夢の力で青春を手助け   作:ライダー志望

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手口

爆炎が収まり、古聖堂に一時の静寂が訪れる。

爆発の中心――元の姿へと戻ったベアトリーチェは倒れ伏したままだが、意識はまだあるのか小刻みに身体を震わせている。

 

「グゥゥ……後一歩でしたのに……!百合園セイア……彼女さえ邪魔をしなければ、私は速水恭介を下し、“崇高”へと至れたのに……!」

 

怨嗟の声を零しながら、ベアトリーチェは震える身体に鞭を打って立ち上がろうとする。そんなベアトリーチェの後ろ姿を、恭介は無言で見つめている。

 

「ですが、まだ終わりではありません……!今回も失敗に終わりましたが、次こそは必ず……!」

 

ベアトリーチェは敗北を受け止めつつも、三度目の正直を目指さんと立ち上がる。まだこうして生きている以上、業腹でも再び逃げ出して“次”を目指す。今回よりも更に難しくなるだろうが、そんな物は今更だ。むしろ、“試練”は大きければ大きい程、その“見返り”も跳ね上がる。あの時の全能感……それ以上の“力”を得られるのなら。

――だが、その“次”は訪れない。

 

「いいや、お前に次はない。言った筈だ――これで終わりだと」

「黙りなさい……!」

 

恭介の宣告に、ベアトリーチェは憎悪を隠すことなく睨み付ける。同時に【エクストラカプセム】も取り出し、恭介に突き付けるように構える。

ベアトリーチェは【エクストラカプセム】の力を使い逃亡――しようとした直前で、ベアトリーチェの手から【エクストラカプセム】が地面へと落ちる。

 

「……は?」

 

その瞬間、ベアトリーチェの頭の中が真っ白になる。理由は【エクストラカプセム】を落としたから……ではない。その手から、一枚の細かい文字の羅列で書かれた用紙が落ちたからだ。

そして、その用紙――書類はベアトリーチェの手からどんどん舞い上がり、落ちていく。まるで、ではなく、自身の身体が何枚もの書類となって舞っていく。

自身の身体が紙になっていく……その現実を漸く認識したベアトリーチェは恐怖に顔を歪めた。

 

「な、何なのですかこれは!?私の身体が、何故――!?」

「……上手くいったみたいだな」

 

その台詞で、この異常が恭介の仕業だと知ったベアトリーチェは焦りながらも問い掛けていく。

 

「これはお前の仕業ですか!?速水恭介、私の身体に一体何を――」

「お前の所業を白日に晒す文章へと書き換えた。普通は出来ない事だが……此処は夢と現実の境界がないんだろ?なら、存在の“核”を消し去った上で刻み込めばもしやと思ったが……結果は御覧の通りだ」

 

恭介のその説明で、ベアトリーチェは自身の末路を理解する。同時にそのカラクリにも。

あの時、ベアトリーチェは二度もまるで真っ白に塗り潰されるかのような感覚に襲われた。真っ白となった状態で新たに書き換える……限度は当然あるだろうが、力を大きく削られた今の自分を別の何かにするくらいは雑作もないのだろう。それを可能としたのが、ベアトリーチェ自身が用意したこの“古聖堂”であることも。

自身の末路――書類の束となって消える運命を悟ったベアトリーチェは、対抗策を求めるも既に遅い。身体の半分以上が、書類として舞っているのだから。

 

「止めなさい!止めろ!こんな所で私は……!“崇高”へと至り、頂きに立つ私が!“絶対者”と、“超越者”となるべきこの私が!こんな、こんな――」

 

ベアトリーチェは今すぐ止めるよう訴えかけるが、止める理由もなければ聞き入れる理由もない。恭介が無言で見守る中、ベアトリーチェの上半身は何十枚もの書類となって消失している。

 

「――――」

 

最早声なのかも分からない。悲鳴か絶叫なのかも分からない。頭を喪ったベアトリーチェの身体はそのまま猛烈な勢いで紙へと変わり――何十、何百枚の書類の山と化して消えていった。

ベアトリーチェの存在が一欠片も残さず書類となり、恭介はゆっくりと散らばった書類の束へと近づいていく。少しの窪みがある場所で屈み、掻き分けるように書類を飛ばして【エクストラカプセム】を回収する。

 

『イレイサー!』

 

【エクストラカプセム】を握り締めたまま、バックルの【イレイサーカプセム】を回転させて能力を発動させる。その能力により【エクストラカプセム】は力を喪い、元の【ヴォイドカプセム】へと戻る。同時に古聖堂だった場所がグニャリと歪み、元の通路の行き止まりへと形を戻す。

後はこの書類の束を回収するだけ……恭介は手早く回収しようとした所で、背後から足音が聞こえて来る。警戒心を露に振り返ると、そこにいたのは小さな絵画を抱えた首なしの人物だった。

 

「お初にお目にかかります、速水恭介さん……今はナイトアリウスさんとお呼びした方がよろしいでしょうか?私の名前はゴルコンダ……私を抱えている彼はデカルコマニーです」

