夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
¶月○日 晴れ
ここ暫くは慌ただしい日々だった為、日記にまたしても間が空いてしまった。仕方ないと割り切っているが。
今回の騒動でベアトリーチェ問題も解決し、アリウスの不安要素の大部分が漸く解消された。それでも課題は山積みだが。
まず《エデン条約》に関してだが、内容を幾つか変更した上で結ばれる事となった。エデン条約機構は双方の関係から設立は見送り。あくまで双方の和解への第一歩という形で、トリニティとゲヘナの間で締結された。壇上の上でシャーレの先生とアツコが見届け人として見守る中、同じく壇上にいる暫定的な責任者が握手を交わして。
その時のゲヘナの臨時代表は風紀委員長の空崎ヒナさんだ。本来のトップ、万魔殿の議長である羽沼マコト殿は、まだ怪我から回復しておらず、他の万魔殿のメンバーと共にベッドの上だからだ。今回の顛末をシャーレの先生と共に伝えたら、明らかに不満げに唸っていた。補佐の棗イロハさん曰く、風紀委員会が目立つ結果に終わった事が気に食わないだけとの事。
後、ゲヘナが所有する形となった《ヘイロー破壊爆弾》と同等の性質を持つミサイルについては、風紀委員会が万魔殿と協力して安全を重視して解体・処分していく事となった。数もそれなりにある上、下手に外へと出すより自治区内で解体した方が安全だと、全員の合意の上で決められた。存在自体が厄ネタの上、他の自治区に余計な混乱と疑惑を与えかねないからだ。これに関しては、マコト殿も素直に同意してくれた。
ちなみにマコト“殿”と呼んでいるのは、さん付けに対してあからさまに不満げなオーラを放っていたからだ。殿と言い換えたら上機嫌となったので、今後は殿と呼ぶ事にしている。
トリニティの臨時代表は……聖園ミカさんが務めた。理由は単純にやらかしが小さかったからだ。無事に回復したセイアさんとホスト代行のナギサさんのやらかしが事の経緯から隠す事が出来ず、ミカさんより信用を失う結果となってしまったからだ。下手をすれば《ティーパーティー》からの除名も検討されたそうだが、そこは諸々の事情で白紙となったとの事。
その事情……一部の《パテル派》と《サンクトゥス派》の暴走をお咎め無しにしたからだ。シャーレの先生の説得も相まって、彼女達は公的に裁かれずに済んだ為、自分達の首を絞めたくない彼女らは不満を呑み込む事にしたとの事。今回の件で学園内の派閥争いも、鳴りを潜める事となったそうだし。
そう言った事情もあって《ティーパーティー》の総入れ替えは余計な混乱を招く事もあり、暫定的にミカさんをホストとして、学園の舵取りを続けていくとの事。今回の件の反省とミカさん自身の政治に対する適性の低さから、ミカさんの権限は基本方針と最終決定権に留め、ナギサさんとセイアさんが補佐に入る形で回していくとの事だそうだ。
ホストになったミカさんは《エデン条約》を白紙とまではいかずとも、延期した方がいいんじゃないかと口にしたそうだが、そこはナギサさんが分かりやすいように説明した。セイアさんは遠回しな説明がデフォのせいで、非常に伝わり難いからだ。
今回の騒動でトリニティとゲヘナは双方共に痛手を負ってしまった事。何かしらの落とし所を用意しないと、再び爆発して戦争一歩手前に戻りかねない状態だと。その為に《エデン条約》を結び、引き下がる理由を作るのが最善だと。
ナギサさんの説明を聞き、ミカさんもアリウスとの和解にも悪影響が出そうだと納得して、《エデン条約》の締結を受け入れた。アリウスとの和解に関しても、反対の立場だったナギサさんとセイアさんも今回の件を通じて、前向きに進めていく事にしたそうだ。個人的にも恩を感じているとも語っていたそうだ。
そして、肝心のアリウスについてだが、シャーレの先生が連邦生徒会にも働きかけてくれたお陰で、暫定的とはいえ自治区と学園の存在を認められる運びとなった。トリニティにゲヘナ、アビドス……三つの学園も同意した事によって。
今回の件により、正式にアビドスと堂々と交流できるようになり、今までのようにコソコソする必要がなくなった。政治の問題から、アビドス自治区内でのバイトの手数料はそのままではあるが。
ただ、いきなり全面的に交流すると数々の問題が浮上してしまう為、時間を掛けて進めていく予定だ。アリウス自治区内では、貨幣の概念がほぼ死んでしまっているし。
それとシャーレの先生を含めた関係者全員に、ゴルコンダと名乗った絵画の人物から得た【混沌の領域】についても共有した。利用しかねない人物については、現時点ではどうしようもないから多少ぼかしてしまったが。余計な不安と混乱を与えるのは、本意ではないからな。シャーレの先生にだけは説明したが。
