夢の力で青春を手助け   作:ライダー志望

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印象

《side:トリニティ》

 

《ティーパーティー》のテラスにて。

 

「うぅ~……こんなに仕事が多いなんて聞いてないよ!ナギちゃんもセイアちゃんも、どうして涼しい顔で捌けてたの!?」

「むしろ、ホストの仕事量を把握してなかった事が信じられないのですが……」

「知識と実物は別物という言葉がある。眺めるだけで全てを理解した気でいるのは、誰にでもある事だ。私もかつて通った道でもあるしね」

 

ミカの弱音とナギサの呆れに対し、セイアはフォローとも取れる皮肉で応じる。実際、仕事内容は端から見るだけでは把握できないし、一連のやらかしの反省点でもある。事実、偽装死亡の件は完全に悪手だったのだから。

 

「それでセイアさん。先生達と一緒にアリウス自治区を見て、どう思いましたか?ミカさんから話を聞いた限りではありますが、治安も含めて良好との事でしたが……」

「そうだね。治安に関しても悪くはないと言えるだろう。喧騒が全くないわけではないが、互いに傷付け合う程ではない。ある意味、自治区らしい自治区とも言えるね」

 

ちょっとした行き違いや喧嘩はあったが、風紀委員の仲裁ですんなりと引き下がる程度。アリウス流の“話し合い”に発展しても、グラウンドで“決闘”を行うくらいだ。その“決闘”には、セイアも含めた全員が微妙な反応をしていたが。

 

「自治区らしい自治区、ですか……確か、食料の自給自足が授業として組み込まれていて、生徒の皆さんで行っているのでしたね?」

「うん。私が最後に訪れた時は、ガラスハウスでの苺の栽培が始まっていたよ。蜜蜂の養蜂箱もあったし」

「……聞けば聞く程、平和な場所に聞こえますね」

 

そこはビニールハウスではないかと思うのだが、アリウスの物資事情を鑑みればビニールよりガラスの方が安定して使えるのだろう。ちなみに苺の栽培は意外と難しい。畝に藁等を敷いて実と土が触れないようにしないと、その時点で食べられなくなるから。

 

「でも、“商業”としては難しいんでしょ?校長さんの話じゃ、色々な手続きが必要みたいだし」

「その認識で間違ってはいないかな。そもそもアリウスは長年の内戦で金銭は無用の長物だったんだ。自治区内で“消費”するならまだしも、“出荷”となると話が変わってくる。学業と事業は本来、区分されて然るべきものだからね」

 

レッドウィンター連邦学園の《工務部》ような、依頼があれば他自治区でも活動し賃金を得る部活動もある。ミレニアムでも投資や著作権、使用権等で大量の金銭を得ているケースもあるし、アビドスのように中古品の販売やアルバイト等で調達しているケースもある。それでも“社会勉強”として認められているし、学業とはしっかり区別されている。学生の本質は疎かにはしていないからこそ、成立している。

アリウスの農業もそちらに分類できなくもないが、最大の問題はそこではない。使える経路に問題があるのだ。

 

「仮に物流が実現できたとしても、それは小規模。カタコンベの通路はそこまで広くもなく、良くてスクーターくらいだ。地図の方も完成していないからね」

「素早く、安定した往き来が出来ませんと生物の流通は困難ですからね。ミカさんが個人的に支援していた頃も、クーラーボックスと徒歩で乳製品や生魚を運んでいたそうですし」

「地図はウイちゃんと協力して作ってくれているけど……一般の人でも使えるようにするには、どうしても時間が掛かるみたい。アリウスの子達も、時々迷子になっていたみたいだし」

 

外に出る時はトランシーバーを常備するのが、アリウスにおける最大の安全策だったとミカは語る。その理由は“裏技”で帰り道を作れる人物がいるから。今はトランシーバーからスマホへと徐々に変化しているが。堂々と銀行口座が作れるようになったから、問題なく電波を使えるようになったからだ。

