魔法少女アメシスタ、あるいは、星屑に懸けた片想いの話。   作:秩序

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【第3話】変身

 制服があるというのはありがたいことだと思う。

 自分の身分をラッピングし、簡単に証明できるのだから。

 

 私は一駅先の街にある心療内科に通っている。

 月に一度、カウンセラーと顔を合わせる日だ。通信制高校にも一応制服はある。半袖と長袖を選べるシンプルなワイシャツに、学年ごとに違う色をしたリボンタイ。私は紫色。そして、深い紺色のジャンパースカート。スクーリングの日やこういう外出の日に袖を通すと、どこかの学校に通っている普通の女の子に見える。それが心地いい。

 

 包帯を隠すみたいに長袖を選んで、鏡は見ずに玄関を出た。

 

 四月の風がまだ少し冷たい。おじいちゃんの家から最寄り駅までは歩いて十分ほどで、住宅街の細い路地を抜けて、坂を一つ下ると線路沿いの道に出る。

 途中にある小さな公園の桜がもう大分散っていて、地面にピンク色の吹き溜まりができていた。

 花びらを踏まないように歩幅を調整しながら進む。別に踏んだところで誰にも怒られないのだけれど、なんとなく。

 

 駅に着く。改札を通って、ホームに立つ。

 平日の午前中だから人はまばらだ。同じくらいの年頃の子は見当たらない。みんな学校に行っている時間だろう。私だけがここにいて、私だけが違う時間を生きている。そういう感覚に慣れたのは、つい最近のことだった。

 

 電車が来る。乗り込んで、端の席に座る。窓の外を見る。住宅街が流れていく。

 屋根、屋根、屋根。

 合間にコンビニの看板が見えて、踏切が過ぎて、少しだけ空が広くなった。この街に来てから、空を見上げる回数が増えた気がする。あの家にいた頃は、窓の外を見ること自体が怖かった。外の世界は自由で広くて、それが自分には手の届かないものだと思い知らされるから。

 

 今は違う。

 窓の外を見ても大丈夫。電車に乗って、知らない場所に行っても大丈夫。おじいちゃんの家に帰れば、夕方にはお姉ちゃんが帰ってくる。それだけで大丈夫なのだと、体がようやく覚え始めていた。

 

 カウンセリングは三十分で終わった。いつも通りの内容だ。

 

 眠れているか、食べているか、困っていることはあるか。先生が穏やかに質問して、私がスマホに打って見せる。声のない会話にも、すっかり慣れてくれているのは嬉しい。

 

 最後にいつもの一言。

 

「紫水さんにとって、お姉さん以外の安心できる場所も少しずつ見つけていけるといいですね」

 

 いつもの一言に、いつも通りに頷いた。

 正しい助言だと分かっている。分かっているけれど、その先には進めない。いつもここで終わる。

 

 会計を済ませてビルの外に出ると、お昼を少し過ぎた日差しが目に痛かった。

 目を細めて、スマホを取り出す。

 

『カウンセリング終わったよ、今から帰る』

 

 お姉ちゃんに送る。既読はすぐにはつかない。まだ午後の授業が始まる前の、昼休みの終わりかけだろうか。駅に向かって歩き出したところで、画面が光った。

 

『おつかれさま! 気をつけて帰ってきてね』

 

『うん』

 

『晩ごはん何がいい? 私が作ろっか? 早く帰るし』

 

『ううん、私が作る。お姉ちゃんはもっと』

 

『もっと?』

 

『いや、なんでもないよ、帰る』

 

 本心だ。私の心配ばかりをして、あの人の人生を奪いたくないから。ただどんなに遅くなっても、帰ってきてくれるだけでいい。それ以上のことは何も望んでいない。望んでいないと、自分に言い聞かせる。自分の幸せを生きる人生の中にいてほしいから。

 

 スマホを鞄にしまって、商店街の脇を歩く。もう少しで駅前のロータリーに出る。

 昼下がりの人通りはまばらで、シャッターが半分降りた金物屋の前を通る。おじいちゃんのお店ではない。別の店だ。この辺りは古い商店が多いのだ。年季が入ったお店というのは、私のような子どもじゃ入りづらい場所でしかないけれど、こうやって眺める分には好きだ。

 

 商店街の入口を通り過ぎようとした時、足が止まる。

 小柄な黒猫が、すりすりと足元に近寄っては、顔を近付けてきたのだ。

 

「!」

 

 そっと音を立てないように屈んで、恐る恐る手を伸ばした顎の下。野良猫にはあまり触っちゃダメだとお姉ちゃんに教わったけど、こんなにも愛らしいのだから、無理だろう。ごめんなさいお姉ちゃん、少しだけだから。

 

『ずいぶんと、人に慣れてるんだね』

 

