夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
ナイトアリウスへと変身し終えた恭介は地面に突き刺した【ブレイカムバスター】を引き抜くと、持ち手と銃身を取り外すように分解して再装着する。
『カリバーモード!』
角度が変わり、砲身を挟んでいた部位が包み隠すようにスライドすると、銃の見た目だった武器が剣へと早変わりする。恭介は【ブレイカムバスター】を構えたまま駆け出し――シャーレの先生達を追っていた《ユスティナ聖徒会》に斬撃を叩き込む。
火花と共に斬られた聖徒会の一人は怯み退くも、消滅には至らない。そんな聖徒会に構わず、恭介は【グラビティカプセム】を【ブレイカムバスター】へとセットして回転させる。
『グラビティ!』
『ブレイカムバースト!』
恭介は必殺待機状態となった【ブレイカムバスター】を垂直に構え、必殺音声と共に振り下ろす。グラビティ――重力の力を有するカプセムの力により、恭介の前方で近づいて来ていた《ユスティナ聖徒会》は急激な加重によって地面を這いつくばり、動けなくなる。
「…………」
「戒律の守護者達を、こうも簡単に……」
自分達が苦戦した相手をこうも容易く無力化した事に、ヒナとナギサは驚愕と畏怖が混じった表情で恭介を見つめる。その厄介さを実感していたが故に、たったの一撃で大勢を無力化した事が余計に際立たせる。
そんなナギサとヒナに、シャーレの先生は語りかける。
「ナギサ。ヒナ。そんなに気に病まなくていいよ。二人はよく頑張ってくれているよ」
「先生……でも……」
「それにね……初登場のライダーが無双するのはお約束でもあるしね」
「!?」
「あの……先生。さすがにご冗談……ですよね?」
さすがに冗談だとナギサとヒナは信じたいが、シャーレの先生は大真面目の表情をしている。そんな意味不明な理屈で戒律の守護者を圧倒する等、普通はあり得ない。後、これが初登場ではありません。何度も変身してますし、強化フォームもあります。だからその理屈は通用しません。
だが、現実は確かに圧倒しており変な説得力がある……シャーレの先生の謎理論にナギサとヒナの思考は宇宙猫寸前となる。
その圧倒した当の本人は、地面へと這いつくばった《ユスティナ聖徒会》に構う事なく、シャーレの先生達に顔を向けるように振り返る。
「これで少しの間は足止めできる筈。今の内に脱出するぞ」
「え、あ、うん。そうだね」
先程と口調が違う事に困惑しながらも、シャーレの先生は素直に頷く。シャーレの先生、ナギサ、ヒナは恭介達と共に古聖堂からの脱出を再び目指す。
道中も《ユスティナ聖徒会》が襲い掛かるが、単純に戦える人数が増えたこともあり、先程よりもスムーズに走り抜けられている。
と言うより、シャーレの先生の指揮に加わったアツコとヒヨリがヒナに近い活躍をしてくれているのが大きい。殲滅力はヒナが圧倒的に上だが、アツコとヒヨリはヒナとナギサと違い、ずっと弾幕を張り続けているから実質同レベル。その理由が【カイザブレイガン】と【ガンガンハンド】なので、使っている武器にカラクリがある事はシャーレの先生達も察してはいる。弾切れなしでも、彼女達の実力の高さには驚かされているが。
そんな余裕が出来た事により、一同は走りながら先についての話をする。
「行先はどうする?」
「……不本意ですが、ゲヘナ自治区に向かいましょう。今のトリニティ自治区内では、身の安全を保証できませんから」
恭介の問い掛けに、ナギサは沈痛な面持ちで答える。
《ユスティナ聖徒会》――サクラコから“戒律の守護者”と呼ばれた存在が何故あのような形で復活したのか、そのカラクリも効力も分からないからだ。実際、エデン条約機構を名乗ったトリニティ生――過激派であろう《パテル派》と《サンクトゥス派》の宣言と共に幽霊のように出てきたのを目の当たりにしている以上、アレが突然目の前に現れても不思議ではない。
「やっぱり、あの幽霊さん達が理由ですよね。あの時の天使さんみたいに攻撃が効きづらいですし……姫さんは何か分かります?」
「……幾つか推測はあるけど、確証はない。でも、アレは少なくとも無関係じゃないと思う」
「そうなると、確実にベアトリーチェが裏で手を引いているな」
「……悪いけど、私達にも分かるように説明してほしい。今は少しでも情報が欲しい」
アリウス組にしか分からない会話に、この中で一番情報を持っていないヒナが説明を要求する。シャーレの先生とナギサもヒナに同意するように頷き、同じく説明を求める。
ヒナ達の要望を聞き、アツコが少し考える素振りをしてから口を開く。
「簡単に言えば、概念……みたいなものかな。共通の認識の下で生まれ、その通りに動く。だから、そのルール内であれば圧倒的に優位な立場で動ける」
