夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
×月≒日 晴れ
シャーレの先生のおかげで、アリウスとトリニティの戦争は回避する事が出来た。
本来はミカさんがクーデターを起こした時点で取り返しのつかない……後に引けなくなる状態になってしまう筈でしたが、言い訳が出来る範囲に留めていたことで上手く誤魔化す事に成功しました。
ミカさんがクーデターとして起用した人数は十五人程……ナギサさんだけを押さえるには十分ですが、他の組織を押さえるにはあまりも少ない、仮にミカさんが実権を握っても反抗したら制圧が不可能と言っていい人数です。
本来であれば無謀な行いとなる一手ですが、シャーレの先生が此方の本当の狙いを察してくれたことで、賭けは無事に成立しました。
ただ、ベアトリーチェがどうやってセイアさんを襲撃したのか、その手口は未だ不明のまま。トリニティ側にコンタクトを取ろうにも、今の状況で接触を図るにはあまりにも危険です。
一番の安全策は……ホシノさんを経由して手紙で伝えるしかありませんね。それ以外に手もありませんし。
¶月◎日 曇り
ホシノさん経由でやり取りする方法も、実質不可能となってしまった。
その理由がゲヘナ……他校の生徒が土地の名義がカイザーとなっているアビドス内で探りを入れているからです。
その探りが、バイト帰りのお面で顔を隠した生徒……アリウス生への聞き込みと尾行ですから。
その聞き込みも尾行も、何とか捌けているそうですが……ゲヘナ生がわざわざリスクを負ってでもこのような手に出ている以上、何かを探っていると見ていいでしょう。
いつものお金を受け取ったホシノさんも、ゲヘナの行動には疑問を感じており、私達の事を心配してくれていました。
自治区内であれば強く出られるのですが、現在のアビドスの土地の名義はカイザーですからね。本来は部外者の治安維持活動も、痛い腹をつつかれたくないから黙認しているだけですしね。その上で、力になれる事があるなら可能な範囲で協力すると、ホシノさんは申し出てくれました。
そこで私はホシノさんの厚意に甘える形となった事に申し訳なく思いつつも、シャーレの先生に伝言を頼みました。あくまでそちらの都合のついで且つ、彼と二人きりの場合で伝えてほしいと。
ホシノさんは難易度の高いお願いだと苦笑しつつも、引き受けてくれました。これで最低でも、シャーレの先生に伝われば誤解による潰し合いは避けられる筈です。
後、世間話……アビドスの砂売り計画についても聞いてみました。ミレニアムに先生を仲介して交渉してみた所、色好い返事ではなかったそうです。
その理由が不純物の多さ……清掃故に混ざってしまう砂以外の小石やら塵等が混ざりすぎていて、そのままでは使えないと。仮にこれで売っても安く買い叩くしかないとも。手厳しくとも真っ当な意見に、ホシノさん達は納得するしかなかったそうです。
ただ、不純物さえ取り除けば相場より少し高い値で応じるとも答えてくれたそうです。代用品を作るのもタダではなく、天然物と同じ品質に持ち込むにはどうしても手間もコストも掛かると。事実、ミレニアムの生徒会……《セミナー》の会計さんは砂自体の質は高いから、買う方が安く済ませられるからアリだと言っていたそうです。
砂を売るのも簡単じゃないとホシノさんはぼやきましたが、堅実かつ確かな復興への道程を感じてそうでした。借金の返済手段に、新たな方法が生まれましたからね。
後、屋台で再出発した柴関ラーメンでバイトしているヒヨリについても聞かれました。珍しかったので理由を聞いたら、パッと見が昔の先輩に似ていたからだそうです。
それで互いに昔話をして、会話に華を咲かせました。
¶月×日 晴れ
明日は《エデン条約》の調停日……ベアトリーチェが今も暗躍し続けているなら、このタイミングだろうと予想できる日。
条約の締結が何事もなく終われば良いのですが……それは楽観視がすぎるでしょう。その為、当日は自分達も近くで待機する予定です。
何処で調停式を行うかは不明ですが、可能な限り近くで現場を見守るつもりです。アツコ達スクワッドを含めた数十名の生徒達と共に。万が一に備え、学校の備品の武器も持ち出して。
何事もなく終われば本当にそれでいいのですが……場合によってはベアトリーチェとはそこでケリを着けます。彼女達を守る“大人”として。
