夢の力で青春を手助け   作:ライダー志望

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一時収束

突然起きた外での爆発に、その場にいた全員が驚き音がした方へと顔を向ける。

その方角に目を向けた途端、アリウス生達は何かを察した表情となり、アズサは気まずそうにスッと視線を逸らす。その反応を見て、ハナコも爆発の原因をすぐに察した。

 

「えっと……今の爆発は……?」

「……アズサの仕掛けたトラップに、誰かが引っ掛かったのだろう。私達はそれを避けて通ったが……」

 

ヒフミの疑問にサオリが嘆息混じりで答える。その答えを聞いた瞬間、ナギサ以外の残りのメンバーがどこか呆れたかのように納得した表情となる。

アズサはアリウス時代はもちろん、トリニティで暮らしている間も頻繁にブービートラップを設置していた。当然、この合宿所周辺にもトラップが配置されており、そのトラップに此方に向かっていた誰かが掛かってしまったと見ていい。サオリ達が引っ掛からなかったのは、遅い進軍とアズサが所属していた《サバイバル部》の部員がいたからだ。

威力自体は足止めが目的なので大した威力はない。問題なのは、誰が引っ掛かったかだ。

 

「……状況から考えて、貴女が呼んだ人達ですよね?」

「はい。その可能性が高いかと……」

 

スバルの確認にハナコは苦笑いしながら肯定する。この爆発のせいで話が拗れそうな気配を感じるが……変に誤魔化すより正直に話した方がいいだろう。そもそもこのような事態になったのは、必要以上に隠してしまった事が発端なのだから。

爆発から数分後、少し煤けた修道服を着たシスター三人が体育館へと入って来る。

歌住サクラコ。若葉ヒナタ。伊落マリー。

《シスターフッド》に所属し、その長でもあるサクラコはニッコリと笑みを浮かべて口を開く。

 

「……此方に向かう途中、何者かが仕掛けた罠で爆発の被害を受けました。その犯人に心当りはないでしょうか?」

 

笑顔のまま、あの爆発は誰の仕業なのかと問い掛けるサクラコ。本人的には優しく問い掛けているつもりだが、他の人から見たら迫力のある笑顔で問い詰めているようにしか見えない。

誰もがサクラコが怒っていると感じる中、アズサがスッと手を上げた。

 

「私だ。あの罠は防衛の為に仕掛けたもので、それ以外の意図はない」

「そうですか、白州アズサさん。貴女の噂を考慮すれば、その言葉に嘘ではないのでしょう。それで、そちらの方々は……」

「聖園ミカからの依頼で、桐藤ナギサの職権濫用の調査に来た者だ」

「……念のため、そちらの所属先を教えてもらえないでしょうか?」

「……アリウス分校だ」

 

サクラコの質問に、少しの間を空けてサオリが答える。ミカの後ろに控えた生徒達がアリウスの者だと知ったサクラコは、難しげな表情となる。

 

「アリウス分校、ですか。それが事実なら、ミカさんにも容疑が掛かるのですが……調査の為とはいえ、トリニティの自治区外から招くのは……」

「サクラコさん。本当にそう思いますか?」

 

サクラコの言い分に、アリウスの事情を聞いているハナコが真っ向から疑問を投げ掛ける。その質問の意味をサクラコが図りかねていると、シャーレの先生が助け船を出すように口を挟む。

 

「私もアズサからアリウスについて聞いたんだけど、アリウスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

シャーレの先生のその言葉にハナコとマリーは疑問符を浮かべるが、サクラコはその言葉の意味を察して理解する。同時に敢えて明言しなかった理由にも。

 

「……成る程。これは()()()()()()()の問題ですね。少なくとも、ミカさんへの追求はこの場では控えましょう」

 

もし、シャーレの先生の言葉が事実であるのなら。

アリウスはトリニティの自治区内にある、未開の土地に存在する事になる。そして、“分校”という名称からくる学校としての立ち位置……解釈次第では、自治区内にある同じ学園と取れる立ち位置だ。分校は本来、本校への通学が困難な学生が近くから通えるように設立される学園なのだから。

しかし、それを明確に口にすると新たな火種に成りかねない。経緯と歴史を考慮すれば、意図的に目を瞑る方が安全だろう。何より、今回の目的は平和的な解決だ。ここで深堀して拗らせるより、引き下がった方が話を進めやすい。

