ちょっとした騒ぎが起こる……。
7月に入ったばかりだと言うのに、30度を超える日々。博麗神社の縁側に、桶に水を張り、両足を突っ込み、横に倒れている女…⸺博麗霊夢。
「あっつい…外の世界じゃ、35度が最近の夏の普通らしいけど……私はもうこの暑さで無理だわ……」
多少は涼しくなるとはいえ、長時間日に当たれば水は温くなる。しかし、氷を買う為の出費は馬鹿にならない。こんな時に、あの氷精がいればと、霊夢はぼやけた頭で考える。
「⸺おーい、霊夢ー!生きてるかー?」
「かろーじてー…」
霊夢は、いつも来る白黒魔女こと、霧雨魔理沙の声に、体を起こさず返事を返す。
「うわっ、お前…水足りてないんじゃねぇか? それと塩も」
魔理沙は萎びれた霊夢の様子を見て、水と塩が足りてないだろうと笑いながら台所へと向かう。
霊夢は魔理沙の言葉を肯定しながら、思い出した事を告げる。
「あぁ〜……そうかも。そういや、紫がスイカ置いてったかも……魔理沙、ちょっとそれ切って、塩ふって持ってきてよ」
「おいおい、仕方ねぇなぁ。ちょっと待ってろ」
〜数分後〜
「はぁ〜……生き返るわ」
「それ、割とマジで洒落になってないからな」
「分かってるわよ」
水を入れ替えた桶に、二人揃って足を突っ込んで、縁側に座り、シャクシャクとスイカを食べている。
「しっかし…ホントに暑くなったよな……昔は団扇で扇げば結構涼しかったのに」
「そうね……そういえば、今日って七日だったかしら?」
「ん? ……あぁ! そうか、七夕だな今日は」
「妹紅が忙しそうね…」
「確かに、アイツなら里の子供向けに笹を切ってくれそうだしな」
暑さを誤魔化すように、二人の雑談は続く……⸺筈だった。
「⸺博麗の巫女!頼む、探してくれ!」
一人の男の声が、二人の平和な時間を引き裂いた。
*
男は人里の住人で、娘と隣の家の息子が昨日揃って家出をして、まだ帰っていない。最悪遺品でもいいから、見つけ出して欲しい。そんな頼みだった。
「仕方ないわね…でも、見つからなくても、私に怒らないでよ?」
「あ、あぁ! 勿論だ!」
なんだかんだ言って、何処か
「おい霊夢、私を忘れんなよ?」
「あら魔理沙、一人だけサボる気だったのかしら?」
巫女と魔女。
幻想郷一の異変解決コンビは………⸺今、動く。
◆◇◆◇◆
◆◇◆◇◆
「聞き込みをしたけど、最後に見たのは南の街道らしいわ」
「こっちも、南の街道に向かうところで目撃証言が途絶えてたぜ」
「……じゃあ、行ってみましょうか」
「…だな」
行方不明の少女と少年は互いに九歳。
親が言うことを、素直に聞いても聞かなくても、どちらもおかしくない年頃。
「日が暮れる前には、何か見つけたいわね」
「おう、そうだな」
◆◇◆◇◆
機を織ることは、楽しいわ。
牛の面倒を見ることは、楽しいさ。
◆◇◆◇◆
「【夢符】『二重結界』!」
星空の様な煙に包まれた中に、倒れた少年少女の姿。
”星空”は二人に纏わり付くように、触手の様に伸ばしていた。⸺ソレを霊夢は、結界を貼って阻止した。
「おい! 無事か、お前ら!」
魔理沙はすぐさま近づき、二人の状態を確認する。
心臓は動いている。口元から風を感じる。呼吸の動きをしている。⸺二人とも、深い眠りに落ちているだけで、特に目立った外傷は無かった。
「霊夢! 二人とも無事だ!」
「そう、良かったわ……ところで魔理沙。この煙に見覚えがあったりするかしら?」
「いや…何処ぞの人食い妖怪の闇と似てる気はするが、星空みたいに光ってるから、違うよな」
「やっぱりそうよね。……おいお前! 何者だ!」
霊夢は二人の形を取ろうとする”星空”に向かって叫ぶ。しかし”星空”は、答えない。
やがて、辺り一帯に薄く星空を広げる。
⸺星の明るさは、寂しさを埋められないことを、教えこむ為に。
▼△▼△▼
機を織っている。
やり方なんて、知らない筈なのに。
手が勝手に動いて、機を織り続ける。
偶に、大事な人に会える。
だけどそれは、一夜だけ。
会えない時も、沢山ある。
機を織っている。機を織っている。機を織っている。大事な人に会う。機を織っている。機を織っている。大事な人に会う。機を織っている。大事な人に会う。機を織っている。機を織っている。機を織っている。機を織っている。機を織っている。機を⸺
周りの星は、働けと言うばかり。
周りの星は、手を動かせと言うばかり。
星はいるけれど、独りぼっち。
大事な人がいるけれど、一夜だけの再会。
そうね、織姫…こんな永久なら、誰かに代わってもらっても、いいじゃな⸺
「【彗星】『ブレイジングスター』!!!」
⸺彗星が、”星空”を切り裂いた。
▽▲▽▲▽
「⸺ハッ!?」
「無事か、霊夢!」
「魔理沙……ありがとう」
「はっ…礼はいいぜ。私とお前の仲だからな」
霊夢は危うく、彼女の孤独感に呑まれてしまうところだった。
「魔理沙、アンタは大丈夫なの…?」
「おう! 私は彦星だったが、性別の違いか、あまり呑まれ無かったぜ」
「そう…よかったわ」
”星空”は再び、人の形を成そうとしている。
だけどソレは不定形。定まらない。二人では無い。一人として混ざりかける。
「アレは、妖怪として祓うのが一番だと思うかしら?」
「あぁ…”思い”って言うのは、存外妖怪に近しいからな……祓って、スッキリさせてやるのが一番だろ」
「えぇ。分かったわ…⸺【霊符】『夢想封印』!!!」
◇◆◇◆◇
ありがとう、楽園の巫女。
ありがとう、星に焦がれた魔女。
何時までも、感謝を⸺。
◇◆◇◆◇
「はぁ…疲れたわ」
「よしよし、頑張ったなぁ霊夢」
「魔理沙……私、そこまで子供じゃないわよ」
「おっと、わりぃな」
満天の星空の下、人里の一角。
そこには、一際大きな笹が立てられていた。
それぞれの願いが書かれた短冊がいくつも飾られている。
「霊夢、折角だ。私らもなんか書こうぜ!」
「…もう、仕方ないわね。魔理沙は」
二人が思いを溜め込みすぎませんように
魔理沙
七夕くらいは、自由に会えますように
霊夢
満天の星空の中で、一際輝く星が二つ。
天の川を挟んで、二つで今日一番の輝きを放っていた。
去年、七夕でホラーでなんか書きてぇ! で書いてあったヤツをそのままです。まぁ、若干の修正はしていますが、ほぼほぼ原文ママですので……。