぁ、俺も理屈はよくわかってないんだけどな。」
苦笑いを浮かべるソラトだが、こちらもポカンとしてしまう。
確かに、俺は今ソラトと一心同体となっているからこそ、ある意味、一人の体に2人分の意識があるようなものだ。だからこそ、入れても別におかしくはないのかもしれないが、とはいえまさかこんな形で、ソラトと再会することになるとは思わなかった。
「・・・まぁでも、コウセイ。なんにせよ、ここでも、よろしくな。」
そう言ってソラトが右腕を突き出してきたため、
「・・・ああ!」
こちらも右腕を突き出し、ソラトとクロスタッチを交わした。
そうしているうちにふと思い出したが、目の前に月見ヤチヨがいたことを忘れていたが、システムだし、どうせ本人が見ているわけじゃないから、まぁそこまで気にすることもないだろ。
「ちなみにソラト、お前の服装は?」
「あー、俺は変えらんないみたいだ。俺の方にはその画面が出てない。たぶん、俺が魂だけの存在だからかもしんないな。」
ソラトの服装は、黒っぽいグレーをベースに、薄い黒いストライプラインが入ったジャケットとパンツに、赤いタンクトップ。そして首には、変身できるかどうかはわからないが、かつて、ソラトの体が存在していた頃のように、オメガメテオがかかっている。俺にとっては、最も見慣れたソラトの服装ではある。
だが、先ほどソラトの口から語られたように、今ソラトは魂だけの存在だからか、自由に服装を変えられないという。だからこそ、表情はそのことを受け入れているように見えてはいたものの、少しだけ、寂しそうな眼をしていた。
その顔を見て、ならばもう、自分のする格好は、一つだと決めた。
先ほど、服装の一覧を見ている中で、そんな服があったことには気づいてたからこそ、ぺージをスワイプさせていき、その服装があるページへと移る。
「・・・よし、これに決めた!」
青を基調とした、ツナギ。浮くかもしれないが、浮くなら一人より二人だ。初めて会った頃や、怪特隊に入る前に戻ったかのような服装で、ソラトとまた肩を並べて一緒に歩けるのならば、仮想空間の中だとしても、悪くない。
髪型も、あえてこのまんまでいくことにした。
「いいのか、コウセイ?せっかくなら、お前が派手な髪色にしてるのとか、動物の耳とかつけてるやつとか見たかったけどな。」
「う、うっせーなー!いいだろ別に!奇抜なのよりはこういうのでいいんだよ!大体、お前が浮くかもしれないから、こっちだって合わせてやってんだ。もっと感謝しろよ!」
「ハハッ、そっか・・・やっぱりコウセイは、やさしい、だな。」
つい先ほどもしていた、いつも通りの会話。それにもかかわらず、顔を見ながらのやり取りというのが、とても懐かしく感じられる。そんな心の温かさを感じつつも、OKボタンを押すと、これで決定となった。
「これで準備は整ったね!さぁ、いってらっしゃーい!」
「よっしゃあ!行くぞコウセイ!」
「ああ、ソラト!」
月見ヤチヨに見送られ、2人で、鳥居を抜けた。
よっしゃあ、ツクヨミ、楽しむか!
「・・・楽しんでね。ソラト、コウセイ。」
「どわっ!」
「うおっ!」
鳥居を潜り抜けて早速、2人してずっこけた。転んだ地面には、水のようなものが広がっていた。この世界はVR空間・仮想現実だからこそ、直接口に含んだわけではないのだが、それでも反射的に2人ともに、ぺっぺっと、水を吐き出そうとしてしまう。
「で、でたーーーwwwやっぱり最初はみんなずっこけんだ!よかったー!私だけじゃなかったんだー!」
そんな2人を小馬鹿にするような声が聞こえたため隣を見ると、茶色い髪にうさぎのような耳。そしてガーリッシュな和をモチーフにした服を着た、お姫様・・・という見た目なのだが、いわゆる、一般的に想像するお姫様とは違う。
この格好を称するならば・・・ギャル。
そんな、ギャルな格好をした、お姫様風の女性アバターがいたが、そもそもここにいるということはつまり・・・?目の前のアバターが、おそらく自分が思い浮かべている人物であると信じ、コウセイが声をかける。
「もしかして、かぐやちゃん・・・?」
「そう!やっほーコウセイ!てかじっっっみ!!なんでここでもツナギなの・・・?って、そっちの人は?」
コウセイの服装がなんで先ほどと大して変わらない服なのか。せっかくのツクヨミの中なのにと思い、まず先にそこを突っ込んでしまったのだが、すぐにコウセイの隣にいるソラトに気が付いた。
俺だって驚いたのに、かぐやちゃんはどんな反応をするのか・・・コウセイは内心、少しニヤニヤしていた。
「よっ、かぐや!俺も、ツクヨミ来れたぜ。」
最初はんー?と、自分を知っていることに首を傾げていたものの、その喋り方と声、そして、コウセイと一緒に出てきたということで、目の前のこの男が誰なのか気づき、少しずつ震えだすとともに、かぐやの表情がパァッと明るくなっていく。
「も、もしかして・・・ソラト!?ソラトなの!?」
「そう!これが本当の俺の姿!改めて、オオキダ ソラトだ!よろしくな、かぐや!」
