夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
――時間は昨晩へと遡る。
「本当に一人で行くつもりなのかい?」
「はい。残念ながら現時点ではそれしか手がありません」
シャーレの先生の問い掛けに、恭介は他に手がないと告げる。その理由を、一つずつ説明して。
「まず、ベアトリーチェの暗躍の手口が未だ不明のままです。あの口振りからして、セイアさんの行方不明の噂にも関わっていた可能性があります。同じ手口でエデン条約機構となった彼女達にアリウスの事が伝われば……確実に“敵”と認識されるでしょう」
ベアトリーチェは、アリウスとトリニティの間で戦争を起こす事が本命だったと口にしていた。誤爆以外でどこまで手を回していたのか不明ではあるが、出所が不明の噂……セイアの行方不明の噂もベアトリーチェの仕込みの一つとして見るべきだろう。
「それに、道中に《ユスティナ聖徒会》を配置していると見ていいでしょう。下手をすれば、《ユスティナ聖徒会》を同時に相手しながらベアトリーチェと戦う羽目となります」
「……ベアトリーチェが最初から《ユスティナ聖徒会》と共にいる可能性は?」
「その可能性は限りなく低いでしょう。彼女の目的……“崇高”とやらに至るには、真正面から私を潰さなければ駄目のようですから」
単純に恭介を殺すだけなら、不意討ちを仕掛ければいいだけ。それをせずに堂々と宣戦布告をしたのは、必要な手順だから。敗北した過去を乗り越える……自身の汚点を明確に払拭するには、それ以外に手がないのだから。
「ただ、生徒の介入を認めている以上、途中で参戦しても問題はないでしょう」
「……結局、“戒律の守護者”達をどうにかしないと駄目ってことですね」
イチカが疲れたように呟いた通り、《ユスティナ聖徒会》をどうにかしなければどうにもならないのだ。過激派の暴走を止めるにも、トリニティゲヘナの全面戦争を回避するにも、《ユスティナ聖徒会》の存在は大きな障害となっている。
そこでふと、アコが何かに気付いたかのように口を開く。ちなみにイロハは限界が近かったので病室へと戻っている。送り主はイブキだ。
「……そう言えば、アリウスの皆さんは似たような存在を相手にした事がある口振りでしたよね?その時はどうやって対処したんですか?」
「“天使”の時は、ごり押ししつつアリウスの“総意”で覆せた。アリウスの皆が“審判者”の降臨を否定した事で、先生は“審判者”に乗っ取られずに済んだ」
「……凄く気になる単語が出てきましたが、その理屈で仰るなら“不正”を指摘すれば止まるのでしょうか?」
「難しいと思う。書面にサインして宣言したとなれば、ただ宣言しただけじゃ覆せないと思う」
ナギサの案に対し、アツコが難しいと返す。“審判者”の時は歪み故の強引なプロセスだった故、綻びを少し突けば簡単に崩せるものだったが今回の“戒律の守護者”は違う。
勝手に条約にサインしたとはいえ、プロセス自体は正当なもの。首脳陣が予期せぬトラブルによって倒れた状態で“代理”としてサインした以上、ただ不正を指摘しただけでは正当性を覆せない。
誰もが手詰まりを感じる中、シャーレの先生が何かを思い付いたように口を開く。
「……エデン条約をやり直せないかな?」
「やり直す?先生、それはどういう……」
「いや、今のエデン条約って彼女達が勝手にサインしたんだよね?それなら、もう一度エデン条約をやり直したら、リセットされるかなって……」
ある意味、突拍子もない思い付きのようなシャーレの先生の提案。その提案に……アリウス組は意表を突かれたかのように表情を驚かせていた。
「……確かに。シャーレの先生の言う通りにやり直せば、《ユスティナ聖徒会》は止まるかもしれない。少なくとも、不具合は起きる筈だ」
「最低でも、エデン条約は二つ存在する事になる……正規の手順で宣言すれば、有効になる。ただ、解決すべき問題が幾つかある」
「その内の一つが、新たなエデン条約を皆が認めるか、ですね」
エデン条約の再定義。確かにこの方法が一番現実的かつ、有効な一手となるだろう。恭介が口にした、同意が得られるかに目を瞑ればだが。
「それのどこが重要なんです?向こうは勝手にサインして、アレが生まれたんですから……」
「一見すれば、ね。だけど、それが通る下地があったからこそ、“戒律の守護者”は目覚めた。あの暴動で、ゲヘナへの報復の意思があの場を満たしてしまっていたから」
「あ……」
アツコの指摘に、古聖堂の外で指揮を取っていたアコはあの時の状況を思い出す。“戒律の守護者”――《ユスティナ聖徒会》が姿を現したのは、万魔殿の乗る飛行船が墜落してからだ。その前の行動――ヘイロー破壊に秀でたミサイルと爆弾によって、あの場にいたトリニティ生のゲヘナへの敵意は最高潮に達していた。
その報復として、過激派の宣言した《エデン条約》はまさに打ってつけだったのだろう。だからこそ、《ユスティナ聖徒会》は起動に成功してしまったのだ。
「アツコさんの推測は正しいと思います。あの場にいたトリニティの皆さんは、ゲヘナへの怒りで一つになっていましたから」
「……最低でも、調印した彼女達が疑問を抱かなければ覆せないだろう。《フィリウス派》への攻撃で冷静さを多少取り戻した今でも動いているからな」
「宣言する場所も、かな。例の古聖堂……彼処で宣言しないと土俵にすら立てないだろうし」
可能性は見出だしたが、クリアすべき問題点があまりに大きい。彼女達の説得もそうだが、例の古聖堂は《ユスティナ聖徒会》の活動拠点状態。あの場所へと戻るには、かなりの難易度となるだろう。
