夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
∈月△日 雨
ミカさんが後見人となり、田舎からの転入生というカバーストーリーでアズサがトリニティ学園へと編入して早数ヵ月。
アズサの新しい学園生活は中々に波乱万丈の生活を送っている。編入して直ぐに部活申請して却下されて悄気たり、アリウス分校時代の癖でブービートラップを仕掛けたりと、ついつい苦笑してしまう内容ばかりだが。
ただ、トリニティで新しい友達が出来たみたいだ。可愛い動物のユルキャラ作品――《モモフレンズ》に惹かれ、同じく《モモフレンズ》を愛する同志と出会えたと手紙に書かれていた。
その子のモモフレンズ愛――鶏がモチーフのペロロへの愛は尊敬の念を覚える程だと。ペロロ愛を貫く為なら火の中、水の中、ブラックマーケットの中でもへっちゃらだと。さすがにブラックマーケットは比喩表現で、実際に足を踏み入れてはいないだろうが。
ブラックマーケットは文字通り、無法地帯の一角だ。退学や中退した不良生徒も蔓延る、連邦生徒会の管理が届かない場所……厳密には敢えて見逃している場所なんだろうけど。俗に言う、必要悪なんだろうな。
無法地帯は治安の悪さの象徴にもなりかねないが、ヘルメット団やスケバンが各自治区で蔓延っている方が逆に治安の悪化に繋がりかねない上、治安維持組織も万全の体制と言い難い感じだったしな。実際の所は不明ではあるが。
それと、連邦生徒会の会長が突如として失踪し、まるで入れ替わる形で連邦生徒会長が招いたとされる大人が現れたそうだ。
その大人の指揮する組織は連邦捜査部S.C.H.A.L.E――通称《シャーレ》。与えられた肩書きは“先生”だ。
連邦生徒会に属しながら独自の予算と権限を与えられているそうで、その裁量も広く高い。学園だけでなく、企業と団体にさえ条件さえ満たせば行使可能。人員の選抜もその大人――シャーレの先生の一存で決められる。要請さえあれば、何処であろうと、誰であろうと干渉・介入することができる超法的機関だ。
そして、一番の問題なのがこのシャーレの先生は、キヴォトスの“外”から来た大人だということだ。キヴォトスの“外”から来た人間……嫌でもベアトリーチェとの関係を疑ってしまう。《超人》の異名を持つ、顔も知らない連邦生徒会長の後任のような形で就任したのだから、どうしても邪推してしまう。
いや、私の時も似たような感じだったか?当時の彼女達からしたら、私は怪しい人物だっただろうし。身分の保証は全くなかったけど。
正直、シャーレの先生がどんな人物か気にはなるが……しばらく様子見するのが得策かな。下手につついてアリウスの存在がバレたら、状況が更に悪化しそうだし。
∈月§日 晴れ
まさかシャーレの先生がアビドスに直接赴いていたとは……これは本当に予想外だった。
この日はいつもの支払日……ホシノさんにお金を渡す日だったのだが、遠巻きに確認したアビドス校舎の中に見知らぬ大人の男性がいた。お金を渡す際にホシノさんに聞いてみたら、その人がシャーレの先生だと教えてくれた。
ホシノさんから話を聞いた限り、シャーレの先生はアビドスの借金問題にも力を貸す事にしたそうだ。アビドス復興対策委員会――その顧問として。さすが超法的機関、一存で臨時責任者になれるとは。使い方次第で本当に好き勝手できそうだ。
だけど、その話を聞いて私は懐かしさを覚え、昔のアリウスを思い出して笑ってしまった。その事でホシノさんに訝しがられたが、昔を思い出したと伝えて少し誤魔化しました。
ただ、ホシノさんのおかげでシャーレの先生の事が少し分かった気がします。シャーレの先生は生徒想いの善い大人の可能性があり、生徒を使い捨て道具にするベアトリーチェとは絶対に相容れないと。
もちろん演技の可能性も否定できませんが……もし本当に生徒想いの善い先生なら、アリウスの問題にも良き一石を投じてくれるかもしれません。
さすがに毎日は無理ですが……時間を見つけて観察しようと思う。【クリアカプセム】と【マジックカプセム】を駆使して。
∈月∇日 晴れ
本当に何をしているんですか、アズサ。いや、本当に何でトリニティを抜け出してブラックマーケットにいるんですか?それも、友達らしき同級生と一緒に。