「うっそーマジー!?ソラトどんな技使ったのー!?どうやってツクヨミ入ったのー!?てか見た目こんななんだー!もっと宇宙人っぽい見た目してるかと思ったらちゃんと人間じゃーん!」
「おう!どうだ?結構イケてるだろ?」
「てかなんでソラトもこんな普通の服なのー!?もっとオシャレすればよかったのにー!」
「あー、なんか俺、服変えらんないんだよ。だからコウセイも、俺に合わせてくれたんだ。な?」
「お、おう・・・別にいいから!そんなことかぐやちゃんに言わなくて!」
「おー!さすがコウセイ~。やっぱりコウセイは、やさしい、だね~。」
「・・・あー!はいはい!わかったわかった!そんな2人して褒めなくていいから!」
「あ~、コウセイ照れてる~。」
「照れてる~。」
「照れてない!」
ワイワイガヤガヤガヤと盛り上がっている中、3人の足元の周囲を、ちょろちょろと駆け回っている一匹の小型犬がいる。
それに気が付くと、かぐやが抱き抱え、見せつけるように2人に見せる。
「あ、紹介するね!こっちは犬DOGE!私のペット!」
「アン!アン!」
「おー、よしよーし、ははっ、おまえかわいいなー!よろしくな、犬DOGE。」
「よろしくな。しかし犬DOGEか・・・なんか、あの柴犬思い出すな。」
ソラトが頭を撫でつつ、コウセイが顎の下を撫でる。その撫でっぷりにご満悦そうな表情を浮かべる、かぐやのツクヨミ内のペット、犬DOGE。
そうして撫でている中でふと、ペットも飼えることにコウセイは少し驚き、かぐやに質問をしてみることにした。
「この犬DOGEって、このツクヨミの中でこう、なんていうの?飼えるペットっていうか、キャラ・・・なの?」
「んーん。犬DOGEは、彩葉の部屋にあった携帯ゲーム機の中で作った私のペット!で、頑張ってやってみたらツクヨミに連れてこれたし、超キュートになったの!」
「・・・け、携帯ゲーム機のキャラ・・・?それを連れてきたって、そんなのありなの・・・?」
突拍子もない犬DOGEの誕生方法に、コウセイは唖然とする。
そこまで自分もゲームに詳しいというわけではないが、ただ、一般的な知識として、特定のゲーム機には専用のソフトがあり、他のゲーム機のソフトは当たり前だが使えない。しかし今かぐやはなんてことないように、他の製品のゲームのキャラを連れてきたと言っており、そんなのありなの・・・?と思っていると、コウセイ、とソラトが呼んだ。
「いやコウセイ、お前だってそうだぜ?」
「は?どういうことだよ?」
「来たのは俺だけじゃないってこと。ほら。」
来たのは俺だけじゃないって・・・?そうコウセイが思っている中、ソラトがコウセイを指差した瞬間、コウセイの後ろから、聞きなじみのある、叫び声が聞こえた。それも、3つの叫び声が。
そうして、待っていましたと言わんばかりに、両肩、そして頭から、にゅっと、その声の主たちが現れた。
「レ、レキネス!?それにトライガロン!?ヴァルジェネスまで!?みんなまでツクヨミに来たのかよ!?」
オメガの仲間である3体のメテオカイジュウ、レキネス・トライガロン・ヴァルジェネス。
元々はソラトこと、オメガが持ち主であったが、記憶を失ったことにより、この3体との関係もリセットされてしまった。
そんな中で、奇妙な縁からコウセイに懐くようになり、その結果、一心同体をする前は、コウセイがメテオカイジュウ達を使役しており、オメガと共に、数々の激戦を潜り抜けてきた。
その戦いの中で、コウセイはメテオカイジュウ達とも友情を育んできたため、彼らもまた、ソラト同様に大切な友達である。
・・・のだが、なぜかはわからないが、このツクヨミにこの3体も来てしまった。加えてそのサイズは、何十メートルといった大きさではなく、人間が片手で持てるくらいの小さなサイズである。
通常、メテオカイジュウ達はスリープモードという、人間が片手で持てるサイズかつ、おもちゃのように折り畳まれた姿でいるのだが、戦う意志を示した際には、カイジュウモードというモードとなって巨大化し、オメガと共に怪獣たちと戦うのだが、このサイズでも、自分の意志で動くことは可能であり、まさに今、そうして片手で持てるサイズながら、自分の意志でメテオカイジュウ達は動いている。
そのうえで、ソラトだけでなく、メテオカイジュウ達も一緒にツクヨミまでやって来たことにコウセイが驚く一方、かぐやは見たことがない存在に、目を輝かせている。
「えっコウセイ何それ!?もしかして、怪獣!?」
「そうそう。こいつらは、メテオカイジュウって言って、元は俺の仲間の怪獣だったんだ。ただ、記憶を俺が無くした時にこいつらとの繋がりも失われたんだけど、それがきっかけで、コウセイに懐いて、今じゃ俺よりも、コウセイの方が上手く扱えるくらいなんだよ。」
「へーそうなんだ!ねぇねぇ、触ってみてもいい!?」
「あ、あぁ。まぁ、たぶん噛んだりとかしないし、大丈夫だよな、な?あ、お前たち、この子はかぐや、って言って、俺とソラトの新しい友達で月から来た宇宙人で・・・」
