夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
□月×日 曇り
本当に人を教え導くのは難しいと常々思います。ホシノさんに説教をし、大泣きさせてしまいましたから。ある程度泣かせてしまう事は覚悟しれいましたが、女の子の泣く姿は本当に心にクルものがあります。
説教が終わった後で、ホシノさんに黒服から搾り取ったお金――十五億が入っている通帳とカードを渡した。ホシノさんは受け取れないと断ろうとしましたが、渡す理由を話して少し強引に受け取らせました。
余計なお節介である事も否定しませんが、一番の理由は黒服への“嫌がらせ”ですからね。自分の金が嵌めようとしたアビドスに使われるのは、黒服の胃にそこそこのダメージを与えられるかもしれないですからね。単純な善意だけではない事に、ホシノさんは苦笑いしましたが。
その十五億は、今は使わずに取っておく事にしたそうです。このお金を使えば借金も一瞬で解決する上にお釣もあるけど、そうなった場合のカイザーの動きが分からないから敢えて現状維持をすると。
そのホシノさんの言い分は理に叶っていると私も思いました。合法であれば手段を選ばないカイザーが、アビドスの土地に眠る“宝物”が目当てで嵌めたカイザーが、今度はどんな手を使うか予想できませんからね。利息の方も今回の騒動の手打ちで最低値へと変更されましたし。
アビドスとアリウスの“契約”もこのまま継続する事も決まり、に関しては引き続き秘密のままで約束しましたしね。その理由と事情も、ある程度お話しして。
ホシノさんは大した力になれない事に落ち込んでいましたが、アリウスの件を他のアビドス生徒だけでなくシャーレの先生にも隠すのだから、その気苦労さを考えれば十分に力になると返しました。ホシノさんも質問攻めに合う未来を想像し、疲れたように肩を落としました。
それと、清掃活動で砂を回収する許可もカイザーから掠め取ったそうです。正式な自治区以外……カイザー名義の土地でも砂を集められるように後輩の一人が提案したと。
ただ、砂の回収量が増えても、その全てを買い取れるわけではありませんからね。その事を踏まえつつ、ミレニアムにも売る事も提案させて貰いました。
ミレニアムは研究・開発に重きを置いた学園……その為には資金だけでなく、材料も必要となります。砂は成分次第では電子部品の原料にもなりますし、代用品で賄っていても製造コストもそれなりに掛かりますしね。
それに加えて交渉の時にシャーレの先生に間に入ってもらえれば、一番の不安要素も払拭できる筈です。あくまで中立の立場となるでしょうが、一方的な取引とはならない筈です。
私がそこまで説明すると、ホシノさんは完全に盲点だったと呟きました。同時に砂が資源になるなら、もっと早くに思い付きそうだとも。
それに関してはおそらくではあるが、砂を売る必要がない程栄えていた時期が長かった事と、アビドスに依存しない体制を進めていた事、大規模な自然災害が重なったことで砂を売るという発想自体が浮かばなかったからではないかと返しました。
衰退する前のアビドスはトリニティとゲヘナ以上の、連邦生徒会にも影響を与える一大勢力でしたから、その影響力を減らす施策を進めていても不思議ではありません。それに、生活基準は簡単に落とせませんからね。オアシス……アビドスのライフラインを支えていた大部分が無くなってしまった時点で、高水準だった活動と規模を大きく下げて、残ったライフラインで回せるレベルにしていれば、まだ可能性は残っていたかもしれません。
もちろん、これは何も知らない外野の意見なので、実際には違う可能性も伝えました。衰退前は学園もかなりの数でしたから、それに応じた数のトップもいたでしょうし。方針の違いや意見の対立等で足並みが揃わず、結果として悪化に拍車を掛けた可能性もありますから。ホシノさんはそれを聞いて、あり得そうだと呟きました。
肝心の砂の回収も取りすぎると問題になりますが、砂嵐で建物が埋もれる程に大量ですからね。むしろ逆に多すぎて環境悪化に繋がっているような状況ですから、回収しても問題ないですし現状における真っ当な返済手段ですからね。
これぞ災い転じて福と成す……余分な砂は売るに限るというヤツです!!
あ、勿論こちらも砂は買い取りますよ。セメントにタイル……その原料になりますからね。最近はタイルアートを授業として始めて好評ですしね!
