夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
ゲヘナ自治区のゲヘナ学園。
その学園内の会議室に、シャーレの先生を含めた何人かが集まっている。
トリニティのナギサにヒナタ、イチカの三人。
ゲヘナのヒナにアコ、奇跡的に軽症で済んだイロハ。
そして……アリウスのアツコとサオリ。校長の恭介。
「改めて名乗ろう。私はアリウス分校、生徒会《スクワッド》の生徒会副会長兼雑務の錠前サオリだ」
「同じく《スクワッド》の生徒会会長の秤アツコ。改めてよろしく」
「速水恭介です。“先生”や“校長”、“白服”と色々な呼び名がありますが、好きに呼んで頂いて構いません」
恭介の自己紹介――“白服”の部分にシャーレの先生を除く一同は揃って頭に疑問符を浮かべるも、服装が白だから“白服”なのだろうと勝手に納得する。哀しき事に正解なのだが。
そうして、今回の全容を把握する為に情報の共有をしていく。《ユスティナ聖徒会》……その存在を一番知っているヒナタを中心として。
「《ユスティナ聖徒会》……あれは《シスターフッド》の前身……数百年前に消え去った、戒律の守護者達です。第一回公開議……最後まで反対の立場を貫いたアリウスを鎮圧対象と定義し、追放した組織です」
《シスターフッド》所属のヒナタが、自身が知る《ユスティナ聖徒会》について一同に説明する。その説明に、アリウス組が思わず反応してしまう。
「そっちの記録ではそうなっているのか」
「アリウスでは、違うのですか?」
「うん。全くの間違いじゃないけど……永久に破門した一番の理由は“解釈違い”からだと、記録書に残ってる」
「解釈違い、ですか……」
アツコの発言に、ナギサが難しい表情で呟く。確かに歴史は勝者の都合の良い記録しか残らないものだと、漠然と把握している。だが、実際に目の当たりにするとどうしても複雑な心境を抱いてしまう。
そんな空気の悪さを払拭するように、恭介が口を開く。
「……お互いの歴史認識については、今は隅に置いておきましょう。優先すべきは、打開策を見出だす為の事態の整理ですから」
「……そうだね。ここで揉めたら、本末転倒だし」
「……ええ。そうして頂けると助かります」
「それで?その“戒律の守護者”とやらが、何故幽霊のような形で現れたんです?爆破と暴動だけであんな事が起こるなら、そこら中で毎日起きていますよ」
地味に蚊帳の外かつ、遠い位置にいるアコが苛立ちを隠す事なく質問を投げ飛ばす。例の《ユスティナ聖徒会》の襲撃で怪我を負いはしたが、彼女は軽傷。傷の深さで言えばチナツとイオリの方が大きい。
もちろん、アコの苛立ちの理由はそれだけではない。万魔殿――ゲヘナの政治の中核を担うメンバーが、イロハと留守番をしていたイブキ以外がベッドの上で眠っているからだ。イロハもマコト達と比べて比較的軽傷ではあるが、車椅子でないと移動できない程の傷だ。
命に別状こそないが、爆発と落下で負ったにしては酷い大怪我……全身を包帯で巻かれたミイラ状態だ。救急医学部のセナも、本物の死体を拝む事になりそうだと口にするくらいだ。実際、イロハも全身に包帯が巻かれており、痛々しい。
その救急医学部も、負傷者の多さにてんてこ舞い状態。特に、対爆装備で固めていたゲヘナ生が持っていた爆弾による負傷者が酷い。あれは本当に命に関わる程で、それが惨劇の悪化に拍車を掛けたのだから。
「そもそも!貴女達は何処であんな爆弾とミサイルを手に入れたんです!?あんな殺傷力の高いミサイルと爆弾を用意するなんて、最初からヒナ委員長を――」
「それについて何だけど……たぶん、マコト達も知らなかったと思うよ。知っていたら、使おうとしない筈だよ」
アコのイロハへのぶちギレ発言に対し、シャーレの先生が宥めるようにこの場にいないマコト達も庇う発言を取る。本当に知っていたら、イロハを含めた誰かが絶対に止めるだろうし、本気で使うつもりだったのなら、あの時にもっと撃ち込んでいた筈だから。
「……ハイ。信じてもらえないでしょうが、あのミサイルと爆弾に関しては、本当に何も知りませんでした。マコト先輩も威力が高いとしか知らず、割と動揺していましたし」
「その可能性は高いだろう。アリウスでも、普通の爆弾と見分けがつかなかった。名前と効力を知っていたなら、実際に使う前に脅しの材料として使う筈だ」
「……そうね。マコトは嫌がらせはするけど、守るべき一線は守る。少なくとも二人の言う通り、危険性を知らなかったのは確かだと思う」