「おーみんな結構愛想いいんだねーよしよーし。」
「もうなついてるぅぅーーー!?」
メテオカイジュウ達にかぐやの説明をしようと思っていた矢先、早速かぐやはかがんでレキネスやトライガロンを撫で、更にかぐやの肩にヴァルジェネスがちょこんと乗っている。
想定外に全員がなついている様にコウセイは驚く一方、ソラトはおぉ~・・・と感心し、小さく控えめな拍手をかぐやに送っていた。
「ほーほー、この青いドラゴンみたいな子がレキネス。でこっちの黄色い虎みたいなのがトライガロン。でこの赤い鳥みたいな子がヴァルジェネス。いやー私、お姫様属性に怪獣使いの要素まで持っちゃったかー!あ、でも犬DOGE、やっぱり私はお前がナンバーワンだからな!」
「アゥゥーン・・・」
犬DOGEに適切なフォローを入れ、頭をなでている一方、コウセイは気になっていた。なぜ、ソラトだけでなく、相棒であるメテオカイジュウ達までツクヨミにやって来れているのかと。
その理由について、なんとなくソラトは心当たりがあった。
「そりゃコウセイ、意識の俺だって来れるんだから、今ほぼ一心同体になってるこいつらだって来れるだろ?」
「・・・まぁ、そう言われれば確かにそう、なのか・・・?」
確かに、今現在ソラトとコウセイは一体化をしており、かつ、メテオカイジュウ達も、今はソラトの、オメガの中にいる。いわば、彼らとも一心同体となっていると言っても差し支えない。それならば確かに、来れなくはないのかもしれないが・・・
コウセイも色々と考えてはみるものの、だからといって、その答えが見つかるわけではない。ましてや、こんなことを問い合わせてみても、わかりませんとしか言われないことが目に見えているだけでなく、そもそもそれはなんだ。もっと言うと、隣にいるソラトは何者だと言われる可能性が高い。
だからこそ、ここまで来てしまったものは仕方がない。もう何か起こったら、その時はその時に考えようと割り切り、改めて、かぐやの案内で、ツクヨミの街中に入・・・る前に、一つ解決しなければならない問題があった。
「レキネス達、どうすっか・・・?」
「いいんじゃねえか?肩にでも乗せとけば。そういうやつもいるだろ。」
「かぐやちゃん、そういう人っている?」
「ん-、あんまいないけど、でもまぁ、そんなに気にする人もいないしいいよ!」
「・・・また今度、ここでもボディバッグ買うか・・・」
結果、コウセイの両肩にレキネスとトライガロンが乗り、ソラトの肩に、ヴァルジェネスが乗る、ということになった。
─────もちろん、歩き出して早々、すぐに周囲からなんだあれ?的な目で見られたため、すぐさまボディバッグを最初のログインボーナスのふじゅ~で買ったのは言うまでもない。
「うおぉぉ!すっげぇーー!」
「なんっじゃこりゃ・・・!」
そうしてようやくツクヨミの中心街へと入ってきた3人だったが、まずソラトとコウセイは、その街並みに終始圧倒されていた。
夜の街並みに、江戸時代を思わせるかのような、和の雰囲気を感じさせる建築物がいくつも立ち並ぶ、かと思いきや、そのイズムを感じさせる和建築の、高層ビルも乱立している。見渡す限り、巨大な建物が一面に広がり、その建物の間を、バーチャルの魚たちが泳いでいる。正確に言えば、泳いでいるかのように、空を飛んでいる。
より街の中に入っていけば、中華圏の国々のお祭りを想起させるような出店や、建物と建物の間にかかる木綿布が、よりこの街を特別なものとしている。
そして、見渡す限りの人、人、人。アバターだとはいえ、この人の量には圧巻であり、別の世界に来たのに、また別の世界に来たような気さえしてしまう。
「すっげぇ、ほんっと異世界来たみたいだ・・・」
「ああ。俺も色んな星をデータとかでは見てきたけど、こんなとこ初めて見た・・・人間の想像力って、すっげぇんだな・・・」
そんな話をしながら街の中を、かぐやに引き連れられながら歩いていく。目に映る全てが新鮮であり、コウセイもソラトも終始ワクワクが止まらず、一つ一つの光景に目を奪われていた。
「やっほーかぐやちゃん。」
「あれ?その人たち知り合い?」
そんな最中、かぐやに声をかけてきた2人の人物がおり、そちらに目を向ける。
一人は鹿の角のような頭の装飾に、へそ出しの服装を着た、スタイルの良さを感じる女性のアバター。
もう一人は、もこもこの服装におにぎりやメロンパンなど、様々な食べ物のアクセサリーが付いた服装を着た女性のアバター。
「やっほーROKAー!まみー!こっちはソラトとコウセイ!ついこの前出会った、宇宙人と地球人の友達!」
「えっ?宇宙人?」
「またまたかぐやちゃんはー。設定とはいえジョークがうまいんだから~。」
「そそそそそう!かぐやちゃんは冗談がうまくてねぇ・・・」
「いやコウセイ、別に慌てる必要なんてなくないか?コウセイは宇宙人じゃないんだし。」
「ちょっと黙ってろー!」
ROKAとまみ、そう呼んだアバターに対し、コウセイは慌ててごまかす一方、ソラトはなんてことないように振る舞うが、それに対して小声でソラトを制した後、挨拶をすることにした。