これは完全に余談ではあるが、シャーレの先生から【ナイトインヴォーカーバックル】について根掘り葉掘り聞かれた。一体何処で手に入れたのか、それともミレニアムの未知の技術による作品なのかと。そんなシャーレの先生に、正直に答えたが。変に誤魔化して、拗れたら面倒でもあるし。
¶月§日 雨
本日は連邦生徒会会長代行、七神リンさんと会って話し合った。シャーレの先生同席で。
リンさんはアリウス自治区の公認化には難色を示していた。理由は危険性からではなく、解決すべき課題が多いからだと。
まず、アリウス自治区への生き方が迷路同然のカタコンベを通してしか行けないからだ。三百の出入口に、定期的に変化する通路、一度迷えば彷徨い続ける危険性。流通の観点から見ても安定した往き来ができないのは、自治区の認可において確実に問題に上がると。
その点は事実なので、アリウスの《地図作成部》と解放予定の【ポルタパシス】の書物、トリニティの《古書館》と連携して専用の地図を用意することで解決を図る事を伝えた。
次に経済。これは段階的に進めていくしか方法はない。アリウスは自給自足をメインとして回してきたから、自治区内でお金のやり取りはほとんど発生していない。アビドスでのバイトも、外での物資購入とプライベートな買い物に使われていたし。
加えて、決定権を下せる連邦生徒会会長が失踪している事も問題だった。自治区の学園の公認には連邦生徒会会長のサインが必要であり、代行の権限でも出来ないことはないが、それだとどうしても時間が掛かるとのこと。これに関しては、シャーレの権限を上手く使えば解決するだろうとの事。その分、精査がかなり厳しくなるそうだが。
他にも細々と指摘されたが、大きな問題はこの二つだ。後、“学校の備品”についても聞かれたが、それは危険性も交えて話させてもらった。
学校の備品――弾切れを起こさない武器は、余程の事態でない限り自治区内から出すつもりはないこと。存在が公になれば、新たな火種になりかねない事も。
その事にリンさんは何でそんな物を作ったのかと厳しい口調で問い掛けられたが、正直に弾代がもったいなかったと伝えたら間の抜けた表情になった。シャーレの先生はその答えを聞いて、逆に納得していたから余計に目立っていた。
¶月◇日 曇り
本日はシャーレの先生御一行がアリウス自治区へと訪れた。理由は自治区の正式な認可を出す為の視察からだ。実際の自治区の様子を確認して、書面として残さないと後々の問題となるからだ。シャーレの先生一人でも問題ないのだが、形だけでも護衛がいないと体裁が悪いとの事。
シャーレの先生は勿論、同行者として他学園の生徒も数名同行していた。事前に誰が来るのかも通達されていたしな。
その生徒は、アビドスの小鳥遊ホシノさんと奥空アヤネさん。トリニティの百合園セイアさんと仲正イチカさん。ゲヘナの銀鏡イオリさんと火宮チナツさん。合計六名だ。
ゲヘナの生徒が自治区に来る事に《スクワッド》を初めとした皆さんは微妙な表情をしていましたが。アリウスを認めた自治区の一つであり、最低限の確認は認めないとややこしくなると聞かされて渋々ながら納得しました。お二人が風紀委員会所属であり、ヒヨリ経由で漸く柴関の大将に謝罪したと知れたからでしょう。
アリウス自治区の案内もトラブルなく終わり、授業体制等も一先ずは現状維持で大丈夫だろうと判断されました。
アリウス分校。
かつては廃墟同然であった建物であったが、恭介の【リカバリーカプセム】の力によって修復され、校舎としての機能を取り戻した、アリウス自治区の学校。
その校舎内を、シャーレの先生御一行は生徒会《スクワッド》と風紀委員長、校長の案内の下で見学していた。
「授業体制は基本的に自習……上級生が下級生に教えるようにしているんだね」
「ええ。お恥ずかしい話ですが……今は卒業してもキヴォトスに留まる事を選んだ子たちが、教員を務めてくれていますが……」
「隔絶された場所故の、弊害というやつだね。外界と切り離された秘境ほど、時代の流れから見放される傾向が強いとされているが……」
「秘境か……確かに秘境と言えるかもしれないな」
「……それ、褒められてないから。遠回しの皮肉だから」
セイアの秘境呼びにサオリが沁々と頷いているが、ミサキは遠回しに田舎者呼ばわりされているだけと斜に返す。哀しき事に、ミサキの見解は外れているのだが。
ただ、時代の流れに遅れているのかと聞かれたら、全員が揃って首を傾げるのだが。
「その割に、太陽光パネルや風車らしき建造物が多くあるよな?」
「太陽光発電と風力発電……それ以外の発電施設はあるのでしょうか?」
「ないよ。水力発電は水路の問題から、火力発電は管理者もいなければ知識もない。私達でも問題なく管理・運用できるのがこの二つだっただけ」
「そ、そうか……」
「……確かに。安全面から考慮しても、火力発電は難しいですね」
アツコの返しに、疑問を口にしたイオリとチナツは素直に納得する。確かに無知で手を出していい方法ではないし、何かしらの事故が起きれば被害も出る。安易に手を出して、取り返しのつかない事態にでもなれば本末転倒だ。
