夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
――すまない。
私が愚かだったばかりに……見えない白い夢を警戒するあまりに……私自身の選択が、滅びの未来を手繰り寄せてしまって……
過去を、未来を、夢を渡り歩いて知った気になって……実際は何一つ理解しておらず……ミカの言葉にも真剣に向き合わなかった……
ミカのあの時の言葉……アリウスとの和解にしっかりと向き合っていれば……違った未来を迎えられただろうか……?
今まで見えなかった白い夢の片鱗……ミカとアリウスの生徒会長が……微笑みと共に握手したあの光景が見えていたなら……彼女……白州アズサがスパイではなく、本当に象徴だったのだと知っていれば……
彼女が言った舞台装置……確かに言い得て妙だ。夢と現実の狭間……“外”へと追い出された私は、もう二度と戻っては来れないだろう。
ナギサ、ミカ……もう君達に言葉は届くことはないが、本当にすまなかった。私の浅はかさが、君達を無意味に傷付けてしまった。いくら謝っても、謝り切れない……叶うなら、君達にもう一度、会いたい。
――泣いているんですか?
……君は?いや……そうか。君がアリウスの“先生”なんだね?
――まあ、はい。何だかんだでアリウスで校長をやっています。
……妙に軽い感じだね。先生の時にも感じた事だが……大人は皆、これが当たり前なのかい?
――どうなんでしょ?人それぞれとも言いますし、気難しい大人もいれば親しみ易い大人もいますし。それより、君はミカさんの知り合いなんですか?
……そうだね。ミカとは……古くからの付き合いだよ。時間だけ長く、その内面を理解していなかったがね。
――うーん、そうですか。でも、誰だって人を完全に理解するのは無理だと思いますよ。心を読めるエスパーなら別かもしれないですけど。
……それこそ、荒唐無稽な話だろうに。念のために聞かせてもらうが、キヴォトスの『七つの古則』について知っているかね?
――『七つの古則』、ですか?正直、知らないですね。無知で申し訳ないです。
……いや、別に構わない。その内の一つ――『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することは出来るのか』。これは楽園のパラドックスの問題だね。他の問も似たようなものだが……君はどう考える?
――無理じゃないですかね?楽園なんて、それこそ何処にでもあるようなものですし。
……何処にでも、ある?随分と可笑しな事を言うね。これは証明できないものを――
――いや、だって。人の認識は完全に人それぞれじゃないですか。その人から見たら楽園でも、別の人から見たら地獄かもしれないですし。『隣の芝生は青い』、『住めば都』なんて言葉もあるくらい、理想と現実に違いがあるのは当たり前ですし。
……じゃあ、君は証明できないから諦めると言うのかい?
――そうなり、ますかね?まあ、この手の問題は考えること自体に意味がある問題でしょうし。むしろ、明確な答えを出すのが大間違いと思いますよ。
……答えを出すこと自体が間違いだと、君は言うのかい?それは、思考の放棄と変わらないんじゃないのかい?
――だって、答えが一つだけじゃつまらないじゃないですか。答え合わせをしている訳じゃないですし、貴女だってこれが“楽園”だと示されて、本当にそうなのかと考えるでしょ?
……確かにその通りだが、話をすり替えられている気がするね。
――そのつもりはなかったのですが……本質的には“トロッコ問題”に近しいものですし。
……トロッコ問題……見知らぬ大多数か、よく知る一人かどちらかを救う問題だね。思考の実験という意味では、確かに同じかもしれないね。
――その“トロッコ問題”の回答に、わざと脱輪させたり、レバーを折って強制的にブレーキを掛けるなんて頓珍漢なものもあるんですよ。二者択一ではなく、第三の選択肢を見つけ出す……これも見方によっては、問題から目を背けているとも捉えられます。
……成程。君が言いたい事が見えてきた気がするよ。楽園の捉え方でさえ曖昧で不透明なのだから、絶対の答えは存在しえないと。
――解釈も見方も人それぞれです。その違いでぶつかる事もあれば、共感して共に歩む事もある……答えを掲げて当て嵌めるのではなく、答えを胸に抱いて歩んでいく……それが証明の一つになると、私は思います。
……その結果、進むべき道を間違えてしまったとしても?