「あ、え、えーっと、そう。改めて、俺はコウセイ。で、こっちがソラト。まぁ、かぐやちゃんの知り合い、みたいなもんで、で、今日初めてツクヨミにログインして、今色々案内してもらってる最中だったんだ。な、ソラト。」
「おお!ここめっちゃ楽しいな!あ、俺はソラト。オオキダ ソラトだ!よろしくな!」
「え、えーっと、それ、本名ですか・・・?あの、ツクヨミじゃあんまり本名言わないほうがいいかと・・・」
「ん?なんでだ?はじめましての時は、ちゃんとあいさつが大事だって言うだろ?」
「ま、まぁそうですけど本名バレとか・・・」
「いいっていいって。俺なんてそもそも今は「あ、あー!そ、そう!本当こいつ昔っからマイペースなやつでさ!ごめんね!えーっと・・・」
さすがにこれ以上ソラトが話すと色々まずいと察し、慌ててコウセイがフォローに入り、間を取り持とうとするが、向こうの名前がわからないため困惑していると、向こうもそれを察してか、簡単な自己紹介をする。
「あ、はじめまして。ROKAって言います。」
「まみまみって言いまーす。よろしくー。まみでいいですよー。」
「ちなみにこの2人は、彩葉のリアルフレンズなのだ!」
「えっ?そうなの?」
彩葉のリアルフレンズ。それはつまり、現実世界での友人、ということだろう。そのことにコウセイが驚く一方、ROKAとまみも驚いていた。
「彩葉のこと、知ってるんですか?」
「あ、ああそう。実は今、ちょっと理由あって、彩葉ちゃんの住んでるアパートの大家さんがやってる倉庫で働かせてもらってて、それでかぐやちゃんとも知り合ってね。で、普段あんまりゲームとかしないんだけど、かぐやちゃんの猛プッシュもあって、今日初めてログインして、で、色々教えてもらってる・・・って感じ。でまぁ、ソラトも一緒にそこで働いてるー、って感じ・・・」
ROKAとまみに現在の状況をかいつまんで説明すると、向こうもある程度の事情を把握したのか、それ以上は聞いてこようとはしなかったが、それよりもこの2人には、それよりも気になる、別の話題があった。
「でも珍しいですね~。コウセイさんくらいの年齢だったら、ツクヨミ私たちより先にやっててもおかしくないのに、今までやってこなかったって、なんかあったんですか?」
「え?・・・あ、あー!俺、高校までずっと陸上やってて、で、陸上やめて高校卒業してからもずっと色んな仕事してたから、そこに向き合う時間がなかったー、みたいな。それに俺、目いいからさ、コンタクトが怖かったー、っていうかさ、ははは・・・」
「あー、たまにいますよね、そういう人。スマコン目によくないかもーって人。でも、スマホでもパソコンでもツクヨミできますけど、そっちでログインとかは考えなかったんですか?」
「ス、スマホは持ってるんだけど容量がなくってねぇ・・・パソコンも俺個人のはなくってねぇ・・・俺んとこ、親が厳しかったからさあ・・・」
自分達より上の年齢なのにこれまでツクヨミをやってこなかった。そんな人がいるとは思わず、興味本位で質問をする一方、コウセイは2人の質問になんとか答えていたが、内心、これ以上何か言われたらボロが出る。頼む、ソラト、かぐやちゃん。何か切り出してこの話題を変えてくれ。声には出さないが、コウセイは心の中でひたすら念じていた。
「でさ~ROKA~、まみ~。2人ツクヨミについてさっぱりだから、一緒に教えてもらってもいい?」
「ん、いいよ。」
「かぐやちゃんの友達なら、悪い人じゃないと思うし。」
その願いが届いたのか、かぐやが気を利かしてか、あるいは元からそれが目的だったのかはわからないが、2人にもソラトとコウセイのガイドをお願いした。
向こうもかぐやの友人ならば、ということで納得をしたことや、このかぐやの人間性を知っているということもあってか、あっさりOKを出してくれたため、3人に案内をしてもらうことになった。
そうして前を歩く3人の後ろで、ソラトとコウセイが正体がばれないよう、作戦会議を小声で始めた。
「ソラト、俺とお前が一体化してるーとか言うなよな!それ4人で決めたルールだろ!今度そういう宇宙人的なこと言ったら、カレーとか焼きそばのにおい、しばらく嗅がせてやんねぇからな!」
「おいおいコウセイひっでぇなぁ!なんの拷問だよ。わーかった。わかったよ。」
コウセイの体を借りることで、においを嗅ぐ。それは、食べることが大好きなソラトにとって、今唯一の楽しみであり、そのにおいが嗅げなくなるのは困るということで、ソラトも承諾し、改めて、その後を追うことにした。
そうして改めて、3人から、このツクヨミを案内されつつ、この世界についての説明を受けた。
このツクヨミでは、全員が表現者ということで、暴力などは即BAN・つまり退会の措置を取られるが、それ以外では、何をしても自由であり、どんなものを作っても、どんな表現をしたってもいい。それこそ、先程見た、露店で売っていた様々なアイテムも、ここに参加しているユーザーが作ったものであり、中には、海底の中にホテルを作っているユーザーもいるのだという。