「……確かに。彼女達はゲヘナと、《フィリス派》の皆さんを“鎮圧対象”と見なしていました。同時に与する者も」
アツコの説明にナギサは府に落ちたように頷く。あの異常な耐久性はその“ルール”による恩恵だとすれば、確かに説明がつく。逆を言えば、ルールに反する行動は決して取らないし取れない。《ユスティナ聖徒会》がシャーレの先生を狙わず、自分達だけ攻撃していたのも、シャーレの先生は“鎮圧対象”に含まれていないから。“全ての生徒の味方”という、シャーレの先生が掲げる認識が根強い故に。
「じゃあ、あの無限性は?倒してもすぐに湧き出るのは、その“ルール”と無関係な気がするんだけど?」
「それが共通の認識の下で生まれた恩恵。異端の鎮圧には、数の暴力で弾圧し、制圧する……それが“常識”として蔓延っているから、倒れてもすぐに補充される。それが“異端狩り”の常識で当たり前の事だから」
推測とはいえその無限性の理屈を聞き、シャーレの先生は確かにと納得した。宗教による異端狩り、魔女狩り、悪魔退治……その歴史は集団による少数への暴力だ。確実に排斥する為、大規模な部隊を編成し、圧倒的な戦力で異端を滅する。特にトリニティはその認識が根強いだろう。過去のアリウスへの件を考えれば特に。
それが、際限無く戒律の守護者が出現するメカニズム。“無敵”ではなく“無限”なのも、異端狩りが下地となっているからこその定義なのだと。
「……どうすれば、止められるの?」
「今の時点では何とも言えないかな。情報が少なすぎるからね」
「ベアトリーチェ自体を何とかするのは?」
「それも、現実的ではないだろう。話を聞いた限り、戒律の守護者とやらを起動したのは別人なのだろう?なら、その者達でしか止められない筈だ」
シャーレの先生の意見に、恭介は頭を振る。おそらくではあるが、ベアトリーチェが起動を他者に委ねたのはこちらの弱点を突くため。“生徒の味方”を明確な弱点として狙い撃った、確実に対応に手こずる手段と判断して。
そこでふと、シャーレの先生は気になっていた事を恭介に問い掛ける。
「ホシノから君達が、万が一に備えて近くで潜むと聞いていたけど……何処に潜んでいたんだい?自治区への行き方からして、地下で待機していたと思うんだけど……」
「?いや、私達は地上の隠れられそうな場所に潜んでいた。地下では外の様子が確認できないからな」
「そこはスマホで報道の確認をすれば……あ」
ナギサはスマホで生放送を確認すれば良かっただけではと言いかけ、そこである事実を失念していた事に気が付く。ヒナは首を傾げていたが、シャーレの先生もすぐに気付いて表情を強張らせる。
「そうだった……アリウスは通常の電波が使えないんだった。通信費が……電波を使う為の引き落としの口座もお金も用意できなかったんだ」
完全に失念していたと、シャーレの先生とナギサは頭を抱えそうになる。スマホをマトモに使えない……その可能性を考慮せずに考えたせいで、アリウス組は地下空間で見守っていると勘違いし、余計な混乱を招かない為にも地下の存在を敢えて放置していた。それが、付け入る格好の隙となってしまった事に気付かず。
これに関してはベアトリーチェは何もしていない。覗き見はしたが、思考には一切干渉していない。多少の影響はあったかもしれないが。
どちらにせよ、ベアトリーチェの作戦勝ちである事に変わりはない。トリニティの抱える問題を利用され、最悪のタイミングで爆発させられたのだから。
「アリウス……そう。だからマコトはアビドスに探りを……」
ヒナはアリウスの名前を聞いたことで、色々と府に落ちたのか納得したように頷く。同時にマコト――万魔殿の不振な動きの理由にも。
彼等の話を聞いた限り、アリウスはアビドス……厳密にはホシノとの接点を有している。それに、後ろで狙撃しているヒヨリは、あの時のお面で顔を隠した人物と同一人物だとヒナは見ていた。
「だとしたら疑問が残る。貴女達アリウスは、ゲヘナも憎んでいる筈。少なくとも、助ける理由がない」
「まぁ、ゲヘナから見たらそうですよね。私も食材を爆破して駄目にする人達とは仲良くなれそうにないですし。それに、柴関の大将さんに一言も謝りに来ていませんし。謝りにこない人生って、虚しいですよね……」
ヒナの疑問に対し、ヒヨリは実体験込みで仲良く出来そうにないと呟く。その少し怒気が籠っている呟きに、ヒナだけでなくナギサも首を傾げているが、あの件を知っているシャーレの先生は困ったように苦笑いする。
「……そっちの便利屋68と風紀委員会のシャーレの先生絡みでの騒動。そこでまだ営業していたラーメン屋が被害を受けた。ちなみにそこでヒヨリはバイトしていて、前者は被害者にも謝罪している」
「……そう」
アツコが詳細を語ったことで、ヒナはヒヨリの言葉に怒気が混じっていた理由を察する。
