催眠でエッチなことはしない「よう実」 作:樹神法正
あ、前回の話にAIで遊んで作った挿絵2つを後から載せましたので、投稿直後に読んでて、追加された挿絵見てない!気になる!って方はどうぞ。
柴田の件で、一之瀬がそれどころじゃなかったので、白波の告白の時期が後ろにズレてます。
夏休みの到来を目前に控えた高度育成高等学校は、独特の熱気と浮き足立った空気に包まれていた。期末試験という難所を越え、迫りくる長期休暇への期待が一年生の間で膨らんでいる。
そんな日の放課後、ケヤキモールにある喫茶店の最奥、周囲から見えにくくなっているボックス席は世間の喧騒とは隔絶された、密度の高い静寂が澱んでいた。
正路善人は、グラスの表面にうっすらと付き始めた水滴を静かに見つめていた。アイスコーヒーの苦味が、舌の奥にほろ苦く残っている。
「――急に呼び出してごめんね、正路君」
向かいに座る一之瀬帆波が、か細い声を漏らした。
彼女の手元にあるアールグレイをベースにしたストロベリーティーからは、甘い果実の香りが薄く立ち上っていたが、彼女自身はそのグラスに一度も口をつけようとはしなかった。いつもの太陽のような笑みは影を潜め、美しい髪が俯いた拍子に頬を隠すように垂れ下がっている。
「気にしないでいいさ。柴田くんの件が片付いたばかりで、一之瀬さんもクラスの取りまとめで忙しい時期だろう。それで相談したいことというのは一体何かな?」
正路が静かに問いかけると、一之瀬は躊躇するように指先を何度も握り直し、意を決したように顔を上げた。その瞳には、深い困惑と微かな罪悪感が揺らめいている。
「実はね……この後、ある女の子から呼び出されているの。明日の放課後、体育館裏で待ってるって」
「女子生徒から?」
「うん。……クラスの……仲の良い子なんだけどね」
一之瀬は言葉を濁し、具体的な個人名を口にすることは避けた。相手のプライバシーを守ろうとしているのだろう。正路もあえて相手が誰であるかを突っ込もうとはせず、黙って先を促した。
「その彼女が一之瀬さんを呼び出したのは何の用で? ただの相談なら、こんな回りくどい呼び出し方をしなくてもいいし、よほど大事なことなのかな」
「それが……たぶんね、告白……されると思うの」
一之瀬の口から漏れたのは、どこか申し訳なさそうな言葉だった。
同性からの告白。この多様性の現代社会において、少しずつ同性愛も認知されてきており、決してあり得ない話ではない。特に一之瀬の持つ可愛さと優しさは、時に同性の心さえも強く惹きつける。それを特別な感情へと昇華させてしまうこともあるだろう。
「その子、最近ずっと様子がおかしかったんだけど、時々すごく切なさそうな顔で私を見ていて……。手紙の内容もはっきりとは書いてなかったけど……間違い、ないと思う」
「なるほど」
正路はアイスコーヒーのコップをわずかに傾ける。氷がカランと音を立てた。
「同性からの好意であれ、異性からのものであれ、想いを寄せられること自体は喜ばしいことだ。だが、一之瀬さんの表情を見る限り、その気持ちに応えるつもりはないということかな」
「……うん。私は、その子のことは大切な友達だと思ってる。……それは、恋愛としての感情じゃないの。だから、その気持ちには応えられないよ」
一之瀬の声はどこか沈んでいた。誰かを傷つけることを良しとしない彼女にとって、自分に向けられた好意を拒絶するという行為は、身を切られるような苦痛なのだろう。
「断ること自体は個人の自由だ。誰にだって恋愛相手を選ぶ権利はある。しかし……断ることを決めているのに、この件について相談してきたということは何かあるんだろう?」
「……さすがだね、正路君」
一之瀬は苦笑いを浮かべると、テーブルの上で両手をギュッと握りしめた。
「私、どうにかしてその子を傷つけないで断る方法がないか、自分なりに色々と調べてみたの。雑誌とか、ネットの体験談とか……。そうしたらね、一番相手を傷つけない断り方は『他に好きな人がいる』とか『すでに付き合っている人がいる』って伝えることだって書いてあって……」
