夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
競技も始まり、観客席も大いに賑わっている。その観客席の一角で、シャーレの先生と恭介も席について観戦している。同性の大人同士で、立場こそ違うが同じ“先生”故に。
「だいぶ賑わってるね」
「二年毎に行われる世界行事ですからね。純粋に競い合うのは久々でしょうし」
「そうなの?」
「色々と複雑な事情とだけ。伊達にキヴォトスで数年過ごしてないですからね」
シャーレの先生の疑問に対し、恭介は茶を濁すように言葉を返す。初参加のアリウスは非公認、アビドスは借金と復興、ゲヘナは裏で行われていた独裁政権……後ろ暗い事情がそれなりに存在している。今回はSRT特殊学園の閉鎖等の問題もあるが、それでも暗い事情を抜きにして競技に集中できるのは久し振りだと言える。
「そういう話を聞くと、自分の至らなさを実感するよ。《補習授業部》の時もそうだったけど、アビドスの事も……」
「最初から上手くできる人はいないですよ。私も最初は手探りでしたし、立場から出来る事にも限りはありますしね」
シャーレの先生は自身の力不足、実力不足を嘆く。事実として、アビドスの借金問題は結果として改善はされたが、相手を甘く見ていた事で一時悪化させてしまった。《補習授業部》も片方に偏り過ぎたせいで、余計に拗らせてしまった。最終的には無事に解決こそできたが、それで失敗がなかった事には出来ない。
だが、恭介は自身の経験からそんな事はないとシャーレの先生に返す。決して慰めからではない、むしろ当然の事だと。同時に自身の限界にも触れつつ。
「確かに後から思い返すと、こうすれば良かったや、こうするべきではなかったと思う事はありますよ。自治区の大浴場も居住エリアも、みんなで試行錯誤しながらでしたし。建造のノウハウだって、私の“力”で得た知識上でしかないですし」
実際、知識だけで中身が伴っていない事が多々あったのだ。ボイラー設備も電力のみで賄おうとしたからすぐに電力切れを起こしていたし、汚水処理の問題もあった。居住エリアも再利用できる建物は修繕しつつ、解体して空いた土地で家作りを手探りで行いもした。
「その上で私から言えるのは……反省点を理解しつつ、“次”へと活かせるように考えることですね。反省だけでは、何も改善されませんから。過去は変えられないからこそ学び、
過去は変えられず、読み解くことしか出来ない。アリウスの数百年に渡る内戦は勿論、破門された過去も変えられない。仮にタイムスリップして歴史を改竄したとしても、平行世界理論やら時間軸の分岐理論やらで異なる流れが生まれるだけで、本当は何も変えられていないのかもしれない。それに残酷ではあるが、
「過去は変えられないからこそ学ぶ……か。確かにその通りだね。とても厳しく、難しい言葉だけど」
「確かに簡単ではないですからね。私自身も、本当に実践できているか分からないですし」
此ばかりは確認のしようがないと、恭介は頭を振る。本人はそのつもりでも、第三者の目から見たらそうではない可能性もあるのだから。
「それと、私はどこまで行っても“アリウスの先生”ですから、他校の問題にはそこまで口を挟むことは出来ません。ホシノさんに対して結構踏み込んでしまいましたが基本は交流相手ですし、先日のSRTの件もドン・ペロロと関わりがなければ接点すら出来ていませんから」
実際、他学園と自治区への口出しは内政干渉に当たりかねない危険な行為だ。アビドスの場合は話し合いの中での提案、SRTはドン・ペロロがアリウスが原因だったからだ。事実、連邦生徒会でさえ他自治区と学園への介入は相応の段階と理由を踏まないと出来ないのだから。
「全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しい……だからこそ、我々は考え続けなければならない」
「その言葉……アズサが口にしていた……」
「アリウスの教義の言葉です。後半は私が付け加えた、《審判者》騒動で知った彼等の想いからですが」
虚しいからこそ、思考を放棄してはいけない。常に考え続け、己に問い続ける為の、アリウスの新たな教義。
過去の選択が苦難の道へと進ませ、かつての悲惨な状態へと招いた後悔に触れたから。善き未来を信じ、今も見守っている彼等の願いを伝える為に。
「それでも、適度に息抜きはしますがね。頭も休ませないと、迷走する可能性がありますから」
