夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
午前中の競技が終わり、午後の競技に向けての昼食の時間。俗に言うお昼休みだ。
休憩スペースで誰もが和気藹々と食事を取って賑わう中、アリウス組も弁当持参で賑わっている。
おにぎり、サンドイッチ……お弁当の定番料理ではあるが、場の相乗効果もあって普通に美味しい。屋台での軽食も交えているから、場違い感もない。貧乏臭さより運動会らしさの方が勝っているので、全然問題ないのだが。
「アリウスの皆さんはお弁当を持参していたのですね」
「ええ。個別ではなく、重箱での団体用ですが。貴女さえ良ければ、一緒に食事でもしますか?」
そう和やかに会話しているのは、《シスターフッド》所属であり《実行委員会》に立候補したマリーと《ニコメディア》のトップである委員長のスバルだ。偶然鉢合わせし、せっかくだからと色々喋っていた。
「本当によろしいのでしょうか?皆さんのお食事に同席しても……」
「健全な学園同士の交流の一環ですし、変に気遣う必要もありませんよ。互いに切磋琢磨して、英気を養うのも晄輪大祭の主旨ですしね」
「その通りですね。では、お言葉に甘えて」
スバルの言葉巧みな誘いに、見事に言いくるめられたマリーは頷き、アリウス組が陣取っている場所へと共に向かっていく。スバルとマリーがアリウス組が陣取っている休憩スペースの一角に到着すると、そこにはアリウス組以外の面子も揃っていた。
「貴女達も一緒でしたか」
「ヒヨリちゃんに誘われてね~。せっかくのお誘いだし、みんなで食べた方が美味しいから乗ったんだよ」
「うぇへへ……おかげでお弁当だけじゃなく、屋台の美味しそうな料理もたんまりですよぉ……今日は本当に良き人生ですよぉ」
チキンバーガーモドキを手にニヤつくヒヨリに、スバルは図太さは健在かと半ば呆れたように肩を竦める。見れば弁当箱以外にも焼き鳥、焼きトウモロコシ、フランクフルト、焼そば、パフェ、クレープ……屋台で売っている食事がテーブルの上にびっしりと載っている。
ちなみに恭介は近くの席で食事を取っている。他のアリウス生達と和気藹々しながら。
「このおにぎり、中に何が入っているの?何かのお肉なのは分かるんだけど……」
「砂肝ですね。鶏の内臓の一つで、れっきとした食材ですよ」
おにぎりを食べたセリカの疑問に、隣にいたアリウス生が答える。鶏はモモだけでなくハラミ、ぼんじり、ササミ、ヤゲン軟骨、ハツ、レバー、手羽と、食べられる部位が多い。
「砂肝って確か、焼き鳥の種類……」
「レバーと砂肝等の希少部位は野菜と一緒に炒めたり、スープ等の煮込み料理に使ってますね。焼き鳥は……木製の串が原材料の観点から作れないので」
「バーベキュー用の鉄串は……これではない感が凄いですしね」
「そ、そうなの……」
アリウスの物資事情に、セリカは微妙な表情となってしまう。衛生面などを考えれば、仕方のない事だが。そこでふと、マリーがある事に気が付く。
「そういえば、アリウスではどうやって塩を手に入れていたんですか?アリウス自治区には、確か海はなかった筈ですが……」
「実はですねぇ……アリウスには大きな塩湖があるんですよぉ。内戦時代も、そこから塩を採ってましてぇ……」
「何故塩湖があるかは今も分かっていませんがね。下手に調べて駄目になったら一大事ですし、そのまま利用しています。おかげで醤油と味噌も作れていますよ」
「そうだったのですね。他の自治区では港との取引をしたり、自治区内で作られているのですが、アリウスは後者だったのですね」
ヒヨリとスバルの説明にマリーは納得したように頷く。なぜ塩湖があるかと確かに疑問ではあるが、そこまで重要ではないし長年利用しているのなら問題はないのだろう。何せ稀にではあるが、新年が一年の間に数回起きるし、超上現象だって何回かは目にする世界だ。未開の地が多いアリウスなら塩潮くらいあっても不思議ではない。伊達に何百年も非公認の自治区として存続していないのだから。
ちなみに塩の採取は、昔のアリウスにおいてとても危険な役目だった事を此処に記載しておく。理由はお察しである。
「醤油と味噌もあるなら、砂糖もありそうだけど……」
「そこは優先順位の問題ですね。大豆……豆腐にも豆乳にもなる穀物の栽培と、各種加工品の製造ノウハウを優先していましたので」
「シャーレの先生の支援のおかげで、豆乳の生産も徐々に安定してきましたから……おかげで料理の幅も広がってきていますよぉ。サオリ姉さんも喜んでいましたし」
