夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
晄輪大祭では競技だけでなく、屋台による軽食の販売も行われている。空地で組み上げるタイプもあれば、一時的に借り受けるタイプもある。山海経の《玄武商会》や百鬼夜行の《百夜堂》も屋台経営をして、自慢の一品を提供している。
「こちらはかき氷を販売しています!」
「お一つ二百円!観戦のお供に如何ですか!?」
アリウス分校も事前に許可を取り、借りた屋台でかき氷を販売している。かき氷機は風情を意識して電動ではなく手動式。それもバラの氷からではなく、塊からでしか作れないレトロタイプ。古き良き時代を感じさせる、ちょっとした夏祭り気分を味わえることもあってか意外と売れている。容器とスプーンを兼ねたストローは自前で用意できないから外で購入したが。
シロップは手作り故に色は薄いが、味はバツグン。しっかり甘味を感じられるので問題ない。実物を撮影した写真も店前に張ってあるのでトラブルの予防も万全だ。
「おいおい!?何だよこのかき氷は!?」
「色が薄いんだけど?これじゃ詐欺になるんじゃねぇの!?」
……それでも、いちゃもんを付ける不良生徒は一定数いるが。ちゃんと全種類の写真を用意しているし、お金も出来上がってから貰う対応だ。つまり、タカり行為である。
「……ご不満でしたらお買い上げ頂かなくて結構です」
「まだ料金も受け取っていませんので、このままお下げしますね」
そんなタカり行為に屈する事なく、対応している《食料研究部》所属のアリウス生は事務的な対応であしらおうとする。それで引き下がるなら何もしないが、駄々を捏ねるならアリウス流の話し合いをする事になる。
「ああ!?テメェら、ふざけてんのか!?」
「こっちは客だぞ!?詫びでタばばばばっ」
それでも恐喝しようとしたので、店番のアリウス生は躊躇なくテーザー銃を使用。“備品”は持ち込んでおらず、私物の銃では硝煙が混じってかき氷の味に悪影響を与えるので、外での治安活動の為に《ニコメディア》と《電気工学部》が共同して開発した、サブマシンガンサイズの割と強力な鎮圧武器。そんな鎮圧武器で不意討ちを喰らった不良生徒は電撃攻撃をマトモに受けてしまい、軽い痙攣と共に地面へと倒れる。
「恐喝、タカりをする人物はお客様ではありません」
「文句がありましたら、アリウス流のお話を続けますが……どうしますか?」
「あ……いや、結構です。ちゃんとお金払いますので……」
銃弾ではない攻撃に軽く恐怖を覚えたらしい連れは、二人分のかき氷の料金を素直に払い、白眼を向いている相方を引き摺って退散した。片手で器用に二つの容器を持って。
悪質なクレーマーにはアリウス流の話し合いで対応しつつ、かき氷の販売を続けていると、様子を見に来たサオリの姿を見てアリウス生は表情を綻ばせる。
「あ、サオリ部長!」
「スバル委員長同様、見回りですか?」
「いや。お前達の様子を見に来ただけだ。念のために聞くが、何か問題は起きていないか?」
「今の所、順調です!」
「悪質な人も時々いますが……アリウス流の話し合いで問題なく解決しています!」
「そうか。何かあれば遠慮なく私やスバルに連絡してくれ。すぐに駆け付ける」
「勿論です!いざとなったら、校長先生にもお願いしますし!」
そんな風に先輩後輩のやり取りをしている中、かき氷の屋台に新しい客が近寄ってくる。その客――四人組を視界に収めた瞬間、店番をしていたアリウス生は思わず身構えてしまう。
「あら?そんなに身構えなくてもよろしいのではなくて?」
「……お店を爆破して食材を駄目にするテロリスト相手に、身構えない程心臓は強くないですから」
体操服姿の《美食研究会》――部長のハルナの言葉に、警戒心たっぷりでアリウス生は言葉を返す。百歩譲って出来の悪い料理を提供した人物に
「当然です。せっかくの美食を台無しにする店など、爆破されて当然なのですから。それとこちらのかき氷、お値段はおいくらかしら?」
「……お一つ、二百円です。不満でも爆破は控えて下さい」
「それはかき氷の出来次第ですわ」
不合格なら爆破すると暗に言っている《美食研究会》に、《食料研究部》のアリウス生は何時でもテーザー銃を撃てるようにして、かき氷を目の前で作っていく。手作業で、丁寧に。例え心象マイナスのゲヘナが相手でも、最低限の礼節を保って。
「フフ……敢えて手動式で作り、風情を感じさせる。シロップの色が薄いことを除けば、理想的なかき氷と言えますね」
店前にあるかき氷の写真と目の前で作られていくかき氷を交互に見やり、ハルナは感心したように呟く。他の《美食研究会》の面々も興味津々だ。
そうして出来上がったかき氷に《美食研究会》の面々は……
「美味しー!これなら何杯でも食べられるよ!」