恭介も例の端末にSIMカードを挿入し、普通に使えるようになっている。ちなみにモモトークは既にアリウスの生徒達で一杯である。

 

「後は……例の武器くらいかな。アリウスの校長の能力で持ち込んだ武器……理由が弾代の節約という庶民思考のそれだが、中身は楽観視できるものではない」

「ええ。アリウスに戦争する気がないのは既に承知していますが、アレらは存在そのものが火種となります」

 

実際、それを目の当たりにしたナギサはよく理解している人物の一人だ。リロード無しで撃ち続けられるだけでも凶悪なのに、明らかに高威力の一撃まで放てたのだから。

……やたら自己主張が激しく、メロディも流れて煩かったが。仕様が玩具なのに、性能がゴリゴリの実用向きなのが微妙に納得がいかない。ガトリングガンの類らしき銃火器はそうでもなかったが、片方はまだしももう一つはデザインがおかしい。楯なのにガトリングガンとして使えるのがおかしい。シャーレの先生は何故か感慨深く頷いていたが。

 

「うーん……あんまり深刻に捉え過ぎるのも駄目だと思うよ?校長さん達も危険性は熟知してるし、私達が騒いだらそれこそ現実になりかねないし」

「……それもそうですね」

「それが最適解かもしれないね」

 

ミカの楽観視とも取れる意見に、ナギサとセイアは反対する事なく頷くのだった。

 

「ちなみにだが、お土産のメロンと蜂蜜があるけど食べるかい?」

「「食べる(ます)!」」

 

 

《saido:ゲヘナ》

 

ゲヘナ風紀委員会室にて。

 

「イオリ。チナツ。アリウス自治区を実際に見てどうでしたか?」

「んー……わりと穏やかな場所だったぞ?行政官。本当に内戦をしていたのかと疑問に思うくらいだ」

「私も同じ意見です。少々ショッキングな光景もありましたが……」

 

アコの質問にイオリは率直な感想を伝え、チナツはある光景を思い出して若干顔を青くする。そんなチナツの反応に、ヒナが問い掛ける。

 

「チナツ。ショッキングな光景って何?隠す事なく教えて」

「……鶏の解体現場です」

 

チナツが答えた瞬間、室内の空気が一気に重くなった。イオリはその光景を思い出したのか表情をゲンナリとさせ、アコとヒナはどう反応すればいいのか困惑している。そんな一瞬で重苦しい雰囲気となった室内で、アコが気を取り直したように口を開く。

 

「に、鶏の解体現場ですか……アリウスでは、養鶏も行っているのですか?」

「……はい。メインは鶏肉ですが、熊肉や鹿肉、猪肉もあります。あくまで限られた時期ではありますが」

「……そう」

「ちなみに私とチナツは、そこで鹿肉を頂いた。初めて食べたが、意外と美味しかったぞ」

 

ちゃっかりご馳走になっていたイオリとチナツに、アコとヒナは再びどう反応すればいいのか困る。確かに珍しい食肉ではあるが、微妙にずれている気がする。

これが後日、謎の嗅覚を発揮したテロリスト組が解体要員を連れて赴く一因になっていたりする。

 

「後は……体育の授業で戦闘訓練があったくらいか。あくまで自己防衛の為のものらしい」

「銃火器も使われていましたが……そこでは例の“備品”とやらで対応されていました。むしろ、授業の為に用意しただけとの事です」

「……授業の為?戦争とか、侵攻の為でもなく?」

「ええ。その理由も弾代の節約の為でした。何もかもがガタガタだったみたいですし」

「「…………」」

 

例の“備品”……強力な銃火器を生み出した理由がまさかの“弾代の節約”という理由に、アコもヒナも面食らってしまう。戦う為に、敵を倒す為に作り出したのではなく、節約目的で作った等とは予想すらしていなかったのだから。身近な物故の盲点とも言える。