シャーレの先生を含めたアビドスの生徒の皆さんが何処かへ行こうとしていたので、私もこっそり後を着けたのですが……その行き着いた先がブラックマーケットでした。最初はブラックマーケットで何か調べ物があるのかと思いましたが……アズサを見つけてその思考が綺麗に吹き飛びましたよ。ええ。
“和解の象徴”として変に気張る事なく、学園生活を謳歌して欲しい……トリニティへの転入する前日にそう伝えましたが、何がどうなったらブラックマーケットに足を踏み入れる事になるんですか。確かトリニティでは、ブラックマーケットへの立ち入りは校則で禁止されていた筈です。
とにかく、事情確認の為に【クリアカプセム】で透明になりつつ物陰に隠れて会話を盗み聞きしたら……アズサの友達、阿慈谷ヒフミさんが主犯でした。
ヒフミさんはモモフレ(モモフレンズの略称)の限定グッズ――限定販売されていたペロログッズ欲しさに、それなりの頻度で授業を抜け出してブラックマーケットに足を運んでいるみたいです。アズサもヒフミさんに付き合うように、五回に一回のペースで同行していると。毎回でないだけマシだと安心すべきなのか、授業をサボった事に嘆くべきなのか……これが子を持つ親の心情なんでしょうか?本当に複雑です。
そして、アビドスの皆がブラックマーケットに足を踏み入れた理由は、校舎を襲撃していた《カタカタヘルメット団》の所持していた武器の流通ルートの調査が目的でした。その為、ブラックマーケットに詳しいヒフミさんに案内を頼み込み、ヒフミさんも勢いに押されて了承してしまいました。アズサも似たり寄ったりです。
その結果……見事にやらかしてくれました。一応、身バレしないようにしていましたが。今度、どんな顔をして会えばいいのかが悩みの種です。それとシャーレの先生、そこは普通に止めなさい。動機を加味しても普通にアウトですから。無法地帯だから少しならセーフとでも考えたんですか?証拠集めだから大丈夫と考えたんですか?禁じ手に頼る前に、他の手段を考えて下さい。
ただ、その会話を聞いて大元――カイザーコーポレーションの狙いもある程度は予想が出来ました。
カイザーコーポレーションは端的に言えば、世界征服を目論む企業。合法的な手段で各自治区に干渉し、その影響力を高めている。だが、学園が企業より立場が上である事が当たり前の構図では、その野望は絵空事にしかならない。
だから、アビドスの土地を手に入れ学園を潰そうとしているのだろう。カイザーコーポレーションが主導の学園を設立させる為に。連邦生徒会が口出しも手出しも出来ない状況にする為に。学園都市の中枢でもある連邦生徒会に介入できる扉を作るために。
それなら少額でしか元金が減らない今の返済状況に目を瞑っているのも納得がいく。相手は元々お金を回収するのが目的ではないのだから。
ここからどう事態を好転させられるのか……それがシャーレの先生の課題かもしれない。
∈月∃日 晴れ
本当にどうしてトラブルが起きる時は連続して起こるのか。
ヒヨリがお面を着けて働いているバイト先――《柴関ラーメン》で爆発騒ぎが起きた。
その日はヒヨリがシフトに入っており、人の良い店主の大将(犬の獣人)もアビドスの生徒と鉢合わせしないようにシフトを組んでくれていた。本当に大将は人が良く、持ち帰れるように賄いのラーメンを振る舞ってくれていたのだから。
その大将の店が、ゲヘナ絡みで爆破された。その爆発にヒヨリも巻き込まれ、そのまま騒動に巻き込まれてしまった。便利屋68と名乗った彼女達なのか、その便利屋を捕らえようとしたゲヘナ風紀委員会の攻撃が原因かは分からないが、一般人を巻き込んでしまった時点でアウトだ。便利屋の面々はちゃんと謝っていたそうだが。
それで仕方なく、ヒヨリは私物の対物ライフルでアビドス組を援護したとの事。大将も怪我を負っていたから、その分だけでもと考えて私物の対物狙撃銃で後方支援に徹したと。その後、対策委員会から質問攻めに合い、謝罪と共に逃げたとのこと。此ばっかりは……うん、さすがにどうしようもない。
大将には後日、お見舞いに行こうと思う。なけなしではあるが、見舞いの品も持って。
∈月∥日 晴れ
ベアチリーチェの所属先が分かった。
彼女が所属する組織の名は《ゲマトリア》……端的に言えば研究サークルのような組織だ。一定の決まりはあるが、基本的には自由。誰が何をしようと要請がない限りは不干渉。互いに“実験”の邪魔をせず、成果を共有し合い、“崇高”へと至る道を探す……そんな組織だ。
