夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
±月Å日 晴れ
新たなノートでの日記も、これで五冊目だ。乗っ取られかけた影響か、口調が変わった時期もあったがそれも今は落ち着いている。立場の関係で変わってしまう時があるけど。
私がアリウスに来てから数年、自治区内の生活はだいぶ安定してきている。新たな課題や問題が浮上したり、余裕が出来た故の喧騒もあるが、内戦時代からすればとても平和になっている。ベアトリーチェの問題は残っているが。
勿論、ベアトリーチェと再び対峙した時に備え、鍛練にも励んでいる。カプセムの種類もそれなりに増えてもいる。原作に全くない、オリジナルカプセムが多いけど。
その中の一つ……数日前のガシャポンから出た【イレイサーカプセム】がいい例だ。名前からもうお察しの通り、【イレイスカプセム】の上位版だ。絵柄も腕を交差させてから広げて、周りを白く塗り潰しているし。しかも驚く事に、【ブースターカプセム】の立ち位置と同じカプセムだった。音声のエンフォースがイニシャライズに変化していたし。
他にも磁力を操る【マグネッツカプセム】や、左腕が蛇口になる【スプラッシュカプセム】等、使えなさそうで使えるオリジナルカプセムもある。原作にも出てきた【ショックカプセム】や【ウィングカプセム】も手元にあり、時々何れが何れだか分からなくなりそうだけど。
そんなカプセム達も、最初の時と比べたら使用頻度は減っている。復興だけでなく出来る事、やれる事が増えているからな。【クリアカプセム】と【マジックカプセム】は頻繁に使っているけど。
そんなアリウス分校に、外の人間が訪れた。私は直接会っておらず、アツコ達からの報告で知った程度だが。
その外から来た人の名前は“聖園ミカ”。トリニティ総合学園三年生の、トリニティのトップである《ティーパーティー》に所属する生徒だ。
彼女がアリウス自治区に赴いた理由は、アリウスとの和解。その為にあのカタコンベを通じて一人で来たのだと。その和解もトリニティの総意ではなく、あくまで彼女個人の願望であることも。
ミカと対面したアツコ達は、最初は政治的な理由でアリウスに接触しに来たと警戒していたそうだ。私と彼女を引き合わせなかったのも、それが理由だったと。
しかし、ミカさんと会話をして、彼女自身は善性の人間で、和解自体も仲良くお茶をしたいという理由からだった。その切っ掛けには苦笑してしまったが。
その理由は《エデン条約》――トリニティとゲヘナの間で結ぶ、平和条約。それをゲヘナが嫌いなミカさんは、ゲヘナと仲良くするよりも、元は同じだったアリウスと和解した方がいいと他の《ティーパーティー》のメンバーに提案したそうだ。その提案は仁辺もなく却下されてしまい、それでも諦めきれなかったミカさんはこうして独自に動いたと。
ミカさんの想いは本物とはいえ、大昔の遺恨が今もトリニティとアリウスには残っているし、今すぐは決められない。ミカさんもある程度の具体案は練っていたそうだが、今のアリウスを見て少し悩んでいたようにも見えたそうだ。だから、考えが変わらなければ指定した日付で再びアリウスに赴いてほしいと伝え、その日の内に帰ってもらったそうだ。
肝心の和解については、条件次第では悪くないとアツコ達は言いました。帰属とか、傘下に組み込むのであれば白紙一択だが、距離感を保った学園同士の交流としてならアリだと。何時の日か、堂々と活動する日も夢見ていたから、その足掛かりの一つとしては悪くないのが、アリウス生徒会――通称《スクワッド》の考えだと伝えられた。
私もミカさんが提示した具体案も悪くないと思い、全校集会を開いて和解に対する答えを出せばいいとアツコ達に伝えました。これはアリウスの皆で決めるべきことですからね。
±月□日 晴れ
結論から先に書けば、アリウスはトリニティとの和解に前向きで進める事に決まりました。
全校集会を開き、昨日の出来事を伝えて和解に賛成か反対かに正直に別れてもらいました。結果は賛成派が多数で、反対派は少数でした。
少数派の意見は、個人とはいえ本当に和解を望んでいるのかという不安と、アリウスの存在を急に公にしたらトリニティ以外の学園からも攻撃されるんじゃないかと言う、当然とも言える意見でした。
そんな反対派に、アツコはミカさんが提示した具体案を明かして不安の解消を図りました。
ミカさんの具体案――アリウスの生徒を一人、トリニティへと編入させて“和解の象徴”にする案を。