 打ち込んだスマホの画面を黒猫に見せた。まあ、もちろん、読めるわけなんてない。

 何の意味もない行動だけど、そういった行動がしたくなる気分だった。

 首輪は無いけれど商店街に住み着いているのだ。まあ、言ってしまえば、たくさん美味しいものをもらったり撫でられたりして散々甘やかされたのだろうなと思う。それでいてこんなに小柄で、思わず構ってあげたくなるのだから、ずるいというものだ。

 

「……」

 

 すたた。と軽い足取りで黒猫は離れていった。満足したんだろうなと思って、しばらく視線を送ってみるがそれも違うようだ。

 時々振り返って私を見る、また私を見る。少し進んで、私を見る。

 

『ごめんなさい、早く帰らないといけなくって』

 

 伝わるはずもない画面の文字をもう一度見せてみる。黒猫は名残惜しそうに、やっぱり二度くらいは私を振り返って見つめて、遂には私の行く道の先へと消えていった。もっと時間があれば、もっと遊んであげられたけど、申し訳ないような気持ちで。

 

 でも、あれ。あっちの通りは、駅前は、車通りがとっても多い。

 

「……」

 

 待って。と心の中で黒猫に告げて、小走りで追った。こんな街で暮らす猫だから大丈夫だろうけど、

なんだか不安になってしまうから。私の不安は昔から過敏で、それでいて、当たるから厄介で。

 だから今回も無視していくわけにはいかなかった。せめてちゃんと道路を渡れるかくらいは、見届けてから帰ろうと思う。そう思って。

 

 駅に繋がる大通りの方へと出た。

 

 

 変だ、と思った次の瞬間には、もう景色が違っていた。

 

 いや、違うという言い方は正確ではない。シャッターの降りた雑貨屋も、向かいの乾物屋の看板も、アスファルトに刻まれたひび割れも、さっきまでと同じ場所に同じ形である。何も変わっていない。何も変わっていないのに、全部がおかしい。

 

 止まれの標識が四つ並んでいる。同じ交差点に、同じ方向を向いて、四つ。

 視線を動かす。電柱に貼られた住所表示のプレートが二枚重なっている。同じ番地が、上下にぴったり並んでいる。自動販売機の中の飲み物が全部同じペットボトルになっている。ラベルに書かれた文字が読めない。日本語のはずなのに、目が滑って意味が取れない。

 

 空を見上げた。四月の午後だったはずだ。

 さっきまでクリニックを出た時の、白っぽい春の陽射しがあった。けれど今、空は夕暮れの色をしていた。茜色と紫が混じり合った、きれいだけれど不自然に動かない空。雲が止まっている。風もない。桜の花びらが一枚、目の前を横切って、宙で止まった。

 

 人がいない。

 

 さっきまで、まばらだったとはいえ人は歩いていた。

 シャッターを閉めかけていたおじさんも、自転車を押していた女の人も、もういない。

 車も通らない。音がない。商店街の有線放送も、遠くの踏切の音も、何もかもが止まっている。

 

 自分の呼吸だけが聞こえる。

 

 鞄の中のスマホを引っ張り出した。画面を見る。電波が立っていない。圏外。Wi-Fiのマークもない。時計の表示が13:42で止まっている。さっきクリニックを出たのが13:40頃だったから、ほとんど時間が経っていないはずだ。なのに空は夕暮れで、人はいなくて、時計は動いていない。

 

 お姉ちゃんに電話をかけた。

 指が勝手に動いていた。

 

 メッセージではなく、通話のボタンを押していた。声が出ないのに。

 電話なんて、いつぶりだろう。あの家を出てから一度もかけていない。かける必要がなかった。声が出ないのだから。でも今、指が選んだのは通話だった。聞きたかったのだと思う。お姉ちゃんの声を。繋がりさえすれば、お姉ちゃんの声だけでも聞ければ、大丈夫だと思えるから。

 

 繋がらない。耳に当てたスマホからは何の音もしない。呼び出し音すらない。ただ沈黙がある。

 

 画面を見る。通話は接続されていない。圏外の文字が、静かにこちらを見返している。そりゃ、そうだ。今、私はおかしくなっていると自覚が遅れてやってくる。確認と行動の順序が、狂っていく。

 

 歩き出した。立ち止まっていたら駄目だと思った。理由は分からない。

 でも、止まっていたら何かに追いつかれる気がした。来た道を戻ろうとする。商店街の入口の方へ、クリニックのあるビルの方へ、駅の方へ。

 

 角を曲がった。見覚えのある乾物屋があった。また角を曲がった。同じ乾物屋があった。

 走った。次の角を曲がる。同じ乾物屋。次の角。同じ。道が、同じ場所に戻っている。

 

 足を止めて、振り返った。

 影があった。

 

 路地の奥、シャッターが降りた店の前の地面に、長い影が伸びていた。猫の形をしている。けれど猫にしては大きすぎる。影の主がいない。壁にも路面にも、影を落とすべき本体がどこにもない。影だけが、そこにある。

