貞操逆転世界の蛮族の村に転移した 作:ばんばんばんぞく
「……死刑、執行って。
なんで、え?」
「ムラノ、ミンナ、ミテルマエデ。
オトコ、コロス」
理解できない。
目の前の、女の人が話していることが。
「ソレガ、オキテ」
当たり前のように、彼女は僕に向かって言い放つ。
……殺す。
その言葉を聞いたことは前世で何度かあった。
でも、今回の、これはちがう。
「セイゼイ、サイゴ、タノシメ。
シヌ、マエニ」
本物の殺意。
そんなものを、僕は人生で初めて浴びることになった。
「……リントっ! リント!」
声が聞こえる。
「……りんと? どうした、の?
なんで、お話してくれないの」
綺麗な声だ。
聞いてると、安心できて、それまで考えていたことが吹き飛んじゃうような優しい声。
「——ルナ、来てたんだ」
いつのまにか、ルナが目の前に座っていた。
「……わたしのこと、嫌いになったの?
リント」
「そんなことないよ。ルナ。
ほら、こっち来て」
……どうやら、変な勘違いをさせちゃったみたいだ。申し訳ない、な。
格子の隙間から手を伸ばして、彼女の頭を撫でる。
呼応して、彼女は頬っぺたを僕の腕へと擦り付けた。まるで子猫が甘えてるみたいだ。
ほんと、初めて会ったときとは大違いである。
でも。
……これが見られるのも。
今日が最後、なのか。
「……リント?
どうして、泣いてるの?」
そして。
僕は彼女に語った。
明日、自らの身に起きること。
逃れられぬ、死の運命について。
「……なんで、なんで、なんでっ」
僕の言葉を聞いて、ルナはひどく、取り乱した。
どうやら、ルナも知らなかったようだ。
「こんな、早くなんて」
……いや、正確には。
知っていたんだろう。
彼女の思っていたよりも、ずいぶんと早く、その日がやってきたというだけで。
「ぼくは、これからどうなるの?
死刑、って言ってたけど」
藁にもすがる思いで、僕は彼女に問いを投げる。朝の女の人は、詳しいことは何も言わずに牢から出ていってしまった。
もしかしたら、僕が知らないだけで助かる道もあるかもしれない。
……そうだ、だって。
「僕は男だ。
だから、君たちにとっても、利用価値はあると、思う。その、色んな、意味で」
絞り出すように、言葉をこぼす。
それは、ずっと思っていたけど、言わなかったこと。下手に話すと、そういうことになってしまいそうだったから、黙っていたことだ。
種馬。
男が存在しないこの村ならば、必要なはずだ。
人間というのは、どう頑張っても片方の性だけで生きていくことなんてできないのだから。
「村に、住まわしてもらうんだ。
多少の、無理だって聞く。
痛いのは、嫌だけど。でも、頑張る、から」
「だから、お願い。
一度だけ、話し合いの場を、僕に——」
だけど、その僕の言葉は。
「——私たちは、この村以外の人間が憎い。
何百年も、仲間を殺されつづけたから」
ルナによって、遮られた。
「もちろん、男の人は価値がある、けど。
それ以上に、村の人たちは人間への憎悪に溢れてる」
「……もう、何年も人間なんてやってきてないのに」
それは、まるで、どうしようもないことを嘆くように悲観に満ちた声だった。
憎悪。
その感情は時に、人から合理性を失わせる。
「じゃあ、僕は、どうなるの」
「……村の強行派に、何百回も、犯されて。
身体が耐えきれず、死ぬと、思う。
それが、男の人にとって、一番屈辱的だから」
「犯さ、れる」
そういう行為の、存在は知っている。
もちろん、したことはないけど、でも間違いなく分かるのは。
……嫌だ。
そんな、無理やりされて。
しかも、身体が耐えきれないなんて。
……思えば。
ここに来てから暴力的なことをされていないのも、明日のためなんだろう。
身体が耐えきれなくなるような、激しい陵辱。
少しでも、長く使うことができるように、こうして何もせず牢屋にいれていたんだ。
「……ごめん、ちょっと、横になってもいいかな。ルナ」
「……うん、わかった」
僕は彼女に背を向けて、うずくまる。
身体を襲う強烈な恐怖。
こうでもしない限り、情けない姿を見せてしまうことは間違いなかった。
いつのまにか、夜になっていた。
僕にとって、最後の夜に。
その間、ルナはずっと、僕の隣にいてくれた。
格子はあるけど、そんなの気にならないほど、
近くで、ずっとだ。
「どうせ、犯される、なら。
ルナにされるのがよかった、なぁ」
ふと、そんな言葉が僕から溢れた。
「……え?」
「……ごめん。
変なこと言ったね。忘れて」
そして、僕は頭に浮かんだ言葉をぽろぽろと彼女へと告げ始める。
「僕はさ、ルナにすっごく感謝してるんだ」
「……リント」
「いつも、牢の外から話しかけてくれてさ。
……えっと、恥ずかしいから言ってなかったんだけど。
僕、友達ってのが人生でほとんどいなくてさ。
だから、ルナみたいな優しい子が話しかけてくれて、嬉しかったんだ」
ルナは大切な友人だ。
……少なくとも、僕はこの一ヶ月一緒に過ごして、僕はそう感じている。
もちろん、えっちなこと、とかは。
まだ、あんまり考えられないけど、でも知らない人に無理やりされるくらいなら、僕は……
ルナへと手を差し出す。
意味という意味はない。
ただ、人の温もりが恋しくなったそれだけの話だ。
だけど。
——そのとき、だった。
ガタッ。
「……え?」
音が聞こえた。
まるで、何かが開いたような、そんな音が。
「この牢に鍵なんかかかってない。
私たちには、そんな技術なんて、ないから」
僕は、目を向けようと、重い頭を動かす。
そして、見た。
「ただ、重い石で止めてるだけ。
だから、退けちゃえば、簡単に中に入れる」
唯一、身体を覆っていた布切れすら脱ぎ捨て、真っ白の肌を見せながら、こちらに近づいてくるルナの姿を。
「シよ、リント」
瞬間、僕は激しく押し倒された。