さらにこの世界で使われているという通貨であるふじゅ~について、このふじゅ~を稼いで現実で生活をしている人もいるというのは、この前もニュースで見ていたが、なんと目の前にいるかぐやがまさにそうであり、それこそ今の今まで全く知らなかったが、このツクヨミ内でも、今人気急上昇中の配信者・ライバーなのだという。
「へー、まさかかぐやちゃんがそんなに人気のライバーだったなんて思わなかったよ。」
「でっしょ~!私実はちょーすごいんだぜ!」
このツクヨミ内に設置されている、足湯型のミーティングスペースにて5人は腰掛け、コウセイはかぐやが、いわゆるインフルエンサーとして稼いでいることに驚く一方、ソラトはこのツクヨミで売られていた、アイスの上に生クリームやチョコなど、色々なトッピングが施されたアイスを食べている・・・のだが、
「・・・何度食べても味がしない。なんだよー。せっかく久しぶりにうまいもん食べられると思ったのになぁ・・・」
味がしないことに、がっかりしていた。
せっかくこうして実体を持って、何かが食べられる。当初そのことを聞きとても喜び、勇んで真っ先にこのアイスを買ったのだが、いざ口に運んでみるも、全くもって味がしない。何度口に運んでも、結果は同じ。
食べることが大好きなソラトからしてみれば、これはある意味、食べられないことよりも辛く、これなら食べない方がマシと思ってしまうくらい、ソラトには拷問であった。
「まぁーツクヨミには味覚機能がないから仕方ないですよ。仮想空間で味覚まで再現できたら、それとんでもないことですから。」
「そうなのかぁ・・・いいなーまみは。色んな美味しいもん食べれて・・・」
「いやいや、紹介するってなったら、その日のために食事とかも制限しなきゃですし、前に出した動画で同じ表現してなかったかーとか確認もしないといけないですから、それはそれで大変なんですよ~。」
そう話すまみことまみまみだが、先程自らのことを紹介しており、実はまみまみとROKAも、かぐや同様、インフルエンサーなのだという。
まみまみは、グルメインフルエンサーとして。ROKAは、美容系インフルエンサーとして。かつ、両者ともに、フォロワー数が10万人以上いるという、その界隈では有名人とも言える存在なのだ。
そのことを聞いた時にはコウセイもソラトも驚いたものの、2人ともに謙遜した態度を取り、かつ、コウセイとソラトに対してもフラットに接してくれていたため、2人もそこまで気を遣う必要もなく話せていた。
「ところで、このレキネス達って、ソラトさんとコウセイさんが作ったキャラクターなんですか?」
そんな中、ROKAがメテオカイジュウ達について話を振ってきた。
先程、「コウセイには面白い仲間がいるんだよー!」とかぐやが切り出し、コウセイもそのことに慌てたものの、そのことが気になり、詰め寄られたため、ここまで言われたらもう仕方がないと根負けをし、しぶしぶボディバッグから3体のメテオカイジュウを出した。
しかし、これはコウセイもソラトも意外だったのだが、当初はまみもROKAも驚いてはいたものの、見た目の割に意外にも人懐っこいその存在を気に入り、今ではレキネスはROKAに頭を撫でてもらってご機嫌であり、トライガロンはよしよ~しと言われながら、終始まみにお腹を撫でてもらっている状況である。
一方ヴァルジェネスは、他の2匹を見て好機だと言わんばかりにコウセイの肩に乗り、頬擦りをしている。
「ま、まぁー、そう、だね。うん。俺とソラトが一緒に作ったキャラっていうか。それをこう、かぐやちゃんの力借りて、なんとか持ってきた、っていうね・・・」
「へぇー。さっき、高校まで陸上やってたって言ってましたけど、プログラミングもやってたんですね。」
「ま、まぁ、前に趣味の一環でね・・・友達にそういう詳しいやつがいたから・・・そういやこいつら、好きな女の子のタイプ、本当にそのまんまだったな・・・」
ROKAとまみと遊んでもらっている様子を眺めながら、以前この3体の性格をまとめていたことがあった時に、好きな女の子のタイプと書いたが、レキネスとトライガロンは本当にその通りだったことに思わず独り言のように突っ込んでいた。
ちなみにROKAとまみに会う前に、かぐやにはメテオカイジュウ達の素性についても秘密にしておいてほしいと釘を刺していたため、かぐやが割って入ることはなかったが、「あ、そうだ忘れてた!」と、そのこととは別に、かぐやは何かひらめいたかのように大声を出した。
「ねえねえコウセイ!ソラト!今度さ、私の動画出てよ!」
「・・・え?」
「おう、いいぜ。」
「おいソラト!勝手にOKすんな!・・・で、えーと、どういうこと?」
何故いきなりそんな話になったのか。その理由を聞くと、今現在、かぐやは配信活動・ライバーをしているが、別にかぐやは、お金稼ぎが目的というわけではないのだという。