 

 影が動いた。

 

 地面を滑るように、こちらへ向かってくる。音がしない。足音も、爪が地面を引っ掻く音も、何もない。ただ影だけが、夕暮れのアスファルトの上を流れてくる。その影の中に、二つの目があった。淡い金色の、丸い目。猫の目だ。猫の目が、影の中からこちらを見ている。

 

 体が理解するより先に、足が動いた。

 

 走る。ローファーが地面を叩く。叩くその音が、聞こえない。スカートの裾が膝にまとわりつく。

 鞄が肩からずり落ちそうになって、ストラップを握り直す。どっちに走ればいい。分からない。道は全部同じ場所に戻る。でも止まったら駄目だ。止まったら捕まる。

 

 角を曲がる。知らない路地に出た。さっきまでなかった路地だ。狭い。

 コンクリートの塀が両側にあって、その向こうに古い家の屋根が見える。路地の先に児童公園のフェンスが見えた。

 あそこまで行けば広い場所に出られるかもしれない。

 

 走った。フェンスの切れ目を通り抜けて、公園に出る。ブランコと砂場と、錆びた滑り台。誰もいない。空はさっきよりも暗くなっていて、夕暮れの茜色が、赤黒い色に変わりかけている。

 

 振り返る。影が来ていた。公園の入口、フェンスの隙間を通り抜けて、影が地面を流れてくる。あの金色の目が二つ、揺らめきながらこちらを見ている。

 

 公園を横切る。

 反対側の出口へ向かう。

 出口を抜ける。

 

 路地。

 左に曲がる。

 

 坂道。

 下る。

 角を曲がる。

 行き止まりだった。

 

 コンクリートの高い塀が、三方を囲んでいる。左右の塀は上に有刺鉄線が巻いてある。正面の塀はブロック積みで、自分の背丈よりずっと高い。登れない。戻るしかない。振り返る。

 

 路地の入口を、影が塞いでいた。

 

 地面に広がった黒い影の中に、猫の輪郭が浮かんでいる。身体を低くして、尾を揺らして、こちらを見ている。獲物を追い詰めた猫の姿勢だった。金色の目が、動かない夕暮れの空気の中で、ゆっくりと瞬いた。

 

 足が竦んだ。

 

 膝が折れそうになって、塀に手をついた。指先が震えている。背中が冷たい。心臓がうるさい。呼吸が浅くなっている。吸えない。吐けない。喉が閉まっている。いつもの、声が出ないのとは違う締まり方。恐怖で体が固まっている。

 

 知っている。この感覚を知っている。

 

 ドアの向こうから足音が近づいてくる時と同じだ。

 あの家の廊下を、重い足取りが近づいてくる時と同じだ。体が小さくなろうとしている。肩を縮めて、頭を庇って、できるだけ目立たないように。刺激しないように。やり過ごせるように。

 

 でもここは家じゃない。物置の隅もない。隠れる場所がない。

 

 スマホを握った。画面を見る。圏外。分かっていた。分かっていても確認してしまう。お姉ちゃんのトーク画面を開く。入力欄に文字が並ぶ。

 

『たすけて』

 

 送信ボタンの上に親指を置いた。押せなかった。圏外だから?

 ああ、ううん、きっと。違う。圏外じゃなかったとしても……

 押したら、お姉ちゃんが来る。来てくれてしまう。こんな場所に。この影の前に。あの細い体で、また私を庇おうとする。あの背中にまた、傷がつく。

 

 メッセージを消した。

 

 影が、一歩分だけ近づいた。地面の黒がじわりと広がって、自分の足元に届きそうになる。

 

 不思議なことに、そこで恐怖が少し引いた。引いたというより、一周したのだと思う。

 パニックの天井を突き抜けて、その向こう側に出てしまった感覚。自分が怯えていることを、一段上から見ている自分がいる。ああ、こうなるのか、と思っている自分がいる。

 

 両親の顔が浮かんだ。教室の空気が蘇った。自分に向けられる視線の温度を、声の角度を、足音の間隔を読み取ること。あの人が今どのくらい怒っているのか、このクラスメイトは私をどう思っているのか、次に何が来るのか。それを察知して、最善の場所へ体を動かすこと。それだけはずっと得意だった。

 

 だからここまで逃げてこられたのだと、今さら気づいた。道が歪んで、影が追ってくる中で、無自覚に最も安全な方向を選び続けていた。それでも逃げ切れなかったのは、最初から逃げ道がなかったからだ。追い込まれるのではなく、追い込む側の領域に、最初から立っていたのだ。

 

 鞄を下ろした。肩から外して、足元に置いた。お姉ちゃんへのお土産のプリンが入っている。

 その場に座った。

 