「想い人や恋人の存在を理由にする、か。確かに、相手そのものを否定するのではなく、『すでにその枠が埋まっている』という理由にすれば、相手の自尊心に与えるダメージは最小限で済むかもしれない」
「うん! それでね……」
一之瀬は上目遣いに正路を見つめた。その瞳には、すがりつくような切実さが混ざり合っていた。
「正路君に……私の『偽の恋人』になってほしいんだ」
静かな喫茶店の片隅で、一之瀬の放った言葉が微かに残響した。
「……俺が、一之瀬さんの恋人役に?」
「もちろん、本当に付き合うわけじゃないよ! 明日の放課後、告白された時に『実はもう付き合っている人がいるんだ』って伝えて、その相手として正路君の名前を出させてもらいたいの。名前を出せば、嘘だって疑われることもないと思うし……」
一之瀬は一息に捲し立てると、胸の前で手を合わせた。
「お願い、正路君! もちろん、正路君に迷惑がかからないようにする。夏休みの間に『やっぱり価値観が合わなくて別れちゃった』ってことにすれば、正路君の負担にもならないと思うから! だから、今回だけ……私の嘘に付き合ってくれないかな?」
彼女の提案は、一見すると合理的であり、彼女なりの優しさに満ちているように思えた。
正路という接点の少ない他クラスの生徒をダミーとして立てることで、相手を傷つけずに告白を躱し、時期が来れば色々あって破局したことにする。相手のことを傷つけずに、円満に収めるための完璧な方法――それが一之瀬の出した答えだった。
だが――。
正路は、ぬるくなり始めたアイスコーヒーに伸ばしかけていた手を止め、静かに一之瀬の瞳を見つめ返した。その視線は夏にも関わらず、冬の乾燥した空気を思わせるほどに冷ややかだった。
「申し訳ないが、断る」
一切の余情を挟まない拒絶。
「え……?」
一之瀬は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になり、固まった。
「正路……くん?」
「話にならないな、一之瀬さん。君の提案は最初から破綻しているうえに、不誠実極まりない。相手に対する最悪の裏切りだ」
「不誠実……? そんな、私はその子を傷つけたくない一心で――」
「傷つけたくない、か」
正路は小さく息を吐き出すと、背もたれに深く身体を預けた。
「君の言う『傷つけないための嘘』が、どれほど浅はかで愚かなものか、自覚がないのかな? 順を追って説明するから、よく聴いてほしい」
正路の指先が、テーブルの上で淡々とリズムを刻む。
「まず第一に、君は『後で別れたことにすればいい』と言ったな。では仮に、先ほどの偽の恋人の提案に乗って、相手の告白を断ったとしよう。そして夏休み明けに俺と一之瀬さんが別れたことにする。その時、相手はどう思うだろうか?」
「え……それは、『へー、そうなんだ』って……」
「違う」
正路は一之瀬の曖昧な思考を容赦なく切り捨てた。
「相手はこう考えるはずだ。『一之瀬さんはフリーになった。告白を受け入れてもらえなかったのは、恋人がいたからだ。それなら、もう一度アプローチすれば、今度こそ私を見てくれるかもしれない』とね。自分以外が理由で断られたのだから、その障害が取り除かれれば再びチャンスが巡ってきたと思うはずだ。断る理由を『恋人がいるから』という外部要因にしたのでは、彼女の中にある『一之瀬帆波への恋心』はそう易々と消えはしないだろう」
一之瀬の顔から、スッと血の気が引いていく。
「君が偽りの恋人を作り破局を演じることは、その子に期待という名の幻想をいつまでも与え続けることに他ならない。『今はダメだけど、未来なら可能性があるかもしれない』という生殺しの状態に相手を縛り付け、次のステップへ進む機会を奪う。それが一之瀬さんの言う『優しさ』だ」
「あ……」
「第二に、嘘をついてその場をやり過ごすこと自体が、真剣に自分の気持ちを伝えてきた相手に対する侮辱でしかない」
正路の声のトーンが、一段と低くなる。