サクラコは事前にハナコから大まかな目的を聞いていたこともあり、すんなりと引き下がった。

ちなみにナギサの簀巻きに関しても、ハナコが事前に根回ししていたからスルーされている。話を拗れさせない為に。

 

「それで、肝心の職権濫用についてですが……」

「《補習授業部》に対する、あからさまな妨害工作だ。試験範囲の大幅な変更に合格点の引き上げ。退学処分も個人ではなく連帯責任。特に第三次試験では、試験そのものを受けられないように手回しをしている」

 

改めて羅列すると、本当に職権濫用を疑うレベルの暴挙である。確かに事情を考慮すれば無理もないかもしれないが、やり過ぎ感が拭えない。これが《ティーパーティー》の協議の結果ではなく、ナギサの独断だからこそ余計に疑惑として取り上げられてしまう。

 

「ですが、依頼された聖園ミカからその背景についても伺っています。本来のホストである百合園セイアの襲撃事件……“ヘイローを破壊された”という報告から、過剰な防衛策に打って出るしかなかった可能性もあります。その為、彼女から詳しい内容を伺いたかったのですが……」

 

サオリの言葉を引き継ぐようにスバルが一定の経緯を語り、ナギサへと視線を向ける。その視線を受けたナギサは気まずそうに顔を逸らす。

 

「……この状態では、マトモに話してくれそうにありませんね。とはいえ、このまま私達が居座れば無用な混乱を招きますし……」

 

難しい判断だと言いたげに、スバルはチラリとシャーレの先生へと視線を送る。スバルとしても、シャーレの先生が信頼に値する“大人”かはまだ判断がつかない。だが、この茶番劇に合わせようとしている事、ミカとナギサに頭を下げたその姿を見て、この状況での一番の落とし所へ持っていってくれる事を期待する事にした。

勿論、シャーレの先生はその期待に答える。

 

「それなら、私が引き継ぐよ。《シスターフッド》に《正義実現委員会》……ミカを交えて、ナギサから詳しい事情を聞くよ。全体には公表せず、内密にね」

 

シャーレとしての権限を使い、トリニティ総合学園の生徒で事情を聞く。ミカがアリウスに依頼した内容を引き継ぐ形で、その聞き取りに自身も立ち会うと。

 

「……落とし所としては、悪くないですね。敢えて一つ指摘するなら、戒厳令の撤回くらいでしょうか」

「そうだね。今のままじゃ《補習授業部》の皆が試験を受けられないからね」

 

スバルはその落とし所に納得しつつも、戒厳令の解除だけは撤回してほしいと告げる。シャーレの先生も頷き、その指示が出来るナギサへと身体を向ける。

 

「ナギサ。どうか戒厳令を解除して、ヒフミ達に試験を受けさせてほしい。不安で苦しくて、恐いだろうけど……どうか、彼女達を信じてほしい。どうしても不安なら、安心できるまで私が傍にいるから」

 

懇願するように頭を下げ、自分にとって出来る限りの事を果たそうとするシャーレの先生。そんなシャーレの先生を前に……

 

「……分かり、ました。先生が傍に居てくれるのでしたら……試験だけは、受けられるように手配します……」

「……ありがとう。君達もそれでいいかな?」

「それが妥当だろうな。アズサ達が試験を受けられるなら、それで問題はない」

 

こうして、トリニティとアリウスとの戦争に発展しかねないクーデターは、外部からの調査を目的とした“茶番劇”にすり替えられたのであった。

 

 


 

 

第三次試験を無事に受けられ、全員がボーダーラインへと到達して合格した数日後。

《ティーパーティー》のテラスにて、関係者達が揃ってテーブルを囲っていた。

 

「こうして流れを整理しますと、悉く悪い方向へと噛み合ってしまった感が拭えませんね……」

 

後から事情を知った《正義実現委員会》所属の“羽川ハスミ”は、一連の流れに対してそう呟く。完全に蚊帳の外であった彼女ではあるが、情報の共有と擦り合わせ、何より今回の一番の反省点から委員長の“剣先ツルギ”と共にこの場に集められていた。

 

「そう……ですね。最善と考えた手が、どれも裏目に出た形になっていますね」

 

アリウスの事情も知り、あわや取り返しのつかない直前まで事態を悪化させていたと知ったナギサは、申し訳なさそうに言葉を溢す。

 