「そう言うこった!」

 

ゴルコンダと名乗った後頭部の絵画の紹介に、デカルコマニーと呼ばれた首なしは肯定するように声を発する。二人一組の人物の登場に、恭介は地面に放り投げていた武器を拾って切っ先を突き付ける。

場合によっては斬る……恭介の無言の脅しに対し、ゴルコンダは察しつつも言葉を続けていく。

 

「私は貴方と戦いに来たわけではありません。同志のマダム……彼女の成れの果てを()()しに来ただけです。本当は連れ戻すおつもりでしたが」

「だったら、私の返答も予想できているだろう?お前達の回収とやらを許すつもりはない」

 

ゴルコンダの目的を聞き、恭介は明確な拒絶の意思を示す。このまま彼らに回収されてしまえば、ベアトリーチェの“手口”を知る事が出来ないからだ。ベアトリーチェがどうやって誘導し、この盤面へと導いたのか……それを知らなければ、対策のしようもないし常に後手へと回ってしまう。だからこそ、ベアトリーチェを所業を書き記した書類の束へと変えたのだから。

 

「分かっています。ですが、私達としても困るのです。マダムの“計画”……此度の実験の子細を知る必要があり、場合によっては早急に手を打たなければなりませんから」

「そう言うこった!」

「もちろん、タダでとは言いません。貴方が知りたいマダムの“手口”……それは私達も知っていますので、貴方に教える事が出来ます。“手口”に関する質問であれば可能な限りお答えしますし、《ヘイロー破壊爆弾》に関する技術も資料も全て破棄します。アレは私がマダムに提供した技術ですので」

「……お前がアレの製作者だったのか」

「ええ。効果はある程度確認できましたが……望んだテクストには届いていませんでした。それに、ナイトアリウスさんとシャーレの先生……お二人との関係がこれ以上悪化するのも避けたいですからね」

 

ゴルコンダが《ヘイロー破壊爆弾》の大元だと知った恭介は今すぐ消し去るべきかと考えるも、それは悪手になりかねないと思い直す。話の流れからして、目の前の人物も《ゲマトリア》のメンバーと見ていい。仮に彼を始末したとしても、《ヘイロー破壊爆弾》に関する資料は残ったまま。別の誰かが利用しないとも限らない。

最初の提案も加味し……恭介はゴルコンダに突き付けていた武器をゆっくりと下ろした。

 

「……いいだろう。但し、回収を許すのは“手口”の説明が終わってからだ。後者は確認する術がないからな」

「寛大な対応に感謝します」

「そう言うこった!」

 

恭介の要求をゴルコンダは妥当だと受け入れ、素直に礼を述べる。デカルコマニーも同意し?、ゴルコンダはその場でベアトリーチェの今回の“手口”について語っていく。

 

「マダムの手口を簡単に説明しますと、【混沌の領域】を利用して判断を誘導し、最悪のタイミングで爆発するように仕向けていました」

「【混沌の領域】?」

「ええ。世界の裏側……あらゆる可能性が内包された、不安定な空間。そこからあらゆる次元、事象、認識、情緒へと干渉でき、介入する事が出来るのです。使い方次第では、対象の動きでさえ操作できます」

「そこからアイツはずっと、裏で操っていたと?」

 

恭介の問いかけに、ゴルコンダは違うと言いたげな雰囲気を発する。生徒を道具扱いするベアトリーチェなら、そうしてもおかしくないにも関わらず、使わない理由もない筈だ。

その疑問に対しても、ゴルコンダは説明していく。

 

「いいえ。マダムはそのような使い方はしませんでした。理由は頻繁に出入りしていたからです。干渉は【混沌の領域】内でしか行えず、領域から出ると干渉も止まりますから。彼処は本来、結果()()を叩き出しますから」

「そう言うこった!」

「……干渉を止めてもそのまま突き進むんじゃないのか?」

「進みませんよ。行動の経緯……過程のテクストを強引に捩じ込んで結果を記入している故に、干渉が途絶えれば訳も分からない状態となってしまうからです。例えるなら、適当に散らばった文面を並べてそれらしくしても、後で読み返すと文章として成立しない……物語ではなく、単なる文字の羅列の塊でしかないのと同じです」

 

ゴルコンダの独自のニュアンスを交えたその説明を聞き、恭介は納得する。自らを“崇高”に至らしめんとするベアトリーチェにとって、ずっと裏で引き籠るのは性に合わない処ではない。むしろ本末転倒になりかねないものだ。

 

「ですが、マダムはその仕組みを逆用したり、結果を直接記入するのではなく、本命の結果の為の小さな結果を小まめに記入することで、出入りを繰り返す状態にも関わらず思い描いた結果へと導きました。その手腕には正直、私達も含めた《ゲマトリア》のメンバーは感心した程です」

「……出所不明の噂も、その一つだったと?」

「ええ。トリニティ……かの学園の抱える問題点を上手く利用した結果でもあります。仮にアリウスで同じ事をやろうとしても、そう上手くはいかなかったでしょう」

「そう言うこった!」

 