「その女子生徒は自分の想いを拒絶される恐怖に押し潰されそうになりながらも、勇気を振り絞って一之瀬さんに告白しようとしているんだろう? 同性への告白という、通常の告白よりもより覚悟が必要な決断を、一之瀬帆波という人間を信じて行おうとしているんだ。それなのに君はネットや本の情報を鵜吞みにして、他人を巻き込んだお芝居で煙に巻こうとしている。それは誠実な対応と言えるだろうか」
「私は……ただ、泣いてほしくなくて……」
一之瀬の声が、絞り出すような湿り気を帯び始める。彼女の手が、スカートの生地を強く握りしめ、シワを作っていた。
「泣かせたくない? 傷つけたくない? それは違うだろう」
正路は容赦のない言葉の刃で一之瀬の心を突き刺していく。
「君が真に恐れているのは、相手が傷つくことじゃない。――『自分が相手を傷つけること』だ」
「ッ……!?」
一之瀬の身体が、まるで心臓を射抜かれたかのように激しく跳ねた。
「自分自身の手で相手の好意を切り捨てるという泥をかぶりたくないから、俺という人間を使って自分の手を汚さずに済ませようとした。そうだろう?」
「ち、違う……! 私はそんな、自分のためになんて――」
「なら、どうして本当の理由を言わない?」
正路の鋭い問いかけが、一之瀬の弁明を完全に途絶えさせた。
「告白を受け入れるならともかく、断るという選択をする以上、どうあがいても相手は傷つくんだよ。好意を拒絶されて、ノーダメージでいられる人間なんてこの世に存在しない。君がどんなに甘い言葉で包み込もうと、どんなに完璧な嘘をつこうと、『あなたとは付き合えない』という結論がある限り、相手の心は確実に傷つく」
喫茶店のBGMとして流れていたジャズが、対照的に二人の間の重苦しい沈黙を際立たせる。
「告白を断るというのはね、一之瀬さん。相手の想いの重さを受け止め、それと同じだけの重さを持って『ごめんなさい』と突き返す行為なんだ。相手が心を削って差し出してきた熱量に対して、君もまた心を削って真摯に向き合わなければならない。傷つけない断り方なんてものは、断る側の罪悪感を和らげるためのものに過ぎないんだよ」
正路はグラスを持ち上げ、残ったぬるいアイスコーヒーを飲み干した。氷が溶けた液体の、嫌な酸味と苦味が口内に広がる。
「傷つける覚悟もないまま、その場しのぎの嘘で逃げようとする。それは相手を思いやっているのではなく、相手の感情を軽視し、馬鹿にしている証拠だ。君がやろうとしているのは『自己保身のための欺瞞』でしかない」
一之瀬の目から、ポロポロと大きな涙の粒がこぼれ落ちた。涙は頬を伝い、テーブルの上のストロベリーティーの中に静かに落ちて、波紋を作った。
彼女は今まで、自分の「優しさ」が他人を救うものだと信じて疑わなかった。だが今、正路という鏡によって映し出された自分の姿は、あまりにも醜く、自分勝手で、小心者の偽善者でしかなかった。
「私……私、なんてひどいことを……っ」
一之瀬は両手で顔を覆い、しゃくりあげた。
「相手がどれだけの思いで私に伝えようとしてくれてるかも考えないで……っ。自分が傷つきたくないからって、正路君まで巻き込んで、嘘をついて誤魔化そうとして……っ。ごめんなさい……ごめんなさい、正路君……っ!」
咽び泣く一之瀬の姿を、正路はただ淡々と見つめていた。同情も、哀れみも、その瞳には浮かんでいない。
「謝る必要はないよ、一之瀬さん」
正路は静かに立ち上がった。制服のジャケットのシワを払い、伝票を手にとる。
「俺に謝ったところで、何の意味もない。一之瀬さんが向き合うべきなのは明日、君を体育館裏で待っている子だ」
正路は一之瀬の横を通り過ぎる際、足を止めることなく、ただ一言だけ言葉を落とした。
「……ちゃんと、彼女の気持ちに向き合ってあげなよ。君が彼女の友達であり続けたいと本気で願うなら、一人の人間として誠実に振舞うんだ」