牛乳の代用品として豆乳に目を付けていたが、設備と道具の問題から難航していた。太陽光も風力も、どうしても天候に左右されてしまい、安定した電気供給が難しい。故に基本は人力……昔ながらの製法で作られており、作れる量も限られている。
ちなみに砂糖の原料となるサトウキビの栽培にも着手し始めている。砂糖への加工技術がない為、少数ではあるが。
「ちなみに油は?」
「トウモロコシから作ったサラダ油ですね。お約束の如く、油作りのノウハウもなかったので本当に大変でした」
横から聞いていたらしい、鶏皮の素揚げを食べていたシロコの質問に、近くでアメリカンドッグを食べていたアリウス生が答える。油がないと、鉄板に焦びり付いて大変な事になるから。実際、野菜を炒めた際にフライパンに引っ付きまくって大変だった。その為、油が出来るまでは煮込みが中心だった。
そんなアリウス組とアビドス組に、別の集団が近寄ってくる。チアガールに学ラン、体操服……応援団らしき三人組である。
「おや。君達も食事中かな?」
「……貴女達ですか。今度はどんな手を使うつもりなんです?」
スバルが呆れたように言葉を発するが、それも当然の反応とも言える。何故なら件の応援団は《エンジニア部》……未だアリウスの“備品”に目を付けている人物達なのだから。
「いや、今回は偶然見かけただけさ。そちらの電気銃に興味はあるけどね」
ウタハはそう言ってスバルが肩掛けして携帯している黄色い銃器――サブマシンガンサイズのテーザー銃に目を向ける。どこから知ったかは、シャーレの先生からである。勿論、教えた本人に悪気は一切ない。単に聞かれたから答えた程度のものだ。
「この程度なら、貴女達でも作れますよ。純粋な技術力ならミレニアムがずっと上ですし、これも私達の先生から聞いた武器を再現しただけですしね」
「そうでもないさ。例え教えられたものだとしても、実際に形にするのは容易ではない。先生からも少し聞いたが、その武器の本来のサイズはハンドガンくらいなのだろう?」
「シャーレの先生からですか……そういえば、シャーレの先生も“外”から来た大人でしたね」
「うん。テーザー銃という武器の原理と仕組みを教えてもらったけど、電気で相手を痺れさせるより普通に撃った方が効率が良いと思ったのが本音かな?」
チアガール姿のヒビキが率直な意見をぶつける。実際、何人も相手にする時はワイヤーを飛ばして感電させるより、銃弾を頭に撃ち込んで気絶させる方がずっと楽で効率が良い。
純粋に、テーザー銃だけをそのまま使うのであれば。
「そこはアリウス式のCQCの出番ですね。近接格闘術前提の鎮圧武器ですから」
「それは興味深いな。機会があれば、その格闘術を間近で見たいものだ」
「……それが狙いですか」
「アハハ、バレちゃいました?」
ウタハの要望から狙いを察して呆れたように溜め息を吐くスバルに、体操服姿のコトリが愛想笑いしつつ暗に白状する。ウタハ達の次の狙い……堂々と自治区に赴いて、アリウスの体育の授業を見学する体で“備品”のデータを集める事を。
「それで、どうだろうか?何ならそちらの《電気工学部》との討論会という体でも……」
「その話は《セミナー》と《スクワッド》を通さないと駄目ですね。勝手に決めていい話ではありませんし」
ウタハの提案をスバルはにべもなく却下する。実際、口約束でも勝手に進めていい話ではないのだから。
ちなみに後日、アリウス式のCQCに興味を持ったミレニアム最強が、天性の勘を持つ彼女と共にアリウス自治区に遊びに行く事になる。その際に“備品”のショットガンをガトリングガンのように扱う出来事が起きたが。
お昼休みも終わり、午後の競技が始まった……のだが、障害物競争でトラブルが発生した。
『全員――因数分解します!』
――ミレニアムが作ったらしい応援用の戦車ロボの暴走で選手に襲い掛かるというトラブルが。
「ちょ、ちょっと何アレ!?」
「うぇえええええんっ!もしかして、先程のロケットのせいでしょうか!?やっぱり人生は辛いですぅ~!」
「全部シロコ先輩のせいじゃん!」
「制御不能になってます!先輩ー!助けてください!!」
『大運動会の円満開催を妨害する不良生徒は……直ちに排除します』
バトン代わりの手榴弾を持っていたからか、選手が不良生徒扱いされて戦車ロボの排除対象に認定されている。
「流石に止めないとマズイですね……」
その光景を観客席から見ていた恭介は溜め息混じりに立ち上がると【ナイトインヴォーカーバックル】を装着し、【スマッシュカプセム】をセットしてからピンスイッチを押し込む。
――スマッシュ!