今配信活動を行う最大にして、唯一の理由というのは─────ヤチヨカップの優勝、という目的のためだという。
ヤチヨカップというのは、現在このツクヨミで行われているイベントであり、本イベント期間中、最も多くの新規ファンを獲得したライバーがヤチヨカップの優勝者となり、優勝者には特典として、ここのツクヨミの管理人である、月見ヤチヨとコラボライブをする権利が与えられるのだという。
そのために、今現在かぐやはあらゆる配信活動を行っており、それこそこの姿だけでなく、顔出し。つまり、現実世界の顔を出した配信活動もしているなど、手段や方法を問わず、あらゆる活動をし、一人でも多くのファンを獲得しようとしているのだという。
「だから、ファン獲得のためにも、お願い!動画出て!」
「おう、わかった。俺はいいぜ。」
「やったー!ありがとうソラトー!」
「だから勝手に話進めんな!ていうかさかぐやちゃん、俺たちの動画撮るって言うけど・・・どういう動画撮るつもり?」
かぐやに尋ねてみたが、どんな動画を撮るかについては、まだ考えていないのだという。
ただ、正直なところ、あまり顔を見せるのもどうかと、コウセイは思っていた。
そもそも、今の今まで楽しすぎて忘れていたが、このツクヨミに入った理由の一つに、あのゲネス人に繋がる情報がないかを調べるという名目もある。そのため、顔を出すことが、場合によっては、かぐやや彩葉、ひいてはここにいるまみやROKAを、不必要な危険に巻き込む可能性もある。
だからこそ・・・
「いやー、ただちょっとそれは無理かなぁ・・・」
「えー!なんでコウセイー!出てよ出てよ出てよー!」
断ったのだが、当然、かぐやはブーブーと文句を言いだした。
ただ、今回ばかりは理由が理由だ。そのため、ROKAとまみに聞かれないよう、いったん席を外し、少し離れた場所へ3人で行くと、ソラトを交え、小声でコウセイは理由を説明した。
そのうえで、「だったらさ、」とソラトが言った。
「俺だけ出りゃいいじゃん。俺だけだったら、コウセイ顔バレしないんだし。」
それは、今コウセイと一体化しているソラトだからこその意見だった。
確かにソラトは、現実世界で顔バレをする心配がない。ならば、このツクヨミで出るだけなら、コウセイの顔は映らないため、そのリスクは多少減るかもしれない。そういったことを踏まえたうえでソラトは提案をしたが、とはいえ、不安は残る。
「それはそうかもしれないけどな・・・だからって──」
「お願いコウセイ。このままじゃ私、優勝できない。彩葉を、ハッピーエンドに連れてけない。だから・・・」
渋るコウセイに対し、涙目でお願いするかぐや。
その様子を少し離れた場所からROKAとまみも見ていたのだが、何も語らずとも悟った。
あ、これはいつものあれだ。彩葉を落とすときの、アレだと。
そして、同時に、異常な既視感を覚える。
こういうことをかぐやちゃんが言った後、次に待ち受ける反応。そして、その後にするかぐやちゃんのリアクションというのも、2人は手に取るように、わかってしまった。
「・・・あーもうわかったわかった!ただし、その動画撮る時は、俺は出ないけど、画面の外で見張ってるから!ソラトも変なこと言うなよ!」
「よっしゃー!今度の動画は宇宙人同士の対談動画だー!!」
そこでROKAとまみは悟った─────あ、この人、彩葉と同じような人なんだと。
半ば強引に決まった動画撮影に対し、はぁ・・・とため息をついて座り込むコウセイに対し、ROKAとまみは声をかけた。
「・・・なんかコウセイさん、彩葉に似てますね。」
「え?そ、そう?」
「彩葉もかぐやちゃんにこう言われると、大抵断れずOK出しちゃうんで。」
「あー、ま、まぁ、ああいう年下が涙目になってるの見ると、気分悪いっつーかさ。後で後悔すんのもやだし。それに、かぐやちゃんにはツクヨミのログイン方法だけじゃなくって、それこそスマコンとかも提供してくれたからさ。その恩も返さなきゃいけないっていうか・・・」
「え?スマコン提供してくれたんですかかぐやちゃん?」
「あれ結構高いんですけど、それ普通に買えるなんて・・・やっぱかぐやちゃん、稼いでるね~。」
「・・・え?マジで?そ、そんなにすんの?」
「いやーこれでコウセイとソラトに動画出てもらう約束も取れたしこれであとはあたっ!」
そうして動画撮影の予約が取れた矢先、後ろからかぐやの頭を叩いた人物がいた。
全員がそちらの方を見ると、青を基調とした着物とパーカーが合わさった、ストリート風の服装に、キツネモチーフの尻尾と耳がついた、女性のアバターが、そこには立っていた。
「あ、ん、た、ねぇ・・・なーにずっと人のとこでお邪魔してんの!今何時だと思ってんの!?」
「あーやっと来たねいろはー。」
「バイトお疲れ~。」
「い、いろはー!そんな怒んないでよー!コウセイにスマコンの使い方教えつつツクヨミ案内してたんだからー!」
「えっ!?彩葉ちゃんなの!?」
「おー、これが彩葉なのかー。」
全員がこのアバターを彩葉だと呼び、コウセイとソラトも驚く。