実際、弾切れ無しのガトリングガンとか、レールガンらしき剣にもなる銃とか、爆発する光弾を放つ弓とか、アコとヒナからすれば不穏な予感しかしなかった武器群が、そんな庶民染みた理由で生まれたとは信じ難いのだ。それが本当だとは何となく分かるのだが。

後、形状自体がおかしな物もある事も微妙な反応に繋がっている。マジックハンドのようなライフルとか、サングラスが付いている剣にもなる銃とか。アタッシュケースがショットガンと弓、ガトリングガンになるのもおかしい。アタッシュケースに関しては持ち運びしやすそうだが。

 

「……万魔殿のタヌキ共は信じますかね?」

「……信じないと思う。実際、私も半信半疑だし」

 

どうしたものかとアコとヒナは悩む。実際に共に戦った以上、その辺りは信用しても大丈夫だと思うのだが、ずっとベッドの上だった万魔殿が素直に納得するとは思えない。イロハなら納得してくれそうではあるが、それでも弱いだろう。特にマコトが騒ぎ立てて、アリウスに侵攻すると宣って面倒になるだろうし。《エデン条約》の件を持ち出しても、悪知恵を働かせるだろうし。

 

「あ。そういえば向こうからのお土産でメロンを貰ってたな。今回の視察に来た奴全員に」

「……食べて大丈夫なやつです?」

「さ、さすがに問題ないと思いますよ?ついでに蜂蜜も貰いましたし」

「……食べ物で釣ってみる?」

「それで行きましょう、ヒナ委員長」

 

アリウス産メロンと蜂蜜による懐柔作戦は、イブキが美味しく頂いたことで成功に収まるのであった。ついでにマコト達も少し不本意ながらも美味しく頂いた。

 

 

《side:アビドス》

 

対策委員会の一室にて。

 

「美味しくですね、このメロン」

「ん。甘くて美味」

「カットしたメロンに蜂蜜……贅沢な食べ方だね~」

「これ、本当にタダで貰ったの?確か、メロンって高級……」

「まあ……値段が高いのは確かですし。アリウスでは、甘味が少ないそうですし」

 

ホシノ達はお土産のメロンと蜂蜜を部室で美味しくいただいていた。メロンに蜂蜜をかけて食べる……アリウス流の贅沢な食べ方で。

 

「こんなに美味しいものが食べられる程だなんて……こっちは毎日借金返済で苦労しているのに……」

「セリカちゃん。それはさすがに……」

「分かってるわよ!ただ、どうしてもつい……」

 

セリカの呟きをアヤネがやんわりと咎め、セリカ本人もその自覚があるのか気まずそうに目を逸らす。そもそも、アリウスとアビドスとでは問題の本質が違うのだが。

 

「あっちの問題は借金じゃなくて食料難だったから、解決策も手段も違って当然だよ。別に搾取されてた訳でもないしね」

 

ホシノの指摘通り、アリウスの問題は借金ではなく食料難。お金そのものでは腹は満たせないし、餓えは死に直結する。アビドスの場合は最悪廃校と他自治区への編入で何とかなるが、アリウスの場合はそうではない。そもそもが弾圧から逃れ、秘境とも呼べる隠された場所に閉じ籠るしか道がなかったのだ。通路自体も脱出不可能となる迷路だから、余計に逃げ道がない。

 

「……あの図太さも食料難の弊害かしら?」

「それは違うと思いますよ?ヒヨリさんのは、性分なだけの気が……」

「おじさんもそう思うよ?白服さん達の話じゃ、ヒヨリちゃんは卑屈でちゃっかりしてたって」

 

アリウスとの交流が公となったことで、同じバイト先のヒヨリとも話すようになったセリカがそう呟くも、ノノミとホシノは環境ではなく性格からだと否定する。一口の食料で水筒十個分の水と交換したとなれば、いい性格をしていると思う。どこかの彼女とは大違いだ。

 

「……そう言えば、ホシノ先輩とノノミはお面をしていたヒヨリを初めて見た時、驚いていたよね?」

「あ……それは……」

 