******
正路が店を出た後、一人残された一之瀬帆波は、しばらくの間、指一つ動かすことができなかった。彼が立ち去った方向の空間には、まだ冷たい正論の残響が漂っているように思えた。
カラン、と周囲の席で氷がグラスに当たる音が響く。遠くの席からは楽しげな生徒たちの笑い声が聞こえ、すぐ近くのテーブルからはアイスクリームをすくう金属のスプーンの音が届いていた。
日常の穏やかな喧騒。だが、それらすべての音が、今の彼女には自分の愚かさと見苦しさを嘲笑う容赦のない刃のように突き刺さる。
(正路君の……言う通りだ……)
一之瀬は震える手でハンカチを取り出すと、濡れた目元を強く拭った。生地越しに伝わる体温が、かえって自分の浅はかさを際立たせる。
相手を傷つけたくない。
ずっと自分の中で疑いもしなかった優しさという名の免罪符。その裏側に隠されていたのは、泥をかぶりたくないという醜い自己保身と、相手の命がけの決意を単なる対処すべき物事として処理しようとした傲慢さに過ぎなかった。
正路の突きつけた言葉が、頭の中で何度も反芻される。
『あなたとは付き合えないという結論がある限り、相手の心は確実に傷つく』
『君がやろうとしているのは自己保身のための欺瞞でしかない』
もし、自分の浅知恵のまま「偽の恋人作戦」を実行していたらどうなっていただろう。
相手は、嘘の失恋に傷つき、そして夏休みが明けて「破局した」と知った時、再び期待にすがりついて苦しむことになっていたはずだ。まやかしの希望で彼女を縛り付け、本当の意味で前へ進む機会を奪おうとしていたのは、他ならぬ自分自身だった。
傷つけないためなどという口実で、彼女の覚悟を、彼女の恋心を、踏みにじる寸前だったのだ。
テーブルの上には、すっかり冷めてしまったアールグレイのストロベリーティーが残されている。甘い果実の香りはすでに飛んでおり、結局一度も口にしなかったそれを静かに見つめながら、一之瀬は深く、深く息を吐き出した。胸の奥を刺すような痛みが走る。だが、この痛みこそが、自分が背負わなければならなかった「他人の好意を断る」という行為の責任の重さそのものなのだ。
「……ありがとう、正路君」
ポツリと漏らした絞り出すような呟きは、喫茶店の静けさに溶け込み、誰の耳に届くこともなく消えた。 瞳を閉じて自分の心をもう一度だけ見つめ直し、背筋を伸ばす。その瞳にもう躊躇いはない。
目元を拭ったハンカチを固く握りしめ、一之瀬はゆっくりと、けれど確かな足取りで席を立った。
明日、体育館裏で待つ少女へ。誤魔化しも、言い訳も、偽りの優しさも一切捨てて――ただ誠実に正面から向き合うために、一之瀬帆波は店をあとにした。
******
翌日の放課後。
体育館裏の木製ベンチの近くで、小柄な女子生徒――白波千尋は自分の制服の裾を何度も固く握りしめていた。一之瀬にとって大切なクラスメイトだ。
放課後の静けさの中、蝉の鳴き声だけが頭上で喧しく響いている。ぬるい風が吹き抜けるたび、白波の短い髪が揺れ、隠された耳たぶが赤く染まっているのが見えた。
「――千尋ちゃん」
名前を呼ばれ、白波は弾かれたように顔を上げた。そこに立っていたのは、いつもの花が咲いたような笑みではなく、どこか凛とした、けれど深く静かな決意を秘めた表情の一之瀬帆波だった。
「ほ、帆波ちゃん……! き、来てくれたんだ……」
「うん。遅くなってごめんね」
一之瀬は白波の前まで歩み寄ると、一定の距離を保って立ち止まった。
「あのね、私……帆波ちゃんに、ずっと言いたいことがあって……」
白波の声は、風が吹けば消えてしまいそうなほど小さかった。彼女の胸の動悸が、制服越しにも伝わってくるかのようだ。指先は真っ白になるほど強く握りしめられ、涙ぐんだ瞳で一之瀬を必死に見つめている。
「私……ずっと、帆波ちゃんのことを見てた。クラスのみんなに優しくて、誰よりも強くて、かっこよくて……。最初は憧れだと思ってた。でも、違ったの。私……私、帆波ちゃんのことが、友達としてじゃなくて……好き」
吐き出された言葉。それは、少女が自分の持てるすべての勇気を振り絞って紡ぎ出した、純粋で透明な感情の結晶だった。