「では、改めて今回の一連の流れ……ミカさんがアリウスに接触した所から確認していきましょう」

 

サクラコの言葉に、その場にいた全員が頷く。

 

「先ず、ミカさんはカタコンベを通じてアリウスと接触を図り、アリウスとのコンタクトに成功しました。ミカさんの予想では悲惨な状況だと考えていたそうですが……実際は違っていました」

「うん。私が訪れたアリウスは、想像していたよりずっと安定してた。普通に治安も良かったし、貨物目的の鉄道も引かれてた」

 

この話をミカから聞かされた時は、アリウスの存在を知る誰もが驚いた。閉鎖空間では物資にも限りがあり、そんな少ない物資で鉄道を引けるくらいに発展するとは思えなかったからだ。

事実、アリウス出身のアズサも数年前までは少ない物資を奪い合う、内乱状態だと語っていた。

 

「だが、それを覆したのが……」

「キヴォトスの“外”から来た人間……その大人の持つ特異な力を使って、アリウスの状況を改善したのですね」

「ああ。とは言っても、先生がした事は道具を用意しただけ……肝心の食料は種や苗を外で買って、自給自足できるようにしたくらいだ」

 

ドヤ顔で語るアズサに、その場にいた全員が思わず苦笑する。治安が悪い場所で作物を育てるなんて、相当な変わり者だと感じて。

 

「そうしてミカさんはアリウスに和解を持ち掛け……二回目の話し合いで和解に対して前向きに進める事に同意されました。アリウスの事は公にせず、秘密裏に進める形で」

「その一番の理由が……」

「ベアトリーチェ。かつてアリウスを力と恐怖で支配しようとした、赤い肌をした異形の大人の存在ですね」

 

他にも連邦生徒会非公認の自治区と学園といった理由もあるが、一番の理由がベアトリーチェの存在である事は確かだ。その思想と持ちうる技術が、あまりに危険過ぎる故に。

 

「それでアズサちゃんが“和解の象徴”として、トリニティに転入したんですね」

「うん。先生からは、“象徴”として気を張る事なく、純粋に学園生活を謳歌していいと見送ってくれた」

「フフ。その“アリウスの先生”も、こちらの先生みたいに好い人ですね」

 

純粋に生徒の楽しい生活を望む辺りが、実にシャーレの先生と同じだ。今回の“茶番劇”もあり、絶対に気が合うだろうという確信がある。

 

「事実、アズサさんはトリニティの生徒として生活し、ヒフミさんとも仲良くなりました。個人としても、象徴としても順調に進んでいましたが……」

「セイアさんを襲った爆破事件……そこから、流れが悪い方向へと進み始めました」

 

そう。セイアが何者かに襲撃され、ヘイローが破壊されたとされていた事件。その事件の情報操作が、今回の事件へと発展した。

 

「セイアさんが何者かに襲撃された……その事実自体が、本当は存在していなかったのですね」

「うん。実際はセイアちゃんがこっそり手に入れたグレネードが、誤作動で爆発しただけだったなんて……」

「ですが、問題は誤爆した事ではありません。問題はセイアさんが手に入れた筈のグレネードは、逃走用のスモークグレネードだった事です」

 

ナギサとミカの呟きに、セイアの本当の情報を手に入れたハナコが問題点を告げる。

 

「確か、爆発したグレネードは、そのスモークグレネードと見た目が違わないものでしたよね?」

「ああ。スモークグレネードの中には、見た目が通常のグレネードと同じタイプもある。それでも、テープ等で見分けがつくようにされているが……」

「その見分けが付かないよう、セイアさんは何も施されていない物を手に入れました。おそらく相手が怯んだ隙に、逃げる為に」

 

そこまでなら、わざわざ隠さずに正直に話せば良かったのではないかと思う。事実、そのグレネードに関するある事実がなければ、全員が呆れていただろう。

だが、セイアが語っていたグレネードについての説明で、それも一変する。

 

「ですが、セイアさんはそのグレネードを、スモークグレネードだと断言されて受け取っていた事が今回の隠蔽に繋がってしまいました。セイアさんは近い内に、ご自身が襲撃される事を予測し、万が一の為に用意していたソレがすり替えられたのだと判断して」