□月§日 雨
やはり乳製品問題が大きいですね。牛乳、チーズ、アイスクリーム……後、関係ないですが牛肉も。
此ばかりは生徒達だけでやるには厳しいですからね。毎日付きっきりで世話をしないといけませんし、鶏のように当番制にするには解決すべき課題が多すぎますし。
今はアビドスでのバイト代とミカさんの支援で少量とはいえ流通し始めていますが、やはり自治区内で用意できないのは厳しいですね。牛の飼育に適した場所の候補は幾つか見つけていますが、飼育のノウハウと付きっきりの責任者がいないので今のままでは絵に書いた餅ですね。
そのミカさんとも何度か会って話していますが、彼女の目から見てもアズサは問題なくトリニティでやっていけているそうです。ヒフミさん……ミカさんの幼馴染みの友達とも親しくて、一緒にいるところをよく見かけていると。
私もそれだけ聞けばニコニコでしたが、ブラックマーケットの件があるので複雑でした。ミカさんが冗談と笑い飛ばした、ブラックマーケットの出入りに目を逸らしてしまいましたし。
どちらにせよ、アズサが元気に過ごせているのなら安心ですからね。ミカさんも、出来れば卒業前に堂々と交流できたらいいなと口にしていましたし。
トリニティ総合学園、《ティーパーティー》のホスト――百合園セイアは不安に駆られていた。
自身の能力――夢を介して未来を知る能力が、夢を渡り歩いて過去を知る能力が、
彼女が見た予知夢――世界の終わりの夢は見えたままだし、悲劇へと至る夢も数多くある。しかし、何時からかは不明だが、何も見えない白い夢が出てきたのだ。
勿論セイアはすぐにその夢の中に入り、調べようとした。だが、まるで硬い殻に覆われているかのように、その夢の中に入れなかった。それだけに留まらず、その白い夢は日を追うごとに徐々に増えてきているのだ。セイアの感覚では、半分以上がその白い夢に覆い尽くされてしまっているのだ。
だが、全くの手掛かりがないわけではない。美園ミカ――夢を介して過去を見ようとした幼馴染みの何ヵ所かが、白く塗り潰されたかのように見えなくなっていたのだから。
ミカに試しに最近何をしているのかと探りを入れてみたが、少し動揺しながらも何もないと返された。あれは何かを隠している反応だとセイアは見抜いた。
しかし、自分の能力ではその隠し事を調べられない。かと言って、このまま何もせずに座して待つのも論外だ。
加えて、自分が何者かに襲撃される夢も見ている。まだ自分の能力で見れる夢――未来を知る予知夢で事前に察知出来ている。だが、その方法も手段も分からない。
故に、逃走する為の手札を用意する事にした。スモークグレネード……外見では通常のグレネードと見分けがつかない煙幕弾を。誰にも悟られるよう、秘密裏に手に入れて。セイア自身では判別は出来ないが、渡した相手が
念のために二つ用意し、予知夢で知った襲撃日に備え――
――百合園セイアのいる部屋が、爆発した。
「フフ……実に期待通りの動きをしてくれましたね。百合園セイア」
その光景を、とある空間から覗いていた“大人”――ベアトリーチェは目論見通りに進んだ事にほくそ笑む。
「貴女が用意したスモークグレネード……自身では通常のグレネードとの見分けが付かないからこそ、他者の認識に依存する。ですが、その他者の
ベアトリーチェが今いる場所は、あらゆる事象、認識、思考へと干渉できる。“退学”という形で不本意にもキヴォトスと深く結び付き、自身の“眼”を使って見つけた裏の領域。
しかし、この場所は見つけた当初はベアトリーチェにとって使い勝手が悪かった。干渉を止めれば元に戻る上、歪めた認識でさえも頭が冷えたかのように元へと戻ってしまう。加えて、此処を離れれば自動的に干渉も止まる。
ベアトリーチェも最初こそ無駄な場所と落胆したが……検証を進める中で有効な利用法を見出だしていた。
――対象に直接干渉するのではなく、情報を与えて誘導する。不安定な者に不穏な情報を周りを動かして拾わせ、不安を煽っていく。小さな変化を要所要所に与え、自滅へと誘っていく。
その第一段階――百合園セイアの
ここでその事実を伝えればまた違ったかもしれないが、受け取った相手が生徒――ヘイローを持つ者であることが災いする。銃撃や爆撃が軽い怪我程度で済む者が相手なら、わざわざ伝える必要もないと放置した。銃弾と爆撃が飛び交うのは、日常茶飯事レベルで当たり前なのだから。あのサイズのグレネードなら、威力もそこまでないと高を括って。
セイアが予知夢で見た襲撃の光景、種類が不透明となったグレネード……そこでベアトリーチェが直接干渉し、
勿論、この程度の爆発でセイアは死ぬことはない。重要なのは、爆発した事実そのものだ。
「当然、貴女は疑うでしょう。最悪の可能性を。スモークグレネードが何者かに通常のグレネードへと入れ替えられた可能性を。自身の能力でさえ、見つけられない敵の存在の可能性を」
実際セイアは、自身の能力を妨害されていると感じている。実際は違うのだが、能力の高さを疑うことをしないセイアは気付かないだろう。
「そうなれば……貴女は自分が死んだ事にして、安全を確保するでしょう。それが、悪手であると気付かずに」
子供は大人に搾取されるべき、弱き存在。だからこそ簡単に騙され、手のひらの上で踊らされる。今のセイアのように。
「その事実がトリニティ全般……美園ミカへと伝わり、彼女からアリウスへと伝わる。そして、私の暗躍を疑って動かざぬを得なくなる」
幾ら隠そうと不安は漏れ、伝搬し、全体へと広がっていく。その不安が追い詰め、磨り減らし、暴挙へと至る。そして、互いの信じる正義がぶつかり合い、ベアトリーチェが望んだ展開へと至る。
――引き返す事の出来ない、血が血を洗う、生き残りを賭けた戦争へと。
「桐藤ナギサ、美園ミカ……貴女達は守るものの為に傷付け合う。速水恭介……貴方が強くても、この盤面に対しては無力。貴方はアリウスを守る“大人”ですからね」
ベアトリーチェはこれから訪れるであろう未来の光景――トリニティとアリウスの泥沼の争いを思い浮かべる。“代用品”は間に合わなかったが、首尾よく事が進めば“オリジナル”を回収できるから問題はない。
ベアトリーチェは近い内に訪れる勝利の瞬間に酔い、三日月のような笑みを浮かべるのだった。