夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
×月□日 晴れ
本日、スクワッドの皆と一緒にミカさんから相談を受けました。
《ティーパーティー》のホスト――簡単に言えばトリニティのトップであるセイアさんから隠し事を疑われていると。
ミカさんの話を聞いた限りではありますが、セイアさんはアリウスよりゲヘナとの和平……《エデン条約》の締結に重きを置いており、アリウスとの和解については反対の立場を取っているとのこと。
そして、もう一人の《ティーパーティー》のメンバーであるナギサさんも、セイアさんと同調するように反対の立場を取っていると。
今回の探りでもし、セイアさんにアリウスの件がバレたらどうなるか分からず、不安となって私達へと相談に来たそうです。
ミカさんから話を聞き終えたスクワッドの反応は様々でした。拉致するか、正直に話すか、誤魔化し続けるか、引き摺り下ろすかと。物騒な言葉もありましたが、口より銃が出る世界なら当然の認識なんでしょうか?コンビニで銃弾が買えるくらい、身近な品ですし。
ある程度スクワッドとミカさんで話し合い、行き詰まったタイミングでアツコが私の意見を求めました。あくまで判断材料の一つと前置きしてから、自身の考えを話しました。
まず、セイアさんとしてもアリウスの存在を公にしようとは思えないと伝えました。互いの関係と過去の行いから、アリウスがトリニティ憎しで染まっていると予想している上、下手に火種を作るのはトップとしては避けたい筈だと。
加えて、ミカさんが知る通りアリウスはトリニティとの和解に対しては前向きです。一学園としての独立を視野に入れていますから、融和ではないのでハードルはそこまで高くない筈ですしね。
ただ、いきなり全部を話すのもリスクがありますから、段階的な会話で様子見するのが良いかもしれないと伝えました。具体的な例を上げるなら、お茶の場でミカさんがもしもの話として自分のしている事を話して、その反応を見て決めればいいと。
そう伝えたら、スクワッドもミカさんもそれなら……と納得していました。多少勘繰られたとしても、不利益な行動をしている訳でもないですし、秘密裏で進めている状態ですからね。
それに……ミカさんの幼馴染み達を信じてみたい気持ちもありますからね。一人でも笑顔でいてほしいですし。
×月×日 雨
酷く思い詰めたミカさんから、衝撃の報告を受けました。
セイアさんのいた部屋が爆発し、表向きには怪我で入院中となっているが、本当はヘイローが破壊されたと。その報告が、トリニティの医療部――救護に対して強い信念のある《救護騎士団》からもたらされたと。
ミカさんは何かの間違いだと、今にも泣きそうな声で呟いていましたが、私達も含めてそれが間違いではない可能性を知っている故に何も言えませんでした。
爆発にヘイローの破壊……その二つの組み合わせはアリウスにとって、あまりにも心当たりがあり過ぎたからです。ヘイロー破壊爆弾……かつてベアトリーチェが持ち込み、サオリ達に大怪我を負わせ、逆らえぬ首輪としても利用された、生徒を殺せる爆弾の存在を知っていたから。
侵入の痕跡もなく、犯人の手掛かりすらない状況。その状況でホストの代理を務める事となったナギサさんも表面こそ取り繕っていたそうですが、無理をしているように感じられたとミカさんは呟きました。
このような事態になった以上、アリウスとしても他人事ではいられません。ベアトリーチェは間違いなくアリウスを狙っているでしょうし、今回の件を上手くリークしてアリウスに擦り付ける可能性もある。アレはそれくらいやりそうだからな。
どちらにせよ、今は警戒しつつ慎重に様子を見るしかない。向こうの手口が分からない上、下手に動いて墓穴をほれば、それこそ相手の思う壺だからな。
念のため、アズサにもこの事は共有しておかないと。場合によってはアズサにも動いてもらう必要があるかもしれませんし。
×月∇日 晴れ
ホストの代行となったナギサさんが疑心暗鬼に陥り、暴走しているそうです。