 コンクリートが冷たかった。スカートの裾が地面に広がる。膝を揃えて、手を膝の上に置いた。

 不思議と姿勢は崩れなかった。座り方だけは、きちんとしていた。行儀よくしなさい、という記憶が体に染みついているのかもしれない。最後の最後まで、あの家の躾だけは抜けないのだと思うと、少しだけおかしかった。

 

 影が近づいてくる。金色の目が、もう三メートルほど先にある。

 

 怖い。怖いけれど、もう走れない。

 走っても同じだと分かってしまった。分かってしまったら、体は動かない。

 

 膝の上のスマホに目を落とした。圏外の表示。動かない時計。お姉ちゃんとの最後のやりとり。

 

『いや、なんでもないよ、帰る』

 

 帰る、と打ったのに。帰る、と言ったのに。

 嘘になってしまうかもしれない。ああ、私、お姉ちゃんに嘘ついちゃうのかな。

 お姉ちゃんはショックを受けてしまうだろうか、泣いてしまうだろうか。お姉ちゃんのことばかり頭を巡っていく、お姉ちゃんのことばかり、謝りたいとか、返したいとか。

 

 お姉ちゃんはこんな私を嫌いになっちゃうかな。

 

 手をぎゅっと握りしめると痛くて,これが悔しいってことなんだと、今際の際に私は知った。

 

 影が地面を這うように広がって、私の足元のコンクリートを黒く染めていく。冷たい。影そのものが温度を持っているみたいに、触れた場所から体温が奪われていく。指先の感覚がなくなりかけている。

 

 スマホの画面が明滅した。

 

 圏外のはずだった。電波は立っていない。Wi-Fiもない。

 なのに通知バナーが一つ、画面の上部に滑り込んできた。知らないアカウントからのメッセージ。アイコンは紫色の結晶のような幾何学模様。

 

『その場で伏せてください』

 

 意味が分からなかった。分からなかったけれど、体が動いた。意味を理解する前に、膝の上に載せていた両手を地面について、そのまま突っ伏した。額がコンクリートに当たる。冷たい。砂利の粒が頬に食い込む。

 

 頭の上を、何かが通過した。

 

 風圧ではない。温度でもない。もっと別の何か。空間そのものが軋むような圧力が、うつ伏せになった私の背中の上を駆け抜けていった。同時に、硬質な音が響いた。ガラスとガラスがぶつかり合うような、高く澄んだ音。一瞬だけ、閉じた瞼の裏が紫色に光った。

 

 影の猫が、鳴いた。

 

 それまで一切の音を立てなかったものが、初めて声を出した。声というより、周囲の音を丸ごと吸い込むような逆向きの音。耳の奥がきんと痛んだ。

 

 顔を上げた。

 

 影の猫は動けなくなっていた。地面に広がっていた黒い影の上に、紫色の結晶でできた格子が降りていた。檻のようだった。六角形の柱が交差して組み上がった幾何学的な格子が、影を地面に縫い止めている。金色の目が格子の隙間からこちらを見ていたけれど、もう近づいてこない。近づけない。

 

 そして、格子と私の間に、誰かが立っていた。

 

 黒いスーツ。長い脚。磨かれた革靴。190cmはある長身が、夕暮れの袋小路に影を落としている。左手に銀色の懐中時計を持って、文字盤を確認している。

 

 首から上には、人間の頭がなかった。

 

 代わりにあるのは、巨大な紫水晶の結晶。ごつごつとした六角柱の集合体が、動かない空の茜色を受けて鈍く輝いている。目も鼻も口もない。それなのに、時計の文字盤を見ている動作は妙に人間くさかった。

 

 懐中時計を閉じて、胸ポケットにしまう。それからゆっくりと振り返った。結晶の先端が私の方を向く。見えている。こちらを。どこにも目がないのに。

 

 声が出ない。元から出ないのだけれど、今はそれ以前の問題だった。思考が追いついていない。

 影の猫が来て、逃げて、追い込まれて、座って、メッセージが来て、伏せて、紫色の格子が降ってきて、頭が結晶の人が立っている。一つ一つは目で見た。見たけれど、脳が処理を拒否している。コマ送りの映像みたいに、繋がらない場面が並んでいるだけだ。

 

 男の人の低い声が、二重三重に乱反射したみたいな声色が届く。

 

「遅くなってすみませんね、ご無事でしたか?」

 

 指が震えていた。五文字を打つのに三回打ち間違えた。

 

『どちらさま』

 

 結晶の人は、胸ポケットからスマホを取り出した。

 どこに持っていたのかも、どうやって操作しているのかも分からない。指は人間の形をしている。手袋はしていない。爪もある。首から下だけは、完璧に人間だった。

 

「なるほど、声が……では、メッセージの方にて失礼いたしますね」

 

