東屋にて、とある出会いと別れの話。

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恋晴れるまで、雨宿り

ぺらり、ぺらり。

ポツ、ポツ。

ページを捲る音と雨粒が降り注ぐ音が静かに音色を奏でる。

私は一人こぢんまりとしたこの東家にて小説を読んでいた。

 

ふと目を閉じて思い返されるのはこの東家で起きた恋というには未熟で淡い、輝かしい日々だった。

だが、そんな美しき日が唐突に終わりを迎えた後も愚かしくも未練がましくこの東家に来ているのは私の瞳に映る彼女の亡霊(未練)が未だに離してくれないからだろうか。

 

私は栞を挿した本を鞄に入れ立ち上がる。

ビニール傘から見る空は分厚い雲が覆っている。

雨はまだ、止みそうに無かった。

 

彼女…クロヱとの出会いはある夏の初め、今日の様な雨の降る東家だった。

講義も休みであり少しばかりの散策とばかりに思っていたのだが、運悪く…まぁ後からそれは彼女と出会えた幸運へと変わるのだが、突然の雨に降られるのだった。

幸いにも近くに東家があったため雨宿りのついでにその日に買った小説を読むのであった。

 

ふと、足音がした為顔を上げるとそこには銀色の髪から水を滴らせていた彼女が立っていた

 

濡れたままでいるのも忍びないと思い持っていたタオルを貸したのだ

 

それが彼女との出会いだった

 

その日は少し話した後に雨も上がりお互いに家路についた

「タオル、洗って返すから。」

その約束を残して

 

学校の帰りや休みの日

どちらからともなくあの東屋で待ち合わせては話す仲になった

 

嬉しかった事

学校の事

友達の事

家族の事

悩み事

 

お互いの事を知る度に、仲が深まる度に。

私の心は高まっていった

 

けれど踏み込み過ぎないからこそ維持できているこの関係に先を求めてもそこに羽ばたく程の勇気が私には無かった

 

だからこそ、この結末は代償だったのだろう。

 

幸せな日々というのはいつだって唐突に終わりを告げる

クロヱが東屋に来なくなった

 

始めは体調を崩したのかと思った。

けれど、一週間が経っても彼女が東屋に来る事は無かった。

 

私は彼女の残した痕跡を辿った

ストーカー染みた行為だと自重しながらも彼女の通っていた学校は知っていたからいつか話してくれた彼女の友達から聞く事にした

 

クロヱの友達だという桃色の髪の少女から告げられた事実は酷く呆気なくて受け入れ難い物だった

 

彼女は遠くへと引っ越していたのだ

 

親の仕事の都合という在り来たりな理由だった

突然決まったという事を除けば

 

その日はどう帰ったか覚えていない

少なくともお礼を言えた事だけは覚えている

 

しばらくは抜け殻の様になって何も手が付けられないでいた

彼女の面影を追う様に、或いはいつかひょっこりと戻ってきた彼女が待っているんじゃないかと淡い希望を抱く様に。

毎日の様に私はあの東屋に通っていた

 

ふと彼女の友達から最後の贈り物を貰っていた事を思い出した

意気消沈していた私は思い出さない様にしていたのだ

私は何も返せなかったというのに

 

彼女からの最期の贈り物

下手くそな彼女の字で思いの綴られた手紙といつかに欲しいと言った一冊の本

 

手紙には引っ越す事を伝えられなかった事への謝罪や私との思い出が紙いっぱいに綴られていた

 

「だいすきだよ!」

 

末尾に書かれていた一言に目頭が熱くなる

 

「私もだよ…馬鹿」

 

手紙を読み終えて立ち上がる。

雲の合間からは青空が見えていた。

 

「初めて出会ったあの時から、ずっと、ずっと好きでした。」

彼女が隣にいる時に、終ぞ言えなかった言の葉を紡ぐ。

私の中の未練を断ち切る様に、彼女との離別を受け入れんとクロヱとの思い出に花を手向ける。

 

そうして彼女と別れてから初めて私は泣いた、土砂降りの雨の様な大粒の涙を流して。

泣いて、泣いて、泣き続けて、そして漸く受け入れた。

涙の先に見えたクロヱの影は花の蕾がほころぶように、美しく、静かに笑って、そして泡になった人魚姫の様に溶けていった。

 

雨上がりの青空には虹が掛かっていた。

私の初恋は泡となって消えた

ただそれだけの話だ

 

〜数年後〜

 

中学高校大学と順調に卒業し就職した私は仕事を熟す内に出世し社長のわがままもあって秘書の役に収まっていた

ある日インターンに来ている人達の様子を見るからと着いていくと

「…ぇ」

 

数年で顔立ちも背丈も変わっていた

それでも

忘れる事はない

忘れる事なんて出来ない人が

そこに立っていた

 

そのままじっと立ち尽くす様に見ているとクロヱも此方に気づいたのだろう目を見開いて驚いている

 

あぁ、駄目だ。

未練は断ち切ったはずなのに

仕事中にも関わらずどうしようもなく嬉しい気持ちが目から溢れ出そうとする

 

「…ぃ、おい!」

「大丈夫か?」

 

その一言ではっと我に帰る

 

「…大丈夫です」

「んな訳ないだろ…」

「お前、泣いてるぞ。」

 

「え」

慌ててハンカチで拭く

 

「インターンもそろそろ終わる時間か…」

「今日は早退きしな、残った仕事も我輩一人でも大丈夫だぁよ。」

「あと…人事の書類、ちょっと覗くくらいは目瞑るから。」

詳しくは解らずとも、全部お見通しなのだろう。

「…ありがとうございます!」

逸る気持ちが抑えられない

心臓が煩いほど跳ねる

急いで退勤の支度を終えると会社の入り口に後ろ姿が見えた

振り返る彼女と眼が合う

花が綻ぶ様に笑顔が咲いて…

 

「クロヱ!」

「ルイ姉!」

 

二人の恋に日が差し込むまで後━━━


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