ゴルコンダの説明で、恭介はベアトリーチェの今回の手口はある程度理解する。

【混沌の領域】からトリニティ……もしかしたらゲヘナの不安を煽り、誤解とすれ違い、積もりに積もった不安と不満を調停式で爆発するように誘導していたと。

それでも、ある疑問が残る。

 

「だが、強制的に動かせるならもっと直接的に出来る筈だ。あの女が、そうしない理由がない」

「強制とはいえ、何でも出来るわけではありません。【混沌の領域】の力は可能性がゼロか、確定している物には一切通用しないのです。シャーレの先生が生徒を使い捨ての道具のように扱う……そんなあり得ないと“断定”できる行動のテクストは、何れ程干渉しようと起こせず書き込めないのです。いくらプロセスを無視できるとはいえ、強引に押し通せるテクストがなければ不可能ですから」

「そう言うこった!」

 

【混沌の領域】は不確定要素を駆使して強引に結果を叩き出す。本来なら“あり得ない行動”でも、強引に理由を結び付け、使用者の望んだ通りへと無理矢理動かす。例えるなら崩れかけの積み木を手で押さえて、形を何とか維持しているようなものだ。手を離せば積み木は崩れ、意味を成さなくなるように。理屈も思考もそれらしく繋げても、思い返せば疑問を覚えて困惑して止まってしまう。何せ、()()()()()が欠落してしまっているのだから。

 

「……なら、その【混沌の領域】はどうやって封鎖する?そんな物を放置したら、別の誰かが使うんじゃないのか?」

「その可能性は否定しませんが……少なくとも()()《ゲマトリア》の者達は利用しないでしょう。求める結果にさえ影響を及ぼす故に、正確なテクストに期待が出来ませんから。加えて、【混沌の領域】を封鎖するのもその性質から不可能です。簡単に辿り着ける場所ではないので、早々利用される事はないでしょう」

 

ゴルコンダは特徴等の問題から【混沌の領域】の封鎖は不可能と答えつつ、簡単には行けないから当面は問題ないと返す。しかし、恭介はゴルコンダの言葉の一つを聞き逃していなかった。

 

()()と言ったな?なら、()()連中が利用するんじゃないのか?」

「……確かに彼なら躊躇いなく、それこそ結果だけを記入する形で利用するでしょう。ですが、現在は完全に隔離された空間へと幽閉しております」

「そう言うこった!」

「……何かしらの切っ掛けで解放されたらどうなる?」

「……間違いなく【混沌の領域】から暗躍するでしょう。ですが、私が答えられるのは此処までです。元とはいえ同志……《ゲマトリア》の不文律を破るわけにも行きませんから、申し訳ありませんが此れでご容赦下さい」

「そう言うこったぁ!!」

 

【混沌の領域】を直接的に使う存在がいる事を認めつつも、元とはいえ仲間の情報は売れないと返すゴルコンダ。恭介としてはその人物の情報も欲しいところだが、ゴルコンダの態度からして絶対に話さないだろう。黒服も共有はしても相互不干渉が決まりだと答えていた事もあり、渋々ながらも恭介はそこで引き下がる。

 

「私から教えれらる事は全てお伝えしましたが……他に質問はおありでしょうか?」

「いや……聞きたい事は聞けた。後は好きにしろ」

 

恭介は変身を解除すると、散乱する書類に目も暮れずに歩いていく。交差する直前でデカルコマニーがお辞儀し、そのまま互いに距離を取っていく。

 

「……速水恭介さん。これはシャーレの先生にも言える事なのですが、貴方達が関わるとすべての概念が変わってしまいます。悲哀と憎悪のテクストによる物語が、友情と努力によるテクストによる物語となったように」

「…………」

「ご気分を害されてしまったのなら、謝ります。ただ、非常に興味深いのです。本来の物語の結末を書き換え、新たな物語を紡いでいく貴方達が」

 

ゴルコンダの評価に恭介は何一つ答える事なく、その場を立ち去っていく。

その後、シャーレの先生達の方も上手くいき、此度の騒動は幕引きへと向かっていくのであった。

 

 

 

将来、ゴルコンダから無理矢理聞き出しておくべきだったと頭を抱える羽目になるが、まだ先の話である。

 

 

 




原作との相違点と描写にない場面

・ベアトリーチェ、オリ主によって紙の束にされる。その後、ゴルコンダとデカルコマニーに回収される。
・シャーレサイド。ヒフミの文句からの新たなエデン条約の宣言によって《ユスティナ聖徒会》の無力化に成功。その後、シャーレの先生の説得を受けて過激派も投降する。
・マエストロ、情熱的な場面を前に我慢出来ずに介入。《ヒエロニムス》をけしかけるも、トリニティ、ゲヘナ、アリウス、アビドス組を前に撃沈。【大人のカード】の力も目の当たりにし、シャーレの先生に謝罪してから立ち去った。
・【混沌の領域】と利用者の存在を早い段階で知る。この時点から、不正だらけのワンサイドゲームのフラグが見事にへし折れると同時に、対象の破滅フラグも浮上した。

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