――《ゲマトリア》の秘密の集会所にて。
「《ユスティナ聖徒会》を使わせろと?まだ未完成の私の作品を、貴女の兵器として使わせろと?マダム、情報の提供には感謝しているがそれには頷けない」
マエストロは苛立ちを隠す様子もなく、全身を震わせてベアトリーチェに拒絶の意思を伝える。それに対してベアトリーチェは涼しげな態度で流していく。
勿論、ベアトリーチェは《ユスティナ聖徒会》を自身の手駒にする事も視野に入れている。だが、今回の要求の本命は別にある。
「別に私が
暗に将来は手駒として使おうと考えている事を隠すことなく、今回は提供だけだとベアトリーチェは告げる。基本的なスタンスこそ変わらないが、要求ばかりのベアトリーチェのらしくない対応に黒服は笑みを浮かべる。
「クックックッ……本当に普段の貴女らしくありませんね、マダム。いつもの貴女なら、要求だけで自ら見返りを与えないと言うのに」
「貴方以外には言いましたが、これにはそれだけの価値があるのです。成功すれば、私の計画が大きく飛躍するのですから」
「マダムの計画……《ロイヤル・ブラッド》を使った“実験”ですね?私とマエストロで再現したそこの“代用品”でそれが埋められると?」
「そういうこったぁ!!」
ゴルコンダとデカルコマニーはそう言って、テーブルに置かれた三つの薄紫の球体へと視線を向ける。
ベアトリーチェの依頼――黒服以外の技術で再現、複製した三つのカプセム。宿った能力は同じだが、複製された方は一度使えば消滅する、作品としては不完全と言えるものを。
「それを確かめる為の《ユスティナ聖徒会》です。アレの起動には、《ロイヤル・ブラッド》の存在が不可欠でしょう?」
「……不本意ながらその通りだ。マダム、まさか最初からこれを狙って私に渡したのか?」
「さあ、どうでしょう?」
最初から利用されていたと察したマエストロは全身を更に震わせるが、ベアトリーチェはどこ吹く風。一向に気に止めた様子もない。
実際は、使えそうだから使おうとしているだけであるが。
「ですがマダム。《ユスティナ聖徒会》を起動させるには、達成すべき条件が他にもあります。そもそも、
「トリニティの生徒達に、ですよ。《パテル派》と《サンクトゥス派》……今の彼女達は、《フィリス派》と《ティーパーティー》に対して疑惑と不満が溜まっていますから」
「なるほど。確かに今の彼女達であれば、方法と手段を与えれば、勝手に動いてくれる可能性が非常に高いでしょう。仕込みも十分に効いているようですしね。肝心の場所については?」
「ゲヘナがトリニティと……アリウスの周辺を探っています。そこに少し情報を与えてやれば、トリニティとアリウスを一網打尽とする為、何も知らない彼女らは古聖堂を調印式の場として指定するでしょう」
否、既にゲヘナのトップ……羽沼マコトは危機感を覚えて動いている。彼女自身の能力と、ベアトリーチェのリークによってトリニティとアリウスの情報が集まっており、間違った結論を導き出している。
――トリニティとアリウスは和解、ないしは結託して、ゲヘナへの襲撃を企てていると。
「そういう事ですか。マダムが再び私の技術を所望したのは、ゲヘナへと流す為ですね?」
「そういうこったぁ!!」
「その通りです。何も知らない子供は、“威力の高い爆弾とミサイル”としか認識できない。何もせずともね」
「……いいだろう。非常に不本意ではあるが、今のままでは《ユスティナ聖徒会》を完成させられないからな」
ベアトリーチェの描く構図……それが現実となる可能性が非常に高く、こうも整えられていたら乗らない訳にはいかない。それに、他の“作品”を披露できるかもしれない。
マエストロは利用される事に不満を覚えながらも、確かな見返りから渋々頷いた。
「ククッ……マダム。貴女の手腕は本当に見事なものです。
「使えるものは使う。それが私の流儀です。むしろ、貴方達があの場所を使わない事が不思議な程ですが……」
「あの場所は本来、計画と実験を進めるには不向きな場所なのです。干渉はあの場所でしか行えず、その影響力は制御不能ですから」
「ええ。あれは対象以外にも作用してしまいます。それに本来、細かな指定調整はその性質から不可能なのです。マダムの場合は逆用かつ、小さな事象を引き起こすだけに留めたことで、望んだテクストへと誘導できているのです」
「そういうこったぁ!!」