『私はロゴス志向型代理戦略部門、横浜管区統括管理者です。所属は《星を目指すもの》直系の盤上戦運用課になります。担当範囲は横浜市全域の局所侵食領域の観測、隔離、契約者の管理と……』

 

 読んでいる途中で文字が画面の外に流れていった。長い。長すぎる。名刺を丸ごとメッセージに貼り付けたみたいだ。最後まで読む気力がなかった。

 

『すみません。なにもわかりません』

 

『そうでしょうとも。では平易に申し上げます。私は、先ほどあなたを追いかけていたような存在への対処を担当している者です』

 

 対処を担当している者。その言葉だけは理解できた。さっきの格子もこの人が出したものだろう。追いかけてきた影が、今は動けなくなっている。助けてもらったのだと、遅れて理解した。

 

『助けてくれて、ありがとうございます、ありがとうございます』

 

『ですが、あなたも人ではないように見えます』

 

 打ってから、失礼だったかもしれないと思った。でも本心だった。頭が紫水晶の結晶の人を、人間だと思う方が無理がある。

 

『その評価は妥当です。ただし、所属が異なります』

 

 所属が異なる。人間か人間じゃないかではなく、所属で自分を説明するのか。変な人だ。変な人というか、変な存在だ。

 

『一旦、安全な場所へ移動しましょう。説明はそちらで行います。少々お体に触れますが、よろしいですか』

 

 『はい』と打つ前に、結晶の人が手を差し出していた。白い手袋をしていない、人間そのものの手。指が長い。私はその手を見て、一瞬だけ固まった。差し出された手を取る、という動作に慣れていなかった。お姉ちゃん以外の手を握った記憶がほとんどない。

 

 でも、掴んだ。

 

 指先が触れた瞬間、足元が消えた。

 

 

 次に足の裏が何かに触れた時、そこはビルの屋上だった。

 

 コンクリートの床。錆びたフェンス。灰色の空。あの動かない夕暮れではなく、普通の、四月の午後の曇り空。見下ろすと、知らない街並みが広がっている。さっきの商店街ではない。もっと高い場所。たぶん六階か七階くらいのビルの屋上だ。遠くに海が見える。

 

 足が震えている。膝に力が入らない。屋上の床にへたり込みそうになったのを、結晶の人が腕を支えて止めてくれた。その手を振り払おうとは思わなかった。振り払う余裕がなかった。

 

 給水塔の横に座らされた。背中をコンクリートの壁に預ける。冷たい。でもさっきの冷たさとは違う。ちゃんと物理的に冷たい。

 

 結晶の人は少し距離を取って、フェンスの前に立った。

 こちらに正面を向けている。手は後ろで組んでいる。威圧しないようにしているのだと、なんとなく思った。この人は体が大きいから、近くに立たれるとそれだけで圧がある。距離を取ったのは、たぶんわざとだ。

 

 スマホが震えた。

 

『ご安心ください。ここは先ほどの領域内に設置した一時退避区間です。領域内のオブジェクトが現実はないように、ここから見える建物もまた、現実ではありません』

 

 私は遠くの海と、錆びたフェンスを見比べた。偽物には到底見えない。

 

『あの魔物は現在も拘束中です。拘束可能時間は残り四十二分です。その間、この区間に侵入することはできません』

 

『それから、お体の状態を確認させてください。外傷はありますか。膝や手のひらなど』

 

 言われて初めて気づいた。幸い、かすり傷もひとつとして付いていなかった。

 

『大丈夫です』

 

『うーん、いえ。いえ、治療しましょう。手当ての権限はこちらにあります。よろしいですね?』

 

 頷いた。結晶の人が近づいてきて、革靴の膝を折り、私の前にしゃがんだ。手のひらに淡い紫色の光が灯って、それを私の身体に近づけると、今の今まで自覚すらなかった足の痛みや息切れが一気に和らいでいった。

 

 魔法だ、と思った。魔法だ。今のは魔法だ。

 

 当たり前みたいに身体を治されて、当たり前みたいにお礼のメッセージを打っている自分がいる。思考が現実に追いついていない。追いつかないまま、指だけが動いている。

 

『ありがとうございます』

 

『いえ。では、ご説明を始めてもよろしいでしょうか。長くなりますが、大事な話です』

 

『はい』

 

 はい、と打ったけれど、正直なところ何も準備ができていなかった。頭の中はまだ、さっきの袋小路にいた。影の猫の金色の目が、まぶたの裏にちらついている。

 

 結晶の人がスマホに長文を打ち始めた。普通の会話なら声で説明すればいいのに、この人は律儀に全部文字にしてくれている。私が声を使えないと、もう分かっているのだ。いつ気づいたのだろう。最初のメッセージの時点で、もう知っていたのかもしれない。

 

 メッセージが届く。

 

『まず、先ほどあなたを追いかけていたものについて説明します。あれは魔物です。正確には、ホルメー志向型代理体と分類されます。生物の本能を核として具現化された、独立した一個の生命です』