そうして、ツクヨミ内のアバターの姿である、彩葉こと、いろPは、コウセイに頭を下げて謝った。
「あの、コウセイさんすいませんうちのかぐやがずっとそっちにお邪魔しちゃってて・・・って、そっちの男の人は・・・?」
コウセイに謝っている中、彩葉は気が付いた。全員の中にいる、コウセイとは違う、もう一人の男性。しかも、かぐやだけでなく、コウセイと一緒にいる男性なんて、自分は一人しか知らない。ログイン初日でもう友人ができたというわけでもないだろう。というより、先ほど自分を、彩葉だと言った。
ということは、つまり・・・
「・・・えと、あの、まさか、かぐやとコウセイさんと一緒にいるってことは・・・?」
「よっ、彩葉。この姿じゃはじめましてだな。俺だよ俺。ソラト。オオキダ ソラトだ!」
しばしの沈黙の後、
「・・・ええええええっ!?これがソラトさん!?え!?人間!?てか、一体どうやってログインしてるんですか!?てか、なんですかコウセイさんの隣にいるの!?は!?え!?怪獣!?しかも3体もいる!?てかなんでそんなに芦花と真実になついてんの!?ええええええええええええっ!?私がログインしてない間になにがどうなってんのおおおおおおおお!?」
あまりにも突拍子のないことに驚き、目に映るもの全てにツッコんでいる、いろPこと彩葉。ツクヨミでも現実世界でも見たことがないほど慌てふためいている姿に、ROKAこと本名、綾紬 芦花。まみまみこと本名、諌山 真実の2人も、思わず笑いだしてしまった。
「あー楽しかったー!それじゃ、帰ろっか。彩葉怒ってるし。」
先程彩葉から言われたため、仕方がないが帰るため、かぐやとコウセイはツクヨミからログアウトし、スマコンを目から外しつつそう話すが、一方のコウセイは少し困った表情を浮かべていた。
「うん。それはわかるんだけど、困ったなぁ・・・」
「困ったって、何が?」
「・・・いや、どうやって帰ろうかってことなんだよね。」
そう。これが今、コウセイが困っていたことだった。
先ほどもそうだったが、免許証が今効果がないというか、使えないからこそ、かぐやとはここまでバスを使って来たのだが、時計を見ると、バスの最終の時刻は過ぎていた。だからといって、一緒に歩いて帰らせるのも、距離や治安、かぐやをそこまで歩かせるのもどうかということで、コウセイは悩んでいたのだ。
「そーいえばコウセイ、これ何?」
そんな折、かぐやは一つの封筒をコウセイの目の前に差し出した。
それは先ほど、ここに戻ってくる前に郵便受けを確認した際に入っていた一つの封筒だった。その時はかぐやがいたことや、大量の荷物があったため、そこまで気には留めなかったが、今その封筒を見せてくれたため、そういえばあったな、ということを思い出した。
「あと、この封筒、コウセイ宛だよ。」
「・・・俺宛て?」
そう聞いて疑問に思った。その封筒を受け取って確認してみたところ、確かに宛先は、星見 光成様宛となっていたが、おかしいとコウセイは感じていた。
まだここで働きだして4日目であり、コウセイの名前を知っている人は少ない。しかも漢字でちゃんと書くなんて、もっと変だ。今自分の漢字でのフルネームを知っている人間なんて、大矢と彩葉とかぐやくらいだが、ひょっとしたら大矢が何か書類を役所に提出したからこそ、このような封筒が来たのかもしれないと考えたのだが、その考えもすぐに打ち消された理由がある。
─────差出人が、不明だったからだ。
ただ、もしこれが爆弾だとしたら、そもそも封筒から出した時点で、中にいるソラトが反応していたはずだったが、それもなかった。というより、封筒に厚みがないため、何かが本当に入っているのかすら不明だった。
だからこそ、不安な気持ちは消えないが、中身を確認するためにも、封筒を開けた。
「・・・え?なんだこれ?」
その封筒の中には、一つだけ、あるものが入っていた。
中に入っていたもの、それは・・・
「・・・俺の、免許証・・・?」
コウセイの、免許証だった。
ただ、一つだけ違うことがあるとすれば、住所が、今のこの、満月倉庫の住所になっている、ということや、有効期限も、この世界に合わせたものとなっていた。
「一体、どうなってんだ・・・?」
それを見て、得も言われる不安がコウセイを襲う。
誰が送ってきたのかわからないものにもかかわらず、中には自分の免許証が入っていた。しかも、今この世界の住所になっていることや、有効期限も異なっている。そのことが余計不安を煽り、それこそ何かの罠かと疑わざるを得ないが、そんなコウセイの不安を知ってか知らずか、かぐやがニュッと横から顔を出してきた。
「ねえねえコウセイ、これで車とか運転できんじゃないの?」
「確かにこれで運転できるのかもしれないけど、でも、こんな得体の知れないもん使うなんて・・・」
「でもさ、これがもし、コウセイとソラトが追ってきた悪い宇宙人が送ったものだとしたらさ、そもそももう、コウセイやられちゃってるんじゃないの?さっきまで私たちすっごい無防備だったし。」