ちなみに社員のハルカは起爆スイッチを押して柴関ラーメンを爆破しようとしたが、それに気付いたヒヨリがハルカに対物狙撃銃を突き付けたことで、社長のアルが慌てて取り下げた事でハルカの手による爆破は防がれていた。その後で、誤情報を掴まされていた風紀委員会がやらかしたが。
「あ、でも、ゲヘナを滅ぼそうとかは考えていませんよ。正直、その後が物凄く面倒臭いですし……」
「……面倒臭い?それはどういう――」
「仮に復讐してゲヘナを地図から消しても、その後――土地問題やら流通、治安の悪化の問題が山のように降り注ぐ。外の乱れはそのままアリウスの乱れにも繋がるし……復讐した後でも振り回されるのが嫌だし腹も立つ。それはトリニティにも同じ事が言える」
再びアツコが理由を説明したことで、違う意味でヒナとナギサ、シャーレの先生は納得してしまった。
アリウスが憎しみから決して脱却したわけではなく、単に嫌いな連中に振り回され続けるのが嫌なだけ。その上、その時には憎き相手も消えているのだ。拳を振り下ろす相手はもういないのだから、不満も苛立ちも吐き出せない。
それなら距離感を保った関係を築いた方が遥かにマシ。特に自治区運営の難しさを全員が感じているからこその、塩対応に近い対応。ミカが持ちかけた和解も、一学園同士の付き合いとしてだからこそ、受け入れられた提案。
ある意味現実的かつ、納得がいきすぎる理由に、シャーレの先生達は苦笑いするしかない。怨みを捨てたやら、復讐の虚しさを説かれるより、余程説得力がある。
そうして話し込んでいる間に、外に繋がる出口が見え始める。同時に、《ユスティナ聖徒会》が滲み出るように大勢現れ、分厚い壁として立ちはだかる。
「うわぁああああああん!さすがに数が多すぎますぅ!!」
「それにヒナが苦戦した相手が何体も……!」
その圧倒的な数にヒヨリが泣き言を漏らし、シャーレの先生はヒナが押され気味だった存在が複数待ち構えていることに険しい表情をする。
ここで“奥の手”を切るべきか……シャーレの先生は《切り札》を切るべきか悩む中、恭介はバックルのカプセムを交換している。
――マジック!
カプセムの交換を終えた恭介はピンスイッチを押し込み、変身準備を完了させる。音声が流れるとほぼ同時に、新たにセットした【マジックカプセム】を回転させる。
――エンフォース!ナイトシステム!――――マジック!
白い靄が恭介の身体を包み、紫に光る線が人の姿を形作る。白い靄が晴れ、そこには身体に走るラインと複眼の色が紫へと変わり、肩から膝まで届く白いマントを靡かせたナイトアリウス――“ナイトアリウス・マジック”への変身が完了する。
「派生フォームもあるんだ……」
『マジック!』
シャーレの先生の呟きに構わず、恭介は【マジックカプセム】を回して能力を発動させる。直後、恭介達の足下の床に正方形を描くように紫色の幾何学的な線が走り――回転扉のようにひっくり返ると、そのまま恭介達をその場から消してしまう。
次に現れたの《ユスティナ聖徒会》の背後――出口付近へと姿を現す。
『ショック!』
『ブレイカムキャノン!』
背後から恭介が【ショックカプセム】をセットしたブレイカムバスターで必殺技を放つ。強い衝撃を受けた《ユスティナ聖徒会》は痺れたかのように、その場に踞る。
後ろから追撃されないよう、きっちり対処した恭介はシャーレの先生達と共に外へと出る。
古聖堂の外へと出た一同を迎えたのは――阿鼻叫喚と化した悲惨な光景だった。
火の手が上がり、煙が立ち上ぼり、悲鳴と罵倒が飛び交う、平和にはほど遠い光景。その光景にシャーレの先生が表情を曇らせ――同時に古聖堂の壁の一部が轟音と共に吹き飛ぶ。
恭介達は轟音がした方へと顔を向けると、そこにいたのはサオリとミサキ。そして、シャーレの先生達を逃がす為に殿を務めたサクラコ達だった。
「みんな、無事だったんだ!」
「ええ。彼女達のおかげでどうにか……」
シャーレの先生の無事を喜ぶ声に、サクラコが代表して答える。サクラコ……否、アリウス組を除く面々はナイトアリウス姿の恭介に奇異の視線を向けているが、状況が状況なので無視する。たぶんではあるが、味方だろうし。
「それなら皆で脱出……」
「いえ。私とハスミさん、ツルギさんはこの場に残ります。首脳陣が全員いなくなってしまえば、暴走を抑えられる人がいなくなってしまいますから」
「ええ。ですから先生達は、アリウスの方々と共にこの場を離脱して下さい!」
「イチカはヒナタと一緒に先生と行け。それがこの場での最適解だ」
シャーレの先生の提案に各組織のトップはやんわりと首を振り、この場に残ることを告げる。状況が切迫している事もあり、シャーレの先生達は尾を引く思いでその場から離脱するのだった。