 

 魔物。ホルメー志向型代理体。文字の一つ一つは読めるのに、文章としての意味がするりと抜けていく。

 

『この世界には、生命のあり方について異なる考えを持つ二つの上位存在がいます。一方は理性、願い、未来を重視し、もう一方は本能、生存、現在を重視します。両者は協定に基づき、代理体を用いた盤上戦を行っています。魔物は後者の代理体です』

 

『すみません』

 

『あたまが』

 

『ついていかないです』

 

『ご無理はありません。では一つずつ進めましょう。今、最も重要なことだけを先に申し上げます』

 

 間があった。結晶の人がメッセージを打ち直しているのか、言葉を選んでいるのか。十秒ほどの沈黙の後に、短い文が届いた。

 

『あなたには、魔法少女としての適性があります』

 

 魔法少女。

 

 その四文字が画面に表示された時、私の頭に最初に浮かんだのは、テレビで見たアニメの女の子だった。

 フリルのついた衣装を着て、ステッキを振って、悪者を倒す。そういうやつ。幼い頃、お姉ちゃんと一緒に見ていた気がする。お姉ちゃんはあまり興味がなさそうだったけれど、チャンネルを変えずに最後まで付き合ってくれた。

 

 画面の中の「魔法少女」という単語と、今自分が置かれている状況が、どうしても繋がらなかった。目の前にいるのはフリルの女の子ではなく頭が紫水晶の紳士で、さっき追いかけてきたのは可愛いマスコットではなく影でできた猫で、ここはテレビの中ではなく四月の横浜のビルの屋上だ。

 

『魔法少女というのは一般向けの通称です。正確にはロゴス志向型代理体、つまり理性や願いの力を核として戦闘能力を具現化する契約者のことを指します』

 

 ロゴス。さっきから何度か出てくる言葉。

 

『あなたの中にある願いが、魔法少女としての力の源泉になります。現在の自分と、願いが叶った未来の自分。その間にある差が、力を生み出します』

 

 願い。

 

 その単語を見た瞬間、胸の奥がずきんと痛んだ。願い。私の願い。何も知らないはずのこの人が、願いという言葉を使った。それだけのことなのに、急に息が苦しくなった。

 

 知らないでしょう。私の願いがどれだけ醜いか。あなたには。

 

『なお、契約は強制ではありません。あなたには拒否する権利があります。今この場で私にできることは、あなた一名を安全な場所へ退避させることです。それだけであれば契約は不要です』

 

『じゃあ、あの猫はどうなりますか』

 

『放置すれば、あの魔物が形成した領域は拡大します。周辺の人間に侵食が及びます。未来への意志、約束、願いといったものが薄れていきます。生命に別状はありませんが、あの魔物の活動範囲にいる方は影響を受けます』

 

 周辺の人間。

 

 おじいちゃんの家は、ここからそう遠くない。お姉ちゃんは今は学校だけれど、夕方には帰ってくる。帰ってきて、あの領域の近くを通ったら。

 お姉ちゃんから、未来への意志が薄れる。約束が薄れる。願いが。

 

『あの領域の範囲は、どこまで広がるんでしょうか』

 

『現時点では半径三百メートルほどです。放置した場合、数時間で一キロメートル圏に拡大する可能性があります』

 

 一キロメートル。おじいちゃんの家の最寄り駅は、商店街からぎりぎり一キロ圏内だ。

 スマホを握る指に、力が入った。

 

 

 

『お姉ちゃんが巻き込まれるかもしれないんですね』

 

『可能性としては、はい。ただし現時点では碧様は学校にいらっしゃるはずですので、即座に影響が及ぶことは

『碧ってなんで知ってるんですか?』

 

 たとえ相手が異形の人外だろうと、詰め寄るのに時間は要らなかった。

 

『適性者の周辺情報は、観測の段階で取得しています。不快でしたら申し訳ありません。ただし、取得した情報を契約管理以外の目的で使用することはありません』

 

 怖い、と思った。怖いけれど、今はそれどころではなかった。お姉ちゃんを知られていること以上に、お姉ちゃんが巻き込まれるかもしれないということの方がずっと重かった。

 

『魔法少女になれば、私は』

 

『はい。仮契約を結べば、魔法少女としての戦闘能力があなたに付与されます。あの魔物を倒し、領域を消滅させることが可能になります』

 

『契約、ですか、何が必要ですか?』

 

 打ってから、自分の指が震えていることに気づいた。魂、と頭のどこかが囁いた。アニメの中の魔法少女は、大抵何かを差し出す。命とか、魂とか、記憶とか、寿命とか。代償のない奇跡はない。そう相場が決まっている。

 

 結晶の人の返信は、少し間があった。

 

『よくある質問です。お答えしますね』

 