「事実、《救護騎士団》……団長のミネさんもセイアさんの安全を優先させ、セイアさんが死亡したと伝えました」

「けど、それが悪い方向へと更に進ませてしまったんだね?」

「うん。アリウスからヘイローを破壊する爆弾の存在を教えられていたし、爆発でヘイローが破壊されたって教えられたから……」

 

ヘイローを破壊する爆弾が実在すると知っていたからこそ、ミカとアリウスはベアトリーチェの暗躍を疑い、警戒せざぬを得なくなった。ベアトリーチェにはそれをやるだけの目的も動機もあるのだから。

こうして情報を整理してもその手口は不明のままだが、ヘイローを破壊するという常識はずれの技術を持つ相手が関与しているのだ。自分達の知らない手段で実行できたとしても不思議ではない。

そうして前提から間違った状態でナギサは犯人を探し続けた。そもそもの爆発が誤爆なのだから、侵入の痕跡がないのは当たり前なのだ。

 

「そこに加えて、セイアさんが行方不明という噂……私達もその噂自体は耳にしていましたが……」

「その噂も、不安から誰かが呟いたと思っていたんだけど……」

 

ハスミとコハルも噂自体は知っていたが、セイアの偽装死亡を知らなかった為に深刻さを図り違えていた。その噂が、セイアの死を聞いたナギサの精神を確実に削っていたとも知らず。

 

「その結果、精神を磨り減らしたナギサさんは強硬策に走り……本当の犯人を知っているミカさんと対立する形になってしまった」

「……はい。シャーレの先生を《補習授業部》の顧問として依頼したのも、犯人だけを退学にさせる為だったのですが……」

「私が厳しい言葉で断ってしまったから、逆にナギサを追い詰めてしまった。改めてゴメン、ナギサ。もし、ミカから聞いた事情を少しでも話していたら……」

「いえ。あの時は事情を伏せたままが正解だったと思います。もしあの状態でアリウスの事を知れば、ミカさん達が懸念していた通りになっていたでしょうから」

 

シャーレの先生が改めてナギサに対して謝罪するも、事情を知ったナギサもあの時の自分ならアリウスを犯人だと決め付けていたと自覚している。

今回はギリギリ表沙汰とならず、秘密裏に片付けられたが……不穏の種が多く残る結果となってしまった。

事実、ナギサとミカの対立はトリニティ内でも知られており、正統性もミカの方にあるのだから。こうして和解できてはいるが……その経緯が語れない以上、他の生徒達からは不審がられてもおかしくはない。

加えて、その不穏の種が爆発しかねない要素もある。ゲヘナとの和平を目的とした《エデン条約》だ。

 

「もし、そのベアトリーチェが犯人だとしたら……《エデン条約》の時に再び仕掛けてくる可能性があります」

「《エデン条約》を中止にするのは?個人的には中止にしたいんだけど」

「……私もミカさん寄りではありますが、中止することは出来ないと思います。その理由を語れませんから」

「ええ。中止するには、当然理由が求められます。ベアトリーチェはまだしも、アリウスの事を一つも明かせない以上、理由を語る事が出来ません」

「……そう言えば、二次試験の時にゲヘナの生徒さん達と揉めちゃいましたし……」

「……はい。政治的に、間違いなく不利な立場に立たされます。手口も未だ分からない中、中止するにはリスクが高過ぎます」

「本当に、行動が悉く裏目に出ていますね。まるで、裏目となるように誘導されているかのように……」

 

ハナコのその言葉が、今回の一連の流れの全てを語っていた。

 

 


 

 

「……失敗に終わりましたか。シャーレの先生……彼も、あの男と同じく排除すべき“敵”と認識すべきですね」

 

ベアトリーチェの目論見――トリニティとアリウスの戦争はシャーレの先生によって回避されてしまったが、まだ修正できる範疇にある。強引に進められなくもなかったが、無理に爆発させるより次の機会まで取っておく方が合理的だ。その次も、丁度よくあるのだから。

加えて“代用品”――マエストロとデカルコマニーに依頼した物も出来上がった。後は本当に代わりとして使えるか“テスト”するだけ……そのテストに使えるものもある。マエストロがまた面倒になるだろうが、“完成”に持ち込めるなら呑み込むだろう。

ベアトリーチェはマエストロに会う為、その空間を後にする。全ては、自身が“崇高”へと至る為に。

 

 

 

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