ミカさんの報告では、ナギサさんは内部からの手引きの可能性を強く疑い、その中で怪しい人物をピックアップしたそうです。
その対象は四人。浦和ハナコさんに下江コハルさん、阿慈谷ヒフミさんに――“和解の象徴”である白州アズサを。
ミカさんの見解ではコハルさん以外が疑いの対象で、彼女だけは《正義実現委員会》に対する“人質”だろうと答えました。加えて、前回のテストで赤点――ヒフミさんとアズサは欠席で0点――という最もらしい理由があった為に、それらしい理由で一纏めにできてしまうとも。
ナギサさんはその為に《補修授業部》――表向きは成績が良くない生徒の学力向上目的だが、実際は“内通者”ないし“裏切者”探しの檻として立ち上げた部活動に四人を押し込み、そこで“内通者”を退学に追い込むつもりなのだとミカさんは伝えました。
当然、ミカさんはやり過ぎだとナギサさんに抗議し、自身が“裏切者”と疑われるのも承知で退学の撤回を求めましたが……ナギサさんは頑なにミカさんの言葉を拒絶したそうです。ミカさんの言葉すら届かない程とは……トリニティに置ける負の側面が最悪の形で際立ってしまっていると感じました。
トリニティ総合学園は設立の経緯から、幾つかの派閥が存在しています。その主流が《パテル派》、《フィリス派》、《サンクトゥス派》の三つですが、三大派閥も含め、互いに陰湿な派閥争いが裏で横行している事が過去の調べで触り程度で知れています。
ましてや《ティーパーティー》では、その醜い側面をまざまざと見せつけられているでしょう。ミカさんのような性善説を信じている人なら見落としていたかもしれませんが、おそらくナギサさんはその一面を深く理解していると見ていいでしょう。
加えて、今のナギサさんは幼馴染みのミカさん以外の全てを疑ってしまっている状態です。《正義実現委員会》に《シスターフッド》、《救護騎士団》でさえも。ミカさんの優しさを誰よりも理解しているからこそ、幼馴染みを手に掛ける行為は絶対にしないと確信を持っているから。
そんな今のナギサさんにアリウスの事を知られれば、セイアさんを襲撃した犯人がアリウスだと断定されかねない。実際は濡れ衣なのだが、向こうの視点と認識では十分な動機があり、和解に対して前向きである事も知らないのだから。
それが現実となれば、彼女は代行の権限を総動員して、アリウスの排除に動きかねないとミカさんは言いました。対面し、対話を続けているミカさんがそう言うなら、その可能性は十分にあるのだろう。そうなれば、ベアトリーチェにとって絶好の機会となる。
私もアリウスの皆も、ミカさんに苦しい想いをさせてしまい、申し訳なく思います。いざとなったら、力になるとも伝えました。全てをミカさん一人に背負わせる訳にはいきませんから。
今はミカさんの頑張りに頼るしかない、この状況が本当に辛いです。
×月☆日 晴れ
シャーレの先生がナギサさんの依頼で、《補修授業部》の顧問として招かれました。
まさかシャーレの先生が来るとは思いませんでしたが、最悪を回避するキーマンになってくれるかもしれません。
シャーレの先生は生徒達の味方……片方に肩入れするのではなく、平等に接して両方を救おうと奔走する大人なら、ナギサさんに寄り添いつつもアズサ達を守ろうと動く筈。
勉強の為の合宿所も隔離同然でアズサと話し合えませんが……どうか平和的な解決になるよう願います。
×月∂日 晴れ
シャーレの先生による、ナギサさんの説得は失敗に終わったみたいです。
ミカさんもシャーレの先生にある程度の事情を話し、ナギサさんを説得してほしいとお願いしたそうです。
シャーレの先生は事情を伏せた上で、ナギサさんの説得を試みたそうですが、シャーレの先生の言葉も届かなかったとの事。退学そのものの撤回はもちろん、一人でも指定された点数以下であれば全員退学という理不尽な決定さえも取り消す事が出来なかった。
実際、二回目のテストの試験会場がゲヘナ自治区内であったりと、《エデン条約》の件を考えれば本末転倒になりかねない場所に指定していたのだから。
そして三回目の試験……試験当日の会場周りを別の理由で誰も立ち入らせないよう、戒厳令を敷いて《正義実現委員会》で周りを固める暴挙にまで出たそうです。