「それに、ガソリン等の燃料となる資源もありませんしね。アリウスのメインのエネルギーは電気のみですから、移動は貨物用の電車や、電気駆動に改造した車種頼りです。これは《電気工学部》のおかげですね」
「今は新たな動力源……水素エンジンやプラズマ動力の研究も行ってくれています」
「それは凄いっすね。治安も良いっすし、娯楽の少なさを除けば快適に暮らせそうっす」
スバルと恭介が明かしたエネルギー事情に、イチカは率直な意見を口にする。実際、アリウス自治区は数年前までは内戦状態。何もかもがズタズタだった筈が、その数年で此処まで持ち直したのだから。
「それでも、課題はまだまだ残っているけどね。最たる例が医療設備と技術の低さだね」
「あー……確かに医療の質の低さは問題っすね。大きな怪我や病気に対応仕切れないと、悪化させる可能性があるっすし」
「それでサオリが二週間も寝込み……留年する羽目となりました」
「え?サオリって留年してたの?」
シャーレの先生が意外そうに問い掛けると、アツコ、スバル、恭介はサッと顔を逸らす。サオリは気まずそうに視線を泳がせている。それだけでサオリの留年は事実であり、同時に彼女の自業自得の結果であることも察せた。
「へ~、アリウスの制服は《裁縫部》による自作なんだ」
「あ、はい。材料が限られているので、一般的な制服と比べて劣ってますが……皆さんの制服と比べて安物っぽいですよね……」
「そんな事ないですよ!それどころか、少し羨ましかったり……」
「そ、そうですか?うぇへへへ……」
ヒヨリはアヤネに制服を誉められ、若干照れながらにやついた笑みを浮かべる。事実、白を基調としたセーラー服のデザインは普通に可愛いのだ。それが手作りなのだから、素直に感心を覚えるのも当然である。
「一つ気になる点があるとすれば……体育の授業内容っすね」
「それはおじさんも思ったよ~。体育で戦闘をするのは、アリウスでは普通なの?」
「そこは内戦が長かった弊害……みたいなものですね。サバイバルゲームを下地にルールを作り、スポーツの一種として自己防衛の一環として行っています。銃火器も、“備品”で賄ってますし」
「ふむ。過去の積み重ねと染み付いた習慣に対する対処法と言うやつだね。妥協点を探り、徐々に緩和させていく……実に悪くない手だね。ああ、別に嫌味で言ったわけじゃない。むしろ、見習うべき点だと感心したくらいさ」
セイアが口にした通り、アリウスの背景を考えれば最良と言える方法だろう。実際、サバイバルゲームを知識として知っているシャーレの先生も、それなら早々危険にはならないと思えたのだから。
ただ、“備品”に関しては微妙な表情をせざぬを得なかったが。
「例の“備品”……弾を際限なく撃てる銃は授業の為に用意しただけってことか?」
「ええ。幾ら弾が簡単に買えるとはいえ、決して安い買い物ではありませんから。銃弾を作る技術も材料もありませんし。ただ、危険性も理解していますので、基本的には自治区外への持ち出しは禁止しています。持ち出しも、私と《スクワッド》全員の判を押さないと駄目ですからね」
「唯一の例外は校長の武器くらいだな。例の……変身で勝手に手元に呼び出されるから、どうしようもない」
「そこは……仕方ないよ。ライダーが何処から途もなく武器を取り出すのも、お約束だからね」
「何で先生は納得できているんです……?」
アヤネがシャーレの先生の呟きに困惑するも、仕方無い。シャーレの先生はそういった分野は大好物だし、理解も深いからだ。時代的に腰ベルトの概念しか知らないので、新しい概念の胸ベルトには未だに違和感を覚えてしまうが。
その後も色々と見て周り、シャーレ一行の自治区の調査は問題なく終える事が出来た。
後日――
「フフ……アリウス自治区。この地に美食……熊肉と鹿肉があると聞きました!なので、熊と鹿を狩って――」
『『『ライトニング!カバンショット!』』』
「「「「あびゃああああああああっ!?」」」」
「何で私までぇえええええええっ!?」
何処から嗅ぎ付けたのか、美食を求めるテロリスト達が来訪したが、アリウスの風紀委員会によって即制圧。ゲヘナ風紀委員会へと直ぐに引き渡されるのだった。拉致で巻き添えを喰らった彼女には、苺と蜂蜜を御詫びの品としてプレゼントされた。
今回の相違点
・聖園ミカ、ホストになる。あくまで“顔”なので、ナギサとセイアが常にフォローしている。本人も頑張っているが、知恵熱を頻繁に起こしている。
・アリウス問題は別の意味で課題が多々ある。“臨時代表”は存在しない為、風通し自体は良好。腰を据えて解決に取り組んでいる。
・シャーレの先生のアリウス訪問。他学園の生徒も連れて同行。あくまで関係者のみ。セイアが同行したのは、直接アリウスを見たかった事と関係者であるミカの代理から。
・描写はないが、ミレミアムはアリウスをかなり警戒している。理由は“備品”の存在から。