この案で舵を取っていけば、決め付けと頭ごなしの反対意見は封殺できるし、仮に失敗しても大きな痛手にはならないと。何より、混乱を最小限に抑えられ、ベアトリーチェに付け入れられる隙を潰せると。
加えて、帰属等は一切考えておらず向こうがその気ならなかった事にするとも伝えた為、反対派もそれなら……と納得してくれた。アビドス高校――唯一の生徒会役員、小鳥遊ホシノとの取引もありますし。
±月×日 曇り
ミカさんと対面し、意見の擦り合わせを行い、正式に和解に向けて行動することが決まりました。
和解に向けての実績……トリニティに編入する生徒はアズサになった。本人も元々外への興味が深かったですしね。向こうでもサバイバル部を作ると意気込んで、ミカさんにたぶん却下されるんじゃないかと教えられて悄気ていましたが。
ミカさんが提示したアリウスへの支援内容については、単純な物資の提供ではなくその元本……アリウスの自給自足を活かす方向で話を纏めました。貰うだけの支援では限度があり、その場しのぎにしかならないので。
ミカさんは最初こそ首を傾げていましたが、理由を説明したら納得してくれました。それどころか、謝罪までされました。
アリウスとトリニティの和解……これが良き未来へと続く事を切に願います。
再びミカはカタコンベを通じ、アリウス自治区へと来ていた。
「来たか、美園ミカ。指定した日付通りに来たという事は……考えは変わっていないんだな?」
「うん。アリウスと和解したい気持ちは、今も変わらないよ」
出迎えたサオリの問い掛けに、ミカは満面の笑みで答える。幼馴染みの二人に反対されても、子供みたいな絵空事と言われても和解したいと思ったのは本心なのだから。
そんなミカの返答に、サオリはフッと笑みを浮かべる。
「そうか……結論を言えば、私達も和解に対して前向きに進めて行く方針だ」
「本当!?ありがとうサオリちゃん!」
サオリから和解に対して前向きに受け入れた事を聞き、ミカは嬉しそうにお礼を口にする。
「気にしなくていい。此方としても悪くない話だったからな。その具体的な話を始めたいが……今からでも大丈夫か?」
「全然大丈夫だよ!少しくらい帰りが遅くなっても、この日の為に予定を空けていたから問題ないし!」
時間も大丈夫そうだと判断し、サオリはミカを校舎へと連れていく。目的地は――第二生徒会室だ。
「第二生徒会室……やっぱり、生徒会室が二つあったんだ」
「ああ。むしろ、ここをメインに使っている。この部屋なら、文字通り時間を気にせず会議が進められるからな」
「?」
サオリのその言葉に、ミカは頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
「この部屋……《アリウスルーム》は時間の流れが違うんだ。中での一時間が、外では一秒足らず……おかげで生徒会の仕事をしながらも部活を楽しめている」
「え?そんな部屋がアリウスにはあるの!?あ、いや、カタコンベの事を考えたらあり得るのかな……?」
サオリがあっさり明かした第二生徒会室――《アリウスルーム》のデタラメ振りに、ミカは思わずすっ頓狂な声を上げてしまう。カタコンベは一度迷ったら二度と出てこれないと伝えられている程不安定な場所だから、時間の流れも不安定な場所があってもおかしくないのかもしれない。
室内で一時間過ごしても、外だと一秒も経過していない。つまり、この部屋なら時間を気にする事なく、お茶し放題、喋り放題……すっごく羨ましいとミカは思う。
「いや。これはアリウスとは別の……アリウスを立て直してくれた“先生”の力だ」
「先生……?」
「ああ。今は校長呼びだがな」
先生、否、校長とは誰の事だろうとミカは首を傾げる。そんなミカに構わずサオリは《アリウスルーム》の扉を開け、ミカを連れて中へと入る。
室内へと案内され、部屋の中にある階段をミカはサオリと共に昇っていく。二階の足場にあるデスクの対面には生徒会長のアツコが立っており、デスクの正面には書類に判子を押している白いコートを着た男性の姿があった。
「校長。美園ミカを連れて来ました」
サオリの言葉に校長と呼ばれた男性は顔を上げ、ミカの姿を認識すると手元にあった書類を簡単に纏めていく。纏めた書類を机の隅に置くと、改めてミカと向き合った。
「美園ミカさん、ですね。話はサオリ達から聞いています」
「えっと……貴方がサオリちゃんが言ってた校長さん?」
「はい。書類に判子を押すだけの、お飾りみたいなものですが」
ミカの問い掛けに校長――恭介は苦笑と共に答える。恭介のその言葉に、サオリとアツコは呆れた目をする。