シロコがふと思い出したように問い掛けた質問に、ノノミは言い淀む。それは簡単には話せない……過去の出来事に強く起因するからだ。

 

「アハハ……実はヒヨリちゃんの見た目が、先輩に凄く似ててね……根っこは全然違うけど」

「それって……」

「前にも話したけど、凄いお人好しでさー。セリカちゃんのように、頻繁に悪い大人に騙されかけいたんだよね。それで毎回おじさんが怒って……喧嘩別れしたままで、終わっちゃったんだよね……」

「ホシノ先輩……」

「ゴメンね。暗い話をしちゃって……」

 

話の流れとはいえ、後輩達に暗い話をしてしまったホシノは申し訳なく思う。自身の些細な変化に気付くことなく。

 

「本音を言うとね……怖いんだよ。先輩……ユメ先輩の存在が消えてしまいそうで……だから生徒会の会長を空席のままで、対策委員会を立ち上げて……本当に情けないよね……」

「……そんな事、ないですよ」

「ん。ホシノ先輩にとって、そのユメ先輩って人は大切な人なんでしょ?私だって、ホシノ先輩がいない者として扱われたら嫌だし……」

「私もそうですよ。むしろ、ホシノ先輩の気持ちを知らずに迫って……」

 

ホシノの本心の一部を聞き、後輩達はそんな事はないとフォローを入れるも当人の気は晴れない。そんな暗い雰囲気に耐えきれなかったのか、セリカが逆ギレ気味に口を開く。

 

「ああ、もう!そんなに残したいなら名誉会長とか、何かしらの形で残したらいいじゃない!!写真とか、残ってないわけ!?」

 

名誉会長。セリカのその言葉にシロコとアヤネが反応する。妙案とでも言いたげに。

 

「……それ、いいかもしれません」

「アビドス復興対策委員会、名誉会長……うん。響きは悪くない」

「え……?アヤネちゃん……?シロコちゃん……?」

 

話がおかしな方向へと進み始めたことに、ホシノは困惑の声を洩らすも二人は止まらない。むしろ、全員を巻き込まんと話を進めていく。

 

「アビドス復興の先駆者として名を残すのも不思議ではないですし、むしろ一番の功労者として残すべきですね!」

「そうと決まれば、写真を探そう。ホシノ先輩、その人の顔写真はない?」

「うぇっ!?写真なんて、おじさんと一緒に写ったのくらいしか……」

「大事な写真ですから、コピーと拡大で対応しましょう」

「そういえば、倉庫の隅に額縁があったよね?」

「うへ~!?何か話がおかしな方向に進んでいる気がするよ~!!」

 

その後、対策委員会の部屋の壁に《名誉会長》の写真が飾られる事となった。あの時の、優しい笑顔で。

 

 

《side:???》

 

「それで?今回はどんな用件で連絡したのですか?」

『貴女ならもう分かっているでしょ?例の映像についてよ』

「……クロノスの映像にあった、アリウスの生徒達の使っていた武器ですね?」

『ええ。あれらは明らかに現代の技術を優に越えている。【光の剣】が玩具に見える程に』

「そうですね……貴女に同意するのは不本意ですが、確かにあれらは私達の技術を越えています」

『トリニティとゲヘナの《エデン条約》における騒動が大きすぎて陰に隠れているけど……いずれ大騒ぎになるわ』

「……残念ですが、もう大騒ぎですよ。《エンジニア部》が大変興奮しておりますし、《ヴェリタス》も情報を引き抜こうと躍起になっています」

『……そう』

「それで?貴女はどうするおつもりなのですか?」

『今は調査中だから、まだ結論は出せないわ。彼処は良くも悪くも、秘匿されていたから』

 

 

 




アリウス産の蜂蜜:甘味が少ない為、結構重宝されている。現在は生徒達で行われているが、最初はナイトアリウスが試行錯誤していた。変身した状態で蜂蜜の抽出はシュール。

メロン:アリウスの美味しいオヤツ。他にもパイナップルやスイカもある。果樹も徐々に増えてきている。
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