『まず、魂の回収はありません。寿命の消費もありません。記憶の消去、人格の改変、怪物化、その他いかなる形であれ、契約者の存在を対価として徴収することはありません』

 

『本当ですか、怖いんですけれど』

 

『本当です。嘘をつくことは、私の職務規定に反します。また、嘘をつく実益もありません。契約者が不信感を抱いた状態では、願いの出力が安定しないためです』

 

 嘘をつく実益がない。損得で正直さを説明するところが、妙に信用できると思ってしまった。善意で嘘をつかないと言われるより、よほど分かりやすかった。

 

『では、契約によって発生する義務と負担を説明します』

 

 メッセージが続けて届いた。

 

『一、戦闘行為に伴う身体的な負傷の可能性。変身中の負傷は契約の範囲で治療しますが、痛みそのものは発生します』

 

『二、時間的な拘束。魔物が出現した場合、対処のために時間を割く必要があります。学業や生活との両立について、可能な限り調整は行います』

 

『三、秘密保持。魔物、魔法少女、盤上戦に関する情報を、一般の方に開示することは原則として禁じられています』

 

『四、精神的な負担。戦闘行為そのものが精神に与える影響は個人差があります。定期的な心理面談を実施し、必要に応じて休養を取っていただきます』

 

『以上が主な負担です。繰り返しますが、魂や命や未来を対価とする契約ではありません』

 

 四つ。たった四つ。怪我をするかもしれない、時間を取られる、秘密にする、精神的にしんどいかもしれない。それだけだ。普通のアルバイトの注意事項と大差ない。いや、アルバイトの方がもっと条件が厳しいかもしれない。

 

『逆に、私には何かメリットがあるんですか?』

 

『あなたが言う、魔法少女になることの』

 

『願いを叶える力を直接提供することはできません。あなたの願いはあなた自身の力の源泉であり、システムが代行して叶えるものではありません。活動に対しては現実的な範囲で協力費をお支払いします。金額については正式契約時に提示します』

 

 願いを叶えてくれるわけではない。そこも、逆に安心した。何でも叶えますと言われたら、さすがに怪しいと思った。現実的な範囲の協力費。つまりお小遣い程度のお金。それだけ。

 それだけなのに。

 それだけなのに、胸の奥で何かがじわりと熱くなっていた。

 

 お姉ちゃんを守れる。

 

 この力があれば、あの影からお姉ちゃんを守れる。おじいちゃんを守れる。今まで守られるだけだった私が、初めて誰かを守る側に立てる。お姉ちゃんの知らないところで、お姉ちゃんの暮らす街を、お姉ちゃんの日常を、お姉ちゃんの未来を、守れる。

 

 何かを返せるかもしれない。

 

 あの日、手を引いてくれた王子様に。私を地獄から連れ出してくれた人に。ずっと、何も返せないまま守られてばかりだった。お姉ちゃんが朝ごはんを作ろうかと言ってくれるたびに、早く帰ってくるからねと言ってくれるたびに、ありがたくて、申し訳なくて、自分の無力さが喉元にせり上がってきた。何もできない。何も返せない。卵焼きを焼くことくらいしかできない。

 

 でも、もし。もしもの先に未来があるのなら、それって、

 

『仮契約で構いません。私がやります』

 

 条件の交渉もしなかった。協力費がいくらかも聞かなかった。聞く必要がなかった。お姉ちゃんを守れる可能性が目の前にある。それだけで十分だった。それ以外に、何を天秤にかける必要がある。

 

『承知しました。ただし、本日は緊急仮契約といたします。有効期間は二十四時間です。二十四時間経過後に自動的に失効します。正式な契約は、安全な状況で改めてご説明と意思確認を行ったうえで締結いたします。緊急時に長期契約を結ばせることは、規約上禁止されています』

 

『はい』

 

『仮契約の締結にあたり、能力の形状と性質を安全に設計するため、あなたの記憶と感情の一部を確認させていただく必要があります。閲覧範囲は契約設計に必要な最小限とし、取得した情報は契約管理以外に使用しません。守秘義務を負います』

 

 記憶と感情の確認。

 

 つまり、見られるのだ。私の中を。

 

 何が見られるか、すぐに分かった。願いが力の源泉になると言っていた。願いを確認するということは、私が何を願っているかを知るということだ。私が誰を好きで、どんな風に好きで、その気持ちがどれだけ歪んでいるかを、この人に知られる。

 

 お姉ちゃんのこと。全部。

 

 指が止まった。打ちかけたメッセージの上で。

 

 お姉ちゃんへの気持ちを知られる。妹が姉に抱いている、姉妹の範囲を逸脱した感情を。これまで誰にも明かさず、カウンセラーにも言えず、画面に打っては消してきた四文字を、この紫水晶の頭の人に丸ごと見られる。

 

 怖い。

 

 でも、あの影を放置すれば、お姉ちゃんが巻き込まれる。

 