「……先生。さすがにそれはないよ」
「姫の言う通りだ、先生。先生が飾りだなんて、私も含めてアリウスの誰もが思っていない」
「分かってるよ。ただ、最終決定権は私じゃなくて生徒会……《スクワッド》にあると伝えたかっただけだよ。今回の和解も、君達の主導だからね」
気安い雰囲気で話し合う恭介達に、ミカは思わず目をパチパチしてしまう。そんなミカの様子に気付いたのか、恭介はすぐにミカに対して申し訳なさそうにする。
「ああ、すみません。ミカさんを放置して話をしてしまって」
「だ、大丈夫だよ!それで、和解についてなんだけど……」
「勿論、サオリ達から話は聞いています。彼女達が和解を決めたなら、私から特段告げることはありません。場合によっては苦言を呈しますが」
恭介はそう言って、引き出しから書類の束を取り出す。内容は、ミカの案をベースにした和解計画だ。
「内容自体は貴女が最初に持ち掛けた案を下地にして、アツコ達が作りました。まずは内容を確認して下さい」
恭介が差し出した書類をミカは受け取ると、その内容をしっかり確認し目を通していく。
「編入する生徒は白州アズサちゃんって娘なんだね。でも……本当に私が最初に提示した案でいいの?望むなら、私が防波堤になる形で大っぴらに交流してもいいけど……」
「気持ちだけ受け取っておきますよ。ですが、今はまだ秘密裏でやる方がアリウスにとって安全なんです」
「安全?」
「ええ。長年の確執もありますが……アリウスを支配せんとする“大人”の存在が、一番の理由なんです」
恭介の告げた事実に、ミカは息を呑んでしまう。アツコとサオリも恭介の言葉に同意するように頷いているから、その大人が実在するのは事実なのだろう。
「……一体、どんな大人なの?」
「簡潔に言い表すなら……生徒を使い捨ての道具程度にしか見ていない、危険人物です。事実、支配下に置いた生徒達に爆弾付きの首輪をはめていましたから」
「その爆弾も《ヘイロー破壊爆弾》と言う、その名称に違わないものだった。事実、私もその爆弾で大怪我を負ったからな」
「うん。もし先生がいなかったら、アリウスは彼女に支配されて、私達も使い捨ての兵士に仕立て上げられていた筈」
恭介達からベアトリーチェがどんな人物なのかを聞いたミカは、その話を聞いて顔を顰める。
「そんな大人がいるんだ……」
「ええ。彼女をアリウスから追い出しはしましたが……絶対に気を窺っているでしょう。加えて、アリウスの存在を考えなしに公にすれば……間違いなく混乱の渦に呑まれます。特にミカさんの所属するトリニティは、自治区内の問題として連邦生徒会を初めとした他の学園の介入を拒絶した上で、アリウスへと攻め入るかもしれません」
「そんな事は……!」
「分かってます。これはあくまで最悪の可能性の一つであり……一番の問題はアリウスは
「あ……」
ミカは咄嗟に否定しようとするも、恭介の本質を掘り下げた言葉で事の深刻さを漸く理解する。
そう。アリウスはトリニティから追い出され、逃げ延びた先で勝手に自治区を作り上げた、連邦生徒会達から見たら無法者の集団だ。向こうからしたら、
「その意味では、ミカさんの持ってきた和解案は一番現実的な計画とも言えます。既成事実を作ることで、トリニティの悪い方向への暴走にブレーキが掛けられますから」
その上でミカの提案は最善の案である事を恭介は告げるも、問題の深さを容赦なく突きつけられたミカの気持ちは暗い。純粋に仲直りしたい……その気持ちだけでは解決できない、決して無視してはいけない問題が存在していたのだから。
「……そんなに落ち込まなくていい。私達も先生に言われるまで気付かなかったし」
「ああ。確かに厳しい問題だが……お前のお陰で解消された部分もあるんだ」
「私のお陰で……?」
「はい。この問題の一番厄介な所は、
恭介が口にした通り、アリウスは自分から外の繋がりを作りに行くのが難しい。唯一の例外がアビドスであるが、それもか細く、いつ切れてしまってもおかしくない繋がりだ。
だからこそ、ミカが和解目的で自らアリウスに接触したのは絶好の機会でもあった。アリウスの事情も汲んだ上で、友好的な繋がりが得られるのだから。
「アハハ……サオリちゃんもアツコちゃんも凄いね。この話を聞いて、前向きに考えられるなんてね」
「そうなのか?いや、そうかもしれないな」
「だとしたら先生のお陰。生徒の夢を手伝うのも大人の仕事だって言ってたし」
「フフ……本当にいい先生なんだね。慕われている理由が分かる気がするなぁ」
そんな言葉を受け、恭介は恥ずかしげに頬を掻くのだった。