夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
「……これで和平とか、本当にできると思ってるの?」
「難しいんじゃないんですかね……?お店を爆破して、食材を駄目にする人達ですし……」
「ヒヨリ先輩、完全に私怨ですよね。全面的に同意ですけど」
ラジオと現場近く――古聖堂の近くで潜んでいるアリウス組は、一触即発の空気をこれでもかと伝える放送と状況に、何とも言えない表情をする。仲良しこよしは無理でも、今にも互いに撃ち合いそうな雰囲気が蔓延しているのだから呆れるしかない。
「今回の条約は、あくまで切っ掛けが目的だと思うよ。正式に結べれば、少なくともトリニティの自治区内におけるゲヘナ絡みのトラブルを多少手荒でも抑えられるようになるから」
「……成程。確かに条約を楯にして取り締まれますね。特に《美食研究会》と《温泉開発部》に対して容赦なく手を上げられるのは大きいですし」
アツコの推測に、《食料研究部》のアリウス生が納得したように頷く。非公認の部活動を堂々と締め上げられるようになるのは、確かにこの上ない利点だから。
非公認の部活動なら《便利屋68》も大概だが、上記の二つと比べれば遥かにマトモだ。その社長は世界一のアウトローを目指しているそうだが、そのアウトローの方向性は創作物に取り上げられる義理と人情溢れたヤクザに近い。要は善人が漫画の不良に憧れているようなものだ。実際、柴関ラーメンの爆破に関してすぐに謝罪していたし。その意味では、空崎ヒナ以外の風紀委員の評価は《便利屋68》より低い。特に
まあ、アリウス組が最も危険視しているのは《美食研究会》であるが。その理由が……
「アイツらがアリウスに踏む入れたら……鹿と熊が乱獲される!アリウスの貴重な肉……鶏肉以外の貴重なタンパク源に壊滅的な被害が……!」
《生態調査部》が【火縄橙々DJ銃】を片手に怨嗟の声で呟く。隣の【GX-05 ケルベロス】を持ち構えている《サバイバル部》のアリウス生も同意するように深く頷いている。他のアリウス生も同様だ。特にヒヨリは虚ろな目で【ガンガンハンド】をガシャガシャしている。
アリウス自治区には山だってあるし、森もある。森があれば、当然そこには野生動物が住み着いている。生態を調査すれば、どんな動物が住み着いているのかも知る事が出来る。その中で、鹿と熊の存在も確認できた。
鹿と熊がいるなら、食料問題もまだ深刻にならなかったのではないかと疑問に思うかもしれない。だが、その鹿と熊は野生――狩猟でしか得られない事が問題だった。
生態や力の差から飼育は不可能、銃弾だって限りがあるし素手で狩るのは論外だ。そもそも、解体技術そのものがなかったのだ。血抜きも何も知らないのだから、狩っても意味がない。実際、鶏でさえ解体作業で何度も失敗したのだから。
その為、鹿と熊、ついでに猪の狩猟時期と捕獲数はしっかりと取り決められている。《生態調査部》で数を確認してから、問題のない数だけ間引きする……ギリギリは狙わず、余裕を持たせて。
それに鹿肉と熊肉は入手の難しさから、高級食材として扱われる事もある。そんな食材を《美食研究会》が知ればどうなるか。絶対に執念でアリウスに辿り着き、好き勝手に狩りまくる。そんな負の確信があった。
「まあ……否定はできないな。美食の為なら何でもする。食い尽くすのも日常茶飯事だそうだからな」
サオリもその怨嗟には同意するしかない。自給自足も安定はしているが、自治区の外と比べればそこまで裕福ではない事は把握している。ランチャーモードの【ブレイカムバスター】を構えている恭介も苦笑いだ。
「まあ……その時はスバル達、風紀委員会の皆さんに頑張ってもらうしかないですね」
ちなみにスバルを含めた風紀委員会はアリウス自治区の防衛の為、この場にはいない。一応、中継機を設置してトランシーバーでやり取りできるようにしているが。
「……出来れば、何事もなく終わってほしいな」
「私もそう願っています……」
残念ながらその願いは叶わない。何故なら――燻っていた火種が最悪のタイミングで爆発したのだから。
――始まりは古聖堂の爆発だった。
前触れのない地下からの爆発。規模は決して大きくなく、怪我人も一人も出ない、普通であれば日常茶飯事だと流される、小さな爆発。
だが、その爆発がトリニティとゲヘナ――両校の不信感を爆発させた。
「やっぱりゲヘナに、和解する気は欠片もなかったんだ!」
「古聖堂の爆破も、きっとゲヘナの仕業よ!」
「
トリニティ……不信感から結託した《パテル派》と《サンクトゥス派》の生徒達は、古書館で偶然見つけた手帳に書かれていた手段を実行に移さんとし――