何度かナギサさんを掴まえ、説得を試みたミカさんも、最後の手段に出るしかないと覚悟を決めていました。
――一人でクーデターを起こし、ナギサさんをホストの座から降ろし、自身が新たなホストになる事を。
本当はミカさんもこんな事はしたくはないのでしょう。ですが、このままではアズサ達が退学にさせられる上、トリニティの内部もズタズタになりかねない。もう、他に手がないと声が震えていました。一人でやろうとしているのは、自分だけが泥を被るつもりなのでしょう。
その覚悟を聞き……私達は一つの賭けを提案しました。シャーレの先生次第ではあるが、上手くいけば誤魔化す事が出来ると。
ミカさんもそれを聞き……少しでも可能性があるならと頷いてくれました。
シャーレの先生……貴方が本当に生徒皆を守る“先生”であれば、茶番劇に乗ってくれる事を祈ります。
《補修授業部》の合宿所にて。
「……皆、聞いてほしいことがある」
第二次学力試験も失敗に終わり、最後のチャンスである第三次学力試験で全員九十点以上取らなければ全員“退学”と後が無くなった中、アズサが何かを決意したような顔で言葉を紡いだ。
「アズサちゃん……?」
「……?」
「…………」
まるで覚悟を決めたようなアズサの雰囲気に、ヒフミとコハルは困惑し、ハナコは探るかのような表情で言葉を待っている。シャーレの先生はミカからある程度事情を聞いている為、アズサが何を語ろうとしているのかを察している。
誰もがアズサの言葉を待ち、その視線の中でアズサは彼女らを信じて自身が知る限りの事情を……アリウスの事情を語る為、その口を開く。
「彼女が探している“裏切者”……いや、百合園セイアを襲った可能性のある“犯人”は
「「「「!?」」」」
アズサのその言葉に何も知らないヒフミとコハルは勿論、事態を察していたハナコと事情をある程度知っていたシャーレの先生ですら驚きの表情をしている。
「セイアさんが襲われた……?え?え!?」
「ちょちょちょ!?裏切者がいないってどういう事!?いないのなら、何で私達が疑われてるのよ!?」
セイアが襲われた事実と、ナギサが探している“裏切者”が存在しないという言葉に、ヒフミとコハルは大いに混乱する。
「アズサさん。それはどういう……」
「順を追って説明する。先ずは話の前提として、私の書類上の転入前の学園は偽装だ。本当の出身校は……《アリウス分校》だ」
アズサが明かしたトリニティに編入する前に通っていた学園――それが《アリウス分校》であった事にハナコは無言でアズサを見つめ、次にシャーレの先生を見つめる。
「……先生は、知っていたのですか?」
「うん。ミカから教えられてね」
ハナコの問い掛けにシャーレの先生は肯定するように頷く。ミカから聞いた話――アズサがアリウスとトリニティの“和解の象徴”を目的として転入させ、トリニティでの学園生活を謳歌してもらっていたと。
「アリウス分校……その存在は知っていましたが、彼女らが――」
「それは違う。むしろ、ミカが提案した和解には、前向きに進めていたんだ」
「……え?」
ハナコは自身の持つ情報からアリウスが“犯人”だと判断しようとしたが、それを察したアズサによって真っ向から否定される。ハナコが犯人を間違えるのも無理はない。そもそもの“前提”から間違っているのだから。
「確かにアリウスはかつて酷い状態だったが、数年前に争いは収まり、生活も安定している。一から野菜や麦を栽培し、鶏も飼育していた。授業も部活動も、アリウスの“先生”のおかげで復活している」
「ですが、アリウスはトリニティの事を……」
「確かに全員が良い感情を抱いているわけではないが、復讐しようとまでは考えていない。吸収や合併だったら、全員で徹底抗戦しただろうが」
アリウス出身のアズサが断言したことで、ハナコは誰が“犯人”なのか分からなくなる。それも、ヒフミの疑問によって解消される。
「えっと……それなら、何で今まで秘密にしていたの?」