「手作りのシロップとは思えない甘味……普通に店売りしても通用する出来です」
「このかき氷、色以外は完璧じゃない!?倍の値段でも納得できる美味しさなんだけど!?」
普通に絶賛していた。イズミ、アカリ、ジュンコは口々に誉め称え、ハルナも無言ながら感激したように身体を震わせている。この分であれば、屋台を爆破しようとはしないだろう。
……油断は一切できないが。
「……見事な出来映えですわ。色が薄くなければ文句なしの百点満点ですが、事前に告知していますから詐欺にはなりません」
「ですが、意外ですね。貴女達アリウスは、ゲヘナを嫌っているとお聞きしたのですが……そうとは思えない程の穏便な対応ですね」
「……正直に言えば、複雑な感情を抱いている。あまりいい感情がないのは確かだが……同情すべき点もあるからな」
アカリの疑問に対し、サオリが代表して答える。アリウスの教義からゲヘナに対して好印象は抱いておらず、特に《温泉開発部》と目の前の《美食研究会》は環境破壊の視点から問題を起こそうとしたら即捕縛対象だ。
それでも、完全に忌み嫌っているかと聞かれたら素直に首を横に振るが。復讐した後の面倒さだけでなく、サオリが口にした通り同情できる点があるからだ。事実、サオリの言葉に店番をしているアリウス生達も頷いている。
「同情?何故、貴女達アリウスが同情を――」
「他人事ではなかったからだ。アリウスも校長がいなかったら、似たような状況に陥っていた可能性が高かったからな」
「「…………」」
サオリの言葉に、三年生のハルナとアカリは無言を貫く。似たような状況……『自由と混沌』を掲げる前の、悪い意味での“混沌”を指しているのだと察した故に。イズミとジュンコは意味が分からず首を傾げていたが。
「……すまない。流れとはいえ、この話はすべきではなかったな」
「いえ。むしろ“知っている”事に驚いているくらいです。同時に配慮してくれている事にも」
「他自治区の情報は、存在を隠していた当時のアリウスの今後において重要だったからな。あくまで“触り”程度だ」
ハルナの言葉にサオリは知っている理由を語る。同時に触り程度で、詳しい事情は把握していないと。
その理由は単純。当時のゲヘナへの探りはあまりに危険すぎたからだ。バレれば間違いなく、秘密裏に支配下に動くと簡単に予想できたから。例の《エデン条約》も、当時のゲヘナに対する奇策――反抗勢力を“外”に出す為の手段の可能性もあったのだから。
その人物は既に卒業――否、卒業“させる”事で確実に世界の外へと叩き出されている。退学などで追い出したら、絶対に力を蓄えて返り咲くだろうから。そうなれば、キヴォトスは混乱と争乱の極みとなっていただろう。それだけ、件の人物の技術と思想はあまりに危険だったのだ。
「過去は本来、隠さずに伝えるべきだろうが……それは私達アリウスの理屈だ。ゲヘナにも、ゲヘナなりの事情があるだろうからな」
「ええ。“活動”は今も続いているみたいですからね」
ハルナのその言葉に、イズミとジュンコは首を傾げるしかない。
「ですが、私達《美食研究会》は熊肉と鹿肉を諦めたわけではありません!まだ見ぬ美食を前に、妥協の二文字は存在しないのです!」
それも美食の話へと変わったことで明後日へと吹き飛んだが。アカリ達も熊肉と鹿肉の事を思い出し、炎を宿したかのように瞳を輝かせている。そんな一同に、サオリは呆れながらも現実を突き付ける。
「……熊と鹿の狩猟数は生息数で決まっている。加えて、狩猟時期も限られている。最も脂が乗った時期しか認められていない」
「!なるほど……これは私達の落ち度ですね。滅多にない美食を前に、下調べを怠ってしまいましたわ」
「最も美味しく頂ける、旬と呼べる時期……確かにこれは外せませんね」
サオリが突き付けた現実に、ハルナとアカリは下手に狩れないと思い直す。美食の前に妥協の二文字はないからこその、反省と対応。素晴らしい美食の機会を自ら手放すのは、絶対に避けるべき行いなのだから。
「え?そんなに重要なの?狩るだけでそんなに……」
「熊と鹿は牛や豚と違うんですよ!」
「飼育はできず、狩猟でしか得られない!天然自然のお肉なんですよ!」
「それに狩りすぎたら、次の時期に悪影響もでますし生態のバランスも崩れるんですよ!?」
ジュンコが疑問を口にすると、アリウス生の怒涛の反論が展開される。食料問題はアリウスの生活に直結しているのだから。
「騒がしいと思い来てみれば……貴女達でしたか」
そんな呆れたような声と共に現れたのは、ハスミとシャーレ先生の二人。どうやら一緒に屋台エリアを見回っていたようである。
「《正義実現委員会》とシャーレの先生か。そちらは見回りか?」
「うん。サオリも見回りしていたのかい?」