黒服達はあの場所の致命的な欠点から、利用する事を視野に入れていなかった。
対象以外への影響力……干渉した対象以外にも、何かしらの形で影響を与えてしまうのだ。例えば爆発するよう干渉したら、その怪我の程度にまで無意識の内に干渉してしまう可能性がある。正確なデータを得るには、あまりにも不安定が過ぎる。加えて結果
かつての同僚はそこで“研究”を行っていたのだが、その制御不能の影響力のせいで他の実験と研究にも悪影響を与えたのだ。にも関わらずその同僚は開き直り、守るべきルールを都合よく解釈し、ねじ曲げる始末だった。
だからこそ《ゲマトリア》から追放され、干渉できない空間へと幽閉された。ベアトリーチェがあの空間を見つけた時はあれの二の舞を警戒したのだが、それは杞憂に終わった。
「フフ……そうですか。…………」
そんな過去は知らずとも、自身が褒められていると捉えたベアトリーチェは薄らと笑みを浮かべる。一瞬、壁の隅へと視線を向けたが。
「マダム?」
「別に気にする事はありません。ネズミに目印を付けただけです」
ベアトリーチェはその事については深く語らず、そのまま会議を続けていく。
彼女の描くエンドロールは、すぐそこまで迫ってきていた。
「ハァ……ハァ……!」
夢から覚めた彼女――百合園セイアは息を乱していた。
自身の夢を渡る力で、過去を、未来を覗いていたら、あの赤黒い空間――《ゲマトリア》の集会所の夢へと足を踏み入れていた。
そこでセイアは聞いてしまった。彼等がこれから起こそうとしている事を。
「急いで伝えなければ……!何もかもが手遅れとなる前に……!」
彼等の内容からして、事を起こすのは《エデン条約》の調停式当日だろうとセイアは判断する。今はまだ調停式の前だから、ミネからナギサ達に伝えればまだ間に合う筈。
セイアは焦燥に駆られながらもミネを呼ぼうとし――激しい目眩に襲われる。
「――ぁ――」
世界が回る程の激しい目眩に襲われ、セイアはマトモに動くことすら出来なくなる。それでもベッドから抜け出し、這いずるように進もうとするも――一際強い目眩によって視界が暗転する。
視界が戻って目に写ったのは……廃墟と化した聖堂。その構造にも何処となく、見覚えがある。
「ここは……アリウス自治区の……」
「ええ。厳密には違いますが」
後ろから聞こえた声――ベアトリーチェの肯定に、セイアは驚きながら振り返る。セイアの感覚では、自分の意識は夢の中にある。本来はセイアから接触しない限り、認識できない筈のセイアをベアトリーチェはハッキリと認識している。
「
「数日振り……?私の認識では……?君は、一体何を言って――」
ベアトリーチェの言葉の意味が分からず、セイアは問い質そうとする。だが、遮るようにベアトリーチェはセイアの首を掴み、持ち上げる。
「ぐ……ぅ……!」
「私にとっては
ベアトリーチェから舞台装置だと呼ばれたセイアは、ますます意味が分からず困惑する。そんなセイアに、ベアトリーチェはニヤリと笑みを浮かべる。
「貴女には実に感謝していますよ?百合園セイアさん。貴女のおかげで、私の計画が首尾よく進められたのですから」
「!?まさか、あの爆発は……!」
「ええ。あれは私が干渉して、通常のグレネードとして爆発させました。それだけで、事態は私が望む方向へと進んで行きました」
ベアトリーチェの種明かしを聞き、セイアは驚愕と共に嫌な予感を覚える。セイアはトリニティでの騒動……本来はクーデターの失敗だった予知夢が外れ、茶番劇にすげ替えて誤魔化された事を知っている。
そもそも、予知夢で見た襲撃は白州アズサ――アリウスからのスパイが部屋に侵入し、実行するものだった。だが、実際はグレネードの誤爆……その時点で予知夢で見た未来が外れている。
つまり、この状況を生み出してしまったのは……
「さて、お喋りもここまでとしましょう。貴女には、このまま“外”へと落ちてもらいます」
ベアトリーチェはそう告げると、セイアを掴み上げている反対の手で懐から球体を取り出す。その球体の透明な中心部を指で弾き、その中の絵柄が動くように回転する。
――エクストラ
その直後、セイアの視界に不気味な光が目に入る。まるで日食のような見た目をした、不気味な光を放つ存在は――
「――ぁ」
それを認識した瞬間、セイアの中の何かが歪み始めていく。その歪みを全身に感じながら、セイアは奈落の底に落ちるかのように沈んでいくのであった……