一之瀬は、その言葉を全身で受け止めた。胸の奥が痛む。自分の手で、この健気で愛おしいクラスメイトの恋心を打ち砕かなければならないという現実が、見えない刃となって彼女の心を削っていく。
逃げ出したいという誘惑が、一瞬だけ脳裏をよぎった。今からでも「ごめんね、実は好きな人が……」と嘘をついてしまえば、目の前のクラスメイトを傷つけずにその場をやり過ごせるかもしれない。
だが。
(――逃げちゃダメだよね)
脳裏に蘇るのは、昨日の喫茶店での光景。相手を傷つけることになっても誠実に対応するべきだと、一之瀬を諭した少年の姿だった。
一之瀬は深く、息を吸い込んだ。夕暮れの熱を帯びた空気が、肺を満たす。
「――ありがとう、千尋ちゃん」
一之瀬は、白波の目を真っ直ぐに見つめた。誤魔化しのない、澄み切った瞳で。
「千尋ちゃんが、私にそんな風に想ってくれていること、本当に嬉しいと思う。私をそこまで特別な存在として見てくれて、勇気を出して伝えてくれたこと、心から感謝してる」
「ほ、帆波ちゃん……」
白波の瞳に、期待の光が宿る。
だが、一之瀬はその希望を、自分の手で、誠意を持って摘み取った。
「ごめんなさい。私は、千尋ちゃんのその気持ちに応えることはできないよ」
一之瀬が頭を下げる動作と同時にその言葉が放たれた瞬間、白波の身体が小さく震えた。
「私はね、千尋ちゃんのこと、すごく大切な友達だと思ってる。クラスメイトとして、大好きな友達として、これからも一緒に笑い合いたいと思ってる。でも……それは恋愛感情じゃないの。私の中で、千尋ちゃんを恋愛対象として見ることは、できない」
「……っ」
「他に好きな人がいるからじゃない。誰かと付き合っているからでもない。ただ、私自身が、千尋ちゃんの特別な気持ちを受け止められないの。……本当に、ごめんなさい」
一之瀬はもう一度、深く頭を下げた。
そこには何の言い訳もなく、何の偽りもなかった。ただ「あなたからの好意を受け取れない」という事実を、自分の言葉でしっかりと提示していた。
「う……あ……っ」
白波の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
失恋のショック。拒絶された痛み。だが同時に、彼女の胸の中に残ったのは、徹底的なまでに誠実に向き合ってもらえたという、奇妙な充足感だった。一之瀬は自分を誤魔化さなかった。適当な理由であしらおうともしなかった。一人の人間の感情に、正面からぶつかってきてくれたのだ。
「うわああぁぁん……っ! 帆波ちゃん……っ!」
ベンチに座り込んで、顔を覆って泣きじゃくる白波。
一之瀬は、安易にその肩に手を伸ばしたり、抱きしめたりはしなかった。そうすれば、きっとその温もりが優しさという名の凶器になってしまう。だからこそ一之瀬は、白波の隣に静かに歩み寄り、一歩引いた距離のまま、木製ベンチの端にそっと腰を下ろした。
彼女が流す涙を、その痛みを、当事者として背負うように、ただ静かに傍に寄り添い続けた。
夕闇が二人を少しずつ飲み込んでいく。
一之瀬は、嗚咽を漏らし続ける白波の横顔を静かに見つめながら、遠くの空へ視線を投げた。
(正路くん……私、ちゃんと向き合えたよ)
自分の中に残った鈍い痛みに耐えながら、一之瀬は少しだけ、自分が強くなれたような気がしていた。
最初は、もっとこう軽くサクッと書いて終わらせようとしてたんですが……。
内容に「うーん……」と中々納得いかず、色々考えて直してるうちに時間かかりました。これ以上、時間かけても無駄な気がしてきたので投稿!!
ぶっちゃけ、もうこのままボツにして豪華客船に進もうかとも思いました。
モチベになるので評価、感想、お気に入り登録、ここすき等、よろしくお願いします!
既にしてくださった方々はありがとうございます。
〇追記
平均文字数が6,665文字だあああぁぁ。あと1文字惜しかったぜ……。(以前5555文字狙ってたときも5559文字くらいだった人←)