「キキッ……!やはりトリニティは、我等ゲヘナを騙し討ちにしようとしたか!イロハ!飛行船に乗せたミサイルを連中に向かって撃て!目障りな風紀委員共々な!」
見た目は派手な飛行船(中身は中古)で疑惑が確信となったマコトは、戦車長のイロハに風紀委員ごとミサイルで吹き飛ばせと命令を下す。
「……いや、何を言っているんですか?マコト先輩。トリニティに向かって撃つのはまだしも、味方まで巻き込むのは……」
「心配する必要はない。我が万魔殿の息がある者は対爆装備で固めてある。
「……ハァ。分かりました」
イロハは気怠げながらもマコトの指示に頷き、飛行船に搭載されたミサイルの操作を始めていく。こうなった以上はマコトは何を言っても聞かないし、止まらないのも良く知っている。それに牽制の意味でも、ミサイルを撃つのも悪い手とは言えないし、もう地上は大混乱だ。ちょっと離れた位置で着弾させ、周囲の気を引いてから静止を呼び掛ければいい。マコトが文句を言いそうではあるが。
イロハはそう考え、何名かの生徒が吹き飛ぶ位置へと搭載されたミサイルを一発だけ撃ち込む。ミサイルは無事に狙った位置に着弾。爆風によって数名の生徒が吹き飛ばされ……
「……は?」
そこでイロハは、自身の目を疑った。爆発の規模はそこまで大きいものではない。仮に自分が喰らったとしても、軽い怪我で済みそうな程度だ。
だが、実際はどうだろうか?双眼鏡越しで確認した吹き飛ばされた生徒達は立ち上がらず……地面に血が広がっている。これは“威力が高いミサイル”ではない。“殺傷力の高いミサイル”だ。
直撃を避けてコレなのだから……もし直撃させていれば、間違いなく死者が出ていた。そんな確信めいた予感にイロハは、厳しい表情でマコトに向き直った。
「ちょっとマコト先輩!?これは“威力が高い”なんて物じゃないですよ!こんなミサイル、一体どこで手に入れたんですか!?」
「え、あっ、いや……マコト様は、そんな小さな事には……」
イロハの詰問にマコトは強気な態度こそ崩れていないが、動揺している事が見て取れる。その様子から本当に知らなかったのだと察したイロハは、とにかく状況を確認する為に質問を続けていく。
「じゃあ、あのミサイルは幾つあるんです!?この飛行船にある物以外で、似たような物はあるんですか!?」
「ミサイルは……万魔殿の管理する倉庫にしまってある。後は……一緒に手に入れた爆弾を対爆装備で固めた者達に……」
「爆弾?あのミサイルと一緒に手に入れた?それ、明らかにマズイじゃないですか!!」
ミサイルはまだ残っているとはいえ、この飛行船の分だけならまだ何とかなったのかもしれない。だが、そのミサイルと一緒に手に入れた爆弾が、他のゲヘナ生に持たされている事が問題だった。
何せ、直撃を避けたミサイルでアレだけの怪我を負っているのだ。その爆弾も同様の可能性があり、それが使われれば更なる惨劇を巻き起こしかねない。
その惨劇は、現実となる。
「……え?え?」
「お願い!しっかりして!」
「爆発でこんな大怪我を……?まさか、お前達が……!」
「セイア様が行方不明なのも……そういう事なの!?」
ゲヘナ生がその爆弾――【ヘイロー破壊爆弾】を使ったことで、噂に翻弄されていたトリニティ生達は、最悪の憶測へと至ってしまう。
――百合園セイアの襲撃はゲヘナの仕業で、彼女は殺されたのだと。
その間違った憶測が真実として捉えられ……彼女達の暴走を更に加速させる。
「ここに宣言する!私たちが、新たなエデン条約機構だ!!」
《パテル派》と《サンクトゥス派》が、トリニティとゲヘナの代わりとしてサインし、宣言する。本来であればそれだけでは
――エクストラ
最後のピース――【エクストラカプセム】の複製はその役目を終え、塵屑のように消えていく。しかし、それが消えようと起動に成功した“戒律の守護者”――《ユスティナ聖徒会》は止まらない。
起動した《ユスティナ聖徒会》はその戒律――鎮圧対象と定義されたゲヘナと《フィリス派》に与するトリニティ生を“異端者”として排除しようとする。その“異端者”の中には、起動した本人達は知らないがアリウスも含まれている。
その起動した《ユスティナ聖徒会》に……シャーレの先生達は苦境に立たされていた。
「クッ……!」
「先生の指揮のおかげで何とか均衡を保てていますが、このままでは……!」
シャーレの先生の指揮でナギサとサクラコは《ユスティナ聖徒会》に抵抗するが、異常な耐久力と底無しの数に次第に押されている。ミカがいたらまだ抵抗できていたかもしれないが、彼女はこの調停式場にはいない。理由はセイアの容態が急激に悪化したからだ。
