夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
◎月◎日 晴れ
先日は本当に予想外だった。まさか、読み書きに使えそうな本を借りに行っただけで、《審判者》という存在に乗っ取られかけるなんてね。
紆余曲折を経て何とか解決出来ましたが、皆さんに凄く心配され泣かせてしまった事は反省です。
後、日記の事も知られて凄く呆れられました。アツコの見解ですと、この日記も《審判者》の素養を高める要因になってしまったそうですし。
その意味では日記はもう書かない方がいいとも言われましたが、歪み自体はもう解決しただろうから問題ないとも言われましたので、これからも継続して書いていこうと思います。
それと肝心の目的の読み書きに使えそうな本は幾つか見つけることができ、ノート代わりに使える真っ白な本も大量にお持ち帰りできました。きっと過去の“記録書”の確保も、このような形で入手していた可能性がある。紙の作り方以前に、原材料の確保自体が困難だった筈ですからね。
それと例の建物に関しては、ノートの確保と清掃目的以外では立ち入らない事にしました。自由な解放は将来の課題として。
後、新たに手に入れたカプセム……ルーラーメアカプセムは本当に必要な時だけ使う事にしています。《審判者》としての影響もあってか、自我があるようにアリウスを見回っていますしね。ダブルの最終フォームアイテムのように呼んだら来てくれますし。
それに使える能力が【カタストロム】と【オルデルム】並みに無法ですし。【カタストロム】の立ち位置に相当する【インフィニティ】は、【カタストロム】に負けず劣らずのパワータイプでしたからね。夢の中で新たに出来上がった空間――訓練場みたいな場所で確認の為に変身したら、力がかなり漲ったんですよ。それにあの時のナイトアリウス・インフィニティはダメージを即回復させていましたし、おそらくエネルギーが無制限に近いのでしょう。
逆に【オルデルム】に匹敵する【リジェネイション】は、修復能力が本当に段違いでした。下手したら怪我さえも治せそうなくらいですし。感覚的にですが【オルデルム】がやっていた事と近しいことも出来そうですし。
この力を積極的に使えば、アリウスの復興は大分進むかもしれません。ですが、それは本当の意味での復興にならない気がします。本当の支援は与えるのではなく、教えるものだという言葉があった筈ですから、私の力に依存した生活ではいずれ破綻してしまいます。勿論、生活基盤を整えるのに必要なものは、明晰夢の力を利用して用意しますが。
◎月×日 晴れ
この日から学年別、クラス別で授業をやっていく事にしました。ほとんど自習ではありますが。
一番の理由は人数の多さからですね。一度に何百人を相手に教えるには、一人では本当に厳しいですし、【プロジェクションカプセム】での分身も長くて十分程度ですし。
それに授業の時間割も作った方が、場所も効率的に使えますからね。体育の授業として行っている戦闘訓練も、全員が一度に行える程の広さはありませんしね。
それと、ライダー武器の備品が銃火器以外も回収することにしました。いえ、今回は一つだけですが。
その武器は【ゾンビブレイカー】。ギーツの《ゾンビフォーム》の専用武器。要はチェーンソーです。目的は伐採です。
いえ、積極的に木を切り倒すつもりはありません。剪定用の鋸も回収しましたが、チェーンソーがあるとないとでは作業効率が段違いですからね。ただ、チェーンソーはうろ覚えですが燃料式だった筈です。電気式もあった気がしますが、出力的な理由から燃料式が主流だった筈ですし。
そして、液体燃料はアリウス自治区にはない資源。解決の為には謎原理で使える武器――平成・令和のライダー武器で代用するのが最善ですからね。それに、丁度よく使える武器もありますし。