「いや。私は自分達の屋台の様子を見に来ただけだ。見回りは《ニコメディア》の領分だからな」
シャーレの先生の質問にサオリが答えていると、ハスミはアリウス生の持つテーザー銃に気付いて視線を向ける。
「その銃は何でしょうか?見たところ、マガジンも見当たりませんし……それも“備品”の一つでしょうか?」
「これは“備品”じゃなくて、アリウスで作った鎮圧向けの電気銃です。スタンガンの一種と言えば、分かりますか?」
“備品”ではなく、アリウス製の銃器だと教えられたハスミは興味深そうにテーザー銃を見つめる。電気銃と聞いたシャーレの先生は、もしかしてと思い問い掛ける。
「電気銃……ひょっとして、テーザー銃なのかな?」
「テーザー銃を知っているのか?シャーレの先生」
「うん。実物は見たことないし、知識でしか知らないけどね。でも、確かテーザー銃はハンドガンサイズだった筈……」
「出力等を重視した結果だ。出力調整も出来るし、高電圧ですぐに鎮圧できる」
「ちなみに発端は、例の“備品”の鎮圧攻撃を外でも出来るように考えたらからです」
店番のアリウス生の明かした理由に、その鎮圧攻撃を喰らったことのある《美食研究会》の面々は若干顔を引き攣らせる。【アタッシュショットガン】の電撃攻撃は、意外と堪えていたようだ。美食を前にしたら簡単に乗り越えるだろうが。
「それに、私達は頑丈だからな。物理的な電撃も後遺症なく受け止められる」
「それって……」
「悪い想像をしているなら、それは間違いだ。単純に《電気工学部》の作業ミスで感電事故の時に判明しただけだ」
その時は髪の毛がアフロになって、色々と大変だったとサオリは締め括った。後、シャーレの先生とハスミもかき氷を美味しく頂いた。
競技場の観客席の一角で、撮影機材が設置されている。事前に開催先のミレニアムには許可を貰っているので、撮影用のドローンも含めて問題はない。
アリウス撮影班――今日の大運動会に来られなかったアリウス生の為に、映像に残して見せて上げようという心使いから組まれた集団だ。
「ドローンの周波数、問題ありません」
「カメラ映りも良好。ズームによる画質の乱れもなし」
「録画機能はちゃんとONにしておいてよ。OFFのまま撮影したら、結構キツいから」
《新聞部》と《電気工学部》が共同で準備を進める中、様子を見に来た恭介が顔を出す。
「あ、校長。そっちの仕事は終わったの?」
「ええ。書類仕事は終わって、見回りかな?シャーレの先生とは違って、皆さんの様子見くらいだけど」
「……口調、素なんだね」
「今日くらいは、かな?ここからはプライベートとして過ごすつもりだけど、場合によってはあっちの口調になるけど」
素の口調で話す恭介に、一応の責任者であるミサキは少し素っ気ないながらも僅かに口元を緩める。
『こちらB班。機材のセッティングが終わりました。異常はありません』
「こちらA班。こっちも問題なし。何かトラブルが起きたらすぐに知らせて。すぐに対処するから」
トランシーバーで報告し合い、撮影準備を続けていく撮影班。最初の開会式のドタバタ劇もバッチリ撮影されている。ハナコの放送禁止用語連発からの、トリニティ生の喧騒。最後は隣にいた人物のぶちギレからの強引な幕引きのところまで。
「おぉ、中々本格的だねぇ。映像として残すには結構大掛かりだけど」
「そりゃそうでしょ。当番などで来れなかった皆に見せるんだから。通信費だってバカにならないし」
「あー……そうだったね、ミサキちゃん。アリウスの電波事情を考えたら、そうなるよね」
挨拶がてらに話し掛けてきたホシノは、ミサキの半ば呆れたような返しに納得したように頷く。公に活動できるようになったとはいえ、ネットや電波の環境が急激に変わるわけではない。電波が届かなければ無意味なのだから。
「そう言えば、そちらの近況はどうなんです?」
「こっちはぼちぼちだよ~。最近じゃ、シロコちゃんが夜の巡回に参加し始めちゃったけど」
「ついにバレたんだ。ま、遅かれ早かれだけど」
「うへぇ~、手厳しいなぁ。まぁ、卒業後を考えてなかったおじさんが悪いんだけどね」
競技が始まるまで、近況報告を兼ねた雑談をしながら作業を進めていく。ミレニアムへの砂の売買も始まったとか、昔話に華を咲かせ始めたとか。
「今も後悔は残ってる……ううん。ずっと後悔は残るだろうねぇ……」
「……ええ。例えどんな選択をしようと、きっと後悔は付いて回ります。それでも、“呪い”ではなく“祈り”として残せる筈です。過去の意味は、
「祈り……か。そうだね、ユメ先輩との日々を“呪い”にはしたくないかな……幸せで、大切だったのは確かだったからね」
本当は意味はないのかもしれない。それでも意味を見出だそうとするのは、新たな一歩を踏み出す為。思い描いた夢へと……未来へと進むために。
それがどのような未来に繋がるかは……