「それ、実践できていない人の台詞のように聞こえるのは、私の気のせいかな?」
シャーレの先生のツッコミに、恭介は苦笑いするしかない。先にも口にしたが、本当に実践できているかは本人には分からないのだから。
「ありがとうございます、恭介さん。恭介さんのおかげで、大切な事に気付けた気がします」
「これでも教師歴は長いですからね。それに、こう見えて精神年齢は三十代ですし」
「え?三十代?マジで?」
「マジです。何故か十歳くらい若返っていたんですから」
まさかの事実にシャーレの先生は口調が崩れる程に驚き、まじまじと恭介の顔を見やる。肌のつや等からどう見ても同い歳くらい……とても三十代には見えない。ある意味、一番の衝撃である。
「えっと……申し訳、ありませんでした?」
「謝らなくて大丈夫ですし、変に気遣う必要もないですよ。数年も過ごせば、わりとどうでもよく感じますし」
実際、若返りに関しては完全に流している。十年余分に長生きできると気楽に考えるまでにどうでもよくなっているのだから。それに、若返りについて考えるより、アリウスのこれからを考える事の方が大事で重要だったし。
「年齢も含めたら、恭介さんは完全に先輩ですね」
「さすがに先輩は無理があると思いますよ。“みんなの先生”ではないですから、手厳しい対応も取っていますし」
「でも、結構他の子達も気にかけているよね?」
「否定はしませんよ。可能な限りではありますが、困っていたら手を差し伸べたいと思っていますし。それでもアリウスの子達が優先で、貴方のように“みんなの先生”にはなれませんけどね」
これは純然たる事実だ。恭介はどこまで行っても“アリウスの先生”であり、他自治区の問題は外交問題となる。アビドスに関しては取引相手であり、ホシノの心の領域に踏み込んだのも流石に看過できない文言があったから。借金問題も身売りの件も、外様だから追求するのは筋違いなのだ。SRTもドン・ペロロが関わっていなければ顔合わせすら出来ていない。
だからこそ――中立で寄り添えるシャーレの先生の存在は、各学園の問題に踏み込めるし生徒の力になる事が出来る。親身になって相談に乗ってくれる“大人”の存在は、確かな救いとなるのだから。
「大人は子供の成長の“道標”ですからね。子供は大人の背中を見ていますし、大人も恥じない生き方を心掛けると思っています。完全に無縁な存在もいますけど」
「ハハハ……」
最後で露骨に顔を顰めた恭介に、シャーレの先生は苦笑いするしかない。その“大人”――十中八九、黒服とベアトリーチェの事を差しているのが容易に察せたから。
「ちなみにだけど、権力によって権力の無い者を、知識によって知識の無い者を、力によって力の無い者を支配する……この考えについてどう思う?」
「……その一面は確かにありますが、その理屈には致命的な欠陥があると私は考えています」
「致命的な欠陥?」
「ええ。それは権力も知識も力も、自身を守る為の楯であり、楔でもある事です。常に法則や規則の穴を突いたり、悪用ばかりしていれば、最後には自身の首を締めて全部を失うだけです。そんな無責任な行いばかりでは、いざという時に何者にも守られませんから」
「結構断言するんだね」
「当然ですよ。ルールを設けるのは、互いの安全を保証する為です。その保証がなくなれば無法同然となり、虐げられた者は力を蓄えて牙を向く……特に自分の利権だけで動く人物にはね」
法則と規則を設ける本質は“安全”の為だと恭介は考えている。“安全”が保証されているからこそ社会は成立し、法則と規則は効力を発揮する。シャーレの先生の“大人のやり方”が受け入れられているのも、“みんなの利益”の為にその“安全”を守ろうとしているから。だから“個人の利益”のみの“大人のやり方”は反感を抱かれやすく、敵を作りやすいのだ。
「大人は責任を負って果たし、子供は後ろから責任を学んでいく……法則と規則を掲げるなら、厳守する責任くらいは負うべきです。搾取ばかりで還元しない、裏ばかり突こうとする、何事にも責任が生まれると理解していない阿呆がルールで常に守られるだなんて、思い上がりも甚だしですよ」
恭介のボロクソ発言に、シャーレの先生は苦笑いするしかない。ド正論かつ、理解も納得もできる言い分ではあるが。
「アハハ……恭介さんも大人は責任を負う者と考えているんだね……」