どうしたものかと再び頭を悩ませる中、シャーレの先生のスマホから着信音が鳴り響いた。
「電話?相手は……ヒフミ?」
シャーレの先生はヒフミからの連絡に疑問に思いながらも、スピーカーモードで電話に応じる。全体に聞こえるようになったスマホから、ヒフミの声が聞こえてくる。
『あ、先生ですか?別人ってことはないですよね?』
「確かに電話の相手は私だけど……何かあったのかい?」
『あ、そのぉ……何かあったと言いますか……これからやろうと言いますか……』
『何をそんなに躊躇っているんだ、ヒフミ?彼女達に文句を言いに行くと言えばいいんじゃないのか?』
近くにいたらしいアズサの疑問に、その場にいた全員が揃って首を傾げてしまう。
『そうですね。簡単に仰るなら……ヒフミさんは古聖堂にいる彼女達に一言文句を言いに行きたいそうです』
『ハナコちゃん!?いや、確かに間違っていないですけど……今のこの状況、私もアズサちゃん、ハナコちゃんとコハルちゃんだって……それにきっと、他の皆さんも……このまま傷つけ合うだなんて私は嫌ですし、楽しい学園生活を送りたいんです。それに、ペロロ様のゲリラライブも減っちゃいますし……』
「最後の言葉で台無しですね」
途中まではいい話だったのに、最後の台詞で一気に俗物感が増したことにアコがツッコミを入れる。ヒフミのペロロ愛はもう病気を疑う域なので、知っている者からすればスルーするしかないのだ。
「でも、どうやって彼女達の下へ向かうんだい?先生としては、危ない真似はしてほしくないんだけど」
『そこも大丈夫ですよ。アズサちゃんから、とても良い案を聞きましたから。
ハナコのその言葉で、シャーレの先生はもしかしてと察してしまう。恭介も知っているが故に、手で顔を覆って上を見上げてしまう。
――《覆面水着団》でカチコミを掛けるのだと。その為にアビドスも巻き込み、全員で乗り込むのだと。
『それと“白服さん”への伝言も預かっています。『白服さん達には本当にお世話になったから、少しは返さないと罰があたるよね~』とのことです♪』
ハナコからの伝言――ホシノの伝言に恭介は乾いた笑みを浮かべるしかない。サオリとアツコも思わず苦笑してしまう程だ。ヒナとアコは何となく察し、唯一理解できていないのはトリニティ組だけだ。
否、ナギサだけは顔を青くしていたが。ヒフミの噂……ブラックマーケットの出入りと、謎の強盗集団の首領という、信じたくない噂。その噂がヒフミを《補習授業部》へと押し込んだ一番の理由なのだが……似たような噂はアズサにもあった。
ナギサはアズサの噂がヒフミを巻き込んだ……茶番劇の後でそう思っていたのだが、先程の会話で噂が事実だったのではないのかと再度疑惑が浮上してしまったのだ。
「……正体を隠すだけで誤魔化せるの?」
『ただ顔を隠す程度なら通用しなかったでしょうが、《覆面水着団》は裏社会で有名みたいですので。少なくとも――』
ヒナの質問にハナコが答えている途中で、ナギサはついに脳の処理能力がキャパオーバーを起こしたのか、白眼を剥いて倒れてしまう。
「な、ナギサ様!?」
「何で急に泡を噴いて倒れているんですか!?」
「……もしかして、意外とメンタルが弱い?」
「……その可能性は高いですね。疑心暗鬼で暴走寸前でしたし」
ナギサが気絶した事にイチカとアコが驚き、アツコと恭介は理由を察して何とも言えない気分となる。同時に、目を覚ました時のナギサへの対応も決まる事となる。
――《覆面水着団》のフリをしてカチコミを掛けるだけだと。本物ではないから大丈夫だよと。嘘は時として人を守る事にもなる。その事を実感しつつ。
「……嘘で誤魔化すのは心苦しいが、教えたらまた倒れるだろうな」
「そうだね。ナギサには申し訳ないけど……」
「いや。皆さんが気に病む必要はないっす」
ナギサへの対応に少々塩が混じっているが、仕方ない。優先すべき事が多々あるから仕方ないのだ。一先ず、ナギサの介抱はヒナタに任せて話を進めていく。
新たな《エデン条約》――そのサインはナギサとヒナ、見届け人としてシャーレの先生とアツコも加わると。
トリニティにゲヘナ、アリウス……シャーレも認めた、和解と青春を願う“楽園”への第一歩を。
「後はセイアさんについては……来い!ルーラーメアカプセム!」
恭介が急に手を掲げてそう叫ぶと、何処から途もなく白い小型ドローンのような物体―【ルーラーメアカプセム】が恭介の手に収まる。知っているアリウス組と気絶しているナギサ、目を輝かせるシャーレの先生以外は目を白黒させる中、恭介は【ルーラーメアカプセム】をサオリに向けて差し出す。
「サオリ。君にこの子を預けます。この子の力なら彼女を助けられる可能性がある筈です」
恭介の言葉にサオリは頷くと、【ルーラーメアカプセム】は仕方ないと言いたげに小刻みに動いてからサオリの手に移動する。周りの視線が「え?それに自我があるの?」と問い掛けていたが。
「えっと……聞く必要もないと思うんだけど、本当に大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ。それに……大団円に終わるのが一番ですしね」
「……そうだね。少しでも皆が笑顔で迎えられる方がいいよね」
シャーレの先生は強化アイテムに相当するであろう【ルーラーメアカプセム】を手放す事を、答えが分かっていながら問い掛けるも、恭介の予想通りの返答を受けて素直に引き下がる。
やるべき事は決まった。後は貫き通すだけだ。
――恭介とベアトリーチェの戦いが始まった時間帯。
キュラキュラキュラキュラキュラキュラ!!