その意見を聞いて、確かにと納得をした。かぐやの言うことも一理あり、もしこれが、例のゲネス人が送ってきたものだとしたら、こんな手の込んだことをする必要がない。というより、やる意味がさっぱりわからないからだ。
移動を制限するというのは、怪獣と向き合う際にも、真っ先に考えることであり、そうすることで、被害を最小限に抑える効果がある。それは人間も同じであり、怪獣が出た際には、当該地域への立ち入りを禁止させる。
つまり、自由に身動きが取れないようにするというのは、特定の何かの動きを抑えるという意味では、絶大な効果がある。
だからこそ、免許証という、車を自由に動かせ、移動範囲を拡大するためのものを送ってくるというのは、例えるのならば、敵に塩を送るようなものであり、こんなことをあのゲネス人がするとは思えない。というよりも、それこそ今かぐやが言ったように、先ほどまで無防備だった自分達を手にかければ、それでもう済む話だ。
けれどもし、身近にそんな危険が迫っていたら、自分というより、ソラトのほうが気付いたかもしれないが、今の今までそんな気配は微塵も感じなかったため、ひょっとしたらこれは安全なものなのかもしれないが、とはいえ疑問は残る。
『じゃあコウセイ、ちょっとだけ体貸してくれ。危ないもんかどうか、俺が確かめてみるよ。』
そう言ってソラトが一瞬だけ体の主導権を代わり、その免許証のにおいを嗅いでみている。ちなみに隣にいたかぐやがなにやってんの・・・?的な目線を向けていた。
少しした後、一度首を傾げてから、意識をコウセイに戻した。
『うーん、特にこう、怪しいにおいとか、感覚みたいなもんは、なんにもしなかったな・・・』
「じゃあ、大丈夫なやつ、ってことか・・・?」
『たぶん、大丈夫だと思う・・・でも、なんだろうなぁこの感じ、なーんか覚えがあるんだけど、なんだっけなぁ・・・?』
色々あれやこれや考えている中、ねーねーとかぐやちゃんが間に入ってきた。
「じゃあさ、コウセイはこれでもう、車運転できるってことだよね?」
「あ、ああ。そうだね。」
「じゃあさじゃあさ、車乗せてってよ!もうこれ以上遅くなると彩葉がうるさいからさー!」
そうだった、かぐやちゃんを彩葉ちゃんの家にまで送り届けてあげないとと、大事なことをコウセイも思い出し、あれやこれや考えるのはいったん後にし、ならばもう、何かが起こるまで、この免許証を使わせてもらおう。
そう思い、この倉庫の社用車でもあるハイエースに乗りこみ、かぐやちゃんを送り届けることを決めた。
「じゃあかぐやちゃん、シートベルトちゃんとしめてね!」
「えー、めんどくさー。前もそうだったけど、こんなのつけなきゃいけないの?」
「何か起きた時に自分の身を守ってくれるから、つけなきゃいけないの。それと、車に乗り慣れていないだろうから、車酔いも気を付けてね。」
シートベルトのつけ方や車酔いをしないようになど、かぐやに色々諸注意をしたうえで、エンジンをかけ、ライトをつけ、車を走らせだした。
「うわー!夜の町ってこんななんだー!すっごいきれいー!」
家々に点る明かりに目を輝かせるかぐやと、こんなに年の離れた子を車に乗せることなんてなかったから、少し新鮮な気持ちとなっているコウセイ。
安全運転で、彩葉のアパートまで送っていく。
「・・・」
そのハイエースを見守るかのように、それを入れた一人の人物とすれ違ったことに、気付かず。
次回予告
「てかさ、乙事照氏最近の推しライバー誰よ?」
「僕はやっぱりカカちゃんかな~。オタ公ちゃんは?」
「ウチはやっぱかぐや氏!この前ストリートライブも行ったよ!」
「え結構ガチ勢なりつつあるじゃん?公平性とか大丈夫?あやばい告知しなきゃ!」
「なんか展開早くない?」
「長いからね!てことで次回のかぐや姫Ωは、【【 雑談 】宇宙人の友達とガチトーク!あるあるから知らない話までマブダチの列伝聞いてみた!】」
「タイトルなっが!?」
なんか公式で超かぐや姫版ソラトのウルトラもぐもぐファイトみたいなのがはじまった()
これ今後ソラトもゲストで出るぞ!俺は詳しいんだ!
メインヒロイン()さん、まだほぼ登場せず。
まぁすぐに出ますのでご安心を。
そして前回のクイズの正解は、あのアイスです。
750ml、食べてみたいんですよね。
今ミスターと藤村さんがこれで対決したらどんな結果になるんでしょうね?
でもって、この場で一つだけ、解説したいことがあります。
作中、ソラトが食べていたアイス、実はちゃんとモチーフがあります。
それは、ウルサマ・・・の前身イベントにあたる、ウルトラマンフェスティバルこと、ウルフェス。その時に販売されていた、ウルフェスアイスです。
筆者も、あのアイスが本当に大好きであり、何度も食べましたし、幸か不幸か、2019年、つまりウルフェスが現地開催だった最後の時に食べられたのは、今でも思い出です。
そのなつかしさ故、ここでウルフェスアイスを持ってきました。
調べれば作り方の動画もまだ出てくるので、気になる方は調べてみてください。