「当たり前ですよ。むしろ、何で責任を負わないと考えるのかと疑問に思うくらいです。力と知識を得ても、法則と規則を設けても、権力にだって常に責任が生じるんですから。それが独裁者であろうと、支配者であろうと同じです。責任を果たさず、放棄すれば非難の嵐となり、隣り合わせの負債によって排斥され易くなります。自分の為だけに好き勝手して、他人の心に寄り添えない者に信用も信頼も生まれませんから」
あまりにも真っ当すぎる意見に、シャーレの先生は同意するように深く頷いている。自身の信念……“大人は責任を負う者”という考えに、とても深く突き刺さる言葉なのだから。実際、“外”の歴史も半ばそれを証明しているし。反逆、革命がいい例だ。王室とか皇族も、相応の責任を果たしているからこそ存続できているのだから。
ちなみに常に見ている人物は耳が痛くなっている。かつて間違いと指摘した考えが、自身の理屈を交えて言い返された形となっているから。仮に反論したとしても、何百倍にもなって言い返されそうな程だ。理解に苦しむ劇薬ではあるが、見識の幅が広がるから盗み聞きを止めはしないが。
「事実、私のこの“力”も他者の為に使われているからこそ、受け入れられている側面もあります。自分の為だけにしか使っていなければ、野垂れ死んでいたでしょうし」
「うーん……そうかな?そうかも?でも、恭介さんはそういう“大人”じゃないのだけは断言できるよ。そうでなかったら、アリウスの子達から慕われていないし、ホシノも気を許していないからね」
シャーレの先生は確信を持って口にする。恭介が黒服やベアトリーチェのような“大人”なら、あそこまで強く慕われていないし信頼もされてはいない。それはアリウス自治区を見ても感じ取れたことだ。
「そこは時間が違いますからね。むしろ、短い期間で強く慕われている貴方の方が凄いと思いますよ。それに、指揮能力も高いですし」
「それを言ったら恭介さんもですよ。生徒の前に立って共に戦えるのは、素直に羨ましいと思うし……」
「その割に、目を輝かせてません?」
「だってライダーだよ!?リアルライダーを前に、興奮しない方がおかしいからね!」
「この力は、基本的に使わない方がいいんですが……」
これは紛れもない恭介の本心だ。仮面ライダーの力や《明晰夢》の力は、必要以上に使うべきではないと考えている。個人の力に依存した体制はその個人がいる間は問題ないが、何かしらの切っ掛けでいなくなってしまえば一気に瓦解してしまう。《明晰夢》の取り寄せも、カプセムによる修繕も、あくまで当面の土台を支え、整える為に使っている。近頃は早々使う機会もなくなり、平常運転は《アリウスルーム》くらいだ。
ちなみに《アリウスルーム》の存在を知ったシャーレの先生は、シャーレの一室にも同じ性質の部屋を作ってほしいとガチで懇願された。大量の書類整理に常に追われているシャーレの先生からすれば、時間の流れが違う部屋は喉から手が出るほど欲しいのだから。当然、断られて四つん這いとなったが。
そんな恭介とシャーレの先生の下に、二人の生徒が駆け寄って来る。一人はアリウス分校《ニコメディア》所属の立木マイアで、もう一人はミレニアムハイスクール《セミナー》所属の早瀬ユウカだ。
「先生!申し訳ないのですが、先生の武器を貸して下さい!」
マイアのお願いに恭介は思わず瞬きするも、今行われている競技が“借り物競争”である事から直ぐに【ブレイカムバスター】を何処からともなく取り出し、マイアへと渡す。
「ありがとうございます!競技が終わったら、すぐに返しますから!」
マイアは深々と頭を下げると、駆け足でグラウンドへと戻っていく。ちなみにお題は『世にも珍しいもの』だ。普通なら理不尽レベルのお題なのだが、珍しいものを知っているアリウス生にとってはボーナスステージである。
結果、マイアは“借り物競争”を一位でゴールできた。審査員もすぐに認めるしかない“借り物”だったから。
「では、競技が終わるまで借り物はこちらで預かろう」
「え?あの、そんなルールは何処にも……」
「大丈夫大丈夫。ちょっ~と解析させてもらうだけだから」
「銃弾を際限なく撃ちだし、剣にもなる“大人”の武器……!こんな千載一遇のチャンスを逃す手は――」
「……皆さん?」
「どさくさに紛れて何しようとしているのよ!?」
ちなみに諦めが悪かったらしい三人に、《セミナー》二人から厳しいお叱りを受けるのも、ある意味お約束であった。
今回の原作にはない要素
・シャーレの先生の成長イベント。これにより不穏なフラグにヒビが入る。
・お題の『世にも珍しいもの』。普通は無理難題のハズレくじであるが、この世界では当たりくじ扱いである。