イロハの弁明にサオリとヒナが同意したことで、ヒナ第一でもあるアコは渋々ながらも引き下がる。そもそも“殺し”はキヴォトスに於いても最も避けるべき行為だ。いくらマコトでもトリニティと風紀委員会の“排除”は、単純に組織として潰す程度の認識だし、あくまで上下関係をハッキリさせる程度のもの。
そもそも、マコトが日頃から口にする“キヴォトスの頂点”は“ゲヘナのトップのまま”である事が前提条件。単にキヴォトスのトップに立つのが目的なら、連邦生徒会の会長の座を狙えば済む話だ。加えて、彼女の目指す頂点も暴力に頼らないカリスマ……人望と尊敬から来るもの。ある人物と正反対の道で目指しているのだから。
「……おそらく、彼女もベアトリーチェに利用されたのだと思います。何かしらの方法で危機感を煽って」
「私もそうだと思います。溺愛しているイブキを調印式に連れて行かなかったのも、最悪を予想しての事だと思いますし。実際、騙し討ちを見越していたようですし……イタタッ」
「はい。トリニティ……私もそこを利用され、アリウスと戦争する直前まで悪化させてしまいました」
恭介の推測に、痛みで顔を歪めたイロハと事態を悪化させた一人であるナギサが頷く。事実、トリニティとアリウスの戦争こそ回避できたが、学園内の不穏な空気は最悪のまま……否、むしろ悪化してしまったのだから。
その理由が《パテル派》と《サンクトゥス派》……その筆頭の位置にいたミカとセイアが派閥争いに負けたように見えてしまったからだ。実際は違うのだが、何も知らないトリニティ生から見れば、《フィリウス派》のナギサが巧妙に立ち回って二人を蹴落としたように見えなくもない。その為、一部とはいえ《パテル派》と《サンクトゥス派》が《フィリウス派》に敵意を抱く状態となってしまった。対処しようにも、理由も明かせず否定できる材料もない。無理に釈明しても、不信感を煽るだけになるのが目に見えていた事もあり、放置するしかなかった。
その結果――二つの派閥の暴走を許してしまった。《ユスティナ聖徒会》と言う、常識を越えた超上現象を引き起こして。
「このままだと、トリニティとゲヘナ……最悪の場合はアリウスをも巻き込んだ“戦争”になるね」
「ゲヘナの方はまだ自制が利くと思います。例の爆弾による衝撃が大きいですから」
「アリウスも、かな。そもそも戦争をする気もないし」
シャーレの先生の沈痛な呟きに、アコとアツコは自分達から戦争を吹っ掛けないと返す。ゲヘナは良くも悪くも《ヘイロー破壊爆弾》の衝撃から抜け出せておらず、復讐心よりも殺しに対する恐怖が勝っている。
アリウスはそもそも和解に対して前向きに進めていた立場だ。今から戦争へと舵を切る気は欠片もないし、デメリットが多すぎる。
ゲヘナとアリウスは問題ないとして……問題はトリニティの暴走をどうするかだ。
「サクラコさん達からの連絡によりますと……かなり危うい状況です。今すぐにでも、ゲヘナへと攻め込みかねないと」
「一番の理由は《ヘイロー破壊爆弾》だね。アレをゲヘナが持っていた事が、余計に事態を拗らせたから」
実際、その爆弾とミサイルによってトリニティの生徒達も深手を負っている。特にセイア襲撃事件と行方不明の噂が見事に噛み合う形で。そのせいで、調印式の場にいたトリニティ生がゲヘナ生への報復に動いてしまった。
「そのミサイルは倉庫の中で、爆弾はマコトの息が掛かったゲヘナ生しか持ってないのよね?」
「ハイ。牽制目的で撃った後、すぐにマコト先輩に問い詰めましたから……」
その爆弾とミサイルも、イロハの供述によって回収され、誰の手にも渡らないよう厳重に保管している。特に爆弾に関しては、風紀委員会の権限を使って爆発物の類を全員から取り上げている。見分けが全くつかない上、万が一にでも再び使われでもしたら、絶対に止まれなくなるから。
「ただ……《ユスティナ聖徒会》の存在が良くも悪くも抑止力となっています」
「そうっすね。あれが他のトリニティ生にも攻撃したことで、過激派以外は混乱しているっすから」
《正義実現委員会》のイチカが口にした通り、《ユスティナ聖徒会》はトリニティ生――厳密には《フィリウス派》のトリニティ生にも攻撃している。それで身内同士の睨み合いとなり、結束してゲヘナへの侵攻に至らなかったのは皮肉ではあるが。
「でも、それも時間の問題だと思う。条約に勝手にサインした人達が、鎮圧対象について大々的に公表したら、残りの派閥の人達も過激派に合流すれば解決するから」