「フフフ、退かないと轢き倒しちゃいますよ♪」
「うへ~、クリスティーナちゃんもノリノリだねぇ」
「ん。このまま銀行も襲う」
『駄目ですよシ……ブルー先輩!今回の目的は古聖堂への突入なんですから!』
《正義実現委員会》が所有する戦車が、八人の覆面で顔を隠した集団を乗せて道路を爆走していく。首領のファウスト曰く『借りただけ』だが、勿論前回同様話は通っていない。勝手に拝借して乗り回しているだけだ。“7”と書かれたスクール水着覆面の“バキューン!”曰く、「緊急時なので大丈夫でしょう♪」との事。運転手の“8”と白字で書かれた黒覆面の“ジャスティン”は先輩達に謝り倒そうと心の内で決めていたが。ちなみに運転はかなり蛇行しており、道中の《ユスティナ聖徒会》をガンガン轢き倒している。
「あれって《覆面水着団》……?」
「ブラックマーケットで一暴れした、あの……?」
遠巻きで様子を見守っている人達が呟いている通り、首領のファウストと補佐のペンギンが堂々と姿を現していることで彼女らが《覆面水着団》だと認識されている。お陰で目論見通り、《ユスティナ聖徒会》の“ルール”から外れ、異常な打たれ強さが嘘のように簡単に倒されていく。その《覆面水着団》のトップの二人は……
『私は《覆面水着団》のファウストです!今日はこんな馬鹿げた争いを盗みに来ました!』
『同じくペンギンだ。今回の強盗を成功させ……来週のモモフレイベントを予定通りに敢行させる!』
『これが続けばペロロ様のゲリラライブも凄く減っちゃいます!それに全然楽しくありません!』
『その通りだ!不安に怯える明日より、期待に胸を高める明日が良い!だから盗む!』
メガホン片手に、何とも言えない演説をかましていた。妙な説得力を宿して。
『何気ない日常、当たり前と思っていた日々……それが、こんな事で終わるなんて納得できません!私だって銀行強盗しますが、守るべき一線はあるんです!』
『全てが虚しく感じても、その胸の内の熱は決して虚しいものじゃない!』
『私が今、こうして盗みに行くのも……文句を言いに行くのも、私が納得していないからです!これが皆の望みだなんて、認めていないからです!!』
『全ての過去は
『ペンギンちゃんの言う通りです!だから私は盗みに行きます!過去の嫌な意味を盗んで……何気ない青春の思い出の一頁として笑い飛ばす為に!!』
噛み合っているのか、噛み合っていないのか、端から見れば何を言っているんだと首を傾げる演説ではるが、不思議と耳を傾けてしまいたくなる演説。
ちなみにメガホンによる演説も“バキューン!”のアイデアだ。ベアトリーチェがやった“下地作り”……新たな《エデン条約》を効果的にする為の。内容は二人のアドリブであるが。
「全ての過去は無関係じゃない、嫌な意味を盗んで何気ない青春の一頁として笑い飛ばす……か。おじさんも何時か、笑える時が来るのかな……?」
「……先輩?」
「あ、ゴメンね。今は目の前に集中しないとね」
《覆面水着団》を乗せた戦車は蛇行しながらも爆走する。古聖堂を目指して。
描写にない場面。
・ヒナ、一人で弱気になっていたところをシャーレの先生に見つかる。その後色々吐露してメンタル回復。
・セイアの隠れ家に向かう前に、意識を取り戻したナギサがちゃんと連絡を入れる。アポ無し訪問だと団長との戦闘になるので。
・“バキューン!”は放送禁止用語。ジャスティンから「エッチなのはダメ!死刑!」と言われてもスルーした。