――オンユアマーク。オ、オ、オンユアマーク……
「変身!」
掛け声と共に恭介はバックルにセットされた【スマッシュカプセム】を回転させ、変身しながら戦車ロボに向かって駆け出していく。
――エンフォース!ナイトシステム!――――スマッシュ!
変身が完了し、赤いラインと複眼、腕を覆うサイズのパンチンググローブを両腕に装備した姿――《ナイトアリウス・スマッシュ》となった恭介は、暴走を続ける戦車ロボの前に躍り出ると同時に豪快な右ストレートを叩き込む。
「セイヤァ!」
気迫の乗った声と共に、右ストレートをマトモに受けた戦車ロボは後ろへと転がっていく。しかし、直ぐに体勢を立て直すとその無機質な顔を恭介へと向ける。
『新たな敵勢存在を確認……最優先すべき対象と認定。直ちに因数分解します!!』
戦車ロボは恭介へと完全に狙いを定めると、武装された銃火器を容赦なく恭介に向かって放っていく。
『スマッシュ!』
だが、恭介は【スマッシュカプセム】の能力を発動させ、左腕の空振り――放たれた風圧で弾丸とミサイルの勢いを殺し、簡単に防いでしまう。
「悪いが……すぐに退場してもらうぞ」
恭介は悠然と歩みながらピンスイッチを殴るかのように三回押し込み、【スマッシュカプセム】を回転させて必殺技の準備を完了させる。
準備を完了させた恭介は駆け出し、飛び上がると同時に右腕を振り上げる。
『スマッシュ!フェイタル!』
必殺音声が流れ、同時に右腕がハンマーのように降り下ろされる。降り下ろされた右腕が戦車ロボへと直撃し、何処からともなく三つの8の字が顕れる。その8の字の一部が消え、8からAの文字へと変わると、戦車ロボから大量の煙が上がり――そのまま沈黙する。
「「「「…………」」」」
戦車ロボがあっという間に鎮圧された光景に、対処に動こうとしていたユウカ、ハスミ、アコ、マリーは宇宙猫状態となる。例の戦車ロボから放たれた口調がユウカそっくりだった事や、すぐに戦車ロボが鎮圧された事、謎の[888]から[AAA]に変わるホログラムモドキで思考がキャパオーバーしてしまったからだ。ちなみに巻き込まれた選手達も彼女達と同じく宇宙猫状態。アナウンサーでさえリポートを忘れて唖然とする程だ。例外はアリウス組とシャーレの先生のみ。シャーレの先生は両手を強く握り締め、物凄く目を輝かせて鼻息荒く興奮していたが。
「じゃあ、あれを早く片付けようか。アレが出たなら、もう動かないだろうしね」
「やっぱりアレはフィニッシュシーンなんだね!」
怪異現象撃破時で稀に出てくる確定勝利演出に、アツコはもう問題ないと告げた途端、シャーレの先生の興奮がもう一段上昇する。だって、普通にカッコいいし。ちなみに演出が出てくる理由は恭介自身も分かっていない。
「だから何で先生は……って、ヒヨリさんがちゃっかり進んでいるんだけど!?」
「い、いつの間にあんなに進んでいるのよ!?」
ちなみに図太いヒヨリはこれ幸いにとちゃっかりリードしていた。
そんなトラブルがありながらも、《晄輪大祭》は大盛況の内に幕を下ろす。アリウス分校は総合四位……一位には届かなかったが、誰もが楽しんでいたので良しである。
当然、居残り組も大会の映像を見て大興奮だった。
・塩湖:実際にあるかは不明。原理と理屈を無視するのもキヴォトスあるある。
・勝利演出:ごく稀に出てくる確定演出。ゼッツが追加で文字を変化させるなら、此方は一部を消して文字を変える。8→Aの元ネタは電光掲示板から。