――間違えたなら、引き返せばいいんですよ。人生は道なりに進むのではなく、手探りで歩いていくものですから。それに、生きていれば大抵はどうにかなるものですし。私なんて、気が付いたら廃墟に居たんですから。
……意外と波乱万丈な人生を送っているみたいだね。
――ですね。あ、そう言えばまだ名乗っていなかったですね。私の名前は速水恭介です。最初にも言いましたが、アリウスで校長をやっています。
……百合園セイア。今回の事態を招いてしまった、愚か者さ。
――え!?ミカさんとナギサさんの幼馴染みのセイアさんなんです!?確か、容態が急激に悪化して、命の危機にあると聞いたんですが!?
……そうだね。この私は意識だけで、夢と現実の狭間にいる状態だ。ほら、こうしてすり抜けているだろう?
――本当ですね。今のセイアさんは命の危機で幽体離脱しているんですかね?
……そうとも言えるね。自力で戻ることも叶わない。今こうして話している間も、喪失感が徐々に侵食するように広がっている。そう遠くない内に、私は消えてしまうだろうね。
――まだ諦めるには早いと思いますよ?サオリにルーラーメアカプセム……あ、これじゃ分かりませんか。とびっきりの回復アイテムを預けて、貴女とミカさんの下へ向かってますから。
……回復アイテム……?いや、この状態の私は……
――とにかく頑張って下さい!他の皆さんも頑張ってますから!!夢は――未来を作りますから!!
……本当に変わった大人だね。無駄で無意味な足掻きかもしれないが……私も頑張ってみようか。彼と話している内に、終わりたくないと思ってしまったからね。
カタコンベの一角に構成した、小さな聖堂。その聖堂の奥――不気味な造形のステンドグラスからの光を浴びている祭壇の前で、ベアトリーチェは入口に背を向けて佇んでいる。
この場所は本来存在しえない場所――恭介の“裏技”を“代用品”を用いて自身も行った、改変。《ロイヤル・ブラッド》に《祭壇》……この二つを“代用品”を用いる事で解決したからこそ、ベアトリーチェは大胆な行動へと出た。今が最も勝率の高い瞬間と判断して。
「まさか、カタコンベにこのような場所があったとはな」
そんな声と共に、入口からこの場へと呼び出した人物――恭介が足を踏み入れる。口調も丁寧なものではなく、粗暴さが目立っている。
予想通り一人で来たことにベアトリーチェはほくそ笑みながら、優雅な動作で恭介へと振り返る。
「いえ。この場は“代用品”の力で作り出した、夢と現実の境界が取り払われた場所です。私が本来、支配したアリウスの地で一から築き上げる予定でしたが……それは貴方によって見事に頓挫してしまいました」
あれはベアトリーチェにとって最も屈辱的で、度し難い結果だ。そのせいで本来の計画は抜本から見直す羽目となり、想定よりも手間を掛ける事にもなった。
だが、何も得られなかったわけではない。退学処分を下された事と、それを受け入れた事。この二つの要素が皮肉にも“生徒”としての“資格”を確固たるものとし、同時に“神秘”をこの身に宿す“資格”も得たのだから。
何せ、ヘルメット団やスケバンといった不良も“生徒”として認められている世界だ。退学処分……学校に“在籍していた”と認めるものでもあるが故、ベアトリーチェも“中退した生徒”としての立場を確立させてしまったのだ。
そして――
「ですが、私もそのまま立ち去った訳ではありません。貴方の力の一部をくすね、使えるようにしたのですから」
ベアトリーチェはそう言って、懐から例の“代用品”――【エクストラカプセム】を取り出す。マエストロとゴルコンダの技術によって使えるようにした、そのカプセムを視界に収めた恭介はそれだけで色々と察する事が出来た。
「……敵の力も利用するってヤツか。それで《ユスティナ聖徒会》を復活させたんだな?」
「ええ。そして――私の儀式の要としても」
ベアトリーチェは恭介の問に肯定すると同時に【エクストラカプセム】を掲げ、見せつけるように回転させていく。
――エクストラ
エクストラカプセムが輝きを放つとほぼ同時に、背後のステンドグラスも輝き出す。ステンドグラスから放たれた妖しい光がベアトリーチェを包み込み――彼女の身体の形を変え始めていく。
全身が伸び、花弁のような頭部も咲き誇った一輪の華のように広がり、その背後に紫に輝く円環――巨大なヘイローを携えた姿へと。