無事だった筈の幼馴染みの急激な容態の悪化。それも命に関わる程。ナギサは《エデン条約》の調停式の出席しなければならない立場ゆえに向かえず、唯一動けるミカに頼むしかなかった。
シャーレの先生はそんなナギサを心配して傍にいたのだが……古聖堂の謎の爆発と、外の暴動。更にトリニティ生達の謎の行動に困惑している内に事態は最悪の方へと傾いたのである。
「このままゲヘナを滅ぼせ!」
「裏切者には、正義の裁きを!!」
“力”を手に入れ、完全に暴走しているトリニティ生の集団。シャーレの先生が語りかけようとしても、完全に聞き耳持たずの状態だ。
数の暴力に圧される……そう予感した直後、壁の一部が凄まじい連射音と共に崩壊する。
「先生!」
「ヒナ!?無事だったんだ!」
ゲヘナの風紀委員長――ヒナが駆け付けた事に、シャーレの先生は彼女が無事であった事に喜ぶ。更に別方向から、ハスミとツルギも駆け付ける。
「先生!ナギサ様!大丈夫ですか!?」
「ハスミさんにツルギさん!」
「お二人もご無事みたいですね」
「ああ。だが、状況は最悪だ。お互いに止まれなくなっている。向こうのトップが乗る飛行船も墜落したしな」
ツルギの報告に、事態は完全に混迷の一途を辿っていると一同は察する。そこからのハスミの判断は早かった。
「……ゲヘナの風紀委員長さん。先生とナギサ様を連れて脱出して下さい。ここでお二人にまで何かあれば、完全に止まれなくなります」
「色々と問い質したい事はあるけど……分かったわ。先生と、そちらの彼女も任せて頂戴」
「!?ハスミ、それは――」
「今はお二人の身が優先です。お二人が無事なら、まだ挽回の余地はある筈です」
「私達も時間を稼いだら、隙を見て退却します。どうか今だけは、私達に任せて下さい!」
ハスミ達の説得をシャーレの先生は苦渋の思いで受け入れ、ナギサとヒナと共に古聖堂からの脱出を図る。道中の《ユスティナ聖徒会》は、ヒナの持ち前の殲滅力による力のごり押しで薙ぎ倒していくが……異常な耐久性と数の暴力のせいで確実に遅れが出てしまっている。
それでもゲヘナの最強格……レーザー攻撃も駆使して無限の戦力に応戦していたのだが、遂に足を止める事となる。
『…………』
今までの個体とは違う、雰囲気からして明らかに強い個体。その個体がシャーレの先生達に立ち塞がるように姿を現し、攻撃を仕掛けていく。
「クッ!」
明らかに銃弾の威力も高く、狙いも正確。加えて耐久性も段違い。完全な足止めを喰らってしまい、一気に劣勢へと立たされる。
「このままじゃ、先生が……!」
ヒナは焦燥に駆られながらも、攻撃を続けていく。何とか一体倒しても、倒してすぐに現れるから実質無意味に近い。
そんな彼女達に――運命は微笑む。
『ブレイカムキャノン!』
突然の機械音声。同時に吹き飛ばされる例の個体。
その向こう側には……何かしらの銃器を構えた白い服を着た大人と、白を基調としたセーラー服を着た見慣れぬ二人の学生が立っていた。
ヒナはその謎の人物達に警戒の目を向けるが……シャーレの先生とナギサは二人の学生――アリウスの生徒を見てその正体にすぐに気付く。
「まさか、君がホシノが言っていた……」
「ホシノさんからの伝言は、ちゃんと伝わっていたようですね。色々と聞きたい事があるでしょうが……今はこちらが優先です」
白い服を着た大人――恭介はシャーレの先生にそう返すと、ブレイカムバスターを地面に突き刺す。そして、どこからか取り出したのか分からない【ナイトインヴォーカーバックル】を胸へと装着する。
「……腰に巻くんじゃないの!?」
一呼吸置いてのシャーレの先生のツッコミに、ヒナとナギサは言葉の意味が分からずにシャーレの先生に視線を向ける。恭介はその理由を何となく察して苦笑し、二人のアリウス生――ヒヨリとアツコは疑問を感じたように首を傾げる。
そんな三者三様の反応を前に、恭介は【ナイトインヴォーカーバックル】に【ラッシュカプセム】をセットし――ピンスイッチを押し込む。
――ラッシュ!
――オ、オ、オンユアマーク。オンユアマーク……
その機械音声にナギサとヒナは目を白黒させ、シャーレの先生は場違いだと自覚しつつも目を輝かせる。そんな三人の前で、恭介は顔半分を覆うように右手を掲げて告げる。
「変身!」
その掛け声と共に、【ナイトインヴォーカーバックル】にセットされたラッシュカプセムを回す。その瞬間、白い靄が恭介の身体を覆っていく。
――エンフォース!ナイトシステム!――――ラッシュ!
人を形作るように光の線が走ると、白い靄が吹き飛ぶように消え、その下に隠れていた存在を露にする。
銀色のスーツにオレンジと黒のライン。そして、オレンジに輝く複眼。
そこに立っていたのは、このキヴォトスで生まれた仮面ライダー、ナイトアリウスへと変身した速水恭介であった。