 天秤にかけるまでもなかった。私の秘密と、お姉ちゃんの安全と、どちらが重いかなんて考えるまでもなかった。だってこれは私の罪なんだから。

 

『はい。見てください。全部』

 

 送信ボタンを押した。

 

 結晶の人が頷いた。それからゆっくりと左手を差し出して、人差し指の先端を私の額に触れさせた。手袋をしていない指先は、人間の体温よりも少し冷たかった。

 

 意識が白くなった。

 

 白くなったというのは比喩ではなく、本当に視界が真っ白に染まった。

 痛みはない。頭の中を誰かに覗かれている感覚もない。ただ、自分の中にある感情が一斉に光を帯びて、整理棚から引き出されるように並んでいく気配がした。お姉ちゃんの笑顔。お姉ちゃんの声。お姉ちゃんの手の温度。お姉ちゃんの背中。お姉ちゃんが好きだと言ってくれた紫色の目。

 

 送らなかった四文字。消した四文字。何度も何度も打っては消した、あの四文字。

 

 数秒だったのか、数分だったのか分からない。指先が額から離れて、白い視界が元に戻った。

 

 結晶の人は何も言わなかった。スマホにもメッセージを打たなかった。嫌悪も、驚きも、好奇心も、何も示さなかった。ただ一歩下がって、元の距離に戻った。

 

 それだけだった。

 

『設計が完了しました。仮契約を締結します』

 

 それだけ。私の恋心について、一言も触れなかった。触れる必要がないと判断したのか、職務上触れてはいけないのか。どちらでもいい。ありがたかった。泣きそうになるくらい、ありがたかった。

 

『紫水様』

 

『はい』

 

『では、変身してください』

 

 変身。どうやって。そう打とうとした瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

 

 温かかった。

 

 おへその少し下あたりから、じわりと広がる熱。体温とは違う。もっと純度の高い、澄んだ熱。それが血管を通るように全身へ行き渡っていく。指先に、つま先に、髪の一本一本に、その熱が届いていくのが分かった。

 

 服が変わった。通信制高校の紺色のジャンパースカートが、光の粒子に溶けるように消えていく。代わりに体を包んだのは、黒い布地だった。

 

 漆黒のワンピース。裾はふくらはぎの少し上まであって、プリーツが細かく入っている。左右には深いスリットが一本ずつ入っている。襟元は詰まっていて、首筋に沿うように立ち上がったハイネックが喉を覆っている。

 袖は手首まで。カフスが付いている。腰にはコルセットが巻かれていて、そこから短いケープのような布が後ろに流れている。

 そして、腰のあたりまであるマントのような外套を緩く羽織っていた。

 

 喪服みたいだ、と思った。華やかさはない。フリルもリボンもない。アニメの魔法少女とは全然違う。ただ黒くて、硬質で、隙がない。鎧というよりは制服に近い。戦うための制服。

 

 けれど、よく見ると黒一色ではなかった。カフスや、布の折り目や、プリーツの奥に、紫色の光が走っている。

 アメジストの結晶を砕いて繊維に織り込んだみたいに、角度を変えるたびに煌めきが明滅する。動くたびに、黒の中から紫が覗く。星屑みたいだった。暗闇の中で、ほんの少しだけ光っている。

 

 手のひらを見た。包帯がない。火傷の痕もない。白い肌がそこにあった。別人の手みたいだった。

 

 後ろ髪が視界に入った。チャコールグレーが薄くなっている。根元に近い部分はいつもの灰色だけれど、毛先に向かうにつれて色が抜けていく。白い。毛先はもう、完全に白かった。灰から白へのグラデーション。風が吹いて毛先が揺れると、白い髪が紫色の光を反射して淡く輝いた。

 

 きれいだとは思わなかった。お姉ちゃんの黒髪とは全然違う、と思った。

 

 そして、喉の奥で何かが動いた。

 

 熱かった。胸の中心から湧き上がってきた熱が、気管を通って、声帯に触れた。ずっと閉じていたものが、ゆるりと、ほどけた。息が通る。空気が振動する。喉が震えている。

 

 声が出る。

 

 ずっと出なかった声が、戻っている。

 

 唇が開いた。最初に出てきた音は、言葉になる前に漏れた、ただの吐息だった。それから、かすれた、細い、震える声が、四月の午後の屋上に落ちた。

 

「お姉、ちゃん」

 

 涙が出た。

 

 泣くつもりはなかったのに、声と一緒に涙が落ちた。自分の声だ。何年も聞いていなかった自分の声だ。こんな声だっただろうか。もっと低かった気がする。もっと小さかった気がする。でも確かに、これは私の声だ。

 

 結晶の人が、静かにこちらを見ていた。静かに、告げた。それは私の、私だけの……

 

「魔法少女アメシスタ。それが、あなたの名前です」

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