「それだけで、簡単に逃れられるの?」
「“明確な敵”ではない限りは、が付きますが。アレに自我がある様子はありませんでしたし、文字通り“ルールを守る”しかできない筈です。エデン条約機構となった彼女達が認めれば、それで対象から外れるでしょうし」
それはあり得る可能性だった。特にシャーレの先生とナギサは彼女らの宣言を目の当たりにしており、納得のいく部分もあったからだ。
「つまり……勝手にエデン条約機構を名乗った彼女達を抑えたら、何とかなるってことですね?それなら大部隊を組んで、叩きのめせば……!」
「いえ。それでは“戒律の守護者”達は止まらないと思います。本気で止める事だけを考えますと……」
アコの意見に難色を示し、躊躇ういうに言い淀むヒナタ。その反応に、一同はその止める方法を察する。
――キヴォトスにおいても、禁忌である方法を。
『――ええ。止めるには彼女らの命を奪う以外に方法はありません』
突然の第三者の声――否、恭介達は聞き覚えがあるのか目付きを鋭くして周囲を見渡している。
そんな恭介達を嘲笑うように、部屋の中央がホログラムが走ったかのように空間が歪む。立体映像のように姿を現したのは、赤い肌に白いドレス、花弁のような異形な頭部をした女性――ベアトリーチェであった。
「ベアトリーチェ……!」
『ええ。数年振りですね、速水恭介。そして、お初にお目にかかりますね、シャーレの先生』
【ブレイカムバスター】を構えて臨戦態勢となる恭介に嫌らしく笑みを浮かべつつ、シャーレの先生にも挨拶するベアトリーチェ。挨拶されたシャーレの先生も、突然の黒幕の登場に警戒する。
『フフ、そんなに警戒なさらずとも大丈夫です。こうして姿を現したのは、宣戦布告の為ですので』
「宣戦布告?これ程の事を裏から手を引いておいて?」
『ええ。此度の喧騒はあくまで“実験”……“戒律の守護者”達が目覚めるかどうか……“代用品”が私の計画に使えるかどうか確認するのが目的でしたので。まあ、本当はトリニティとアリウスの間で戦争を起こさせるつもりでしたが』
シャーレの先生の質問に、目的を十二分に果たせたからかベアトリーチェはあっさりと答える。これまでの暗躍も仄めかせて。
「……やはり、裏でずっと動いていたのか。その切っ掛けも、お前の仕業だな?」
『切っ掛け?もしかして百合園セイアの事でしょうか?確かに部屋を爆発させましたが……直接手を出したのはそこだけです。それだけで彼女は私が望む盤面へと勝手に転がり落ちてくれましたよ』
サオリの質問にもベアトリーチェは嬉々として答える。その返答にナギサが怒りを露に睨み付けるも、当の本人はどこ吹く風。一向に気にした様子がない。
『彼女は舞台装置として、十分な役割を果たしてくれました。実験も成功したので、片付けさせてもらいましたが』
「片付けた……?まさか、セイアさんの容態が急に悪化したのは……」
急激な容態の悪化もベアトリーチェが関与していた事に、ナギサだけでなくヒナタとイチカもベアトリーチェを睨み付けていく。そんな三人に構うことなく、ベアトリーチェは速水恭介へと向き直る。
『速水恭介。私は貴方に宣戦布告します。明日、私が示す場所に一人で来なさい。そこで、貴方を叩き潰して上げましょう』
「“戒律の守護者”達を使って、袋叩きにでもするつもりか?」
『いいえ。この戦いは私と貴方と一対一の戦い……私が“崇高”へと至る為の、乗り越えるべき試練です。私は一度貴方に負け、敗北者となった……敗北者のままでは“超越者”にも“絶対者”にもなれない。このまま“儀式”を敢行しても、一歩手前で止まってしまう……だからこそ、私自らの手で貴方を葬る必要があるのです』
ベアトリーチェはそう断言すると、その手の扇子を恭介へと突き付ける。まるで、拒否権は与えないと言わんばかりに。
『もし貴方が受けないのであれば……彼女達にアリウスの情報を流します。そうなれば、“戒律の守護者”は鎮圧対象としてアリウス自治区へと向かうでしょう』
拒否権は与えない。アリウス自治区を人質に取ったベアトリーチェに、恭介は真っ直ぐにベアトリーチェを睨み返す。
「……いいだろう。お前の挑発に乗ってやる」
『フフ。こう言えば絶対に頷くと確信していましたよ、アリウスの“先生”。それでは、また明日お会いしましょう。ああ、生徒を連れて来ても構いませんよ?“戒律の守護者”に襲われても構わないのなら』
ベアトリーチェはそう最後に言い残し、その場から消え去る。不吉な要素を多く残して。