ですから、【ゾンビブレイカー】を文字通りチェーンソーとして使う為に回収しました。使い方と危険性は、勿論みんなに教えながら。
間伐した方が良いと判断した木は伐採し、これも資源として利用していきます。ただ、【ゾンビブレイカー】による伐採作業を何人かが気に入ってしまい、《森林管理部》という部活動を立ち上げてしまいましたが。ご丁寧に【ゾンビブレイカー】をその部の備品申請までして。
それに対して、スバルを始めとした仲裁組も【アタッシュショットガン】の備品申請を願い出てきました。理由は私が思わず呟いて現実に出来てしまった、捕縛ネットの射出からです。捕縛、無力化にとても使えるから治安維持の為に所持を認めてほしいと。
どちらの言い分も理に叶っていましたから、ちゃんとしたルールを作ってから採用すると伝えました。特別扱いは可能な限り控えたいしね。
《アリウスルーム》。
夢と現実の狭間ゆえ、時間の流れが異なる特殊な部屋。第二生徒会室として頻繁に利用されている、生徒会にとってもとても便利な場所。
その部屋の二階に相当する場所で、デスクの前で座る校長と対面するように、神妙な面持ちのサオリと能面のような表情をしたスバルが立っていた。
「……サオリ」
「はい」
「君の学力は学年トップ……そこだけを見れば成績優秀者です。進級に問題はありません」
「はい」
「ですが、高等部になると進級には出席日数も重要になるとも説明しています」
「はい。確か、社会においての“勤務の概念”を理解するために必要だとも教わりました」
出席は社会における勤務に該当する。勤務をサボればそのしわ寄せが周りに、会社に影響を及ぼし、巡り巡って自身の首を絞めることになる。
だからこそ、プロジェクトを必須科目、プレゼンテーションをテストという形で概念を生徒に漠然と理解させる。もちろんあくまで持論かつ正解ではないのだが、重要なのはそこではない。
そんな淡々と言葉を返すサオリに、校長は頭を抱えたい気持ちで、苦渋に満ちたような声で現実を突き付ける。
「その出席日数が足りず、それを補う補習期間も過ぎている……!つまりサオリ、君は三年生に進級できない……留年確定なんです……!」
そう。
校長が頭を抱えた理由がサオリの留年――救済措置の補習期間も空振りで終わってしまったからである。
その理由も成績不振ではなく出席不足――アリウスの“外”での活動と、とある不運が重なってしまった結果である。
留年という精神的に辛い決定を下されたにも関わらず、当の本人はどこか割り切った表情をしていたが。
「そうか。まあ、仕方ない。生徒会……スクワッドでもう一年一緒にいられると受け入れるさ」
「いや、仕方ないではないですよ!?」
サオリの開き直りとも言える言葉に、同席していたスバルが我慢の限界に達したように怒りを露にする。こめかみに青筋が浮かんでいる辺り、かなりキレている。
一度切れて抑えが効かなくなったのか、スバルは怒涛の勢いで怒りの言葉を紡いでいく。
「私も校長も、何十回と言いましたよね!?このままだと出席日数の不足で進級できないと!貴女の耳は飾りなんですか!?外で活動資金を稼ぐ事を悪いとはいいませんが、怪しいバイトに何度も引っ掛かりすぎです!!」
「い、いや、スバル。それらのバイトの金額は本当に……」
「金額が良くても、契約書の内容をロクに確認せずにサインした時点で問題です!それで外で長期の滞在を余儀なくされたり、無理な時間帯から仕事に入る羽目となって、翌日に響いて欠席……!天然にも程がありますよ!!」
思わずたじろぎながらも弁明しようとするサオリであったが、スバルの怒りは収まらない。むしろ、火に油を注いでしまっている。
「そもそもバイトに関しては、アビドスを仲介する形にしていたでしょう!?向こうの弱味に漬け込む形で申し訳ない気持ちもありますが、手数料と砂の購入金額を高めにすることで双方納得した筈です!」