ステンドグラスの造形がそのまま反映されたかのような姿へと変わったベアトリーチェは、先程までと比べ物にならない存在感を放ちながら告げる。
『これが私の目指す“崇高”の姿。“神秘”と“恐怖”……本来は片側しか存在しえないモノを、同時に内包したこの姿こそ、私が“絶対者”であり“超越者”たる証なのです』
どこか自慢するように、今のこの姿こそが“崇高”なのだと語るベアトリーチェ。それでも、彼女が思い描く“崇高”にはまだ届いていない。その存在感も、今も強まったり弱まったりしているのだから。
『ですが、今はまだ不完全……この身に“敗北者”の烙印が刻まれたままでは、完璧な存在にはなり得ない。だからこそ、貴方をこの手で下し、葬って始めて、この儀式は完成を迎える。完璧な“超越者”が……万人を救う“絶対者”がこのキヴォトスに降臨するのです!!』
「だから、このまま黙って殺られろと?」
『それこそ論外です。そのような勝利では、かつての敗北は払拭できない。正面から完封なきまでに叩き潰してこそ、意味があるのですから。ですから――全力で闘い、私の糧となりなさい!速水恭介!!』
単純な結果だけではない。自身の“敗北者”の烙印を完全に消し去らなければ、望んだ結果には辿り着けない。より完璧な力を求めるが故の、必要だと判断したからこその、選択。
敗北した過去を越えるべく、完全なる勝利を求めるベアトリーチェに、恭介は告げる。
「その気概だけは認めてやる。手段も手口も最悪極まりないがな」
非常に不本意ながらも、その執念だけは見事だと褒めつつ、恭介は【ナイトインヴォーカーバックル】を胸へと装着する。バックルを装着し終え、恭介は懐から青と緑のグラデーションが掛かったカプセム――【トルネードカプセム】を取り出す。
「そして――あの時と違うのはお互い様だ」
ベアトリーチェが“崇高”の一歩手前まで差し迫ったように、恭介も様々な経験を経て此処に立っている。その一つ――【トルネードカプセム】をバックルの窪みに嵌め込み、ピンスイッチを押し込む。
――トルネード!
――オ!オ!オンユアマーク!オンユアマーク!
「変身!!」
右手で顔半分を覆い、払い退けるようにバックルにセットした【トルネードカプセム】を回転させる。回転した【トルネードカプセム】は内包した力を解放し――変身シーケンスへと移る。
――エンフォース!タ、ツ、マ、キ、ナイトシステム!――――トルネード!
恭介を中心とした、青と緑の旋風が巻き起こる。旋風の中から人を形作る光の線が走り――旋風が晴れると同時にその姿を現す。
銀色のタイツスーツに、青と緑のライン。複眼の色も青と緑で左右非対称。
ゼッツの《イナズマプラズマ》に相当する強化フォーム――《ナイトアリウス・タツマキトルネード》が此処に姿を現す。
恭介の変身が完了し――それが開戦合図だと言いたげにベアトリーチェが動く。
ベアトリーチェは撫でるように腕を振るい、正面に紫十数本の色に光り輝く槍を作り出す。間髪入れずに払うように腕を振るうと、光の槍は弾丸の如く恭介に向かって発射される。
『トルネード!』
対して恭介はカプセムの能力を使い、数段で引き上げた機動力で光の槍を躱していく。同時に展開された装備【タツマキマグナム】を構え、ベアトリーチェに向かって発砲する。
その発砲に対し、ベアトリーチェは避ける動作を見せる事なく腕で床を叩き――急に出現した岩壁で銃撃を防ぐ。
「……自分の意思で部屋を作り変え放題と言うことか」
『ええ。そして、私と貴方ではこの部屋を傷付ける事は敵いません』
言葉を交わしながらも、ベアトリーチェと恭介は攻撃の手を緩めることなく激しい戦いを続けていく。
それぞれが思い描く、この物語のエンドロールを目指して。
オリジナルフォーム紹介
《ナイトアリウス・タツマキトルネード》
ゼッツの《イナズマプラズマ》に相当する、本作のオリジナル強化フォーム。
竜巻の力を宿しており、攻防どちらにも応用が利く。その為、総合的な戦闘能力が向上している。
必殺技は【ストームフィエタル】。
原作との相違点
・《ユスティナ聖徒会》の起動がアリウスではなく、トリニティとなる。
・セイアが原作よりも早く命の危機に瀕する。
・ベアトリーチェ、早期に儀式を決行。ヘイローが赤ではなく紫なのは【エクストラカプセム】の影響。