「利用は色々とあるが……一番の理由はある“大人”の存在からだ。その大人の名はベアトリーチェ……かつてアリウスを力と恐怖で支配しようとした、今もアリウスを狙っている女だ」
「ベアトリーチェ……その大人が、セイアさんを襲った犯人だと?」
「証拠はない。だが、少なくとも彼女が関与していると見ていい。何故なら彼女は、
「「「「!!」」」」
アズサが告げた事実に、その場にいた全員が息を呑む。ヘイローを破壊する兵器……その事実はヒフミ達よりも裏事情を知るシャーレの先生に強い衝撃を与えた、言葉だけで危険性が分かる兵器なのだから。
「そんな兵器が、本当に……?」
「ああ。事実、その爆弾で大怪我を負った者がいたし……首輪として取り付けられてもいたからな」
「「「「…………」」」」
あまりの衝撃に、シャーレの先生達も言葉を失ってしまう。それだけで、ベアトリーチェがどれ程危険な人物なのか想像できたのだから。
「……色々と合点がいきました。同時に今のこの状況は――」
「ああ。ベアトリーチェにとっては間違いなく好機……下手をすれば、トリニティとアリウスでの“戦争”になる」
ハナコの言葉を引き継ぐように、アズサが重苦しげに答えを口にする。それは、あまりにも“現実”と成りかねないものだった。
事実、アズサの話が真実なら、トリニティ内に“裏切者”は何処にもいない。そもそも存在すらしないのだから、幾ら探しても見つからないのが当然だ。にも関わらず、存在しない“裏切者”でここまで拗れてしまった。
その状況で、今の疑心暗鬼のナギサがアリウスの存在を知ればどうなるか。知れば一切の疑問を抱かず、彼女らが犯人だと断定するだろう。ハナコ自身も、アズサが否定しなければアリウスの犯行だと判断しかけたのだから。
そして、それが現実に成りうる可能性を、シャーレの先生が一番理解している。その理由は――あの日、アズサの秘密を教えたミカの最後に問い掛けた言葉があるからだ。
『……先生。もし、話し合いで解決できなくて、力で強引に押し通すしか方法がなくなった時……先生はどうする?』
ミカのその質問に、シャーレの先生はすぐに答える事が出来ず、ミカ本人もすぐに取り消したが……あれは彼女のSOSだったのだと、今更になって気が付く。
きっとミカは、アズサ達を守る為にナギサの暴走を力で止めようとするだろう。それが成功したならまだしも、もし失敗すれば最悪の展開へと進んでしまうだろう。
ミカを唆した犯人は誰なのか。彼女の過去の発言からアリウスの可能性に至ったら、問答無用で報復へと動き、どちらかが倒れるまで止まらない、文字通りの戦争へと至ってしまう。
「……アズサ。アリウスがどう動くか、分かる?」
「……正直、分からない。少なくとも、ミカを見捨てる真似はしない事は確かだが……」
シャーレの先生は問題の先送りと理解しつつも、アズサにアリウスの行動を問いかける。アズサはそれに対し、分からないと返す。
せめてアリウスとコンタクトが取れればと思うが、アズサも含めてアリウスと接触する手段がない。まさに八方塞がりの四面楚歌。手詰まりに近い状況であった。
「仮にミカさんがクーデターを起こせば、事の深刻さも踏まえてアリウスはミカさんに協力する。仮に事前に阻止しても、今のナギサさんではそこで止まれない可能性が高い……せめて彼女が、ミカさんの言葉に歩めていたら……」
「クーデター!?本当にどうしてこうなるのよ!?」
「どどど、どうしましょう!?なんか、こう、良い感じに誤魔化せないでしょうか!?」
「……誤魔化す?」
ヒフミのその言葉に、シャーレの先生は反芻するように呟く。そして、ミカから聞いたアリウスの“先生”の存在と人となり……
そこでシャーレの先生は、一筋の可能性を見出だす。
「アズサ。ミカから聞いたアリウスの“先生”……彼も、生徒を大切にする大人なんだよね?」
「?あ、ああ。確かに先生は、シャーレの先生に近いタイプだが……?」
「……もしそうなら、何とかなるかもしれない」
「ほ、本当に!?」
「うん……彼が、私の思う通りの人物ならね」
シャーレの先生はそう言って、自身の考えを口にする。
本当に生徒を思う同じ“先生”なら、クーデターを茶番劇にすげ替えると信じて。