その《ゲマトリア》の一人……全身真っ黒で白い亀裂のような光が顔を作っている黒服が私に接触してきた。ホシノさんからの手紙を渡しに。
その手紙の内容を確認し……黒服に幾つか質問してから、容赦なく攻撃を仕掛けた。ナイトアリウスに変身して殺る気満々で。
何故なら、ホシノさんの手紙には黒服から私……アリウスの事を教えられ、暗に契約に乗らなかったらアリウスを危険に晒す語り口だったと書かれていたからだ。
それだけでも抹消対象だが、黒服の立ち位置を知る為に幾つか質問した。そこで《ゲマトリア》の事と、ベアチリーチェは後から加入した人物である事も聞いた。
だから、最初は黒服を消すつもりで襲い掛かった。ベアチリーチェにも次はないとハッキリ言っていたし、仲間も協力者も同様だと彼女にも釘を差したからな。その上で、このような手を打ってきた。ベアチリーチェはアリウスの支配を諦めているとは微塵も思えないし、現時点では口だけとはいえ、この黒服も似たり寄ったりの可能性が高いからな。
最初は殴打だったが、意外と頑丈だったから途中からブレイカムバスターで攻撃し続けた。黒服も何かしらの抵抗をしようとしたが、その前に潰し続けた。
一方的にボコり続け、満身創痍の状態となった黒服に【イレイサーカプセム】をセットした、ランチャーモードのブレイカムバスターでトドメを刺そうとしたら、何故ここまでするのかと黒服が聞いてきた。自分がやった事を全く理解していない問い掛けだったから、あの世への片道切符の代わりとしてハッキリと教えてやった。次はないと警告したにも関わらず、ここまでの事をした奴を排除しない道理はないと。
私のその言葉を聞いた黒服は、低い声で笑い声を上げると、確かに道理だと意外にも納得の雰囲気を出していた。同時に知らなかったとも溢していた。
念のために詳しく聞いたら、ベアチリーチェからは事の大筋しか聞いておらず、“警告”に関しては寝耳に水だったと話した。知っていたら、それも考慮した交渉をホシノさんに迫っていたと。
そもそも、黒服個人としては興味深い観察対象の私との敵対関係は望んでおらず、今まで接触しなかったのもベアチリーチェとの関係から協力は難しいと判断して遠くから眺める程度に留めていたからだと。今回の接触も、まだ交渉の余地――ホシノさんとの契約が“履行の途中”である事を利用した上で、双方が納得のいく“契約”を結ぼうとしたが、前提を致命的に間違えてしまったと自虐していた。
黒服の弁明に近い言い分が、本当か嘘かは私には確証が得られない。かと言って、このまま見逃せば他の《ゲマトリア》のメンバーが似たような真似をしないとも限らない。互いに不干渉だから、ベアチリーチェに対する抑止力としての効果もないと見ていい。だから、交換条件を黒服に提示した。
――自身の命と研究資料に、何れだけの金銭の価値を付けるのかと。
私のその問い掛けに、意図を正確に察した黒服は中々に悪い大人だと呟いた。別に聖人君子でもないし、慈愛に溢れた人物でもない。ベアチリーチェを抹消する選択をしている時点で、私は十分に“悪い大人”だからな。
結果、黒服から誰が使っても一切問題の無い金――総額二十億近い金をふんだくった。その使い道を察している黒服は手痛い結果に終わったと落胆の色が混じった声で呟いたが、それくらいじゃないと“牽制”にならないと返したら、本人は確かにとあっさり納得した。
しかし、即金で二十億払えるとか……本当にどんな方法で金を貯めていたんだろうな。
それと、次は今度こそないと伝えた。要求さえ呑めば見逃されると思われるのも面倒だからな。後、今回の件が解決したら、ホシノさんと少しキツいお話をしないと。
不法侵入で校舎に入り、彼女達宛に書いた手紙についてだけは、余所者でも叱らないと駄目ですからね。
原作との相違点
アズサ:覆面水着団の一人となる。ヒフミと同じ紙袋で番号は六。呼び名は《ペンギン》。
ヒヨリ:柴関ラーメンでお面を着けてバイト中、騒動に巻き込まれる。
黒服:速水恭介の存在から慎重に計画を進めていたつもりが、カイザーの先走りとベアおばが正確な共有を怠ったことで、見事に破綻する。
未登場のカイザー理事:本来は黒服から連絡を受けてから動くつもりが、プレジデントの圧力によってしぶしぶ回収に動く羽目に。ふてぶてしい態度であったが、実際はシャーレの先生が気付かないか内心ヒヤヒヤしていた。