そう。スバルが口にした通り、外で必要な物資を購入する手段の一つ―一番健全かつ安全に行えるバイトを行う為に、アビドスの唯一の生徒会役員に接触し、何回かの交渉によって契約に持ち込んだのだ。
アリウスの将来を見据えれば、外との繋がりはある程度ないと混乱の極みになってしまう。長年鎖国していた日本でさえ、オランダとの繋がりを維持し、外の情報にも注視していたのだから。
それに、いきなり外と全面的に繋がりを持てば、その違いによってマトモに自治区が機能しなくなる危険性もある。将来的には“学園”として独立することも視野に入れているのだから。
かと言って、トリニティとゲヘナの自治区で活動するのは論外。過去の因縁もあるし、特にトリニティにとってアリウスは“汚点”そのもの。秘密裏に弾圧に動く可能性も十分にある。
新興のミレニアムは、向こうの安全管理の都合からして不可能。アリウスはその都合から素性は徹底的に隠す必要があり、そんな正体不明の人物達が動き回る事を許容できるとは思えないし、何としても尻尾を掴もうとするのが目に見えている。これは他の学園でも言えることだ。
その中で唯一の例外が、廃校寸前のアビドスだった。現在の在籍生徒は二年の生徒会役員が一人と、一年生が二人。それも、借金によっていつ限界が来てもおかしくない状態でだ。
だから、一人の見回りの時に接触し、秘密裏に契約を持ち込んだ。アビドスの問題に対しても一通り調べもしたが、そこには敢えて触れるつもりはなかった。余所者が首を突っ込んでも不快だろうし、そもそも此方の素性を探らない事も約束させたのだから。
ただ、そこでトラブルが発生してしまい、精神的に追い詰めてしまう形になってしまったが。フォローとケアに奔走し、何とか契約に取り付けることは出来たのは幸いだった。
「いや、その……すまない。今のは私が悪かった。同じ歳の同期……いや、友人と共に卒業できないのは……寂しいからな」
「……いえ。私もさすがに感情的になりすぎました。最後の体調不良は、本当に不運でしたから」
最後の体調不良。詳しく言えば、外で病気を貰ってしまい、二週間近く寝込んでしまった事が留年の決定打だった。
一応、【リジェネイション】の力を使えば治療もできなくはなかったのだが、ルーラーメアカプセムが緊急時以外はお断りと言いたげな動きで拒否したので駄目だった。
「やはり、医療面の根本的な改善が今後のアリウスの課題ですね」
「ああ。アリウスでは良くて市販薬が限界……本格的な治療ができないのが難点だな。体調を崩してその事を痛感したよ」
「《救命部》も出来るのは簡単な怪我の手当てくらいですし……出来る事が増えると、今まで見えなかった問題が見えてしまい、頭を悩ませますね」
「だが、悪い事ではないだろう?」
「……そうですね。昔のアリウスでしたら、そんな事に気を止める余裕もなかったですね」
そう口にして柔らかい笑みを浮かべるサオリに、スバルも微笑みを浮かべて頷く。
昔のアリウスでは体罰のような教育が横行し、生傷が常に絶えなかった。その生傷も今は体罰によるものではなく、ドジ等による微笑ましいものに変わりつつある。
生傷関連で言えば、ミサキが頻繁であるが。自傷ではなく、機械弄りによる不手際で。
話が脱線しているが、話の本題はサオリの留年についてだ。校長は咳払いいして二人に本来の話題を思い出させてから、サオリのクラス編入について説明していく。
「留年したサオリが組み込まれるクラスは……ミサキがいるクラスにする予定です。ミサキなら、スバルのようにサオリを見てくれるでしょうから」
「ミサキと同じクラスか。気遣ってくれて助かるよ、先生」
こうしてサオリは原作同様、留年することが決まった。原作では戦力確保が理由であったが、今作ではサオリの自業自得である。
ちなみにサオリの留年はアツコ達からも心底呆れられ、膝を抱えていじけるという珍光景が見られたことも此処に記載しておこう。